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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【傷付いた小鳥達】
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episode13・自責と懺悔 (Ren Side)

廉のお話。


【警告】

物語の構成上、

残酷描写、血の描写、自傷描写がございます。

苦手な方はすぐにブラウザバックして下さい。


どれだけ祈りを捧げれば、良いのだろう。

悔恨と懺悔を捧げたならば、赦しを乞えるのだろうか。


(否、そんなのあり得ないだろう)



赦しを乞えるなんて、許されない。

一生、罪人の息子という肩書きを背負い生きていくのが償いだ。

鬼子、罪人の息子の息子に救いはないのだから。


では、

後、どれだけ自身に刃を向ければ良いのだろうか。





廉が水瀬家に引き取られた後に、

和歌の母親の仕事の都合で、遠い県へ引っ越す事が決まった。



廉の立場を組んだのかは分からない。




だが、戸惑いを見せていた廉を見て

和歌は気を使ったのだろう。


『転勤族だから、気にしないで』と廉に告げた。



言われて見ればそうだ。

和歌と和歌の母親は幼い頃から各地を転々としていた。

今回だって、たまたま廉が住んでいた町に移住してきたのだった。


和歌の母親は

外資系の会社に勤める、自他共にバリバリのキャリアウーマンだ。

仕事では(ひた)向きな仕事人間の一面と、シングルマザーで一人娘を育てる母親の一面。

美人で心優しく非の打ち所がない。



シングルマザーで一人娘を育てるには、幾度の苦労もあっただろう。

加えて彼女は甥を引き取り、分け隔てのない態度を優しい愛情で接してきた。




和歌が誘拐された時に、廉は密かに自身を責めた。

殺人者の息子、犯罪者の息子と浴びせられたレッテルが、影を落としていたからだ。

自身が水瀬家に入り込んでしまったから、和歌に不幸が訪れてしまったのではないか。


そして、心の底から浮かび上がった感情が牙を出した。

_____母親の様に自分自身も誰かを苦しめているのではないか。



そんな自責の念に駈られては、

和歌の母親に心の中で何度も謝っていた。



帰ってきた和歌は壊れた人間の様になっていた。

彼女をそうしたのはきっと犯人だけじゃない。



せめてでも出来る事は無かろうかと、

和歌が勉強に遅れない様に、毎日、授業ノートをこっそり置いていた。








廉の住んでいるアパートは、2DKのアパートだ。

築年数は古いが近年に改装工事された事もあって、外装や内装は真新しい。


二つある部屋の内、一つは寝室でベッドと机のみ。


そうもう一つの部屋は______。

部屋に置かれた小さなダイニングテーブル。

ダイニングテーブルには一枚の写真が写真立ての中に納められている。

少し色褪せた写真には、仲睦まじい両親と3人の子供達が写っている。


隣に置かれた小さなお線香立てに、

一つお線香を立たせると、廉は(ひざまづ)き、写真の前で手を合わせ、固く深く目を閉じた。


深い闇と溶け込む中で、

廉の心の奥底に沈めていた気持ちが露になる。



(犯罪者の息子、お前に祈りを捧げる権利はない)


(どういう気持ちで線香を立てているのか)


闇の中で飛び交う声。

それでも廉は黙祷したまま、懺悔を祈った。


ごめんなさい、と。


決して許されない、申し訳ない事をしました、と。



闇色に包まれた此処は言わば、懺悔室だ。

廉は毎日毎日、この場所で母親が殺めた5人へ冥福と懺悔の祈りを捧げては詫びていた。



自室に戻ると、廉はベッドの縁に背を預けながら

呆然自失とした瞳で窓から見える景色を眺め見た。

濃紺色の空には、月も星も見えない。

それは、自分だけが世界に一人ぼっちになった様な、虚無の空間の様に晒されている様に見えた。


不意に、床には転がり落ちた、カッターナイフが視界に入る。

いつの間に移動したのだろうか。


憂いを帯びた眼差しを向けながら、

カッターナイフを拾おうとした時、心臓が騒いだ。



“オマエニ、イキテイルリユウハナイ”


何処からともなく囁き聞こえた声音。

その聴こえた声が、理性を外すのは簡単だった。




ジャリジャリ、と

砂を踏んだ様な音が暗闇の部屋に音を佇ませる。

夜闇に光る鋭利な光りを反射させている。

それを、廉は闇色を佇ませた瞳で、冷たい眼差しで見詰めていた。


廉は迷わず自らの肩に刃を向ける。

次の瞬間、カッターナイフは青年の左肩を傷付けていた。

浅く深く何度も肩を引き裂いては、左肩は赤色に染まっていく。



(クルシイ)


