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~雨傘~   作者: 美鈴
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第7話 ~初代フラバース王の問い~ 1/8


 1年前………あの花畑に連れていってもらったあの日、心に決めていた事がある。


「まだ歩く…っですか」


「ふんふふーん♪」


「聞い…聞いてんですか?」


「文句言わずに付いてきなさい、あと言葉遣いも丁寧に」


 ジョージは慣れない敬語もどきで、跳ねるようにスキップしているミリアに声をかける。街から出て、街道からも外れ、海沿いの道を進んでいく。


「大体、何でわざわざ夜なんだ。明日の昼間でもいいだろ」


「わかってないですわね、夜だからいいんですのよ。月明かりに照らされた花畑は美し……」


「一人で行けよめんどくさい」


「はぁぁぁ!? その言い方はないでしょう! いいじゃありませんの、あなただって仕事終わったらどうせ寝るだけなのでしょう」


 あと話し方!と若干キレ気味に指を差すと、ジョージは呆れたようにため息をついた。


「一人で夜歩くなんて怖いじゃありませんのよ」


「怖くないだろ別に」


「そもそも私、一人で夜歩いちゃダメとお姉様に言いつけられてて…」


「子供だからな」


「やかましいですわよ! もう………あ」


 ミリアは殴ろうとしたが、手を引っ込め、小走りで前を行き、くるりと振り返る。


「ジョージ! 付きましたわよ、早く来なさいな!」


「はいはい、今行きます」


 ジョージも小走りで駆け寄り、追いつくとミリアは満面の笑みで前方へ手の差し出した。


「見てください。これが、私の秘密の場所ですわ!」


 そこには一面の花畑が広がっていた。黄色く大きな花が一本一本、夜闇に向かって真っ直ぐ咲いており、満月の光が真っ直ぐ差している。


「どう? きれいでしょう」


「まぁ……きれいはきれい、ですけど…何で俺と?」


「お姉様は忙しいし、キョウに連れてってもらうのも…なんか…」


「恥ずかしいのか?」


「そ、そういうわけじゃなくて! だってまだ私の騎士ってわけじゃありませんし、わざわざお願いするのも…なんか」


「恥ずかしいのか」


「違いますってば! もう!」


 ミリアは不貞腐れたように、その場に座り込んだ。ジョージも隣に座る。


「また子供っぽいとか、思われるかもって……そう思いましたの」


「まだ子供、ですよね」


「わかってますわよ。……あのねジョージ、私今までずっとお姉様の言う通りにしてきましたの。お夕飯を一緒に食べる事、夜一人で歩かない事………剣のお稽古をしない事」


「剣の稽古? あんた、剣を使いたいのか?」


「お姉様が昔、騎士でしたの。もうとっくに辞めてしまわれたけれど、でも私もそうなりたくて……お姉様は強くて綺麗で優しくて、素敵な人ですから」


「……………………」


 ミリアは照れくさそうに顔を赤くする。

 …こいつ、今まで姉や周りの大人の言う事聞いて、やりたい事を我慢してきたのか。姉への憧れもあって。

 だから夜禁止されている花畑に行くにも何となく行きづらかったのか。

 きっと、大人の言う事を聞いて何不自由なく生きてきた"いい子"だったのだろう。


「あんた、"お嬢様"なんだろ? もう少しわがまま言ってもいいんじゃない、ですか?」


「そんな、私聞き分けのない子供じゃないですし…」


「ミリア、様は…思った事を我慢出来るのか? 俺には随分好き勝手言ってたくせに」


「…………んああもう!」


 ミリアは叫ぶと振り払うように花畑へ走り出した。黄色い花達は背が高く、その中に飛び込んだミリアはあっという間に見えなくなった。


「み、ミリア! …様」


「わかってますわよ! そんなの! 私、思った事はすぐ口から出ちゃいますし、殴りたくなりますのよ!」


「あんた殴るの?」


「でも! 私がわがまま言ったらお姉様が大変になりますの! 迷惑かけたくありませんのよーー!」


 ミリアは月に向かって叫ぶ。…ミリアは幸せに、周りに愛されてきたからこそ、不自由に生きているのかもしれない。


「ジョージ! 私と勝負ですわ!」


「は?」


「かくれんぼ勝負よ! 30秒以内に私を見つけられたらあなたの勝ち。見つからなければ私の勝ちですわ」


「はぁ………」


 姿が見えないが、わりと近くで大声を出しているミリアに気の抜けた返事をする。


「私が勝ったら、あなたはもっと言葉遣いを学ぶこと。いいですわね!」


「………………………」


 こいつ、勝てると思ってるのか、とそんな疑問を浮かべて、少し笑いそうになる。

 暗殺組織で、ターゲットの追跡なんて日常茶飯事にやっていた。そこにいた俺に勝てると思ってるらしい。


「ジョージは? 勝ったらほしいものでもありまして?」


「…そうだな」


 負ける気が全くしない。…なら


「俺が勝ったら、ミリア様はもっとわがまま言って下さい」


「え?」


「ユミル様やキョウさんに言えないわがまま。俺で良ければ少しは聞きますよ」


 何か、少しでも彼女の力になれたらいい。俺を護ると言ってくれた彼女に、何か返せたらいい。

 そう思った。彼女のやりたい事が、少しでも自由になれるように。


「わ、わかりましたわ。負けませんわよ! じゃ30秒経ったら探してくださいな」


 後ろを向くと、ミリアは花畑の中でささっ、と隠れて移動している。ミリアの足音や、花をかき分ける音。それから少しの間があり、隠れ場所を決めたミリアが止まった。……そして30秒経つ。


「行きますよ! ミリア様ー」


 ジョージはミリアのいる方向へ真っ直ぐ走り出したのだった。


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