二章 調査開始
翌日、雲行きが怪しい月曜日。
行動が筒抜けなので調査予定をオトに報告しても何一つ問題がない。調査の許可をもらうということでもないが、ララナは朝からオトを訪ねた。昨日の件が影響してか扉を開けてもらえなかったが呼鈴に対して、
「今日はなん」
と、扉越しに応答があった。
ララナは明るい声で報告する。
「本日は魔法学園の教諭陣と会います。四学年生前後のオト様のお話を聞く予定です」
「一教育機関への進入をよく許されたな」
「正面から交渉致しました。必要とあらばどんな手も講じます」
派遣元である瑠琉乃に手を回してもらった。言うまでもなく法に触れていない。
「証言をねじ曲げるよう立ち回られる危険性を危惧しぃへんの」
「オト様はそのような面倒なことはなさらないのではござりませんか」
口癖を捉えたララナは、オトが黙ったあいだにお辞儀した。「失礼致します」
オトの応答はなかった。だが、止める声もなかった。痛い腹はないということか。それか、教諭陣から有用な情報が得られないと判っているのか。何にせよララナは魔法学園に行くのみである。
緑茶荘の南三・六キロメートル、徒歩四八分のところにオトが通っていた魔法学園、〈ダゼダダ大陸中央県田創町立第一魔法学園初等部〉があった。レフュラル表大国の魔法学園と比べると一回りも二回りも小さな校舎は鄙びた景色に馴染む佇まいであった。馬車で訪れたララナは、到着までに学園支配関連の裁判記事を携帯端末で読んで調査に臨んでいる。
……いざ参りましょう。
午前八時。一時限目の授業が始まっており校舎は静かだが、体育や武道、魔法の授業を行っている体育館やグラウンドからは子どもの元気な声が上がっている。
ララナは西門を抜け、教員・来客用の通用口から校舎に入った。来客用の緑色のスリッパを履いて通用口付近のパイプ椅子に座ると間もなく案内係が現れた。
「昨日ご連絡くださった聖さんですね」
「はい。聖羅欄納と申します。天白養護教諭と和田教諭はいますか」
「和田先生は授業中ですが、天白先生は保健室にいるはずですので、ご案内します」
「よろしくお願い致します」
節電中の薄暗い廊下を、案内係の男性教員に続いてララナは歩いた。東西に長い三階建ての南舎と四階建ての北舎、その二つを南北で繋ぐ廊下で校舎は成る。職員室前から東へ三〇メートルほど歩くと南舎一階の保健室に到着した。
案内係が保健室の扉を開くと、白衣の女性が椅子に座っているのが見えた。
「おや、君が『実態調査員』かい」
と、声を発して立ち上がった白衣の女性を、
「あちらが天白先生です」
と、案内係が紹介。入室したララナが、
「初めまして。聖羅欄納です」
と、お辞儀すると白衣の女性もお辞儀した。
「天白位人だ。君はまるで児童みたいだな」
「よく間違われますが成人しております」
「失敬した。仕事をしようか」
「その前に、」
ララナは案内係を振り返り、「申し訳ございません。天白さんと二人でお話を致します」
「では、わたしは職員室に戻ります」
「ご案内いただきありがとうございます」
ララナは案内係を見送り、保健室の扉が閉まると天白を向き直った。瑠琉乃が入れた連絡との相違も合わせて説明する必要がある。
「お待たせ致しました。用件ですが、八年前のことをお訊きしたいと考えております」
「君の軽装は変だと感じたが、そうか、『第二類医薬品関連の使用状況と環境を調査する』との聖産業の連絡は建前か」
「騙すような真似をしたこと、まことに申し訳ございません」
「いいさ、顔を上げてくれ」
天白の言葉を受け、ララナは彼女の話を聞く。
「八年前。一般には悪神討伐戦争末期、また終結の時期だ。多くの魔法学園の養護教諭が被害を受けた近隣住民や子どもの治療に追われたと聞いたことがある」
「天白さんも当時は大変でしたか」
「この学園内では戦争も真青の出来事が起きていてね、わたしはそちらで手一杯だった。君が聞きたいのはそっちなんだろう」
「はい。当時の竹神オト様についてお聞きしたいのです」
「ダゼダダ国内でも需要を増しているレフュラル有数の大産業が話を通してくる辺りがきな臭いね。調査は調査なんだろうが、どんなものなんだい」
「今も伝えた通り、オト様の過去を知るための調査です」
「それ以上は言えない、か」
貴重な時間を割いてもらうことにはなるが、
「マイナスにならないとは考えております」
「それは飽くまで君側の意見だろうがね」
天白が「音か」と呟き、きりっとした表情をやや曇らせた。「まあ、話しても構わないよ」
「お願い致します」
「……わたしも含め、彼には多くの教員が期待していた」
「神童だったそうですね」
