第5話 ~夢追い人~ 2/6
それから3日後
「ジョージーーー! ミリアーーーー!!」
「うわぁぁぁ!?」
食堂でミリアと二人昼食を食べていると、突然リコリスが凄い形相で走ってきたため、ジョージはコーヒーを溢し、ミリアはフォークに刺したオムレツ(最後の一口)を床に落とした。
「あっつァァ!! な、何だなんすか突然! あっち!」
「きゃーー!! 私のオムレツがーーー!! ちょっとリコリス何してくれますのよ!」
「ちょっとごめんよー、今すぐ私についてきてくれるかい? すっごくいい話があるんだよ、ちょっと働くだけで二人が幸せになれる素敵な話なんだ。ぜんっぜん大したことじゃないから! 何も変なことしないから!!」
「胡散臭さが半端ないな!! 絶対やばい話だろ!! なんすか一体!」
「顔が怖いですわよリコリス! 魔王の隣にいる実は一番の悪役の大臣の笑顔みたいですわよ!!」
「例えが分かりにくい! お嬢ちょっと黙って下さい!!」
ジョージはミリアのよく分からないツッコミを宥めつつ、リコリスの話を聞くことにしたのだった。
「いや、実は頼み事があってさ。ちょっと魔王倒してくんない?」
「悪いリコリス、全然意味わかんねぇ」
「そんな軽い感じで倒せる魔王がいますの? ちゃんと説明してくださいます?」
「それは私から説明するわ!」
後ろからジュリアが何故か偉そうに歩み寄ってくる。
「事は2日前に遡るわ。実は私、リコリスに舞台を紹介してもらったのよ。これから催される"光の勇者VS魔王ハゲヌール"というヒーローショーにね。それに出演してほしいのよ」
「ちょっと待て、魔王の名前イジメにしか聞こえないんすけど」
「脅威の欠片もなさそうな名前ですわね。まぁそれはともかく、なんで私達が出演する話に?」
「今朝私以外の出演者全員体調を崩したようなのよ」
「は? なんで?」
ジュリアは深刻そうな顔で僅かに俯き、首を振る。ジョージはリコリスの方へ視線を投げ掛ける。
「あたしにもわからないんだ。昨日までは皆、普通だったし……でも今朝控え室に行ったら、皆が倒れていたんだ。ジュリアは無事だったみたいだけど……」
「ジュリア、本当に何も知りませんの?」
「ええ…だって突然倒れたのよ? ……でも、出演者全員突然腹痛起こすなんて…そうあることじゃないし、誰かがこのヒーローショーを潰そうと企んでいるのかもしれないわ。
まったく! せっかく差し入れして皆と頑張ろうと思ったのに…とんだ災難だわ、ほんとに」
「差し入れ?」
ミリアは僅かに首を傾げて、ジュリアの持つ小包を見た。
「ええ。実は私、彼らのためにケーキを焼いたの。私はまだ新人だし、これから一緒に頑張る仲間だから少しだけ頑張ったのよ。お菓子作りも好きだしね」
そう言いながらジュリアの開けた小包の中からは、紫色の焼け焦げた物体が出てきた。何か謎の煙が立ち上っているやばい物体が「はじめまして!」とこちらを見ているような気がした。
「一体…何があったのかしら…」
「「こっちの台詞だァァァァァ!!」」
ジョージとリコリスのツッコミが被り、リコリスに至ってはジュリアの頭に平手打ちも入れていた。
「何があったらこんな物体生まれるんすか! これだろ原因!! 犯人自分だろ!!」
「何よそれ、言い掛かりよ! これ、美味しいわよ。確かに生焼けだとお腹壊すと思ったから…ちょっとだけ焼きすぎたかもしれないけど」
「焼きすぎてお腹壊させてんじゃん!! しかも何で紫色? ケーキが何で紫色?」
焼く前のケーキをリコリスは少し想像してしまい、気持ち悪くなってしまった。そんな中、普通にもぐもぐ食べながら平然と話すジュリアにジョージはドン引いていた。
ジュリアの横では、ミリアが恐る恐る謎の物体を一つまみ口に入れ、吐きそうになっていた。
「とにかく、この不慮の事故のせいで人手が足りないのよ。だから…手伝ってくれない?」
「…ゴホン、まぁ、不慮の事故かはともかく、演者の数が足りないのは事実なんだ。手伝ってくれないかい?」
「いや、俺ら舞台上がったことないし……」
「うぅ……ふぅ、わかりましたわ!」
「ええ!?」
何とか吐き気から立ち直ったミリアの即答に、ジョージは驚く。
「本気っすか!? お嬢舞台上がったことないでしょ」
「だってジュリアを手伝うって約束しましたもの。それに……」
ミリアは両拳を作ってジョージへキラキラした目を向ける。
「舞台……立ってみたかったんですのよ」
「…お嬢…………」
それ以上何も言えなかった。だってやる気に漲ったオーラが見えるんだもの。止めても無駄だと思った。となると、あとは……
「じゃ、じゃあ頑張って下さい。俺も観に行きますんで!」
嫌な予感がしてジョージは逃げようと食堂入り口へ向かう。が、すぐにリコリスとミリアに片腕づつ掴まれ、ジュリアがにっこりと笑顔で前に出た。
「私を手伝う約束したでしょ? あなたも出演しなさいよ」
「嫌っす! やったことないし無理だって!」
「いいじゃありませんのジョージ! 困っているのですから手伝いますわよ!」
「い、いやいくらお嬢の命令でも……うーん……」
ミリアの命令でも渋るジョージ。この様子では無理やりやる気のないまま出演させてしまう…そう思い、リコリスは横から囁いた。
「……ジョージ、前回の任務の給料すぐ払うようユグに口利きしてやってもいいよ」
「全力で頑張らせて頂きます」
一瞬で手の平を返したジョージを連れて、一同はショーの現場へ向かったのだった。
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