表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~雨傘~   作者: 美鈴
26/63

第4話 ~鬼子への変貌~ 3/7

 

 洞窟の奥へと4人は走り、突き当たりの広い場所に辿り着く。


「ぎゃァァァァァァ!!」


「うるさいなぁ、ちょっと我慢しなよ。いい大人がさ」


 そこでは、以前屋敷を襲撃した金髪の男―――ギタージュが悲鳴を上げる男に何か術をかけており、男は黒い靄のようなものを纏い苦しんでいた。その男の顔は、半分仮面に覆われており、まるで……鬼子のようだった。


「あいつは…屋敷にいた……」


「…おや、あの時の付き人君じゃないか」


 ギタージュは目を細め、口の端を上げて笑う。


「悪いけど今忙しいんだ。こいつがなかなか言うこと聞かなくてね」


「…お、おい、どういうことだよ」


 モヒカンは黒い靄の中にいる男を見て汗を流し、バットを構えたまま一歩後退する。


「なんで…おばちゃんの旦那が……そんな化け物に……

 テメェ! その人に何しやがった!!」


 モヒカンはバットを握り直し、ギタージュへと駆け出す。ギタージュはつまらなさそうな顔になると…鷲の鬼子を召喚し、モヒカンに向けて放った。


「ぐあっ!」


「モヒカン!!」


 リコリスがすぐさま回復薬を取り出して、モヒカンへと向かう。ユグは眉を寄せ険しい表情で呟く。


「やはりか…」


「どういうことっすか? 一体…」


「前にも説明したが、鬼子は悪意が変貌した化け物。あれはモヒカンの言っていた旦那の悪意が具現化したものだ。本来長い時間をかけて鬼子へとなるが、あれは……」


 ユグは言うや否や、ギタージュに向けてすぐさま火球を飛ばす。が、靄の中にいた男が仮面を完全に被った瞬間、火球を振り払った。ユグは軽く舌打ちをする。

 男は3メートルを越える巨人型の鬼子へと変貌し、ギタージュを守るように立つ。


「人が、鬼子に……変わった……」


 ジョージは驚き、思わず呟く。まさかこんな風に鬼子が生まれていたとは思わなかったため、軽くショックを受けていた。

 するとユグはギタージュを睨み付ける。


「おい貴様! 今のは従鬼術か。どこで知った!」


「聞くだけ無駄じゃない? 知ってるくせに」


 からかうようなギタージュに、ユグは嫌悪感を顔に出す。


「従鬼術?」


「鬼子を従える秘術さ。死んだ命を無理やり鬼子に変えて、自分の僕にしちまうんだ。あの男は複数の鬼子を従えてるんだろうね」


 リコリスも銃で数発撃つが、巨人の鬼子に防がれる。すると、ギタージュはニヤリと笑った。


「ちょうどいいね、こいつの腕試しに付き合ってもらおっかな!」


 ギタージュがご機嫌に手を降ると、巨人が近くの岩を両手で持ち上げ、投げつけてきた。ユグ、リコリス、ジョージはすぐに避ける。モヒカンは既に後ろに下がっていた。


「あの鬼子消せねーんでしょ、どうするんすか?」


「あの男の術から解放し、退避だけさせる。とにかくまずは戦闘不能にするぞ」


「…了解!」


 ジョージは双剣を構えて巨人の右舷へ回り込み、斬りかかる。巨人がジョージに攻撃を仕掛けようとすると二人からの援護魔法が当たり、ジョージも徐々にダメージを与えていく。…いい調子で体力を削っていた、その時ーーー


「ジョージ!」


「!」


 リコリスが叫んだ瞬間、死角から鷲の鬼子が飛んできて、ジョージは頭に食らった。直撃だけは避けるが、体がよろける。

 ギタージュがニヤリと笑い、鷲を腕に止まらせた。


「この!」


「おっと!」


 リコリスは銃でギタージュへ撃つが避けられる。巨人は頭を押さえて一瞬動きを止めたジョージへ大きな両手を振り下ろそうとした。

 させまいとユグは巨人の頭上に雷魔法ヴォルトを落とそうとした、その時ーーー


「ーーーっ」


「!」


 ジョージは隙をつくように巨人の足元へと斬りかかった。ユグは寸前でヴォルトを止める。ジョージが巻き添えを食ってしまうためである。巨人は足のダメージによって膝を折り、すぐさまジョージを吹き飛ばそうと腕を振り回す。……しかし