「事前調査は済んでいるようだね。そう、いっそ神とすら思えたさ。やることなすこと、完璧だった。私が知る限り成績はオール5。魔法については頂等部でも教えることがないほどだろうとほかの教員がいっていたね。武芸にも秀でていてね、剣を持てば敵う者はなし、矢を射れば百発百中、体はしなやかでこなせぬ動きはなかった。彼は世界で随一の魔術師になると誰もが思っていただろう。まさしく神の子、神童というわけさ」
「しかし八年前、事件が起きたのですね」
「君の側はそれを聞いて何をするつもりかな」
と、天白が意図を窺う。「あの一件の火消しは大変だった。学園はかなりの風評被害を被ってね。こういってはなんだが蒸し返されるのはつらいところなのさ」
ララナは答える前に、天白に与えた──聖産業主動の調査という──誤認を解いた。
「──。何かい、じゃあ、君は君個人の意志で調査をしていると」
「情報を大切に扱います」
「当然だ。が、」
「オト様との対話以外に利用致しません」
「……聖産業の社長令嬢に君と同じ名が連なっているが──」
瑠琉乃もそうとは伝えていないはずだが、少し調べれば立場は判る。その先の相関図は察し次第だ。
「──君は彼のなんなんだ」
総にも問われた。当然の疑問だ。
「私はオト様に助けていただいた者ですが、あの方の罪を問うことも考えております」
「てっきりパトロンだと思った。問うこともとは」
「あの方をお助けしたいのです」
「操られているのかい」
「いいえ」
「信じられないな」
と、天白が椅子に戻って、ララナを見上げた。「八年前、この学園には君のようなシンパサイザがたくさんいたんだよ」
「共鳴者ですね。その皆さんは操られていましたか」
「ああ、自覚なくね」
ララナはオトに操られているつもりは全くないが、共鳴者については興味深い話である。オトに深入りした者なら、鈴音の死に何かしらの関与が疑われる。
「八年前の共鳴者がオト様をどのように援助していたか、話していただけますか」
天白が腕組をして難しい顔で語り出す。
「君も知っていると思うが、当時学園は性犯罪の現場のようになっていてね。男女一対の教員が放課後に不適切な行為に及んだのが最初だとされている。同教員が授業にその行為を取り入れた段階でわたしにも状況が伝わってきた。それはさておき、同教員の同僚が真似をしたのが次の段階だったようだね。状況はさらに深刻になった。児童同士の性行為の蔓延だ。厳密にいえば、授業に行為が取り入れられる直前に要望書が学園関係者全員に配られ、各自のいかがわしい要望を書かせていたが、それがあの事態を招いたと知ったのは事後調査でのことだった」
要望書というのは、オトが皆の欲求を叶えるために書かせたというプリントのこと。
「要望書を配ったのも児童同士の性行為を煽動したのも、彼の行動をサポートして支配力を下支えしていたシンパサイザが行ったことさ。その多くは彼には及ばないものの優秀な児童だったと記憶しているよ」
「優秀な児童が集まれば知恵も集います。いわゆる学園支配が完成してしまうわけですね」
「勿論というのは滑稽な話だが、教員にもかなりの数のシンパサイザが存在していてね、児童の突飛な発想の実行を手助けしている部分もあった。わたし達正常な教員から観れば厄介極まりなかったよ。裏をかこうにも基本的な思考が違いすぎて翻弄されたからね」
子どもの自由な発想が規則や社会性に染まった大人の対策を越えてしまった典型か。
ところで、
「要望書には理性を失わせる魔法が施されていたと耳にしました。天白さんはその魔法に掛からなかったということですか」
「要望書に『書く』行為が魔法発動の条件だったらしいからね」
「……なるほど」
あまり知られていない魔法の術式に〈反射発動型〉というものがある。魔法を施した者──術者──の定めた条件が揃った瞬間に発動する魔法で、オトは「書く」という行為を条件に発動する魔法を要望書に仕掛けたと推測される。要望書に文字を書くことをなんらかの形で回避した者は無事だったということだ。
「天白さんは回答されなかったのですね」
「そう、白紙提出さ。叶えてほしいことなどなかったし、何より叶えてもらうつもりがなかった。願いは自分で叶えるべきだろう」
「ええ、そうですね」
支配に全く屈しない強靭な意志の持主が最初からいたことを天白の存在が示している。
「彼を助けるといったが、具体的にどう助けるのか、聞かせてくれるかい」
と、天白が訊いた。
具体的な計画があるかというとまだない段階なのだが、ララナは大まかに伝える。
「あの方の歪んだ心を正し、罪を犯さないようにしていただきます」
「ふむ、方針はあるようだが具体的な手立てまでは決まっていないというところかな。だがそれ以前に問題がある」
「なんですか」
「わたしの知る限り彼は他者の意見を聞くことをやめた存在だ。他者のアドバイスを聞いて改心するとは考えられない」
その節をララナも感じているが、ここは天白の考えを聞きたい。