(イタイヨ)


けれど

廉にとっては、そんな事はどうでも良かった。

罪人の子供は痛みなんぞ気にせず、傷付けばいい。

この感じる痛みも、体に残る傷も気にする価値には(あたい)しない。



殺められた大人や子供達はもっと、痛かっただろう。



だから自分自身も、

もっと傷付いて、傷付けば良いのだ。


誰だって口にはしないけれど

罪人には、その子供には、きっとそう望んでいる。




傷付けた傷が、深かったのだろう。

肩からは赤い赤い左肩から血が腕を伝いながら流れ、

グレーのシャツは赤く染まる。


そんな中で、手の甲にぽたりと溢れた一筋の鮮血。


その赤を見詰める、絶望に瀕した闇色の瞳。


(これで良いんだ)


(もっと、もっと傷付けばいい)


自分自身を、己で傷付けては狂気に狂い、己を嘲笑う。

もっと傷付けばいい。傷付けば。


誰も傷付けてくれないのなら、自分自身で傷を付けるしかない。

これで良いと思っていた刹那、廉には予想外の事が起きた。





「…………廉?」


控えめな落ち着いた声。

ふと声の主へと視線を向けると、驚いた表情を見せた和歌がいた。


血に濡れた刃、赤に染まり行く左肩と滴る鮮血。


闇夜に照らされた青年は、神話に出てくる人物の様に美しい。

華の様に鮮やかだけれど、それは何かに怯え震え、救いを求める天使の様に見えた。


(_______終わった)


独りぼっちの中、内緒で自分自身を痛め付けて、傷付けていた。

けれど従妹に見られた瞬間(いま)、廉は落胆と共に悟った。



「…………………」



流れる沈黙。

ベッドの縁を背もたれにして、廉は茫然自失としていた。

まるで魂を抜き取られた人形のようだ。


救急セットで和歌は、

廉が自傷した肩______傷を手当てしている。



(…………どうして、平然なふりをしているのだろう)



和歌は事件後、人間不信と人間恐怖症に陥っている。

だから人には近付かない。誰かに触れるなんて出来ない。

なのに。


和歌は平然としている。

手の震えすらもない。大丈夫だろうか。








廉が自傷行為を始めたのは、

水瀬家を離れて暫くしてからの事だった。

部屋を決めた時、自室と懺悔部屋の構成となり、

一人の人間『川嶋 廉』だけ独りぼっちの空間に居ると

自身は『犯罪者の息子』『殺人者の息子』であると事実と強い感情に晒された。



廉は夜になるとひたすら懺悔部屋に遺族へ懺悔と

母親が犯した罪の悔恨を詫び、そして祈った。



だが、幾ら詫びだとしても、許されない。

そんな事は分かっている。


ただ。


(被害者の命はもうないのに_____)


(何故、加害者側の人間はどうして、のうのうと息をしているのだろう)


そんな思いが脳裏を霞めた。

被害者の命はないのに、罪を犯した母親や自分自身はのうのうと息をして生きている。

不条理と理不尽、悔恨の感情の狭間で揺れ始めた。


痛みを知らずに、

のうのうと息をしている事、生きている。

それが、廉の心の何処かで許せなかった。


被害者に心の底から懺悔し、

母親の犯した罪に悔恨を詫びる度に、廉は追い詰められて行った。




最初は浅い傷から始まった。

それが何時しか時が経つにつれて、

青年が付ける自傷は深く、深くなっていく。


リストカット等では誰かにバレてしまう。

だから、見えにくい場所____肩や背中、胴体に刃を向ける様になった。

服で隠れ悟られにくい場所を探っては、自分で自分を傷付ける。

廉が懺悔から身に付いたのは、自傷癖だった。



病院に行くのを拒んだのも、

自分自身には行く必要がないと思いがあったからだ。

自分で自分を傷をつけておいて、手当てしてもらうなんて身勝手だ。

それに、


(犯罪者の息子が、助けられていい筈がない)


そんな思いが、廉の闇の中に佇んでいた。





和歌が平然と現れたのは、廉の部屋の合鍵を持っていたからです。

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