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~雨傘~   作者: 美鈴
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第1話 ~魔女がうまれた日~ 7/9


 その昔_____私たちの世界は、光の雨が降り続けており、それはそれは幻想的な世界でした。


 しかし、人が死に続け、動物たちも死に続け、世界は雨が降るだけの"何もない世界"になろうとしていました。


 そんな中、豊かな世界を夢見た若者たちが立ち上がります。


 "聖地に住む神に会うことができれば、どんな願いも叶えてくれる"


 古来より伝わる伝説を信じて、二人の青年と一人の少女が聖地へと旅をしました__________


______長い長い旅の果て、3人はついに聖地に辿り着きました。そして、神に会い、願いを言いました______


「俺の願いは、神になることだ! 世界にたくさんの命を芽吹かせ、育み、活気溢れる世界にしたい!」


 一人の男の願いは神になることでした。


「俺は、永遠の命が欲しい。皆が支え合い、弱い人たちを守ることのできる王になって平和な国を作りたい。永遠に平和な国を……」


 もう一人の男の願いは不老長寿の王となることでした。


「私は魔女になりたい。人々に生きていく知恵と魔法の知識を伝え、生活を豊かにしていきたい」


 最後の少女の願いは魔女になることでした。


 願いを聞き届けた神様は……それを叶えたのでした。




□■□




「うっ……ぐすっ」


 劇、"魔女の旅"を客席で観賞していたミリアは厚手のハンカチで目を押さえる。神になった男と魔女が、旅の最中恋人になったのだが、最後に別れてしまうという悲しい展開にボロ泣きのようだ。


「うう~っ、悲しい…悲しすぎますわ~!」


 ティッシュで鼻をかむミリアの隣でジョージはキョウと顔を見合せ苦笑いした。

 ……毎年見てるなら展開もわかるはずなのに、こんなに泣けるものなのだろうか。


「ほんと好きなんですね、この劇」


「だって~、うぅっ……」


「まぁ、確かに面白かったですけど」


「そうでしょう!? あのアイリスとシュレイヤの恋が切なくて切なくて……う~……」


 まだ余韻の残っているミリアの様子に、後ろで観ていたキョウが頷いた。


「確かに、話もよし、動きも洗練されていましたね。あの打ち合いも去年と比べて一段と迫力がありました」


「ヘー、キョウさんもあの劇好きだったんですか」


「年に一度観ているからな。内容は知っているが、毎年違う演出があって面白い」


 意外にもキョウさんは劇をよく観ているようだ。……ルイールでお馴染みの劇なら皆こういう感じなのかもしれないが。


「あら、団長」


 涙を拭い立ち上がるミリアの視線の先には、先程ジョージと会った派手な格好の男がやってきた。


「ハァイ、ミリア嬢にキョウ君。久しぶりだね!」


「お久しぶりです。イオさん」


「今日は素敵な時間をありがとう」


「こちらこそ! エンジョイしてくれたようで嬉しいよ」


 団長と呼ばれた男は微笑んで恭しく腰を折る。顔を上げると、ふいにジョージと目があった。


「おや、ユーはさっきスカルとくっついていた……」


「ちょっ…!」


「何!?」「はぁ!?」


 キョウとミリアは目を吊り上げ、同時にジョージの胸ぐらを掴み上げた。


「貴様ァァァァ!! ミリア様というものがありながら浮気するとはー! 表に出ろ! その性根叩き直してやる!」


「ギャー待って待って待って! 誤解っす!! つーか浮気って何が!?」


「また女性に手を出しましたのねこのチャラ男ー!! 表に出なさいビンタ100連発の刑ですわ!!」


 騒いでいる3人と団長の元にユミルが柔らかく微笑みながらやって来た。


「団長、彼はジョージ。ミリアの付き人なのよ」


「そうだったのか! ジョージ君初めまして。ミーはイオデロ=クラスター。よろしく!」


「よろしくじゃなくて助けてくれません!? 何のんびりあいさつしてんすか!!」


 人懐こい笑顔で手を差し出すイオデロにジョージは思いっきりツッコミを入れる。すると、ユミルはミリアに歩み寄った。


「さぁミリア。じゃれあうのもいいけれど、そろそろ儀式の準備をしなきゃ」


 その言葉にミリアはピタリと動きを止めて手を離す。流れでキョウも手を離した。


「……あの苦しいの着ますの?」


「えぇ、正装に着替えないと」


「…………」


 ミリアの言う"苦しいの"とはコルセットの事で、ドレスを着るときに必要な腰を締め付ける衣服である。

 ミリアはコルセットが昔から苦手であり、ユミルから僅かに後ずさった。


「ま、まだ儀式まで時間はありますし……」


「そろそろ着ないと間に合わないわ」


 ジリジリ後退りながら冷や汗をかくミリアとは対照的に、ユミルはニコニコと微笑んでいる。


「この服だって正装に見えますわ……だから」


「さぁ、行きましょう」


「ほんの30分ほどで終わる儀式ならこの服でも……」


 するとユミルは微笑みを崩さないまま0.1秒でミリアの目の前まで距離をつめ、力強く肩を掴んだ。


「行・き・ま・しょう?」


「……は、はい……すみませんでした……」


 ミリアは聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で謝った。

 ユミルの有無を言わさぬ迫力に、後ろにいるジョージとキョウまで顔をひきつらせて二人を見送る。よほど怖いのかコルセットが嫌なのか、ミリアの目にはさっきと別の涙が溜っていた。


「エクセレント! 微笑ましい光景だね!」


「どの辺りがですか?」


 半泣きのミリアとユミルの背を見送りながら朗らかに笑うイオデロに、ジョージはツッコミを入れたのだった。


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