「あの方のどのような態度をもって推察されたのか、お聞かせください」
「教員に逮捕者が出て事件が明るみに出たあと彼は主謀ながら未成年ということで無罪放免になったが、あまりに膨大な魔力と知識、優れた身体能力を有するがゆえに危険視されていた。一方で、優れた才能に世界の教育機関が目をつけ、再教育しようと試みたことがあった……」
天白がキャスタを走らせて窓際に寄り、校舎南に位置するグラウンドの隅を指差す。
「ちょうどあそこだったかな、セメント詰めのタイヤを積み重ねたアスレチックだが」
ララナも窓際に寄って、天白の指すアスレチックを見つめる。春になると薄桃色の花の咲くサクラジュがアスレチックの横に列を成していた。
「彼は事件後、教室には行かずあそこの一番高い場所に座り込んでサクラジュを観ていた。そこへ名のある教育者が何人も訪ねていったが、どんな弁舌も彼には通じなかった。それだけならまだよかったが、教育者達は彼に自信を打ち砕かれてね、中にはその場で自殺しようとした者までいて大変な騒ぎだった。──わたしのいいたいことが解るかな」
「オト様を改心させることができないどころか、私が精神を脅かされると」
「君はあの大犯罪者予備軍に大層な敬称をつけている。シンパサイザとしての共鳴率が高く、簡単に彼の手口に嵌まる危険性がある」
「手口ですか」
「判っているだろう。彼はひとを操れるのさ」
天白の言葉に畏怖が潜む。「魔法に頼った理性の消失なんてものもあったがそんな精神魔法の類は記憶が消えるし持続のしない上辺のもの。彼の手段はそういった解りやすい魔法だけではない。対した者が自分の認識の中で正しいと感じていることを利用し、自分の本意から執っている行動がさも完全なる間違いであるかのように錯覚させること。それこそが真骨頂なのさ」
「正義的行動を自らの考察の中で間違いだと認識させることによって、自身の信念や理念、理想、果ては人生までも全否定させることができるのですね」
「まあ、最悪の場合という話なんだが、そうして自殺しようとする者がいたことは忘れてはならないだろう。そうでなくても、信頼を築いてきた教育理念を疑問に感じてしまった者の多くは、その職や肩書を棄てた。彼と対してタダで済んだ教育者はほとんどいないということだよ」
「天白さんが教員を続けられたのはなぜですか」
「真向勝負しなかった。逃げるが勝ちというヤツだよ、情けない話だ。君も、いずれは自らの考えを否定することになるかも知れないね」
天白がララナに目を向けて、「彼を助けたいと、最後までいえるといいな」
その言葉は嫌みなどではない。オトの危険性を近くで感じてきた天白の精一杯の助言であることを、ララナは感じた。
……オト様は、それほどに、他者を傷つけたかったのでしょうか。
聞けば聞くほどにオトの異常性ばかりが浮き彫りになっていく。それが八年前に逢った未来のオトに変化していくことなどあるのだろうか、と、疑問に思うほどに。
……いいえ、違います。
そう考えることが落し穴なのだ。未来は未知。ララナは今のオトに正面からぶつかるしかない。オトの本当の輪郭がまだはっきりと観えないから、なんの解決にもならないのに未来のオトの姿に縋ろうとしてしまう。
……迷ったら、その時点で私は負けるのです。
知るはずのなかった輪郭からの逆算は現実逃避に等しい。今現在の彼がどんな輪郭をしているのか窺い知るための情報収集であるから、オトの側面をより多く知ることが最優先である。
「最後に一つ。オト様と関わりを持っていたという橘鈴音さんをご存じですか」
「この学園の児童だな」
天白がデスクに戻って、頰杖をつく。「彼らは同級生だったが橘鈴音のほうは病欠も多かったから目立たない子でね。一年前、彼に殺されたんじゃないかと噂が立ったときにはやはりそうなったか、と、内心思ったよ」
そう思うに至る情報を天白が持っていそうだ。ララナはそれを聞きたい。
「鈴音さんについて、ご存じのことを詳しく話していただけますか」
「主に彼との関わりについてかな」
「そのほかのことでも特筆すべき点があるようでしたらよろしくお願い致します」
「そうだな、彼女が彼と話しているのを見たのもあのアスレチックだった。わたしの記憶が確かなら、あれは彼らが五学年の頃だ」
……七年前ですね。
現状、オトと鈴音の接触に関する最古の情報である。
「何を話していたかはこの距離だから判らない。それにわたしが知るのは一度きりの対面だ。彼女は何度かあそこに訪れていたような気がするが、日を跨いで、その前に話していた様子はないね」
「鈴音さんが何度かオト様に会いに来ていたということですか。でも、お互いに話している様子はなかったと」
「ああ、恐らく。彼は背中を向けたままだったからね。話しかけていたとするなら彼女のほうで、教育者達とほとんど変わらなかったんじゃないかな。要するに彼女が一方的に話しかけている印象だった。最後以外はね」
