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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【傷付いた小鳥達】
29/112

episode27・急変する不安感(Misaki side)

美岬のお話。




あまり会場のメイン料理は食べなかった理由が解った。

これから樹神(こだま)家との、食事会が開かれるからだ。

今日は懇親と、双方の婚約者と御披露目と顔合わせ。


赤いボルドーのワインが鮮やかに見える。

他愛のない会話を交えながらも、樹神家と千歳家の食事会は、粛清な硬い雰囲気が漂う。






誰かと政略結婚し、(えにし)を結ぶこと。



それは何時かは訪れる事だと思っていた。

千歳家の人間と生を受けた以上、千歳家を守られねばならない。

何時かは、親が定めた相手と婚姻を結ぶのだと解っていたのに。

腹は括っていたのに。そのつもりだったのに。


婚約と婚姻が決まるまでは自由奔放に気ままに生きて

今さえ楽しければいいと思い込んで生きていた美岬は

いざとなれば、固まってしまう。




現に父親である賢一だってそうだ。

愛した人が居ても、恋愛結婚は千歳家では許されない。

仕組まれた陰謀の糸によって、政略結婚の縁を結ぶ。


樹神家と親戚関係となるのは意外だった。

樹神家もかなりの偉大な家系だ。

自身がその名家に嫁ぐとは。


美岬は、微笑を崩さない様に努めた。







年が明ければ、美岬は22歳になる。

婚姻の話が持ち上がっても、少しも可笑しくはない。



(真之助様にとって、私はどう見えているのかしら)


資産家・政治家の家系、偉大な千歳家の令嬢。

国会議員・千歳賢一の一人娘。

世間知らずのお嬢様。



相手はまだ、

美岬が恋すら未経験な純粋な乙女だと思い込んでいるのだろう。

本当は恋愛・愛情依存症で、

相手をとっかえひっかえ変え、夜な夜な姿を変え名前を変えて、

愛情と温もりを求めて歩いている人間だとは知らずに。


男性経験だって、かなりのものだ。

相手が思っている程、清い女性なんかじゃない。

樹神家の歴史に、自身が嫁ぐ事で、泥を塗ってしまうのではないか。



人は見駆け寄らない。

ある偉大な家系の末裔である一人娘の令嬢が

男遊びで、恋愛・愛情依存症だなんて、誰も知らないだろう。



否、それだけは悟られぬ様に生きてきた。

千歳家の令嬢が、夜な夜な遊びをしている事は、千歳家の恥だ。

その恥を知られない様に美岬自身、努めてきた。



もし嫁入りし家庭に入れば、自分自身の自由はなくなるだろう。

偉大な樹神家の妻となれば、その議員の妻の品格を求められる。

謂わば、国会議員、官僚の妻も、そのブランドなのだから。


今が楽しくて、婚姻の話はまだ先だと思っていた。

美岬にはまだ誰かの元に嫁ぎ、夫を支える心構えも準備もまだ出来ていない。


謂わば、愛情と温もりを求めて、歩き続けてきただけで

飢えた心に愛情に温もりを与えられさえ貰えれば良かった。

現に周りの事なんか、見えていなかったのだから。





樹神家は、官僚を生み出してきた家系だ。

樹神清治郎だけではなく、その兄弟等も様々な地位の官僚職に就いている事は知らぬ者はいない程に有名だ。



樹神真之助(こだま しんのすけ)

美岬より一つ年上の彼は今は弁護士資格を取得する為に司法関連の勉学に励んでいる。


官僚である父親の背中を追い

相応しい様になろうとする優秀な人物であるらしい。


また彼を見ていると

父親を心から尊敬し、父親の様な人であろうという心情が見えた。

現に父親との会話は敬語を交えながらも、父親を敬う言葉の節々が確認出来た。


(あたしや、御両親との関係も違うのでしょうね)


愛情と温もりを求める為だけに夜遊びを繰り返している娘。

政略結婚により縁を結んだだけで、ビジネスパートナーの

互いの愛情も人欠片もない仮面夫婦。




真之助は既に

その紳士的で理知的な容姿と共に、帝王学に優れた雰囲気が漂う。

頭脳明晰な雰囲気は、彼を見るだけで一瞬で解る。

彼ならば樹神家の跡継ぎとして、相応しいだろう。


美岬とは、性格も心構えも全て違う。

こんな健気で堅実な青年に、自分自身が妻として見合うのかと思う程だ。

答えはNOだろう。


父親の様になりたいと志を半ばに抱いている真之助と、

愛情依存症で、常に愛情の温もりを求め生きている美岬では、器が違い過ぎる。


だが。


(これは……きっと)


見合いの話は、立派な政略結婚だろう。

政治家では盛大な権利を有する樹神家は、政治家にとって最上の存在だ。

両家が親戚同士になれば悪い事はない。

だから、跡継ぎを婚姻という形に運んだのだろう。


(結局、あたしは………)



自分自身は、千歳家の人形だと奥歯を噛み締めた。



それに対し、千歳家も数々の大臣、

政治家等を排出してきた偉大な家系を持っている。

形は違えど数々の権利を持ち合わせる、偉大な家柄の政略結婚は、端からは見れば羨まれる程に美しい。




しかし、

今の美岬にとって、夜遊びと男遊びは癖になっている。

否。温もりを求める癖は今更、止められない。

今も愛情依存症で愛情には人一倍、渇望しているのだから。


(もう後には退けない)



きっと、婚約が決まって真之助と婚姻すると決まっても

美岬の夜遊びはきっぱりと蹴りを着ける事は出来ないだろう。

美岬自身も、長年の癖は止めらないと悟っている。


(温もりを求める、それを止められないわ)


それに、真之助は千歳家が決めた婚約者。

自身が選んだ相手ではないから、真之助は千歳家のものの様に見える。

家が選んだ相手に、自身が求める温もりを求める訳にはいかない。


(誰かの元に身を納めるなんて、あたしには出来ないわ)



樹神家も、千歳家も、神聖な家柄だ。

そんな樹神家に嫁ぎ、静かな良妻となって夫に支えるなんて。


無理だ。

そんな覚悟は持ち合わせていない事を、美岬は実感させられる。



出来る訳がない。

温もりだけを求め生きている美岬には、

誰か一人だけを愛し、大人しく妻の立場に留まるなんて。




それに、婚姻によって身辺調査は行われるだろう。

自分自身が夜な夜な夜遊びを繰り返しているなんて

樹神家は怒りを覚え、絶句しているかも知れない。


それにスキャンダルに自分自身の行いが

バレてしまえば、樹神家の品格も奈落に突き落とす事になる。

誰かに多大な迷惑をかけてしまう事は目に見えている。


それも怖い。

本当ならば、婚約を投げ出してしまいたかった。

この食事の空間は重たく、美岬の背中には鉛が背負っている気分だった。





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