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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【傷付いた小鳥達】
13/112

episode11・一つの謎 (Waka Side)

和歌のお話。




「あの、水瀬って子。いつも一人で陰気だよね」

「でも村山先輩も惹かれたんでしょ? 村山先輩を惹かせたなんてムカつく」


大学の廊下では三人組が連なり、和歌を見て妬みの言葉を向ける。

無論、聞こえようがしに言っているので、

和歌の耳に入っているのだが一切に和歌は気にしない。


人間不信故に、

孤独の固い殻に籠った世界にいる和歌には、気にもならない。

現に届きもしない。


孤独の世界にいる世界にいる和歌は、記憶を辿った。



村山先輩____自身と同じ大学4回生。

端麗な容姿からはかなりの女子に人気がある。

しかし異性には興味が向かない和歌には、関係のない事だと思い込んでいた。


しかし先日、和歌は彼に告白されたのだ。


至って真剣な告白だったが、和歌は誰とも関わる気はない。

相手は真剣なのに、此方は偽って付き合う事になる。

それは残酷だろう。


本人には当たり障りなく断りを入れたつもりだったけれども

それを隠れ見ていた女子達はそれを根に持っているらしい。






「ねえ、知ってる?

あの人、元は孤児で養女に引き取られた子らしいよ」



何処からだろう。

根も葉もない噂が立ち上がり始めたのは。

否。誘拐された子、とバレない方が救いであるが。


元より自分自身の素性を話す機会は全くないから

人は面白くなる様に解釈し、偽りを膨張し撒き散らす。



そんな噂が流れても、

哀れみをネタにしてお喋りに話を咲かせる相手も、

和歌は、聞こえぬふりをして相手にはしない。



しかし。


(好き勝手に、言わせておけばいいわ)


和歌の冷たく凍った心は微動打しない。

今までも嫌み、妬み、嫉みを言われても平然としてきた。


和歌は、指して気にも止めない。

所詮は偽りの噂話なのだから。それに、



和歌にとって“あの傷”に勝るものは存在しなかった。

何故ならば、一度深く傷を負った心は、少々の事では傷付かない。

聞かないふりをして、知らないふりをきた。


ただその深い傷が和歌自身の人生の足枷となっている事だけだ。

傷を負った経験も、和歌の唯一の足枷は、“あの現実”だけ。


人の根も葉もない噂話や妬み話は、和歌にとって眼中にはない。



和歌にとって今も足枷になっている

見過ごせなかった現実は、“あの出来事”だけなのだから。

“あの出来事”に比べれば、妬み等は小さく他愛のない事と思える。

なので、一ミリも気にも止めない。



言いたい者は、

偽り話を信じて好き勝手に話に花を咲かせて置けばいい。

そしてその根も葉もない偽りの話を信じ、

振り撒いている自分自身が如何に愚かで哀れか知らないだろう。


それに事は事実ではないのだから、

自分自身は堂々と普通にしていれば良いのだ。



だが当然、和歌は養女等ではない。

だからこそ大好きな母親と親子関係を否定をされる噂を耳にすると少しずきり、と心が痛んだ。




和歌は、ミステリアスな面が多い。

物静かな性格であまり自己主張はしないので

周りは謎に包まれた水瀬和歌の素性を好き勝手に捏造し、噂に花を咲かせている。

何処から立ち上がった話なのか、すっかり和歌は孤児という噂が立ち込めている。




(………もう美岬も信じているのかも知れない)