「変化があったのですね」
「彼が彼女を振り向いて何やら一言返していたね。そのあとから彼女はあそこに姿を現さなくなって、不登園となった。体調不良とのことだったが、彼に何かいわれたことが原因じゃないかと思ったものさ」
天白がそう言ったが、日向像によればその約三年後以降にオトと鈴音は緑茶荘で親しげにしていた。タイヤのアスレチックでのなんらかの会話がきっかけで、オトと鈴音のあいだに何かの絆が芽生えたのは間違いなさそうである。
「新たな質問が生じたのですが、よろしいですか」
「構わないよ。何かな」
「鈴音さんと会話された当時のオト様は、学園の支配から手を引いていたのですか」
「ふうむ、難しい問だな」
天白がやや考えてから話し出した。「時期を考えれば、彼女と話した頃には彼は手を引いていたといえるのかも知れない。八年前の彼の支配は、四学年生時代の一二月下旬から二月下旬の二箇月間。だが、二箇月間のいつ頃からシンパサイザの手で支配が広がっていったかはっきりしていない。シンパサイザだけで支配が行われていたという話もあるんだ」
裁判の記事にもあった内容だった。主謀の少年──オト──が事件に関与していた痕跡がことごとくなく共鳴者の積極的関与こそ主体となっているようだ、と。要望書作成にオトが関与していたのは間違いないが、
「天白さんは、それをどう捉えていますか」
「言葉通りさ。君のいう『オト様』は主謀であり、学園転落の種を蒔いた存在だ。が、要望書の原文作成、それから強いていえば要望書がきっかけで男女一対の教員が起こした不祥事以外に、彼が直接関与していたという確たる証拠がない。シンパサイザの児童が無罪放免で法廷に立たなかったから証言を得られず、事件の経緯に辿れない部分が多多あったんだ。シンパサイザであった児童や教員が率先して動いていたことは出廷した教員の証言によって明らかにされているがね」
児童は未成年ゆえに名前を出せず、教員については複数いたため一括りの説明だった。
「事件は、他者を操ることに長けたオト様の手によるものと天白さんはお考えなのですね」
「教育者の件を受けての事後類推なのだが、それ以外の考察ではシンパサイザが率先して動いていたことに合理的な説明がつかない」
「共鳴者はオト様の指示があったことを否定しましたか」
「言葉を聞くと彼を庇おうとしたようにも思えなかったというから不思議だろう。そう、まさしく率先したようにしか感ぜられない証言を揃いも揃ってしたんだ。いっそ、邪教の教祖と信者のような関係ですらある」
「オト様が操っていた場合の話ですが、そうですね」
完全なる洗脳が施された信者は自身の判断と述べて教団・教祖の関与を否定するのである。
ララナの応答に、天白が目を丸くした。
「これだけの話を聞いて、君は彼をまだ信じていたのか」
「信じたいだけなのかも知れません。しかしながら、確証がないことを手放しに信ずることも難しいのですよ」
「良きも悪しきもか」
「はい」
聞きたかったことを聞けたので、もう一人の教員和田光臣が授業を終えるまでララナは保健室で待たせてもらうことにした。
天白から聞いた話を踏まえて、考えを整理する。
オトが共鳴者を密かに束ね、裁判で自分の教唆を明かさないように糸を引いていたということは考えられなくもない。が、共鳴者は飽くまで共鳴者、邪教の信者などではない。犯罪行為が明るみに出て逮捕され、自らの罪を問われる法廷に立っても冷静に自身の行為を振り返ったことがないということはまずないだろう。冷静になった共鳴者がそのあと法廷で証言するに当たって目指すのは減刑に有利となる事実の提示となる。共鳴者はそこで自分が主謀でないことを伝えたいはずである。また、こう言ってはなんだが、主謀がオトと判っていた事件だ。主謀が自分でないことをはっきりいいなさい、と、弁護士が共鳴者に指導するのが普通であろうから、共鳴者はオトの存在を法廷でにおわすか暴露してしかるべきなのである。ところが、共鳴者は自らが率先して行為に及んだと証言して、オトの関与を仄めかしてすらいない。言い方を換えるなら、オトから指示が下ったと客観的に認められなかった弁護士が指導を入れられなかったため共鳴者は虚偽を述べないことに重点を置いたのだ。
携帯端末一つあればある程度の情報を拾える情報化社会。天白の言った不祥事を起こした男女一対の教員名鎚弘也と菊地澄子は全面的に容疑を認めて懲役七年に処せられたとの八年前の裁判の記事があった。
