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~雨傘~   作者: 美鈴
22/63

第3話 ~踏み出した一歩~ 6/7


 …レグナムル家の付き人、か


 部屋を出た後、ノイルはすぐ引き受けたジョージを奇妙に思った。

 何というか…年不相応というか、見た目以上にしっかりした男だ。大人とはいえミリア様とそう変わらない歳だろうに、俺達側の事情を把握してすぐ受けたのだろう。まだ若いのに察しが良すぎる。


 ノイルはポケットから携帯電話を取り出した。まだ一般的に普及されていない機器だが、COAでは班長以上が連絡手段として使用している。


 それから簡単にユグへメールを打ち、執務室へ戻っていった。



□■□



 翌日、ジョージはユグ、リコリスに連れられて任務へ向かい、ミリアはユグの執務室で留守番をしていた。監視は他の機関員がドアの前に立っている。

 …本当は付いていきたいと言ったのだが


「ダメに決まっているだろう、君は馬鹿か。素人を連れていくつもりはない」


「ごめんよミリア。あたし達機関員の仕事だから戦いに慣れてないと危ないからさ」


「お嬢、ちゃんと戻ってきますから大人しく待っててください。あ、他の人殴ったりしちゃダメっすよ。お菓子もほとほどにして下さい。それと絶対大人しく待っててください。絶・対・に!」


「…二回も言ってますわよ、どんだけ信用してませんのよ」


 このようなやり取りがあり、大人しく留守番となってしまった。…確かに、痛いことや危険なことは嫌だけれど……これじゃまるで子供扱いじゃない…昨日の事だって


 "死んだらその時はその時っすよ。お嬢はあまり深く考えなくていいですって"


 まるで死んでも仕方ないみたいに言われてイラッときた。蚊帳の外のような言い方にも。


「(…わかってますわ。子供の考えだって。世間知らずだって)」


 15歳になれば、大人だって認められると思ってた。やっとジョージやお姉様と肩を並べられるって。

 でも、歳を重ねたって大人になれるわけじゃなかった。


「(お姉様は15歳で当主になったのでしたわね…)」


 先代の当主…私達の両親はお姉様が15歳の時、つまり10年前に亡くなった。私はよく覚えていないけれど、事故だったよう。それでお姉様が当主を引き継いだ。

 もし、今の私がお姉様の立場だったら…当主なんてきっと出来ない。


「……うぅ~~~~!!!」


 ミリアは手に持っていた読み途中の本をバタンと閉じ、大声で唸った。


「く~や~し~い~~~~!」


 ガチャッ


「どうかしましたか!?」


「ふわぁぁぁ!? なな、何でもありませんわ!」


 ドアの外にいた見張りの男が突然部屋に入ってきたため、変な驚き方をしてしまい、慌てて追い出そうとする。男は怪訝そうな表情で出ていき、ミリアはため息を吐いたその時ーーー貴族の小綺麗なドレスを着た少女がこちらを見ている事に気がついた。


「こんにちは、ミリア」


「きゃあぁぁ!? あ、あなた何…」


 ガチャッ


「今度はどうしました!?」


 見張りの男が再度ドアを開け、ミリアは目の前の少女を指差す。


「こ、ここに女の子が! この人どなた!?」


「え、どこですか?」


「ええ!?」


 見張りの男にはどうやら見えていないようだ。ミリアは双方を交互に見るが少女の方はニコニコと笑うだけである。


「な…何でもありませんわ」


「はぁ……」


 見張りの男は首をかしげて部屋を出る。


「私はアリア。魔女アリア」


「魔女アリア? アイリスではなくて?」


「その人は私よりずっと前の魔女よ。私は今の魔女の先代」


 私のご先祖様……ということは…


「ま、まさか幽霊!?」


「うーん、そうかな? うらめしや~」


「ひぃっ! ちょちょっと、こっちこな…」


 楽しそうに近寄るアリアから逃げようとしたその時ーーー


 ゴンッ


「キャー!? いったぁ~~!」


 ガチャッ


「何かありまし「何でもありませんってば!」……はぁ」


 床落ちていたペンを踏んで頭打ったミリアは、即座に見張りの男の言葉を遮って、追い返した。


「もう!」


「あはは、ごめんね」


 睨み付けるミリアに軽く答えてから、アリアは室内を興味深そうに歩き回る。


「わー、色んな本があるね。ミリアからしたら古い本ばっかりじゃない? あっ、この著者知ってる!」


「それは私じゃなくてユグの持ち物ですわ」


「へー……あ、これ」


 アリアはミリアの座っていたソファの前のテーブルに置いてある"魔女の旅の真実"という本を手に取る。


「それは魔女の絵本の内容を、小説にして書いたものですわ」


「絵本?」


「そう、だからそれは絵本の原作。まぁ、何度か改訂されているみたいですけれど」


 原作持ってるなんてほんと羨ましい…とミリアは小さく呟いたが、アリアはその言葉に反応せず、表紙の下の部分をなぞった。


「? …あぁ、そういえばこの本、筆者がわからないそうですわよ。だから書いてありませんの」


「…そっか」


 アリアは複雑そうな顔で本を抱きしめ、うずくまった。


「そっかぁ…」


「アリア? どうかしま…」


 心配そうにを覗き込むと、アリアは涙を流していた。


「大丈夫? どこか痛みますの?」


「ううん、違うの。大丈夫、大丈夫だよ」


 ミリアはハンカチを渡し、アリアは受け取って目元を拭ってからミリアを見上げる。


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