「(…行ける!)」


 ジョージは身を翻しつつ、斬りつける。巨大な拳が地面に打ち付けられ地割れが起こると、跳んで躱し、腕を斬りつける。巨人はもう片方の手でジョージを捕まえようとするが、ジョージは斬り付けた腕を蹴ってバク宙で距離をとった。

 …昔組織にいた時の感覚が大分戻ってきた。


 すると巨人は無数の岩石をジョージへと吹き飛ばした。ジョージは剣で捌き、いくつかは食らうが全て掠り傷で済ませる。

 その時、巨人の側頭部にユグの放った火球が直撃し、膝を付いた。


「はぁっ!」


 ジョージはその隙を見逃さず、両手の剣を振り、巨人の仮面を斬り付けた。仮面は割れなかったが、巨人は呻き声を上げ仮面を押さえる……その時、巨人が光と共に消えた。


「ま、最初はこんなもんか。徐々に躾けていこっかな」


 ギタージュは肩を竦めて楽しそうに手を振った。ギタージュが鬼子を消したようだ。


「魔女ちゃんもいないみたいだし、今日はここまでかな。じゃあね、付き人君」


「待て、お前何が目的だ。なんでお嬢を狙ってる!」


 ジョージはギタージュを睨み付けるも、ギタージュは飄々と振り返り、答える。


「邪魔なんだよね、魔女。…ねぇ君知ってる? それはもうすっごい昔の話、神を殺した魔女と人の王様の話」


 ギタージュの楽しそうな様子だが、ジョージは警戒を解かずに剣を構えたまま動きを止める。


「魔女と王様は、一緒に旅をした大切な仲間を神様に祭り上げておきながら、神様を殺した裏切り者なんだよ」


「何の話だ? それは」


 ギタージュの話はジョージには理解できなかった。…あの"魔女の旅"の劇の話だろうか。確か最後旅した3人は王、魔女、神になって別れて終わったはずだが……神を殺した話は全く知らない話だった。


「知らない? はっ! 君のご主人の話なのに! 何も知らないんだね! はははは」


 ギタージュは腹を抱えて嘲笑う。が、途端に笑顔を消した。


「君達何も知らないでのうのうと生きてきたのか。反吐が出るね、裏切り者が」


 吐き捨てるように言い放つ。すると、ユグは静かに聞く。


「貴様、その話は誰から聞いた。…サジェスか」


「さぁねぇ。あ、従鬼術はサジェスだけど」


「あの馬鹿はまだそんなことを…どこにいる?」


「さぁね?」


 からかうように笑いながら、ギタージュは腕に魔力を溜めていく。瞬間、地面に爆発の魔法を起こし、土煙が広がる。ギタージュの姿が一瞬にして見えなくなってしまった。


「僕らは神を復活させる。魔女が生まれた日から、賽は投げられたんだよ。眼鏡の魔導師さん」


 土煙が晴れた頃にはギタージュの姿は無かった。ユグは悔しそうに歯を噛み締める。


「っ…冗談じゃない!」


「ユグ! 落ち着きなって」


 今まで黙って聞いていたリコリスは、ユグの腕を掴む。ユグはリコリスを一瞥した後、息を付いた。


「…すまない、大丈夫だ」


「…結局あれは、何の話っすか」


 ジョージはユグに問いかける。ギタージュの話していたこと、きっと彼らは知っている。しかし、ユグは別の事を聞き返した。


「お前のさっきの戦いは何なんだ」


「は? 何がっすか」


 ジョージは訳がわからなかった。さっきの戦いで自分に落ち度があったようには思えなかったから。

 若干イラッとして答えると、ユグは首を振った。


「いや、いい。やはり何でもない」


「何なんすか、あんた」


「お前は死にたがっているのかと思っただけだ」


「いや、そんなわけないでしょ」


 ユグにツッコミを入れる。

 …何故か、頭に残りそうな気がしたため、すぐにツッコミをいれた。

 すると、後ろの方で呻き声が聞こえた。


「うぅ……いって……」


 今まで気を失っていたモヒカンが意識を取り戻した。リコリスはその様子を見て、二人を見る。


「ここで話すのもなんだし、とりあえず入り口まで戻らないかい?」


 .

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