表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~雨傘~   作者: 美鈴
44/63

第6話 〜神を殺した一族たち〜 6/8


「みんな! 遅くなってごめん、無事か?」


「母ちゃん!」


 ナキルと少年ーーーヤシンが一緒に走ってくる。ヤシンは息を切らせて辺りを見回し、車の影に避難していたカンナを見つける。


「ヤシン……」


 ヤシンはカンナへ飛び込み、腰にしがみついた。カンナもぎゅっと抱き締める。


「怪我はない? あいつらにひどい事されてない?」


「ヤシン、私は……」


「俺、母ちゃん連れて行かれて……わざと捕まったんだ」


「え?」


 カンナは驚きに目を見開いて、ヤシンの肩を掴んで目を合わせて怒った。


「ダメじゃないそんな危ない事!」


「だ、だって、母ちゃん助けないとって……村のやつらは助けてくれないから、俺がやらなきゃって……」


 ヤシンは涙を流して話す。カンナは怒っていたが、泣きじゃくるヤシンに眉根を下げて抱き締めた。


「死んじゃうかもしれなかったのよ………」


「ごめん、ごめんなさい……」


「心配したんだから………」


 カンナは抱き締めたまま頭を撫でる。あやすように撫でる彼女は母親の顔をしており、ヤシンは涙を堪えるようにしゃくり上げている。

 すると、カンナは再び姿が一瞬ぼやけ、首元の仮面も一瞬光った。


「母ちゃん……?」


「…ごめんね、ヤシン」


 カンナはゆっくり立ち上がり、ジョージ達を見回した。ヤシンは不思議そうにカンナを見上げる。


「母さん、もう一緒にはいられないの」


「えっ………」


 リコリスはヤシンの肩に手を置いて、しゃがんで目線を合わせる。


「お母さん、死んじゃったんだ。だから、死んだ人の世界に行かないといけないんだよ」


「やだ、やだよ! 母ちゃん待って!」


 リコリスは駆け寄ろうとするヤシンを抱き締めて止め、ナキルもヤシンに駆け寄った。カンナは一度振り返り、迷いを断ち切るようにユグ達の前に立った。


「もう、いいんすか」


「…ジョージさん、でしたね」


 ジョージが確かめるように声をかけると、カンナはジョージを向いた。


「あなたの言う通りでした。私、ヤシンが私を恨んでいるなんて、酷い決めつけをしてしまっていました」


 リコリスとナキルに止められながらヤシンは母ちゃん、と叫んで手を伸ばす。


「あんなに泣いてくれてるヤシンに………そんな酷い事を」


 そんなヤシンの様子に泣きそうになりながら、カンナは頭を下げた。


「気付かせてくれて、ありがとう。それから、恨まれている私達を助けてくれて、本当にありがとうございました」


「…いえ、カンナさん助けらんなかったっす」


「救われましたよ、あなたのお陰で」


 カンナはマントを外して、涙を流しながらニコッと笑った。……全部救うなんてできるわけがない、どうにもならなかったのかもしれない。でもカンナさんも助けたかった。

 ミリアは悲しそうな顔でカンナを見つめ、ユグはいつもの感情の読めない表情でカンナを見た。


「ヤシン君は俺達COAが保護しよう。幽鬼からも、追い出そうとする奴等からも必ず護る。だから…安心して逝くといい」


「ええ……お願いします」


「ミリア、頼む」


 ユグはミリアに視線を向ける。ミリアは少し迷ったように軽く俯く。ジョージは後押しするようにミリアの肩に手を添えた。


「お嬢……」


「…わかり、ましたわ。仮面に傘を当てるのですよね?」


「お願いします」


 ミリアはジョージへと頷き、傘をカンナの首元にある仮面に近付ける。


「…さようなら、カンナ」


「ええ、さようならミリアさん。ヤシンをお願いします、リコリスさん」


 ヤシンを押さえたままリコリスは頷いた。それからミリアは口を引き結んで、傘を仮面に軽く当てた。

 カンナは光に包まれて空へと昇っていき、母ちゃん、と叫ぶ声と共に消えていく。


「あぁぁ母ちゃん! うわあぁぁぁ!」


 ヤシンは空へ溶けていく光の粒へ手を伸ばし、泣き叫ぶ。リコリスはヤシンの手を取ろうと手を伸ばした。が、勢いよく振り払われる。


「さわんな!」


「!」


「誰も助けてくれなかったくせに! また俺達のこと見捨てるくせに今さら何なんだよ!」


「そんなこと、しないよ」


「嘘だ!」


 涙を流し全力で否定するヤシンは、リコリスとナキルから距離を取るように後退る。


「ヤシン、俺達は…」


「ナキ」


 歩み寄ろうとしたナキルを制止するように手を出し、リコリスは被っていたテンガロンハットに手をかけた。


「あたしらが、必ず君を護るよ。どうか信じてくれないかい?」


「え……!?」


 テンガロンハットを取ったリコリスの頭には2本のツノが生えていた。ジョージとミリアは驚いて目を見開くが、リコリスはその様子に構わず、驚きに言葉を失っているヤシンの前にしゃがんだ。


「あたしはリコリス=マンジェシカ、君と同じ神殺しの一族さ。…あたしらと同じ子達が暮らす教会が、フラバースにある。多少の検査は必要だけど、そこなら安全に過ごせるよ」


 リコリスは再度、ヤシンへと手を伸ばす。


「お母さんを助けられなかった事は…ごめんよ。でもどうか、あたし達を信じてほしい」


「……………………」


 リコリスはテンガロンハットを胸に押さえ、真剣な表情で手を伸ばす。


「あたし達と一緒に行こう」


 その伸ばした手をしばらくじっ、と見つめ、ヤシンはゆっくりと手を差し出した。


.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