~あらすじ~
「学ー。今日はもう帰るよな?ゲーセン寄っていこうぜ!」
下校時刻を示すチャイムの鳴り響く校内で、ボクこと、不知火学は、荷物を纏めている最中でした。
「あ…うん。そうしたいんだけど、俺これからバイトなんだ…」
「え、何新しいバイト始めたの?やるねぇ学も…前のバイトクビになってから1週間も立ってないじゃん?」
「うん。そうなんだけど」
ボクはこのカラクリ高校という、県内で下から二番目の偏差値を誇る公立学校の2年生。
ボクがなぜクビになってまでバイトを続けているのかというと、ボクがまだ小さい時に両親が離婚し、妹と共に母方に引き取られ、その後病気がちな母は働けなくなり、生活に困ってしまったから。
この高校に入れたのも、支援金や色々なものを国からお借りしてなんとか通えている状態です。ちなみにどれくらい生活に困っているのかというと、お昼ご飯は100円のバターロール5個入り一袋のやつと、学校が無料でおいてあるウォーターサーバーの水で乗り切るくらいです。
ボクは地味でぱっとせず、クラス内でも目立たないので、友達も限られています。
今こうして話しかけてくれたこのクラスメイトは、友人ではありません。ただのクラスメイトで、いつも一緒に帰る友達が何かをやらかして放課後指導をくらってしまっているそうで、一人でいるボクにただ話しかけてきただけです。暇があれば話しかけてくる都合のいい奴です。
このクラスメイトが言った通り、ボクは1ヶ月前までファミリーレストランでアルバイトをしていたのですが、
何の因果か、先日クビになってしまいました。
ファミリーレストランの前にも、コンビニ、レンタルショップと、色々なアルバイトをしてきました。
でも決まってクビになってしまいます。
「まあいいや。一緒に帰るくらいはいいだろ?地元だよな新しいバイトって。」
「そうだよ。カラクリ商店街で。」
カラクリ商店街というのは、この高校の最寄駅から2駅先の、この辺では一番買い物客の多い商店街です。
この辺りは田舎ではないのですが、ほとんどが住宅街で、バイトできるような場所もなく、ボクの定期内でバイトができる場所と言うとカラクリ商店街しかないのです。ファミレスも、コンビニも、レンタルショップも全部商店街にあります。正直、顔見知りばかりで通るのが恥ずかしいです。
12月の半ば頃、寒さがに身にしみる空の下、なんでもないクラスメイトの彼が隣でカイロをしゃかしゃか言わせているのに若干ムカつきを覚えながら、二人で歩いていると、彼はボクが一番聞かれたくない事を尋ねてきた。
「で、新しいバイトって何やってんの?」
聞くのが当たり前みたいな顔をしながら、まだカイロをしゃかしゃかしているクラスメイト。
まあ聞かれるのはわかってたけど、カイロをしゃかしゃかしてるのもあってボクは少し不機嫌そうに返した。
「別に、普通のバイトだけど…」
「普通って、普通じゃねえバイトしたことあんのかよ」
「ないけど…。」
しゃかしゃかしゃかしゃか。
世界征服をしている闇の結社で下僕として働いているなんて言えば、ボクが彼だったら絶対に信じないし、馬鹿にするどころか一頻り笑って、中二病はやめてくれと言うだろう。
ああ、言いたくないなあ。嘘をつかない程度に誤魔化そう。
「お手伝いさん、かな」
「へえ、珍しいな。どこの?」
「い、一般…家庭の」
「ええ!?個人で雇ってんの?!めちゃくちゃバイト代高いんじゃねえ?!今度何か奢れよ!」
「そんなことないよ!この辺の最低賃金の20円高いくらいだよ…」
ボクがそう言うと、彼はしゃかしゃかしていたカイロをポケットに収めた。
「お手伝いさんてさあ、何すんの?」
「んー…掃除とか、洗濯とか…夕食作ったりもするよ」
「へえ~、凄いじゃん。不知火、調理実習すごかったもんな。」
「まあ、いつも家でしてることだし。妹が食べ盛りだから、たくさん料理してるよ」
「えらいな~。はあ、腹減ったなあ…俺も商店街寄ってなんか買い食いしよっかな~」
えっ、それはまずい。
自称闇の結社に入っていくところは見られたくない。
「あ、そういやカラクリ商店街って言えばさあ、知ってる?」
「な、何?」
「なんか闇の結社があるらしいよ。この間そこから、真っ白なマントして仮面つけた男が出てくるの見たんだよね」
へえー!!そうなんだあ!!知らなかったナー!!
なんてオーバーリアクションをしながら、僕はめちゃくちゃ背中に汗をかいていた。畜生、場所まで把握してやがる。
「知ってるの…?その、闇の結社の事…。」
「知ってるも何も、あれじゃあ地元で知らねー奴なんていねぇだろ。
あ~…そうか、お前ちょっと抜けてるもんなあ…知らなくても不思議じゃねぇか」
「ええ…」
まあ確かに白マントの男の雇用主はは背景を歪ませるほど、不思議な身なりをしているが、
たぶん、バイトを始めて1ヶ月目になる今、四天王の一人であるその男をボクは見慣れてしまっているのだろう。
確かに傍から見れば雇用主やその他はおかしな人ばかりで、近づき難いかもしれない。
「実はさ、そこの闇の結社、バイト募集してたらしいぜ…。なんでも世界征服の手伝いだとかなんとか」
「ヘーソウナンダ」
「やべえよな…イカれてるよな。実はパンクバンドとかなんとかいう噂もあるけど、お前も一応気をつけとけよ。からまれたら本当にやべーから」
重々承知しております。彼の言葉に、ボクは力いっぱい頷きながら、電車の改札を抜けた。すると、改札の前で、あれ?!と大声を上げながら、彼がポケットを叩いたり、学生鞄をひっくり返したりしていた。どうやら定期がないらしい。
「うわっ、…しくった。学校に忘れてきたわ。悪い!先行けよ。バイトあんだろ!」
「うん。気をつけてね。」
「そっちもな。お手伝いさんのバイトがんばれよ~!」
彼は本当は良いクラスメイトかもしれない。だが、ボクにはわかる。きっとこの先の出番はとても少ない。
ボクは彼のことを忘れない。ビーアンビシャス。
改札越しに別れを告げて、ボクは鞄を持ち直し、カラクリ商店街へ走る電車のホームへと向かった。
「さて、世界征服世界征服。」
今日からがんばります。ぼちぼち。面白かったら「い」とか「あ」とか「う」でもいいのでコメントいただければ、嬉ションしながらがんばります。




