第4話 ~鬼子への変貌~ 1/7
フラバースを出立し、ジョージ達は岩山に囲まれた森の中を歩いて北東の洞窟に向かう。てっきり車で向かうのかと思ったが、台数が限られているらしく、他の遠征に向かう機関員に譲ったらしい。
「…つーか、これ任務終わる頃には夜になるんじゃねーですか」
「そうだねぇ、今日は任務終わらせたら近くで野営かね」
意外と遠い場所にあるのか、時刻はもう昼過ぎに差し掛かろうとしていた。てっきり日帰りかと思っていたジョージは機関に置いてきたミリアを案じる。ちゃんと黙って本を読んでいるといいのだが……
「止まれ」
前を歩いていたユグが小声で歩みを止めて、右前方へ視線を投げかける。
その先には狼型のモンスターが10匹近く固まっていた。幸いこちらには気付いていない。
「俺が魔法を撃ったらお前達は左右に分かれて仕掛けろ。リコリスはジョージの援護だ」
「はいよ、ジョージ右よろしく!」
リコリスは銃を腰から抜き、木陰へと消えていった。ジョージも、リコリスの反対側へモンスターを挟む形で木々に紛れる。
ユグは既に詠唱を始めており、二人が位置につく頃にはいつでも撃てる状態でいた。
ユグは二人の位置を確認すると、大きな水流を発生させた。突然の先制攻撃に狼達は地面や木に叩きつけられ、パニックになっている。
「すごい魔法……っと!」
ジョージは呟くと剣を構えて狼に斬りかかった。ジョージに気づいた数体が唸り飛びかかろうと身を低くした。……が、その背後からも小さな氷塊がガトリングガンのように連射され、2体が地に伏した。
「ふふん、どんなもんだい!」
反対側で勝ち気に笑うリコリス。一瞬モンスターが躊躇い動きを止めた瞬間を見逃さずにジョージは確実にとどめを刺していく。後ろで二度目のユグの水流が起こった。
…この戦略は、事前に立てたユグの提案だった。複数体の敵がいる時、俺がモンスターを引き付け、二人は移動しつつ素早く魔法で援護する。俺は出来るだけ、二人にモンスターが向かわないように気を引かなければならない。
単純な作戦だが効果は抜群だ。しかしーーー
「リコリス!」
「おっ」
岩場に隠れてモンスターが一体リコリスに飛びかかっていた。その距離は5メートルほど。…俺の足じゃ間に合わない。
ジョージは咄嗟に剣を投げようと振りかぶったその時ーーー
「遅いね!」
リコリスは詠唱を僅か0.5秒程で簡潔に終わらせ、氷塊を連射させて狼を退けた。まだ息がある狼に向かってリコリスは手を翳す。
「"華開く氷の刃、咲き誇れ!ブリザードブーケ"!」
素早く詠唱が完了した瞬間、狼の足元から鋭利な氷の塊が咲き、容赦なく貫いた。今の狼で最後だったため、戦闘が終了し、リコリスは苦笑いして駆け寄る。
「いやー、ちょいと油断しちまったよ。助けようとしてくれてたろ?」
「あ、いや、お見事です。あんなに早く魔法が撃てるとは」
「魔法の早撃ちはあたしの特技なのさ。まぁ、威力はあっちのが格上だけどね」
リコリスは呆れた顔で近寄るユグへと、親指で指し示す。
「まったく、注意力が足りてないな」
「悪い悪い。つーかあんた、あたしがピンチなの知ってたくせに全然助ける気なかったのかい?」
「お前があんな敵相手にどうにかなるのか?」
「ま、それもそうだね」
無愛想なユグに、リコリスは肩を竦めてひょうひょうと答え、軽快に前を歩き出す。…なんだかな……
「…正直に心配してること言えばいいのに」
ジョージは呆れたようにボソッと言うと、ユグは表情を変えず答える。
「ん? 俺は正直に思ったことを伝えているが。それなりに心配しているぞ」
「いや、絶対伝わってねーですよ」
何というかこの二人、正反対の二人だと思っていたが本当にそうである。戦い方にしろ、同じ魔導士でありながら威力を重視するユグに、早さを重視するリコリス。
人付き合いが上手なリコリスに、言葉が足りておらず誤解されるユグ。
よく今まで一緒にやってこれたな…と、ジョージは素直に感心した。
「女の子なんだし、もう少しくらい優しくしてもいいんじゃねーですか?」
「俺は優しいだろう」
「ぜってー気のせいっすよそれだけは」
半眼でツッコミを入れるジョージに対してユグは無表情。そのせいでボケか本気かわからない。…やっぱりやりにくい男である。
その様子を、リコリスは肩越しに見ており、ふっと笑った。
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