名鎚弘也と菊地澄子が法廷でオトについて全く触れないことで現在のオトに悪い影響を及ぼしているか──例えば脅しに訪れたりしているか──だが、その気配はない。名鎚弘也や菊地澄子を名指しで検索すると、現在の生活ぶりが複数の第三者や本人のブログなどに引っかかって出てきた。現在それなりに満たされた生活を送っているようで、わざわざオトに関わってくるようなことはなさそうであった。ある意味では潔く過去の不祥事を受け入れているということが言え、さらには、拘置期間中に起きた鈴音の死に関与するような働きかけをしたとは考えにくい。逆を言えば、鈴音に関するオトの容疑がより濃くなったということになる。
……オト様は、約六年で鈴音さんと親交を深められたのでしょう。
タイヤのアスレチックで鈴音と初めて会ったかは唯一の当事者たるオトから聞かなければ確定できないが、その頃に顔見知りとなっていたことは間違いなく、鈴音がそのあとから不登園となったことも天白の証言で確定的だ。総によれば学園支配が発覚したあとオトも不登園となっていたが、実際には五学年の春までアスレチックを始め、総の目の届かない学園内に来ていた。
もしや、鈴音が不登園になったことをきっかけにオトも不登園になったのか。それから密かに会いに行っていた、とか。
「天白さん」
「疑問の多い子は育つというが、質問攻めだな」
「恐縮です」
仕事の手を止めて聞いてくれる天白にララナは会釈し、不登園になった鈴音にオトが会いに行っていたかどうか尋ねたが、至極当然、
「悪いがそこまでは知らないな」
「そうですよね……」
学園外でのことまで存じているとしたらストーカだ。
念のために、オトや鈴音についてインターネットを検索したが、二人に纏わる情報は露もなかった。
……未成年者の情報はどの国も厳重に管理されていますね。
ララナの暮らしていたレフュラル表大国も二〇歳に満たない者の個人情報はインターネット上から削除されるようになっている。と、言うのも、未成年者の健全な育成が未来の国を形作るという基本に立って、未成年者を標的としたあらゆる犯罪から守る面もあれば、未成年者が積極的に犯罪や反体制的行動を起こせないように監視しているという面もある。従って、未成年者関連の情報が一時期掲載されたとしても検索・閲覧できないように国によってただちに削除される。ここ、ダゼダダ警備国家もそれは同じだった。
……これ以上は和田さんの話を聞いてからでしょうか。
オトと鈴音の接触の話だけでもオトから何かを聞ける可能性はあるが、情報が多いに越したことはない。
そう考えると、和田を待つ前にララナは天白に尋ねておきたいことがまだあった。オトに接触した教育者の末路を知っていた天白が、鈴音がオトに接触しようとしていたことに気づいていながら止めなかったのはなぜかという疑問と──。
「児童として健全だったはずの鈴音さんをオト様から切り離さなかったのはなぜでしょう。また、天白さんはオト様をよく観察していたようですが、それは職務ですか」
「最初にいった通りさ」
「……、オト様の将来に期待していたのですね」
「いや、その時点では更生を、だな。わたしは彼に期待していたのさ。そして今も君に情報を伝えた。真向勝負しない。卑怯だろうと、それがわたしだ」
オトが更生の道を辿ることを、一教員として、そうして願っているということ。
……どんな形であれ、オト様を周りのひとが支えようとしている。
それは日向像の存在からも感じたことだが、天白の言葉からも改めて感じた。一方、支えられる側の感覚がララナにはある。
……皆さんの存在を、どこかで心強く感じています。
しかしララナは、その支えから遠退いている。
……オト様も──。
その理由は、いったいなんだろうか。
一時限目終了のチャイムが鳴った。ララナは改めて天白にお礼を言って、保健室をあとにした。六学年の教室があるという北舎三階に上がると、小休止で教室から出てきている児童と擦れ違う。私服のララナだが外見年齢が異常に幼く、制服を着忘れているとでも思われているのか視線を向けられても誰にも何も言われない。
……オト様も、斯様に初等部の制服をお召しだったのでしょうね。
元気溢れる少年少女を見送って、ララナは少年期のオトを想像し、義妹がお揃いの制服でいた頃を振り返り──、和田が学級担任を務める一組の教室前で待つと、出てきた男性教諭が、
「あれ、君は」
と、不思議そうに窺った。どこへ訪ねても外見年齢で中等部以下にしか見られないララナである。「第二類医薬品関連の使用状況と環境を調査する聖羅欄納」とだけ聞いているであろう男性教諭がすぐに見分けてくれるとは思っていない。
「ご連絡致しました、聖羅欄納です」
と、しっかり名乗った。
男性教諭が目を丸くして、
「あなたがそうでしたか」
と、謝った時点で、彼が和田光臣であることが判明したので、ララナは天白にしたように誤認を解いた。
オトの名を聞いて警戒心が覗いた和田。聞く耳を持っているのか、
「歩きながらでいいです?小テストの採点と三時限目の準備で職員室に行くので」
と、歩いた。その横について、ララナはうなづいた。
