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~雨傘~   作者: 美鈴
30/63

第4話 ~鬼子への変貌~ 7/7

 

 夜ーーーミリアとジョージが寝泊まりしている客室にて、二人は各々が知ったことについて話していた。


「人が…あの化け物に?」


「はい」


「じゃあ私は…死んだ人と戦っていた、ということですのね」


「厳密には、死んだ人間の悪意が変貌したものだと言っていました。俺も昨日目の前で、死んだと言われていた人が鬼子に変わるのを見ました」


 ミリアは横に立てかけてある傘に目を向ける。


「ならユグ達は、鬼子を消せるから私が必要ということなのかしら」


「…どうでしょう。それもあるでしょうが、まだ何かありそうっす。魔女のこと深く調べているようですし、研究したがってますから」


 ユグは個人的に約束があるということだった。詳しくは教えてくれなかったが、明確な目的はあるようだ。


「あと、魔女の事も少し聞きました」


「あ、その話少しお待ちになって。私もわかったことがありますの」


 ミリアはベッドサイドの小さなテーブルに置いてあった分厚い本を手に取る。


「それは…お嬢も持ってますよね。かなり古びてますが…」


「ええ、"魔女の旅の真実"…最初、歴史書なのかと思ったのですけれど、小説でしたわ。初代魔女アイリスの旅の事が書いてありましたの」


 ミリアは本の表紙の上静かに手を置き、目を閉じる。


「"その昔、世界から人が絶滅しようとしていた。世界と人を救いたい一心で3人の若者が旅に出る。

 ルシエル、シュレイヤ、そしてアイリスである。

 世界と人を救うため、聖地に住まう神に会いに行く。


 神に会った彼らは望む。明るく自由奔放で、皆から慕われているルシエルは、永遠の命を得て人の王となる。

 冷静沈着で物静かなシュレイヤは、恋人であるアイリスのいる世界を護るため、神に転生する。

 最後にアイリスは魔女となり、世界に魔法の理を広げ、人々の生活を豊かにした。


 彼らが救った世界は、500年間で人が増え、繁栄し、平穏な時が流れた"」


 小説の一部分のスラッと語ると、ミリアは目を開けた。ジョージは口元に指を当て、考える。


「俺がユグから聞いた内容と、ほぼ同じっすね。そのルシエルって男が初代フラバース王って話みたいっすよ」


「ええ…ただこれ、1000年前の話ですの。そこから500年平和で、そのあと何かが起きるみたいですけれど、全然解明されていませんのよ」


 ミリアは手に持った本に視線を落とす。


「500年前…いったい何があったのかしら」


「…ユグは、初代フラバース王のルシエルと、魔女アリアが神に転生したシュレイヤを殺した、って言ってましたが…」


「どうしてかしら? アリアはともかく、ルシエルにとってはかつての仲間ですのに……」


 ミリアはうーん…と呻きながら頭を捻る。横でジョージも一瞬考えるような表情になるが、すぐに止めた。


「さぁ、俺にもわかんねぇっす」


 ジョージは背伸びしながら欠伸をかき、自分のベッドに横たわった。


「もう! 真面目になさいな!」


「でもこれ以上考えたってしょうがねーですし、わかんないこと悩んでもわかんないだけでしょ」


「…でも、私は……」


 ミリアが言葉を止める。脳裏に、昨日のアリアの涙が浮かんだ。


「知らなければ、ならない気がしますのよ」


「…何かあったんすか?」


 ジョージは目線だけ、ミリアに向ける。


「信じてもらえないかもしれませんけど……昨日、アリアに会いましたの」


「…500年前の、お嬢の先代の魔女に?」


「屋敷で鬼子と戦った時、私アリアの声を聞きましたの。その時と同じ声で話しかけられたから間違いありませんわ。

 …それで、アリア…この本見て泣いてましたのよ。理由はわからなかったのですけど…」


 脳裏にその時のことが浮かぶ。それが切なくて、心が締め付けられるようで、ミリアには知らないふりは出来なかった。


「ねぇジョージ。私、強くなります。強くなってあなたと同じぐらい、戦えるようになりますわ。だから…私、500年前何があったか、自分の目で確認したいんです」


「…ただの興味本意だけじゃなく、っすか?」


「…それは、わかりません……この気持ちがただの興味本意なのか……ううん、きっとそれだけじゃありませんわ」


 ジョージを護ると言った時の感覚に似ていた。やりたいというより、やらなければならないような…謎の使命感。


「…いいんすか? レグナムル家にすぐ帰らなくて。」


 ジョージは体を起こしてミリアを見上げる。


