第6話 〜神を殺した一族たち〜 2/8
「来い! 早くこの村から出ていけ!」
「いっ…つ」
「やめろ!」
兵士がカンナの腕を強く引き、連れて行こうとするためジョージは咄嗟に引き剥がす。その拍子にカンナの被っていたマントが取れ、その頭からツノが見えた。
「!」
「ツノ…!? それはいったい…」
ミリアは目を見張り、ナキルは一瞬驚いてから兵士とジョージを見る。兵士はカンナのツノを見て吐き捨てるようにジョージを睨んだ。
「お前…わかってるのか。庇ってるのがどんな奴か!」
「知らねーっすよ。でも女一人に寄ってたかって追い回すのはおかしいだろ!」
「その女は神殺しの一族だ! 呪いが移るぞ!」
兵士がカンナへ指を差して声を上げると、ナキルが眉間に皺を寄せた。
「そんな事実はない! あんたこそ呪いをわかってないじゃないか!」
「ジョージ! なんかこいつムカつきますわ! 殴っていい!?」
ミリアは傘を握り締め、構えようとした、その時ーーー
「おい、なんの騒ぎだ」
兵士の後ろからユグが怪訝そうに現れる。ちょうど宿の裏だったためか、騒ぎに気付いたようだ。兵士は警戒したようにユグへ振り返る。
「ユグ……」
「目を離した途端に騒ぎを起こすな。…あぁ、なるほど」
ユグはカンナの方を見て呟き、兵士へと視線を動かした。
「彼女の身柄はこちらで引き取ろう」
「は? 何だお前、この女は早く追い出すん…」
「俺はCOA機関のものだ。彼女はCOAで保護する。お前の上司にそう伝えろ」
「いや、だから…」
「何だ」
ユグが有無を言わせぬように睨みつけ、兵士は言葉に詰まってたじろいだ。
「早くしろバカが」
「…ちっ」
兵士は舌打ちを残してこの場を立ち去った。カンナは怯えたように周りを見る。そんなカンナに、ジョージはマントを被せた。
「あ、あの……」
「とりあえず宿屋に行きましょう。いいだろユグ」
「ああ」
□■□
宿屋の2階の部屋へみんなで向かうと、リコリスが何やら本を読んで待っていた。カンナに気付くと、読んでいた本を閉じる。
「ユグ、その人……」
ユグはリコリスに向かって頷く。その返答だけで大体の事情を察したようで、リコリスは聞かなかった。全員が部屋に落ち着いたところで、ユグはミリアとジョージを見る。
「お前たちは、神殺しの一族についてどこまで知っている」
「神殺しの一族? 私は聞いたことありませんわ」
「俺は旅をしていた時に、少し見たことあるだけ。呪いが移るとか世界を裏切ったとかで兵士に殺されそうになりながら追われていた」
"見ていてどんな気分だった?"
「…あまりいい気分じゃなかったっすね」
"だよなーやっぱ!"
頭の中で男の声が聞こえ、思わず返答してしまう。…何故だろうか、聞いたことがある気がした。
ユグは黙って聞き終わると、口を開いた。
「今から500年前、初代フラバース王ルシエルと魔女アリアが神を殺した、という話を覚えているか」
ジョージは頷き、ミリアも黙って聞く。
「神シュレイヤはその時ルシエルの一族に対して呪いをかけた。頭にツノが生え、いずれ鬼子に変わるものだ。」
「死んでいないのに鬼子になるって事か?」
「そうだ。子供の頃にツノが生え始め、20代半ば頃に仮面が徐々に作られていき、大体40代から50代くらいで完全に鬼子になってしまう。そういう呪いだ」
仮面……そういえばカンナの髪に隠れて首元に白い破片のようなものが付いていた。あれが、仮面か……
ジョージが思案している横で、ミリアが少し怒ったように聞いた。
「その呪いが、呪いにかけられた人が、何であんなこと言われなきゃならないんですの?」
「それは…」
「怖いからさ」
ユグを遮って、リコリスは自嘲気味に続ける。
「知らなくて怖いものとは関わりたくない、そういう事さ。神を殺した上にいずれ鬼子になる一族なんて、誰も関わりたくないだろう?」
「そんなのおかしいですわ! 呪われていようが、カンナは何もしていないでしょう! あんな事言われる筋合いはありませんわよ!」
ミリアの怒った表情に、リコリスは目を丸くして見上げ、ジョージはミリアの肩を叩く。
「お嬢、世界中の人がお嬢みたいに怒れる訳じゃないんすよ。家族や大切な人を守るため、少しでも危険を遠ざけたい。そうっすよね」
嫌なものからは遠ざかりたい、どうにか始末したい。誰かが暗い場所に追いやってくれれば、自分達は無関係。
「…正直俺もお嬢の意見に賛成だし、腹立ちますけどね」
昔から嫌いだった。多数で一人を吊るし上げるような、差別のようなものが。それを見て見ぬふりをして無関係ぶってる連中が。
ジョージも吐き捨てるように言う。その後ろでカンナがあの……と小さく聞き、ナキルがはっとした。
「そうだ、ユグ! カンナさん息子が拐われたんだって、追いかけないと!」
「は? 話をしている場合か、早く言え」
少し怒ったようにユグは言い捨てるが、当事者のカンナは迷ったように俯く。
「で、ですが、その……いいのでしょうか。私達は…神殺しの一族で……」
すると、リコリスは椅子から降りてカンナの両肩に手を置いた。
「大丈夫さ、カンナさん。どんな連中に捕まったか、場所の目星とか教えて。息子さん、必ず助けるから」
「? …………あなた、まさか」
「信じて、あたしらは味方だよ」
リコリスがいつになく真剣に言葉をかける。カンナはリコリスの顔をじっ、と見つめた後唇を引き結んだ。
「青いマントを来た人達です。場所は…ここから東の方から逃げてきたので、そっちかと……」
「青いマント……幽鬼の連中っすね」
「行きましょう! とっちめてやりますわよ!」
「行こうみんな!」
ナキルとミリアが立ち上がる横でリコリス、ジョージも頷いた。その横で、ユグは思案する。
「(……神殺しの一族を拐う幽鬼か…)」
何となく嫌な心当たりがあり、一人顔をしかめていた。
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