「お忙しい中、申し訳ございません」
「いえ。あの事件について、ぼくに何を訊きたいんです?ぼくが話したことは裁判記録としてネット上にも出てると思いますが」
「端的に申しますと、公には出ていないことをお聞きしたいのです」
「出ていないこと、ですか。事件には多くの児童が関わってましたから、彼らについては話したくないのが本音なんですが……」
「教諭陣についてはいかがでしょうか」
「それについては自業自得と考えてます。ぼくのように理性を保って事に当たった教員もちゃんといますからね」
元同僚に侮蔑の意を示して和田が階段を下りる。「意志の弱い教員が学園の混乱を深めてしまったのは事実ですが、まじめに働いていた教員には迷惑な話ですよ。あの事件後、ぼくらがどれだけ世間から叩かれたかご存じですか?」
「恐れながら……」
「大変なクレームの嵐でしたよ。一保護者から、PTAから、教育委員会から、それどころか民衆からも電話や手紙やメールが殺到しました。彼の支配を受けず正しいことをして事態収拾に努めたぼくらまで罪を犯した教員達と同じだといって裁判まで起こされました。無論ぼくらは無罪となりましたが、精神は限界ギリギリだった。日日の仕事は児童の心のケアも含んでいましたし、その中で平常通りの授業をこなさなければならなかった。事件があったからといって他校の児童と学習内容に格差があってはいけないと思ったんです。児童のケアに全時限を費やしたかったんですけど……、中途半端だった。理想と現実が完全に乖離して、目が回るような忙しさでした。追打ちを掛けるように爆弾襲撃予告まであったくらいですよ、この学園は悪魔の巣窟だといって」
「ひどい話ですね……」
「ですから、できれば話したくないんです」
階段を下りきった和田が廊下を早足で。ララナは無理することなくついていく。
「……あなた、足、速いですね」
「戦線に出ていたこともございます」
「まさか、悪神討伐戦争に」
「はい。名もない義勇兵でしたが」
「でしょうね、名前を存じ上げませんから」
ともに戦った一二人を知っているだろうが、ララナが話したいのは仲間のことでも戦争のことでもない。
「あの方の支配下にあった頃、感じたことを話していただけますか」
「想像がつきません?」
「私の想像では事実が歪曲してしまいます」
「見掛けによらず堅苦しいんですね」
「よくいわれます」
「……」
沈黙後、やや足を遅めて、和田が口を開いた。「彼はぼくの担当児童でしたから、正直、ショックでしたし、何より、驚きましたよ。彼は誰からも尊敬されてました。優しくて、明るくて、いつも可愛らしい笑顔を振り撒いていた、まさにクラスのリーダでした」
……、……。
「学級担任として未熟だったぼくは、恥ずかしながらクラスの仕切りを彼に頼りきっていたといってもいい。それぐらいに頼れる存在感がありましたし、ポテンシャルがありました」
魔法の才に長けるだけではない。文武両道で他者への気遣いもでき、皆を元気づける笑顔の持主。それが神童たるオトであった。
「ぼくでなくても、きっと彼を高く評価したでしょう。そして意図せず、誰も彼の行動に疑念をいだかない環境が整ってしまったんですよ……」
総も話していたが、
「豹変したのですね」
「突然でしたよ。違和感を感じないほどに」
職員室に到着して、小テストの束を自分のデスクに置いた和田が廊下に出た。
「採点はよろしいのですか」
「……昔を思い出したら、ちょっと、採点ミスしそうで、ね」
「申し訳ございません」
「いや、いいんです、ぼくの問題ですよ、これは。精神が、まだ、軟弱なんです」
二時限目が始まった校舎は、廊下に人気がなくなり静かとなった。廊下を歩き出した和田の横をララナも歩く。
「ぼくはね、真先に彼に排除されたんですよ」
「学園を追い出されたということでしょうか」
「いいえ。恐らくは、彼の行動の邪魔をすると考えたんでしょう。ぼくは魔法を封印されて、情けないことにベランダに締め出されてしまったんです」
それは実害ではないか。裁判でオトの悪行として証言しなかったのはなぜか。
「和田さんは、共鳴者によって締め出されたのではございませんか。そうでなければ、裁判でオト様の犯行を述べてもよかったはずです」
「……ええ、お察しの通り、シンパの仕業です。確証がないだけでその裏に彼がいたとは思っているんです」
「そのシンパ、共鳴者は誰ですか」
「同僚だった名鎚と菊地です。次の日も、同じ仕打ちを受けました。四学年の教室は二階で、魔法が使えないのでは飛び降りることも危なくてできませんでした」
「では、名鎚弘也さんや菊地澄子さんによる異質な授業を、和田さんはご覧になっていたということですね」