美岬は流されやすく、信じやすい。

世間とは隔絶された、“温室のお姫様”だから。




大学キャンパスの席が隣同士で

他愛のない会話するという以外、美岬とは一切接点はない。

しかしこれだけ話が立ち込めていたら、美岬の耳に届いて筈がないだろう。



しかし、自分自身が

9年前に起きた誘拐事件の被害者と知られるよりはずっとマシだ。

自分自身が被害者で、6年間も心の治療に費やしていたという過去を知られてしまったら

和歌はその場に、立って居られなくなる。



社会復帰してから精一杯、普通のふりをしてきた。

誘拐・強姦未遂事件に遭った被害者と悟れない様に。





今日はアルバイトも休みの為、在宅にいた。

町から少し離れた距離にある落ち着いた雰囲気のマンションは

セキュリティもしっかりとしていてオートロック式、


マンションの部屋数は多く、

特にマンションの最上階は、螺旋階段を昇ると広いロフトが備え付けられている。

和歌は母親の仕事の都合で転勤族だったが、もう転勤はないと

決まってから最後の住み処として母が一目惚れして

買い取りで購入し住み始めたのは和歌が大学生になってからだ。



外資系の会社に勤める母親は、誰もが認めるキャリアウーマンだ。

基本はフルタイムで働いている為に家を空けている事が多い。

残業もある為に顔を合わせない事もあるのだけれども、

二人三脚の生活を送ってきた故に母娘の仲も絆も固い。



彼女は女手一つで和歌を育て、

兄が心神喪失状態になってからは甥まで引き取り育て上げた。

和歌は母親の事を母親としては無論、その非の打ち所のない人間性に感心していた。





部屋に荷物を起き、緩みつつあった髪を結び直した後

携帯端末からのメールを確認すると、母親から連絡が入っていた。


“今夜は早く帰れそうなの。

だから久しぶりに和歌の好きな白身魚のマリネを作るわね。

悪いけれど、必要な材料を用意をしておいて貰えるかしら?”


和歌は驚きと共に、少し頬が緩む。

返事を返してから、必要な料理の材料を揃えておき

次いでに放置されていた皿を洗い

フローリング用のワイパーで部屋を一通り掃除した。

仕事終わりで疲れている母親の負担を減らしたいのと、潔癖な和歌の血が騒いだからだ。




綺麗好きの母娘によって

片付けられている部屋は、生活感はあるが

まるで整えられたモデルルームのようだ。


全てが一通り終わった後で、

和歌は長成りのソファーに体を伸ばす。



不意に携帯端末を取ると、

和歌は、なんとなく不意に自分の名前をネット検索した。


あまり当時は混乱していて、当時の記憶はないけれど、

当時、自分の立場はどうなっていたのか。

それが気になったからだ。



誘拐・強姦未遂事件に遭遇し、9年をかけて、

心の整理が着いた今ならば客観的に自身を見詰める事が出来る。

少し引き気味に自身の名前をネット検索にかけると、

和歌は呆気に取られた。


自分自身の情報が出てくると思っていた

同姓同名のブログ等が人物が出てくる程で自分の素性は全く出てこない。





(______どうして?)



誘拐事件として、警察は大々的に捜査していた筈だ。

なのに、捜索の貼り紙や写真、ニュース記事等一枚もネットには浮上していない。

和歌の情報は一切出さず、少女を誘拐・強姦未遂した犯人の男の名前だけがニュースサイトの記事に取り上げられている。

犯人の顔は見たくなくて犯人が映る画面を手で隠したが、和歌の中では疑問が残った。


ニュースや捜索のビラを貼られた場合、

その人物の名前が(おおやけ)となる為に、

元の日常生活に戻っても、噂の的とされやすい。

それに今はネット社会でSNSが普及しているのが当たり前の今、

自身の素性がバレて拡散されてしまっても、仕方ない筈だ。


だが、疑問が残る。



(私は、普通に過ごす事が出来ている)




母親の仕事の関係で

転勤族だった為に、様々な地に移転は繰り返していたが

事件後の今日(こんにち)に至っても、和歌は普通に過ごしている。

周りから見られても、寡黙で物静かな人としか思われていない。

挙げ句には、その優雅な立ち振る舞いと清楚な容姿から、何処かの令嬢と勘違いされている。



大学生になってから、気になって何度か

自分自身を検索にかけてみたが、何度、検索をかけても結果は同じだ。


誰にも知られたくない辛い

“あの現実”墓場まで持っていく過去の秘密として固く誓っているが、

誘拐・強姦未遂に遭ってしまった事を言わなければ、

決して和歌が過去に誘拐に遭った被害者だとは悟られない。


加えて和歌自身も決して、悟られない様に生きてきたが

まるで最初から何もなかった様に、世間は認知している。


自分自身の身に起きた事は、(おおやけ)にはなっていない。



それは、何故だろう。




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