第1話~魔女がうまれた日~ 2/9
支度した彼女と共に応接間に入る。毎朝、俺たちは屋敷の当主と一緒にここで朝食を食べるのだ。
「おはよう、ミリア」
長テーブルの奥の角の席につき、ゆったりとした口調で挨拶するのはレグナムル家当主であり、彼女の姉であるユミル。金色の大きな三つ編みを1つ、肩から流し、手に持っていた本から視線をこちらに向けて微笑む。
「あら、寝不足?」
「ふぁ……はい……」
両手で口を押さえて小さく欠伸をするミリアに、ユミルはクスッと笑う。
「今日が楽しみで寝れなかったみたいです」
「今日はお祭りだものね、それとも劇の方?」
「どっちもでしょ。お嬢もまだまだ子供ですから」
アハハーと笑っていると、眠そうに目を擦っていた手で、バシンと背中を叩かれた。ユミルはそんな二人のいつものやり取りを見て、微笑ましく笑う。
「私も楽しみよ、毎年見ても飽きないわ」
「私もですわ! 演技も素晴らしいですけど、躍りや歌も本当に上手で……」
「感動するわよね……そういえば、ミリアは必ずあのシーンで泣いていたわね」
「お、お姉様だって去年涙ぐんでたじゃありませんの!」
「あら、そうだったかしら?」
おしとやかで穏やかな雰囲気のユミル様は、勝ち気ですぐ手が出るお嬢とまるで正反対で、唯一の共通点は本好きくらいだ。同じ家で育ったのに、どうしてこうも違うのかといつも不思議に思う。
そんなことを考えながら、仲睦まじく談笑する姉妹二人を眺めていると料理が乗った台車が運ばれてきた。
「あ、お姉様。ご飯にしましょう! お腹が空きましたわ」
「そうね」
ミリアがユミルの正面の席につくと、サンドイッチや、サラダなどがテーブルに並べられた。そして、今だ席に着かないジョージを不思議そうに見る。
「ジョージ? あなた、食べませんの?」
「はい。俺はもう適当に食べたんで。あと用事があるんで、ちょっと失礼していいですか?」
「そうなの……まぁいいですわ。でも、終わったらお祭りに付き合ってちょうだい。荷物持ちしてもらいますわよ」
にっこりと有無を言わせぬ満点の笑顔で言い放つ。…間違いなく大量買いするつもりだ。今日の劇の関連グッズを買い占めるつもりだ。いつもであれば渋るか、逃げるところであるが……
俺はひきつった顔を何とか笑顔に変える。
「いいっすよ。 それじゃ10時頃、お迎えに上がります。」
実は今日、魔女生誕祭であると同時にお嬢様の誕生日なのだ。我が儘な主人の申し出も、誕生日くらいは嫌な顔せず笑って引き受けるべきだ。
軽く会釈して部屋を出るとき、快く返事したのがよほど意外だったのか、口をぽかんと開けたお嬢の顔が見ることが出来た。
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