「ぼくも男ですから体が反応しなかったといえば嘘になりますけど、子ども達がその行為を始めようとしたときにはさすがに理性が勝りました。子ども達が怪我をしたらいけないと思って躊躇ってましたが、窓ガラスを蹴破って教室に入り、児童を室外に避難させました。名鎚と菊地はまるで自室にでもいるかのように場違いな行為に一心不乱で……、理性の目で観るとあいつらは頭のネジが飛んでいるようにしか観えなかった」
法廷での名鎚弘也らの証言によれば欲求を解消できて幸福感に満たされていた。人格が違えば物の見方や感じ方が変わるとは言え、TPOが異常という和田の感じ方が一般的だろう。
「学園支配はおよそ二箇月に及んだそうですが異質な授業は長くは続かなかったでしょう。正常な教諭陣は何かしらの対策を立てましたか」
「裁判でも述べた通りです。児童を保護しつつ、県民ホールなどで授業を行う体制を整えるため動いていました。一方、名鎚らを逮捕させるために広域警察に通報したりも」
総によれば学園外で補導された児童などが現れて学園に捜査のメスが入ったという流れだったが、和田を始めとする正常な教員が警察に働きかけて捜査が始まったという流れが実状のようだ。そうして名鎚弘也、菊地澄子は逮捕されたが。
「名鎚らに感化されたように、次から次に異常な教員が増えて油断できませんでした。身内を疑う日日でした。……二箇月が過ぎて、ようやく、ほとんどの教員が逮捕されて伝染が止まったということです」
裁判記事に同じ内容の証言があった。それによれば学園長までもが逮捕されている。この学園が当時どれほど混乱していたことか。
「あの方自身が暴力を振るったとの意見が一部にあるのですが、和田さんはそのような現場に遭遇したことはありますか」
「目に入る範囲ですけど、ないですね」
はっきりと言った。「あったとしてもおかしくはないと思いますが……、そういう話は聞いたこともありません」
「左様ですか。(総さんの話は主観や噂話が入り乱れて実態とは異なることが多いよう。経過は裁判記事を参考にして問題なさそうですね。)以上のような状況を作った張本人を、和田さんはどうお思いでしたか」
「ぼく自身は戸惑ってました。あんなことをする意味が解りませんでしたから。今もって解りません。彼は、何をしたかったのか……」
裁判記事によれば、オトが作成した要望書が配られたあと、真先に共鳴者として動き出して真先に逮捕されたのが名鎚弘也と菊地澄子であった。そこにオトの意図があるとしたらそれが学園支配に及んだ動機といえるだろうが、動機が何に係っているかが問題だ。
「主謀であるあの方を一番近くで観ていたのは担当教諭であった和田さんだと思います。名鎚弘也さん達がなぜ最初に共鳴者となったのか思い当たる節はありませんか」
「彼と特別な接触があったとは記憶していませんし、正直思い当たりません。なんで名鎚と菊地だったのか──」
和田がふと脚を止めた。
ララナも立ち止まり、
「どうかされましたか」
「……もととはいえ、身内の恥です」
「なんでしょう」
「事件後、クレーム処理をしていたときに、名鎚に対するクレームを耳にしたんです」
「名鎚弘也さん個人へのクレームですか」
「妙にはっきりとした指摘でした。要約すると、『名鎚はセクハラしている』と」
裁判記事にそのような和田の証言がなかったのは法廷での審理が終わったあとにクレームが耳に入ったからだろう。
「同僚に対してですか」
「いえ……、女子児童に対してです」
「──、学園側は状況を把握していましたか」
「クレームがあるまでは事実と把握していなかったと思います。クレームがあってからも事件後のむやみな非難ではないかと考える教員が多かった。ですが、教育委員会の要請と介入で内部調査が行われた結果、被害児童が存在しました。それも、名鎚が担当した学級に複数、過去に遡れば数えきれないほど……」
「学園側の責任は免れませんね」
「その学園側の一構成員として、ぼくら教員もまた叩かれました。事件が起きて八年経ちましたが、怒涛の時間で、落ちついたと思えてからそれほどは……」
和田の疲れきった顔を観れば、多くを聞かなくてもどれほど大変だったかが解るような気がする。ララナは聞取りを続けなくてはならない。
「あの方は、名鎚弘也さんのセクハラの事実を知っていたのではないでしょうか」
「え……」
「あの方は女子児童ではござりませんが、一児童でした。学園側が把握していなかった女子児童の心の叫びを、把握していたのではないでしょうか」
オトには、読心の魔法がある。悪童となる前、気の回る彼が女子児童の心の叫びを聞いていたとしたらどのような手段を執っても名鎚弘也を排除しようとしたのではないか。その手段が学園支配に繋がったかどうか、なぜその手段を採ったかは定かでないが。
和田が下駄箱のほうへ歩き出した。
「把握していたのだとしたら疑問があります。名鎚と菊地がぼくの学級で行った犯罪行為で、心の傷を負った児童がたくさんいたんです。そんな手段を採った理由が……」
