第6話 〜神を殺した一族たち〜 6/8
「みんな! 遅くなってごめん、無事か?」
「母ちゃん!」
ナキルと少年ーーーヤシンが一緒に走ってくる。ヤシンは息を切らせて辺りを見回し、車の影に避難していたカンナを見つける。
「ヤシン……」
ヤシンはカンナへ飛び込み、腰にしがみついた。カンナもぎゅっと抱き締める。
「怪我はない? あいつらにひどい事されてない?」
「ヤシン、私は……」
「俺、母ちゃん連れて行かれて……わざと捕まったんだ」
「え?」
カンナは驚きに目を見開いて、ヤシンの肩を掴んで目を合わせて怒った。
「ダメじゃないそんな危ない事!」
「だ、だって、母ちゃん助けないとって……村のやつらは助けてくれないから、俺がやらなきゃって……」
ヤシンは涙を流して話す。カンナは怒っていたが、泣きじゃくるヤシンに眉根を下げて抱き締めた。
「死んじゃうかもしれなかったのよ………」
「ごめん、ごめんなさい……」
「心配したんだから………」
カンナは抱き締めたまま頭を撫でる。あやすように撫でる彼女は母親の顔をしており、ヤシンは涙を堪えるようにしゃくり上げている。
すると、カンナは再び姿が一瞬ぼやけ、首元の仮面も一瞬光った。
「母ちゃん……?」
「…ごめんね、ヤシン」
カンナはゆっくり立ち上がり、ジョージ達を見回した。ヤシンは不思議そうにカンナを見上げる。
「母さん、もう一緒にはいられないの」
「えっ………」
リコリスはヤシンの肩に手を置いて、しゃがんで目線を合わせる。
「お母さん、死んじゃったんだ。だから、死んだ人の世界に行かないといけないんだよ」
「やだ、やだよ! 母ちゃん待って!」
リコリスは駆け寄ろうとするヤシンを抱き締めて止め、ナキルもヤシンに駆け寄った。カンナは一度振り返り、迷いを断ち切るようにユグ達の前に立った。
「もう、いいんすか」
「…ジョージさん、でしたね」
ジョージが確かめるように声をかけると、カンナはジョージを向いた。
「あなたの言う通りでした。私、ヤシンが私を恨んでいるなんて、酷い決めつけをしてしまっていました」
リコリスとナキルに止められながらヤシンは母ちゃん、と叫んで手を伸ばす。
「あんなに泣いてくれてるヤシンに………そんな酷い事を」
そんなヤシンの様子に泣きそうになりながら、カンナは頭を下げた。
「気付かせてくれて、ありがとう。それから、恨まれている私達を助けてくれて、本当にありがとうございました」
「…いえ、カンナさん助けらんなかったっす」
「救われましたよ、あなたのお陰で」
カンナはマントを外して、涙を流しながらニコッと笑った。……全部救うなんてできるわけがない、どうにもならなかったのかもしれない。でもカンナさんも助けたかった。
ミリアは悲しそうな顔でカンナを見つめ、ユグはいつもの感情の読めない表情でカンナを見た。
「ヤシン君は俺達COAが保護しよう。幽鬼からも、追い出そうとする奴等からも必ず護る。だから…安心して逝くといい」
「ええ……お願いします」
「ミリア、頼む」
ユグはミリアに視線を向ける。ミリアは少し迷ったように軽く俯く。ジョージは後押しするようにミリアの肩に手を添えた。
「お嬢……」
「…わかり、ましたわ。仮面に傘を当てるのですよね?」
「お願いします」
ミリアはジョージへと頷き、傘をカンナの首元にある仮面に近付ける。
「…さようなら、カンナ」
「ええ、さようならミリアさん。ヤシンをお願いします、リコリスさん」
ヤシンを押さえたままリコリスは頷いた。それからミリアは口を引き結んで、傘を仮面に軽く当てた。
カンナは光に包まれて空へと昇っていき、母ちゃん、と叫ぶ声と共に消えていく。
「あぁぁ母ちゃん! うわあぁぁぁ!」
ヤシンは空へ溶けていく光の粒へ手を伸ばし、泣き叫ぶ。リコリスはヤシンの手を取ろうと手を伸ばした。が、勢いよく振り払われる。
「さわんな!」
「!」
「誰も助けてくれなかったくせに! また俺達のこと見捨てるくせに今さら何なんだよ!」
「そんなこと、しないよ」
「嘘だ!」
涙を流し全力で否定するヤシンは、リコリスとナキルから距離を取るように後退る。
「ヤシン、俺達は…」
「ナキ」
歩み寄ろうとしたナキルを制止するように手を出し、リコリスは被っていたテンガロンハットに手をかけた。
「あたしらが、必ず君を護るよ。どうか信じてくれないかい?」
「え……!?」
テンガロンハットを取ったリコリスの頭には2本のツノが生えていた。ジョージとミリアは驚いて目を見開くが、リコリスはその様子に構わず、驚きに言葉を失っているヤシンの前にしゃがんだ。
「あたしはリコリス=マンジェシカ、君と同じ神殺しの一族さ。…あたしらと同じ子達が暮らす教会が、フラバースにある。多少の検査は必要だけど、そこなら安全に過ごせるよ」
リコリスは再度、ヤシンへと手を伸ばす。
「お母さんを助けられなかった事は…ごめんよ。でもどうか、あたし達を信じてほしい」
「……………………」
リコリスはテンガロンハットを胸に押さえ、真剣な表情で手を伸ばす。
「あたし達と一緒に行こう」
その伸ばした手をしばらくじっ、と見つめ、ヤシンはゆっくりと手を差し出した。
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