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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【鳥籠の罪】
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episode41・存在感の裏側 (Waka side)




『和歌のパパはね、

和歌が生まれる前にお空に行ってしまったの』



幼い頃、母親から言われた言葉。



物心付いた時には、和歌の傍には母親しか居なかった。

けれど寂しさは感じなかった。和歌にとって、

母親と二人きりの生活は、和歌の置かれた環境には

当たり前だったからだ。






けれど和歌の幼い心には、多少の疑問が生じた。



(どうして、お父さんの写真が無いんだろう)



父親の写真や仏壇は何故、家に無い。

まるで最初から居なかった様に、水瀬家には父親の存在が希薄だった。

実父の顔や姿を、和歌は22年間生きてきて、一度も見た事がない。



どんな人物像かは、母親から、ちらりと聞いた事は

あるけれど和歌は実父の姿は一度も見た事がないのだ。



ただ、実父の話になると、

母親は決まって悲しげな顔になるから、

成長すると共にあまり触れてはいけない話なのだと悟り

父親の話に関しては全く尋ねなくなった。


母親の悲しげな顔は見たくない、というのも、

理由だったのかも知れない。






それに差して、和歌は

父親がいない事くらいで気にはしていなかった。





和歌は母親、父親役まで果たし

足りなくなるであろう愛情を無条件に注いでくれた。

シングルマザー、フルタイムの仕事に追われながら

一人二役を努めるのは大変だったろうに。



和歌の母親は、分け隔てなく優しさを、

自分自身にも傷心を負った甥っ子へ無条件の愛情を注いで可愛がり、殺人者の息子である彼の素性を守り抜いている。


その無条件の優しさを注いでいる(さま)は、慈愛としか言えなかった。






和歌が寂しさを感じなかったのは、


加えて、廉の父親が

和歌の父親の役割を果たしていたからだ。

廉の父親と和歌の母親は兄妹であり、

よく家族で合流しては思い出作りをした。


まだ廉の父親が健在だった頃。

彼は和歌にも良心的で分け隔て接していて可愛がってくれた。


『和歌ちゃんは、お母さんに似てるな』


その姿は本物の父親の様だった。

そう言って温かな笑顔と眼差しで頭を撫でて貰った記憶がある。


その姿は本物の父親の様に思えた。



母親が仕事の都合で留守にしている時は

近所に住んでいた廉の家によく遊びに行ったものだ。

和歌の違和感は、周りの淡い優しさで消していく。


罪を犯し廉を狂わせた母親も良心的で、特に和歌が女の子という事もあり猫可愛がりされていた記憶がもある。


自分自身は母親と二人きりの生活が当たり前だが、

時折にして廉と父親が遊んでいる姿を見ては

父親が居ればこんな感じなのか、と思うくらいに済ましていた。





『こんにちは、可愛い子だね』



だから、廉の父親が正気を失い精神喪失した姿を

目にした時、和歌も衝撃的でショックがなかったと言えば嘘になる。

あれだけ本当の父親同然に可愛がって貰っていた

叔父の姿は別人で、目の前にいる男性が和歌の記憶に居る男性と結び着かなかった。


(………壊れてしまったの?)


(………貴方は、だれ)


和歌自身もショックを隠し切れなかったのに、

あの時、変わり果てた父親と再会した廉のショックは計り知れないものだと解っている。

病室を飛び出した廉の後を追って傍には居たけれども

彼が涙声で儚い、今にも消えそうな

泣き濡れた絶望の色を佇ませた顔は今でも忘れられない。


廉の母親が罪を犯し、

廉の父親が精神喪失をしてから、全ては壊れてしまった。






和歌には母親さえ居れば十分で、慈愛に満ちた

優しい強く母親が大好きで、和歌には全てだった。

母親の存在は次第に“憧れの象徴”へ変わっていく。


母の様な、強く優しい女性になりたい。




(私には、お母さんが居れば十分なの)


(それ以外は、何も要らないの)



他所(よそ)は他所。(うち)は家。

我が家は父親を亡くした母娘二人きりの家庭が当たり前だと

割り切っていたので、母さえ居れば良いと和歌は考えていたのである。


それに加えて、母親が廉を引き取り

廉が家族に加わった事で、父親への関心や疑問はみるみる内に薄れて行き、


そして13歳になる年に、

誘拐事件に巻き込まれた和歌は混乱と絶望によって

人格の全てを奪われた和歌にとって、父親の存在等

考える余裕すら無くなった。


今は父親というワードすら、完全に忘れてしまっている。

頭からすり抜けて抜けて、消えてしまった。


今の和歌には、自分自身の父親の事は気にしていない事だ。

和歌の人生や人格を狂わせた壊し変えたあれ以上に辛い事はきっとないだろうから。








そろそろ残業を終えて、帰ろうと身支度を進める。

水瀬杏子のデスクにはパソコンの隣には、愛しき娘と守らねばならない甥っ子の写真が、写真立てに納められている。


控えめな微笑みを浮かべた娘が、写真立てに納められている。

素朴で清楚な出で立ちをした彼女は自然美の美しさを備えていた。



娘の笑顔を見詰めながら、和歌の母親_____杏子は思った。





(“この事実”は墓場まで持っていくわ)


(絶対に、我が娘には悟られてはいけない)


“あの秘密”だけは。

秘密を和歌が知ってしまえば、また娘は無惨に傷付いてしまう。壊れかけてしまうだろう。

娘にはもう辛い思いをさせたくはないのだ。



娘を守れるのは、自分自身だけ。

娘を守れるのなら、どんな代償を払ってもいい。

その秘密が、無慈悲に(ほど)かれてしまうのなら

杏子は誰にも容赦はしないつもりだ。



この話には

ご気分を悪くされた方もおられるかと思います。

慎んでお詫びを申し上げます。


申し訳ありません。

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