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~雨傘~   作者: 美鈴
29/63

第4話 ~鬼子への変貌~ 6/7

 

 日が昇ってからテントを出発し、昼頃にCOA機関へ帰って来れた。


「はぁーーやっと着いた……久しぶりに疲れたー」


「はっ、ひ弱だな。俺なんてまたまだ余裕だぜ!」


「戦闘せずに、頭のたてがみ風にそよがせてただけのモヒカンは、言うことが違うっすねー」


「あぁ!?」


 調子の良いモヒカンに、ジョージは皮肉たっぷりにコメントすると、モヒカンは睨み付け青筋たてる。ジョージも久々のハードな旅に結構な疲労を感じていた。横でリコリスも暑そうに手で顔を仰ぐ。


「あたしも疲れたぁー。さっさとシャワー浴びたい」


「俺は指令長に任務の報告に行ってくる。今日はゆっくり休め。じゃあな」


「はーい、よろしく、お疲れー」


「あ、班長!」


 リコリスはユグに手を振って見送ろうとすると、機関員の男が近寄ってきた。確かお嬢の部屋の見張りをしていた男だ。


「任務お疲れ様です」


「あぁ、お疲れ。彼女…ミリアの様子に変わりないか?」


「それが………」




 □■□




 見張りの男に訓練所まで案内してもらい、ジョージは両手開きのドアを開ける。その光景に驚き、目が見開く。


 ミリアが…あのお嬢様が大男のノイルへと果敢に竹刀で立ち向かっていた。防具としてメットをかぶり、訓練着のようなものを着ている。


「くっ……」


「おっ、いいぞいいぞ! もっとこいもっと!」


 二人は鍔迫り合いで、ミリアは全力でノイルの竹刀を押しているが、ノイルは余裕そうに片手で受け止めている。ギリギリとミリアが必死に力を入れているところで、ノイルは自分の竹刀をスッと引いた。

 瞬間、バシン!とミリアの胴に竹刀を打ち込まれ、ミリアは膝を付き、小さく呻く。


「…っ」


「力はあればいいってもんじゃない。押してばかりじゃ敵わない敵もいるってことだ。…ミリアは力があるわけじゃないから、こういう引く戦いを覚えた方がいいぞ、きっと」


「わかりましたわ! もう一回行きますわよ!」


 結構痛そうな音で打ち込まれたはずだが、ミリアはすぐに立ち上がり、竹刀を構えた。ジョージはミリアの背後へと歩み寄る。


「次こそ一本取りますわよ!」


「お嬢」


「絶対負けませんわ! 絶っ対!」


「あの、お嬢。何してんすか」


「何ってくんれ…ギャァァァァァァ!! じょ、ジョージ!? いいいいいつからそ、そこに!?」


 ジョージに気付いたミリアは発狂しながら後退り、あたふたとして顔を赤くしている。

 後ろではユグがノイルに話しかけていた。


「随分うるさい弟子をとったものだな。どういうつもりだ?」


「別に何がどうこうってわけじゃねぇさ。ミリアが強くなりたいってんで稽古付けてただけだよ」


「稽古!? お嬢が!?」


「ちょ、ちょっとノイル! いえ、違いますわよ! あの、これはちょっと、その……」


 ミリアは焦ってわたわた手を振って否定し、ジョージはその様子にミリアの右腕をさっと掴む。


「い…っ」


「怪我してるじゃないですかお嬢。訓練とか貴族の女性がやることじゃないでしょ……あーほら痣になってる」


「へ、平気ですわよ、このくらい!」


 ジョージに見られた右腕を強がりながら隠す。ジョージは微妙な表情で頭をかく。…あまり賛成はできなかった。もっと怪我することが目に見えてるし。

 ミリアはジョージの言わんとすることを察したらしく、口元を引き結ぶ。


「…勝手なことをしたかもしれませんけれど…でも、私…決めましたの……強くなりたいんです! だから……」


「だからこっそり稽古付けてもらってた?」


「いや、違いますってば! 私別にこそこそなんてしてません!」


「ぷっ、稽古見つかってあんなに慌ててたくせに」


 リコリスは軽く吹き出してしまい、ミリアがポカポカとリコリスを叩く。その様子にジョージは頭をかいた。…うーん…折れそうにない、か。お嬢、変に頑固だし


「…仕方ないっすね」


「えっ、いいんですの?」


「止めても聞かないでしょ、怪我に気を付けてくださいよ」


 ミリアは嬉しそうに笑顔を輝かせる。…しかし、その一瞬後はっとして急に苦い顔になった。


「…ジョージ、その…お姉様には…」


「わかってます、内緒にしときますよ」


「ありがとう! ジョージ!」


 ミリアは笑顔になってガバッとジョージに抱き着いた。ノイルは呑気に頭に手を組んだ。


「確かユミル様も剣の腕がたつよな。ミリアも強くなったら喜ぶんじゃないか?」


「……いや、めっちゃ心配しますよ。俺お嬢に怪我させたら殺されるんで」


「そんなおおげさなー」


「いや本当なんすよ! 前にお嬢がふざけて靴飛ばしして、6mぐらいの木の上に引っ掛かったの取ろうと登って落ちて膝擦った時、俺達5時間正座させられたんだよ!」


「ジョージに至っては、漬物石乗せられてたんですのよ!」


「拷問じゃん!? 足立てなくなるやつだろそれ」


「というかどうすれば6mの木に靴を引っ掛けられるんだ」


 リコリスがぎょっとしたように、ユグは冷静に突っ込みを入れる。ジョージとミリアはよほど恐ろしい思い出なのかガクブル震えていた。ユミルがめちゃめちゃ過保護で怖い姉のようだ。ミリアは青ざめたように言う。


「怪我しているの知られたら殺されますわ………ジョージが」


「あ、ジョージなんだ、やっぱ」


「うわぁぁぁ嫌だーーまだ死にたくねーですお嬢ーー!」


「諦めないで! バレなきゃ平気ですわ!」


「無理っすよお嬢めっちゃ顔に出ますもん!! 絶対ばれる!!」


「黙りなさいよ悪かったですわね!!」


 頭を抱えて絶望しているジョージにミリアは勢いよく肩を叩く。その様子を見てユグは苦い顔のノイルに小声で聞いた。


「そういえば、レグナムル卿からミリアの様子について連絡が来ていたようだが……」


「うん、稽古の事言っちまった」


「やはりか」


「…ジョージには内緒にしてくれよ」


「仕方ないな」


.

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