第5話 ~夢追い人~ 3/6
フラバース公園近くの小さな控え室にて、今回のヒーローショーの役者が揃う。内容は勇者が魔王を仲間と一緒に倒すというよくある話で、子供向けに作られた脚本だ。
メンバーはリコリス、ジュリアを初めとするジョージ、ミリア、ユグ、モヒカンが集められ、受け取った台本を各々読み込んでいる。その中で、ジョージは目を丸くしてユグを見た。
「意外だな…ユグ、あんたまでやるなんて」
「業務が落ち着いて暇だったからな、ついでだ。
一応言っておくが、イド・デ・ガトゥーのケーキバイキングチケットをリコリスから貰ったが、それは関係ないからな」
「いやそれだろ、それしか関係ないだろ。イド何とかのケーキバイキングに釣られただけだろあんたは」
「お前も似たようなものだろうが」
「……………………」
言い返せなくなり押し黙る。確かに給料欲しさに引き受けたが、ケーキに釣られた大人に言われたくなかった。
ジョージは不貞腐れたように、手に持つ台本を見て台詞の練習をすることにした。
「…そっ、そこまでだ。私の名は勇者ショージ! 魔王ハゲヌールを倒し、ジュリ姫を救い出す者だ」
「…かたいわね」
台本の一文を読んでみると、横からジュリアが渋い顔で近寄ってきた。
「ちょっと緊張してるでしょ、機械みたいな話し方だったわ」
「緊張するな、っていうのが無理っすよ。素人なのに」
「何言ってるのよ、素人だからこそでしょ! 数時間で完璧な演技なんて出来るわけないんだから、失敗覚悟で思いっきりやればいいじゃない」
「失敗覚悟……んー……」
ジュリアのアドバイスを聞いて、ジョージはすぅっ、と息を吸った。
「ソコマデダ。私ノ名ハ勇者ショージ! 魔王ハゲヌールヲ倒シ、ジュリ姫ヲ救イ出ス者ダー」
「ほんとの失敗じゃない、何で全部棒読み?」
ジョージにあれやこれやとジュリアが教えている時ーーーミリアはユグへと話しかけていた。
「ところでユグ、ジュリアは検査大丈夫だったのかしら?」
「科学部門からの報告では薬の処方を行ったらしい。しばらく様子見だそうだ。お前と同じく自由行動はさせられんがな」
「そう…でもジュリア、また舞台に上がれるんですのよね」
ミリアは安心したようにほっとしてジュリアを見る。すると、モヒカンが手に持っていた台本のキャストが載っているページをぺしぺし叩きながら、ジュリアへと歩み寄る。
「おうおう姉ちゃんよぉ、暇だから出演承諾したが俺が魔王ハゲヌール役はおかしくねぇか?」
チンピラみたいな絡み方で抗議しているか、ジュリアはモヒカンの頭に視線を移し、何食わぬ顔で言い放った。
「ぴったりじゃない、ハゲてるし」
「ハゲてねぇわ! このモヒカンが目に入らねぇのかコルァ!!」
「別にいいだろモヒカン、そのチンピラっぷり似合ってるっすよ」
「そうですわよモヒカン、あなたしか出来ない役だと思いますわ。普段からチンピラでよかったじゃありませんの」
「チンピラチンピラうるせーよ! つーかお前ら普通に俺の事モヒカン呼ばわりしてっけど、俺の名前モヒカンじゃねーから! ダンカンだから!」
ジュリアに味方したジョージとミリアに、丸めた台本突きつけてツッコミに吠えるモヒカンもといダンカン。すると、パンパンとリコリスが手を叩いた。
「さ、本番までもうすぐだよ! ほぼぶっつけだけど、台本は覚えたかい?」
「あぁ、ちょっと待って下さいな! まだ完璧じゃなくて…」
「台本覚えてなくても、流れだけでもわかればなんとかなるわ! 変な流れになったら私がなんとかするから、大丈夫よ!」
不安そうなミリアに対して、ジュリアは頼もしくも励ます。リコリスは衣装を両手にたくさん抱えて来る。
「みんな着替えて! 本番入るよ!」
「…そういえば、リコリスは何であんなにやる気出してるんすか?」
「大方紹介料ぼったくるつもりだとかそんなとこだろう」
「あ、そういえば監督とギャラの話してたわね」
「あぁ、なるほど……」
ユグとジュリアに聞いた話に半眼になりながらも、ジョージは自分の衣装を手に取り、着替え始めるのだった。
□■□
フラバース公園の簡易ステージの前に20人弱の子供達が地面に座り、その後ろで保護者の大人達がステージを観ている。
そこに、シンプルな白いシャツ着用でいつものテンガロンハットをかぶったリコリスがマイクを持ってステージに上がる。
「はーいみんなーー!! こんにちはー!!」
「「こんにちはーー!!」」
「もっとおっきい声が出るかなー? こんにちはーー!!」
「「こんにちわァァァァ!!」」
「はーい、みんなありがとー! 元気一杯だねー!」
音が割れんばかりの子供達の元気な声に負けないように、リコリスは笑顔で声を張って司会を続ける。
「みんな! 今日はあたしらの舞台を見に来てくれて、ありがとねー! 今日のお芝居は"光の勇者VS魔王ハゲヌール"! みんな、カッコいい勇者が見たいかなー?」
「「はーい!!」」
リコリスの司会で観客を盛り上げている裏で、ミリアは緊張したように舞台を見ていた。
「…なんか、いざやるとなったら緊張してきましたわ。台詞も自信ありませんし」
「まぁ、でもジュリアがフォローするみたいですし、あまり固くならないでやりましょう」
ジョージがミリアの肩を叩くと、ジュリアが笑顔でガッツポーズを作った。
「そうよ、舞台は楽しいわよ? のびのび楽しくやるわよ!」
司会の口上も終わりに向かい、各々舞台に上がる準備をした。
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