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~雨傘~   作者: 美鈴
32/63

第5話 ~夢追い人~ 2/6


 それから3日後


「ジョージーーー! ミリアーーーー!!」


「うわぁぁぁ!?」


 食堂でミリアと二人昼食を食べていると、突然リコリスが凄い形相で走ってきたため、ジョージはコーヒーを溢し、ミリアはフォークに刺したオムレツ(最後の一口)を床に落とした。


「あっつァァ!! な、何だなんすか突然! あっち!」


「きゃーー!! 私のオムレツがーーー!! ちょっとリコリス何してくれますのよ!」


「ちょっとごめんよー、今すぐ私についてきてくれるかい? すっごくいい話があるんだよ、ちょっと働くだけで二人が幸せになれる素敵な話なんだ。ぜんっぜん大したことじゃないから! 何も変なことしないから!!」


「胡散臭さが半端ないな!! 絶対やばい話だろ!! なんすか一体!」


「顔が怖いですわよリコリス! 魔王の隣にいる実は一番の悪役の大臣の笑顔みたいですわよ!!」


「例えが分かりにくい! お嬢ちょっと黙って下さい!!」


 ジョージはミリアのよく分からないツッコミを宥めつつ、リコリスの話を聞くことにしたのだった。


「いや、実は頼み事があってさ。ちょっと魔王倒してくんない?」


「悪いリコリス、全然意味わかんねぇ」


「そんな軽い感じで倒せる魔王がいますの? ちゃんと説明してくださいます?」


「それは私から説明するわ!」


 後ろからジュリアが何故か偉そうに歩み寄ってくる。


「事は2日前に遡るわ。実は私、リコリスに舞台を紹介してもらったのよ。これから催される"光の勇者VS魔王ハゲヌール"というヒーローショーにね。それに出演してほしいのよ」


「ちょっと待て、魔王の名前イジメにしか聞こえないんすけど」


「脅威の欠片もなさそうな名前ですわね。まぁそれはともかく、なんで私達が出演する話に?」


「今朝私以外の出演者全員体調を崩したようなのよ」


「は? なんで?」


 ジュリアは深刻そうな顔で僅かに俯き、首を振る。ジョージはリコリスの方へ視線を投げ掛ける。


「あたしにもわからないんだ。昨日までは皆、普通だったし……でも今朝控え室に行ったら、皆が倒れていたんだ。ジュリアは無事だったみたいだけど……」


「ジュリア、本当に何も知りませんの?」


「ええ…だって突然倒れたのよ? ……でも、出演者全員突然腹痛起こすなんて…そうあることじゃないし、誰かがこのヒーローショーを潰そうと企んでいるのかもしれないわ。

 まったく! せっかく差し入れして皆と頑張ろうと思ったのに…とんだ災難だわ、ほんとに」


「差し入れ?」


 ミリアは僅かに首を傾げて、ジュリアの持つ小包を見た。


「ええ。実は私、彼らのためにケーキを焼いたの。私はまだ新人だし、これから一緒に頑張る仲間だから少しだけ頑張ったのよ。お菓子作りも好きだしね」


 そう言いながらジュリアの開けた小包の中からは、紫色の焼け焦げた物体が出てきた。何か謎の煙が立ち上っているやばい物体が「はじめまして!」とこちらを見ているような気がした。


「一体…何があったのかしら…」


「「こっちの台詞だァァァァァ!!」」


 ジョージとリコリスのツッコミが被り、リコリスに至ってはジュリアの頭に平手打ちも入れていた。


「何があったらこんな物体生まれるんすか! これだろ原因!! 犯人自分だろ!!」


「何よそれ、言い掛かりよ! これ、美味しいわよ。確かに生焼けだとお腹壊すと思ったから…ちょっとだけ焼きすぎたかもしれないけど」


「焼きすぎてお腹壊させてんじゃん!! しかも何で紫色? ケーキが何で紫色?」


 焼く前のケーキをリコリスは少し想像してしまい、気持ち悪くなってしまった。そんな中、普通にもぐもぐ食べながら平然と話すジュリアにジョージはドン引いていた。

 ジュリアの横では、ミリアが恐る恐る謎の物体を一つまみ口に入れ、吐きそうになっていた。


「とにかく、この不慮の事故のせいで人手が足りないのよ。だから…手伝ってくれない?」


「…ゴホン、まぁ、不慮の事故かはともかく、演者の数が足りないのは事実なんだ。手伝ってくれないかい?」


「いや、俺ら舞台上がったことないし……」


「うぅ……ふぅ、わかりましたわ!」


「ええ!?」


 何とか吐き気から立ち直ったミリアの即答に、ジョージは驚く。


「本気っすか!? お嬢舞台上がったことないでしょ」


「だってジュリアを手伝うって約束しましたもの。それに……」


 ミリアは両拳を作ってジョージへキラキラした目を向ける。


「舞台……立ってみたかったんですのよ」


「…お嬢…………」


 それ以上何も言えなかった。だってやる気に漲ったオーラが見えるんだもの。止めても無駄だと思った。となると、あとは……


「じゃ、じゃあ頑張って下さい。俺も観に行きますんで!」


 嫌な予感がしてジョージは逃げようと食堂入り口へ向かう。が、すぐにリコリスとミリアに片腕づつ掴まれ、ジュリアがにっこりと笑顔で前に出た。


「私を手伝う約束したでしょ? あなたも出演しなさいよ」


「嫌っす! やったことないし無理だって!」


「いいじゃありませんのジョージ! 困っているのですから手伝いますわよ!」


「い、いやいくらお嬢の命令でも……うーん……」


 ミリアの命令でも渋るジョージ。この様子では無理やりやる気のないまま出演させてしまう…そう思い、リコリスは横から囁いた。


「……ジョージ、前回の任務の給料すぐ払うようユグに口利きしてやってもいいよ」


「全力で頑張らせて頂きます」


 一瞬で手の平を返したジョージを連れて、一同はショーの現場へ向かったのだった。


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