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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【傷付いた小鳥達】
19/112

episode17・傷心が奪い拐ったもの(Waka Side)

和歌のお話。




今でも消えない。人への恐怖心。


意識的に人を避けてしまう。







何事も否定的に捉えて、それを肯定してしまう。

自身が成長出来ない事は、和歌自身が一番、解っている。



あの事があってから和歌は前に進む事が臆病になった。

心の硬い足枷が、彼女を前に進ませる事を阻んだ。




(カワリタクナイダケダ)







「通訳者になって、世界を駆け回るの」


(かつ)て、抱いていた夢。

母親の背中に憧れて、自身も母の様になりたいと思ったからだった。

あわよくば、女手一つで育ててくれた母親を安心させたい、というのも目標の一つだった。



英語だけではなく他の地の海外語を学んで、

世界を見てみたいと和歌は思っていた。


誘拐事件の一件があってから、和歌は空っぽになった。

恐怖と絶望と隣り合わせの日々は少女の心を消耗させ、無慈悲にさせる。

傷付けた心を抱え、虚無感な毎日を過ごす。

和歌の心は余裕を無くし、焦燥感に囚われるばかりだった。


夢さえ、目標さえも、忘れ切っていた。


否。余裕を無くした心と焦燥感が、奪ったのかも知れない。





15歳の誕生日。

部屋の前には、プレゼント様にラッピングされた白い箱が置かれていた。

箱を開けると、書物が数冊入っていてそれらは、海外語に関連する書物が詰め込まれている。



最初はまるで傍観的に見ていた。

何故、海外語に関する書物がプレゼントされたのだろう。

心当たりが全くない和歌に、不意に浮かんだワード。



(…………通訳者………)



心療に身を(てい)していた頃。

絶望の中で、その自身が長年抱いていた思いを出した。



悪夢に囚われ、全てを忘れていた、

和歌の脳裏に零れ落ちた自身の目標だった夢。


(…………そういう頃もあった)


誘拐事件に遭うまで、

通訳者の夢と目標を持って歩いていたか。

大好きだった英語の勉強に励んでいたあの遠い頃。





だが、和歌の心は厳冬の冷め切っていた。

あの頃、熱心に学んでいた外国語も、今となっては忘れ切った、捨ててしまった事に過ぎない。

あれだけ熱中していた事も、今となっては他人事の様に見える。


前に進む事が怖い。

全てに絶望した今、何も残らない。

現に今、恐怖心に支配され、心の余裕すらないのだから。




本当の水瀬和歌は、

何処かへ消えてしまったのだから。


今存在している、自分自身は”水瀬和歌の抜け殻“だ。






そう思っていたが、



(…………私には、これしか残されていない)



同時にそんな思いが込み上げてきた。

虚無感、焦燥感、絶望の淵に居た、和歌にとっては

長年、学んで力を入れてきた通訳者の夢、目標しか残されていない。


他に歩む道は、暗闇と恐怖心しかない。

全て奪われ闇に葬られた。他人から、自分自身すらも。

ならば、(かつ)て自分自身が最も親しみ、

知り得ていたものにすがるしか道はないのだ。


前へ進む恐怖心と共に、和歌はそう思っていた。



与えられた書物で、外国語を親しみ、

(かつ)て自身がやってきた行いを手探りで探し始めた。



中学生の時は

傷付いた心の傷の心療に治療に時間を費やし、

次第に失った自分自身を手探りで取り戻していく日々が続いた。


微かに心の中に留まっていた志を、胸に残して

推薦入試により、和歌は外国語学部のある大学に進んだ。



外国語を学ぶ事は喜ばしい事だろう。

きっかけを蘇らせてくれた、母親と従兄には感謝している。

絶望と恐怖心に囚われていた中で唯一、置き去りされていた、目標と夢。

寧ろ、それが息をしてからこそ、自分自身は立ち直れたのではないか。


ある意味、和歌は幼い頃から自身が

抱いていた目標を達成した毎日を送っているのかも知れない。






けれど、本当は前に進んでいるふりをして

前には進めていないのかも知れない。

現に今も、恐怖心が心に佇んでいるままだ。




この心の傷が一生、癒される事はないのだから。



和歌は誘拐される前の自分自身を見失った。

それまで自分自身がどういう性格だったのか、何が好きで嫌いだったのか。

全てが分からないままだ。


慣れ親しんでいた外国語を学んで、

通訳者を目指しているというのは、(かつ)ての

水瀬和歌が抱いた夢であり目標で、今の自分自身には無慈悲なまま惰性的に歩いているのかも知れない。



本当は今も、

和歌の心は無慈悲な、絶望と焦燥感に囚われたままだ。


今の自分自身は、

絶望の色を佇ませた瞳で、恐怖心を抱えたまま、

失った自分自身を探している霊のなのかも知れない。




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