第6話 〜神を殺した一族たち〜 3/8
日の落ちた頃、切り立った崖に囲まれた暗い道を、馬の鬼子に引かせた馬車が駆けていた。中には青いマントの男3人と、その男達を睨みつけるように少年が一人座っていた。
「あの女、結局見つからなかったな」
「まぁいいじゃねぇか、黙っときゃ。ガキ一人でも連れて行きゃサジェス様から褒美があるかもしれんぜ」
「だな。おい! あとどれくらいで……」
機嫌よく笑いながら鬼子の馬に座る男を見て聞いた、その時ーーー
「おい! 後ろ見ろ!」
「は? 後ろ?……」
馬車から顔を出して後方を見ると、自動車が馬車を追ってきていた。その車の上に人が二人、男と女がしゃがんでいた。
「何だあれ!? おい急げ!」
「あ、ああ! 走れ!」
馬の鬼子にムチを打ち、仮面の下から一鳴きしてスピードを上げた。
■□■
「いた! いたよジョージ! ほらスピード上げる!」
「上にお嬢とナキルが乗ってんだから、これ以上は危ないだろ。というか俺、免許持ってないんだけど」
馬車を追う車内にて、運転席でアクセルとハンドルを動かしているのはジョージ、助手席にユグ、後部座席にはリコリスが身を乗り出してジョージの座席を叩いており、その隣ではカンナが心配そうに馬車を見ていた。ユグは腕を組んだまま馬車を見る。
「馬車襲撃するのに免許などいらん」
「いや車の免許は?」
「あと、ナキのバランス感覚ならミリアを支えるなど容易だ、だから心配するな」
「もう少し近付かないと魔法当たんないね…それに広い場所に出てくれないと、追いついた時戦いにくいだろうし」
「もう少し行った先に平原があります!」
「了解っす」
作戦としては車内窓からユグとリコリスが魔法を打って少しでも馬車の足止めをする。近づいたところで車上のお嬢が鬼子の馬を傘で叩き、消滅させるというものだ。
お嬢が危険じゃないかと聞くと、ナキルが支えるから大丈夫、との事だ。まだナキルの事はよく知らないが体術、バランス感覚に優れているらしい。
それで、役の余った俺が無免許運転する事になった。
「カンナさん、馬車間違いないっすよね? 白い仮面の馬が引いてるっていう」
「はい。遠くて見えづらいけど、あんな感じでした」
「息子さん、もうすぐ会わせてあげるからね!」
「…………………」
リコリスは窓を開けて魔法を打つ準備をしながら言う。が、カンナは俯いた。
「………私、もう会うつもりは無いんです」
「え?」
「ヤシンを助けたら、そのまま死世界に行こうと思っています」
暗い表情で言うカンナにリコリスは目を丸くし、ユグは助手席から振り返らずに聞いた。
「息子にはもう二度と会えなくなるが」
「いいんです。私……実は会うのが怖くて……」
「何で今さら…たった一人の家族じゃないかい」
「でも……ヤシンがこんな目に合っているのは、私のせいだから…」
カンナは更に続け、皆黙って聞く。
「今回だけじゃないんです。私達、色んな街を旅して来ましたけど、どの街も安心して過ごせた事がないんです。いつも街の警備兵に見つかれば追いかけられて、寒い路地裏で夜を過ごして……普通の子供なら暖かい家できっと美味しいご飯を食べているはずなのに。神殺しの一族が親だったばっかりに、ヤシンだけいつもこんな目に……」
「そんなこと………」
ない、とリコリスは言えずに、途中で黙ってしまう。カンナは最後に自嘲するように呟いた。
「私が、産んだのが間違いだったのかもしれませんね」
「……やめません? そういうの」
その消え入るような声に、ジョージは馬車の方を見ながら聞いた。
「いくら酷い目に合っていようが、親が神殺しの一族だろうが、ヤシン君が不幸な子供かどうかはあんたが決める事じゃないだろ」
「…………………」
「いくら後悔しようと、ヤシン君を産んで、母親なのはあんただろ。親のあんたが、産んだ子供を否定しないで下さいよ」
「……………そう、ですよね……ごめんなさい」
カンナは声を震わせる。…嫌だった、ヤシンがどんな子か知らないが、勝手に不幸だと決めつけられるのも……子どもの気持ちを勝手に決めつけられる事も……
いくら親だって、子供と親は違う人間なのに
前を走る馬車はようやく広い平原に出た。ここで追いつけば戦闘になっても大丈夫だろう。
「…急ぎますか」
ジョージはアクセルを深く踏み込み、スピードを上げた。
■□■
「ひゃぁぁぁ! 速いー! 速いですわー!」
「おっとと…もうすぐ平原だからな。一気に追いつくかも」
「ナキ! しっかり支えなさいな! 私かなり怖いんですのよ!」
車上ではナキルが騒いでるミリアの体を後ろから支えていた。ユグの言う通り、しっかり車上に安定して乗っており、難なくミリアを支えていた。
「でもミリアも結構安定してるよなー俺いらなかったんじゃないか?」
「そんなわけ無いでしょう! 絶対死んじゃいますわ!」
「車内にいても死にそうだったよな、車酔いで」
「うう…車なんて嫌いですわー!」
ミリアは泣きそうになりながら叫ぶ。しかしナキルの言う通りで、ミリアもしっかりバランスを取って車上にしがみついていた。ノイルとの訓練の成果か、元々運動能力が高かったのか。
そんなやり取りをしていると、馬車との距離が縮まってきた。車内からユグとリコリスが火と氷の魔法を撃ち始めていた。
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