「教育委員会に告発すれば早いですからね。それに、名鎚弘也さんを排除すればよかったところを、菊地澄子さんを始め多数の教員や児童を巻き込んだ」
「そうする理由が解りませんよね。……あなたは、どう思いますか」
和田が下駄箱を眺めて、「そもそも、あなたは彼とどんな繋がりが?」
「私に取っては恩人です。ただ、あの方の過去の行いを全て肯定するつもりはございません。間違いを間違いと正さなくては、今に大変なことが起きると考えております」
「八年前の事件以上のことを、彼は起こそうとしていると?」
「いいえ。ただし、蓄積された負の感情が破裂すればどうなるかは、和田さんもご了解のことと思います」
「……」
「先の問題、名鎚弘也さんと関わりのない教員・児童を巻き込んだのは、あの方なりの道理があったのではないでしょうか。悪童となろうと何かしらの筋を通していると考えます」
「根拠は」
ララナは下駄箱に整列する靴を見つめて、
「直感ですので根拠はございません」
と、正直に答えた。「私は、私の直感を裏づける根拠を探して、和田さん方、関係者からお話を聞いております」
「……そうですか」
和田が深く息を吸って、「一つ、彼についてぼくがいえることがあります」
「なんですか」
「彼は昔の神童ではない。生きているだけで、息を吸うだけで災いを振り撒く、そんな、悪童です。彼の一つの行動が、ぼくらを何年も苦しめたことが根拠です。そこにいかなる理由があろうと、筋が通っていようと、ぼくらに取っての彼は悪童そのものです」
「……ご意見を無駄には致しません」
今現在この学園で働く教員、被害を受けた児童の心情を慮ってララナはそう応えた。
「最後に一つだけお尋ねしてもよろしいですか」
「なんです?」
「橘鈴音さんをご存じですか」
「橘鈴音、ですか。学園の児童ですか」
「はい。あの方とは同年です」
しばらく考え込んだ和田が、
「別学級の子かな……」
「体が弱く休みがちだったと聞いております」
と、いうララナの追加情報で和田が「あ」と、思い出した。
「一年前くらいですか、噂で聞いた気が。うちを卒業した体の弱い女の子が彼に殺害されたのだと……。もしかして、それがその子なんですか」
「あの方の犯行かどうかは不確定ですが、そのような噂があることは私も存じております」
緑茶荘の管理人日向像や同アパートに住む総を始め、天白も知っていた噂だ。
「あなたは、その噂の真偽を確かめようとしているんですね」
「はい。(正しくは、それも、ですが)」
オトの学園支配の理由も気になるし、鈴音の死への関与も気になる。
天白もそうであったが、和田が私見を口にする。
「ぼくは、彼は黒だと思います。彼は一〇歳にして性犯罪の教唆犯でした。体が成熟しつつある一六、七歳になって自らの体で罪を犯したとしてもなんら不思議じゃない」
「……ご意見、頂戴致します」
オトや鈴音についてさらなる情報を齎すことはないと踏んで、ララナは和田にお礼を言って別れ、もう一度、保健室の天白を訪ねた。
デスクで書き物をしていた天白が顔を上げて、
「新たな疑問でも湧いたのかな」
と、迎えたので、ララナは単刀直入に言う。
「天白さんは、名鎚弘也さんの女子児童へのセクハラ行為をご存じですか」
クレーム対応以前に養護教諭として把握できたことがあるのではないか。ララナはそう期待して尋ねたが、天白が把握したのも事件後であった。
「児童のメンタルケアを中心とした後処理をしたから知っているが、そのことがどうかしたかい」
「被害を受けた女子児童の存在にオト様は気づいていたのではないかと、和田さんのお話を踏まえて考えたのです」
「ふむ。それが何を示すと君は考える」
「オト様の学園支配に、名鎚弘也さんを標的としたなんらかの計画があった可能性です」
「なるほど。君は飽くまで彼に正義的目標があったと考えたわけだな」
「可能性は突きつめなくてはなりません。天白さんがご存じでなければ、当時のことを知る教諭陣から話を聞きたいのですが、ご紹介いただけませんか」
「構わないよ」
承諾した天白から現在もこの学園で働く教員や別の学園に転任した教員を紹介してもらい、ララナは、その日のうちに空間転移魔法を駆使して各人に聞取りを行った。が、国を跨いでまで移動した甲斐もなく、オトの正義を裏づけるような新たな情報は挙がらなかった。
大きなことを起こした者は表向きには伝わらない目的を持っていることがある。誰もがそうではない。オトがそうであるかも不明だ。が、近代最大の悪たる悪神総裁ジーンにも表からは窺い知りようのない目的があった。それを暴いたのは、一行のリーダであった一長命が諦めず歩み続けたからだった。
……私も、諦めません。
彼を知り、彼を救うために。
──二章 終──