第4話 ~鬼子への変貌~ 3/7
洞窟の奥へと4人は走り、突き当たりの広い場所に辿り着く。
「ぎゃァァァァァァ!!」
「うるさいなぁ、ちょっと我慢しなよ。いい大人がさ」
そこでは、以前屋敷を襲撃した金髪の男―――ギタージュが悲鳴を上げる男に何か術をかけており、男は黒い靄のようなものを纏い苦しんでいた。その男の顔は、半分仮面に覆われており、まるで……鬼子のようだった。
「あいつは…屋敷にいた……」
「…おや、あの時の付き人君じゃないか」
ギタージュは目を細め、口の端を上げて笑う。
「悪いけど今忙しいんだ。こいつがなかなか言うこと聞かなくてね」
「…お、おい、どういうことだよ」
モヒカンは黒い靄の中にいる男を見て汗を流し、バットを構えたまま一歩後退する。
「なんで…おばちゃんの旦那が……そんな化け物に……
テメェ! その人に何しやがった!!」
モヒカンはバットを握り直し、ギタージュへと駆け出す。ギタージュはつまらなさそうな顔になると…鷲の鬼子を召喚し、モヒカンに向けて放った。
「ぐあっ!」
「モヒカン!!」
リコリスがすぐさま回復薬を取り出して、モヒカンへと向かう。ユグは眉を寄せ険しい表情で呟く。
「やはりか…」
「どういうことっすか? 一体…」
「前にも説明したが、鬼子は悪意が変貌した化け物。あれはモヒカンの言っていた旦那の悪意が具現化したものだ。本来長い時間をかけて鬼子へとなるが、あれは……」
ユグは言うや否や、ギタージュに向けてすぐさま火球を飛ばす。が、靄の中にいた男が仮面を完全に被った瞬間、火球を振り払った。ユグは軽く舌打ちをする。
男は3メートルを越える巨人型の鬼子へと変貌し、ギタージュを守るように立つ。
「人が、鬼子に……変わった……」
ジョージは驚き、思わず呟く。まさかこんな風に鬼子が生まれていたとは思わなかったため、軽くショックを受けていた。
するとユグはギタージュを睨み付ける。
「おい貴様! 今のは従鬼術か。どこで知った!」
「聞くだけ無駄じゃない? 知ってるくせに」
からかうようなギタージュに、ユグは嫌悪感を顔に出す。
「従鬼術?」
「鬼子を従える秘術さ。死んだ命を無理やり鬼子に変えて、自分の僕にしちまうんだ。あの男は複数の鬼子を従えてるんだろうね」
リコリスも銃で数発撃つが、巨人の鬼子に防がれる。すると、ギタージュはニヤリと笑った。
「ちょうどいいね、こいつの腕試しに付き合ってもらおっかな!」
ギタージュがご機嫌に手を降ると、巨人が近くの岩を両手で持ち上げ、投げつけてきた。ユグ、リコリス、ジョージはすぐに避ける。モヒカンは既に後ろに下がっていた。
「あの鬼子消せねーんでしょ、どうするんすか?」
「あの男の術から解放し、退避だけさせる。とにかくまずは戦闘不能にするぞ」
「…了解!」
ジョージは双剣を構えて巨人の右舷へ回り込み、斬りかかる。巨人がジョージに攻撃を仕掛けようとすると二人からの援護魔法が当たり、ジョージも徐々にダメージを与えていく。…いい調子で体力を削っていた、その時ーーー
「ジョージ!」
「!」
リコリスが叫んだ瞬間、死角から鷲の鬼子が飛んできて、ジョージは頭に食らった。直撃だけは避けるが、体がよろける。
ギタージュがニヤリと笑い、鷲を腕に止まらせた。
「この!」
「おっと!」
リコリスは銃でギタージュへ撃つが避けられる。巨人は頭を押さえて一瞬動きを止めたジョージへ大きな両手を振り下ろそうとした。
させまいとユグは巨人の頭上に雷魔法ヴォルトを落とそうとした、その時ーーー
「ーーーっ」
「!」
ジョージは隙をつくように巨人の足元へと斬りかかった。ユグは寸前でヴォルトを止める。ジョージが巻き添えを食ってしまうためである。巨人は足のダメージによって膝を折り、すぐさまジョージを吹き飛ばそうと腕を振り回す。……しかし
「(…行ける!)」