「お姉様には心配をかけてしまうかもしれませんけど…でも、私がそうしたいの。…だからジョージ」


 ミリアはジョージと目線を合わせるように、その場で正座した。


「私に、付き合ってほしいですわ」


「…何今さら改まってんすか。俺がお嬢から離れるわけないでしょ」


 ジョージは殊勝な態度のミリアに小さく笑い、頭を撫でる。何となく恥ずかしかったため、ミリアは口を尖らせた。


「だって…あなただって、今までの生活が出来なくなるのかもしれませんし」


「俺は元々家がなくてもどうにでもなるんで、どこだって変わんないっすよ」


「ホームレスでしたものね」


「いや、そうじゃないっすけど」


「女の子の家に転がり込んで、ヒモ生活のチャラ男でしたものね。………」


 ミリアは自分で言ってから何となく腹が立ち、ジョージが何か言う前にビンタした。


「いってぇ! 何で叩くんすか!?」


「何かムカつきましたのよ」


「理不尽か!! 自分で勝手に言ったんじゃねーですか! そんなことしてませんし!」


 あまりの仕打ちに、ジョージは叩かれた頬を押さえてツッコミを入れる。それから少し冷静になって、さっきの話を続けた。


「お嬢に付き合うのはいいんですけど、でも一度レグナムル家には帰った方がいいっす。ユミル様絶対心配してますし。」


「…それは、そうね」


「今の事も、反対されるかもしれねーですけど、ちゃんと話すべきです。俺も一緒にいますから」


「わかりましたわ。…ありがとう、ジョージ」


「いえいえ、んじゃ寝ましょう。夜更かしはお肌に悪いらしいんで」


「あなた、お肌気にしてましたの?」


「俺じゃねーよ、お嬢の話ですよ」


 噛み合わない会話に半眼でツッコミを入れて修正し、ジョージは今度こそベットに潜り込んだのだった。



 □■□



 次の日の朝、ミリアとジョージは朝食を食べに食堂に向かっていた。


「ふぁ…少し寝不足ですわ」


「お嬢、昨日寝る時間遅かったっすからね」


「うぅ…瞼が重い……」


 ミリアはしぱしぱと瞬きを数秒毎に繰り返し、目を擦る。その間に食堂の入り口に付き、ジョージは立てかけてある看板を見た。


「今朝のオススメはっと……カレーですね」


「…あら、いいですわね」


 眠そうにしながらも、少しテンションが上がったミリアと一緒にジョージは中に入り、声をかけようと厨房を覗く。


「すいませーん、カレー2つ………」


 そこで言葉が止まってしまった。

 モヒカンがいた。似合わない白衣着たモヒカン頭がそこにいた。

 皆髪の毛落ちないように白い帽子被ってるのに、鶏のトサカみたいなモヒカンさらしてるアホが目の前にいた。


「………………」


「………………」


「…………何だよ」


「すいません、間違えました」


「間違ってねぇよ! 何が言いてぇんだテメェら! カレー2つ注文でいいんだろコルァ! 食ってけよ!」


 帰ろうとしたがモヒカンに襟を捕まれ、ジョージとミリアは一緒にため息を吐く。


「あなた何でここにいますの? あの街でオラオラしてたじゃありませんの」


「オラオラってなんだ!? 昨日鬼子の話聞いちまったせいで、しばらくここにいろって言われたんだよ! 住み込み働きでな」


「驚くほど白衣似合ってねーですよ。せめて帽子被ったら?」


「嫌なこった、あれ被ると自慢の髪型が崩れるからな!」


 モヒカンが腕を組んで鼻を鳴らしたその時ーーー


「コルァァァ! サボってんじゃねぇ新人コノヤロー!」


「ギャーー!?」


 がたいの良い男に(料理長だったらしい)後頭部バチコーン叩かれ、モヒカンは涙眼で引き摺られる。


「朝は戦場だ。初日からサボれると思うなよ小僧が。早く調理帽被ってこい」


「いや、髪が…」


「あ?」


「す、すんませんっした!」


 モヒカンはダッシュで裏へ走る、途中他の調理師の「走んじゃねぇ! 危ねぇだろ!」という声が聞こえた。


「やれやれ…あ、カレー2つかい?」


「あ、はい」


「了解! 少し待っててくださいね」


 料理長は人の良い笑みを浮かべてすぐに厨房の奥へ入っていった。


「…………とりあえず、座りますか」


「そうですわね」


 数分後に戻ってきたモヒカン頭は、髪型の潰れる調理帽を被っていたがやはり全く似合わなかった。


.

第4話完了!次回からずっと書きたかったサイドストーリー書きます。

またしばらく更新滞るかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。

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