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~雨傘~   作者: 美鈴
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第6話 〜神を殺した一族たち〜 4/8


「そろそろ出番だな、準備はいいか?」


「だ、大丈夫ですわ。絶対、絶対放さないで」


「了解! 任せろ!」


 ナキルは笑顔でミリアと車上の右端に移動し、ミリアは傘を構える。馬車とすれ違うまであと数十メートル、ミリアは傘を握りしめて気構えていたその時―――何故か後ろから「ニャー」と鳴き声が聞こえた。

 ニャア?とミリアは振り向き、ナキルの気もそちらに逸れたその時―――


「ぶはぁ!?」


 ミリアの顔面に巨大な落ち葉が風と共に突っ込んできた。不意打ちにミリアはバランスを崩し、車上から転げ落ちた。


「うわあぁぁぁ!? ミリアーー!」


「キャァァァァ! ナキーー!」


 ナキルは予想外の展開に思わず悲鳴をあげ、反射的にミリアの腕を掴み宙ぶらりん状態になる。


「ちょっと嘘だろミリア! ここで落ちるか!? 普通!」


「死ぬー! 死んじゃいますわー! たーすーけーてー!」


 落ちた運転席側から「ギャァァァ!? お嬢ーー!」とジョージの悲鳴が聞こえる。すると、ちょうど馬車の前まで追い付き、ミリアと鬼子の馬とすれ違う距離に来た。


「! ナキ、そのまま支えて下さる!?」


「させね…ぐはっ!」


 馬に乗っていた男がミリアを狙うが、リコリスが車内から銃で狙い撃ち、男を馬車から落とした。ミリアはナキルに片腕を支えられたまま運転席の窓の桟に足を掛け、体を安定させる。


「食らいなさい!」


 ミリアはそのまま馬の仮面に向かって傘を叩きつけた。弱い鬼子だったらしく、一発で馬は大きく声を上げて消滅した。しかし……


「そんな! 馬車が止まらないですわ! 子供が…」


「ミリア掴まれ!」


 ナキルの言葉にミリアは両手で掴まり、ぐいっと引き上げられた。ナキルは車内のユグに声をかける。


「ユグ! 俺が行くから合わせてくれ!」


「ナキ!」


 車上にしがみつくミリアの言葉を背に、ナキルは車上の端に足を掛け、馬車へ大きく跳躍し飛び込んでいった。


「てめぇ!」


 ナキルは青いマントの男達がいる馬車内から、素早く隅で蹲っている少年を見つけて抱え、ミリア達とは逆方向の馬車外へ飛び出した。


「きゃっ!」


 車が急に馬車から距離を取るように離れ、ミリアは咄嗟にバランスを取るように伏せる。

 すると、助手席のドアが開いてユグが身を乗り出し詠唱を始めた。


「"魔を断ち斬る刃の嵐、彼の者に災いを! "エアガトルネード""」


 馬車の下から竜巻が起こり、バランスを崩した馬車はそのまま横転したのだった。




■□■




「ぐっ!」


 馬車から飛び出したナキルは、少年を抱えたまま勢いを殺しながら転がって受け身を取る。


「いてて…大丈夫だった?」


「う、うん。兄ちゃんこそ……」


「俺は頑丈だから大丈夫! ヤシン、だよな?」


 ナキルは笑顔で少年―――ヤシンに聞くと頷いた。どうやら怪我は無いようだった。

 ほっとして立ち上がったその時―――


「おい待て!」


 先程馬車から落とした男が剣を構え、隣に熊の鬼子を召喚させている。


「そのガキをこちらに寄越せ。病院送りになりたくなけりゃな」


「……ヤシン、俺から離れるなよ」


 ナキルは右手に鋭い鉤爪―――クローを装着して軽く腰を落とし、ヤシンはナキルの後ろに下がった。後ろでは馬車が竜巻に吹き飛ばされているのが見えた。


「病院に行くのはお前だよ、ヤシンは俺が護る!」


「行け!」


 男が腕を振ると、熊は咆哮を上げて突進してきた。ナキルは跳躍して躱す。


「はぁっ!」


 熊の背に乗りクローを突き立てて斬り裂く。しかしすぐに回復が始まり、熊から飛び降りて前に立つ。


「グオオオォ!」


 咆哮と共に熊は、その大きな腕を振り下ろし、ナキルはクローを盾に全身で受け止める。


「っ…うおおぉぉ!」


 ナキルは力付くで熊を引き倒し、腹を大きく斬り裂いた。


「なに!?」


「すごい……」


 全長3メートル近い熊が力で負ける光景に、後ろにいるヤシンは思わず呟いた。召喚者の男は冷や汗を流して後退る。


「ば、バカな……こんなガキに……」


 男が言葉を失う中、ナキルはクローを付けた右手を握り締め、熊の仮面を見つめる。


「…ごめんな、これしか出来なくて」


 そう小さく呟くとナキルは熊の首元にクローを突き立てた。熊は光に包まれて男の中へ吸い込まれるように消えていった。


「…く、くそっ……がっ!?」


 男は逃げようとするが、その前にナキルは左手で殴り飛ばし、気絶させた。


「死んじゃったやつを鬼子にするなんて、酷い事を……」


「兄ちゃん…」


「うん、早く行こうか。カンナさんのとこへ」


 ナキルはヤシンの手を取り、平原に転がる馬車へ向かっていった。


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