ジョージは身を翻しつつ、斬りつける。巨大な拳が地面に打ち付けられ地割れが起こると、跳んで躱し、腕を斬りつける。巨人はもう片方の手でジョージを捕まえようとするが、ジョージは斬り付けた腕を蹴ってバク宙で距離をとった。
…昔組織にいた時の感覚が大分戻ってきた。
すると巨人は無数の岩石をジョージへと吹き飛ばした。ジョージは剣で捌き、いくつかは食らうが全て掠り傷で済ませる。
その時、巨人の側頭部にユグの放った火球が直撃し、膝を付いた。
「はぁっ!」
ジョージはその隙を見逃さず、両手の剣を振り、巨人の仮面を斬り付けた。仮面は割れなかったが、巨人は呻き声を上げ仮面を押さえる……その時、巨人が光と共に消えた。
「ま、最初はこんなもんか。徐々に躾けていこっかな」
ギタージュは肩を竦めて楽しそうに手を振った。ギタージュが鬼子を消したようだ。
「魔女ちゃんもいないみたいだし、今日はここまでかな。じゃあね、付き人君」
「待て、お前何が目的だ。なんでお嬢を狙ってる!」
ジョージはギタージュを睨み付けるも、ギタージュは飄々と振り返り、答える。
「邪魔なんだよね、魔女。…ねぇ君知ってる? それはもうすっごい昔の話、神を殺した魔女と人の王様の話」
ギタージュの楽しそうな様子だが、ジョージは警戒を解かずに剣を構えたまま動きを止める。
「魔女と王様は、一緒に旅をした大切な仲間を神様に祭り上げておきながら、神様を殺した裏切り者なんだよ」
「何の話だ? それは」
ギタージュの話はジョージには理解できなかった。…あの"魔女の旅"の劇の話だろうか。確か最後旅した3人は王、魔女、神になって別れて終わったはずだが……神を殺した話は全く知らない話だった。
「知らない? はっ! 君のご主人の話なのに! 何も知らないんだね! はははは」
ギタージュは腹を抱えて嘲笑う。が、途端に笑顔を消した。
「君達何も知らないでのうのうと生きてきたのか。反吐が出るね、裏切り者が」
吐き捨てるように言い放つ。すると、ユグは静かに聞く。
「貴様、その話は誰から聞いた。…サジェスか」
「さぁねぇ。あ、従鬼術はサジェスだけど」
「あの馬鹿はまだそんなことを…どこにいる?」
「さぁね?」
からかうように笑いながら、ギタージュは腕に魔力を溜めていく。瞬間、地面に爆発の魔法を起こし、土煙が広がる。ギタージュの姿が一瞬にして見えなくなってしまった。
「僕らは神を復活させる。魔女が生まれた日から、賽は投げられたんだよ。眼鏡の魔導師さん」
土煙が晴れた頃にはギタージュの姿は無かった。ユグは悔しそうに歯を噛み締める。
「っ…冗談じゃない!」
「ユグ! 落ち着きなって」
今まで黙って聞いていたリコリスは、ユグの腕を掴む。ユグはリコリスを一瞥した後、息を付いた。
「…すまない、大丈夫だ」
「…結局あれは、何の話っすか」
ジョージはユグに問いかける。ギタージュの話していたこと、きっと彼らは知っている。しかし、ユグは別の事を聞き返した。
「お前のさっきの戦いは何なんだ」
「は? 何がっすか」
ジョージは訳がわからなかった。さっきの戦いで自分に落ち度があったようには思えなかったから。
若干イラッとして答えると、ユグは首を振った。
「いや、いい。やはり何でもない」
「何なんすか、あんた」
「お前は死にたがっているのかと思っただけだ」
「いや、そんなわけないでしょ」
ユグにツッコミを入れる。
…何故か、頭に残りそうな気がしたため、すぐにツッコミをいれた。
すると、後ろの方で呻き声が聞こえた。
「うぅ……いって……」
今まで気を失っていたモヒカンが意識を取り戻した。リコリスはその様子を見て、二人を見る。
「ここで話すのもなんだし、とりあえず入り口まで戻らないかい?」
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