第3話 ~踏み出した一歩~ 4/7
結局探してもらうことになり、ジョージとリコリスは共に店の外に出た。
「…お嬢の監視するんじゃなかったんすか」
「ちょうどユグが戻ってきたから預けてきた。んで、ちょろっと良い話でも転がってないかこの辺りまわっていたわけさ」
「良い話?」
「タイムイズマネーってね」
リコリスはいい笑顔で親指と人指し指で円を作っている。何というか、せっかくスタイルのいい美人なのに色々残念な気がしてきた。
「お金大好きっすね」
「そりゃそうさ! お金がないとご飯も食べられないしどこにも行けない! めちゃくちゃ大切さ! 命の次に」
「でも給料くらい出るんでしょ?」
「それじゃ足りないから、こうして汗水流して金になる話を探して、一生懸命働いてるのさ。正々堂々正直に!」
「さっきの取り立てって正々堂々?」
どや顔で言い放ったリコリスに、ジョージは微妙な顔で答えた。しかもリコリスの持ってる紙袋の中に"人生成功者の見つけ方"や"足で稼ぎ話術で落とす"などのタイトルの本が数冊見えた。
「ジョージはどうしたのさ、こんな暗がりで一人なんて」
「情報収集っすよ。ルイールのことや幽鬼のこととか」
「情報収集? さっき昔散々泣かせた元カノが見つかったとか言ってなかったかい?」
「一言も言ってねーよ。何の話っすか!」
盛大に勘違いしているリコリスに素でツッコミを入れ、説明することにした。
「昔少し世話になった人がいて、突然行方不明になったから探していたってだけっすよ。もうとっくに諦めた話ですし」
「昔女の家に転がり込んでいて、その人が行方不明だから探しているってこと?」
「あんたほんとそのチャラ男イメージやめてくんない? 女じゃなくて男だし」
ジョージは自分の定着しつつあるイメージにため息を吐いた。…ふと、昔を思い出す。
「あいつがいなかったら……俺はチャラ男じゃすまないぐらいロクでもない人間になってたっす」
「……あんたにとって大切な人なんだね」
ジョージは否定も肯定もせずに、軽く肩を竦める。
「今となっちゃどうだったんだかわかんねーっすよ。もう探すの止めましたし…今さら探すつもりもないですし」
5年も経って今さら会いたいかと言われると微妙だった。会ってもどうすればいいかわからないし。
へらっと笑って手を振って答えると、リコリスは困ったように笑った。
「会える時に会わないと、本当に会えなくなったりするんだよ? 言いたいことも言えやしないんだよ」
「…そうかもしれませんが……」
「諦める前に手掛かりがあって良かったじゃないか。探してもらえるなら願ったり叶ったり、もうけもんさ」
リコリスは優しい顔でジョージの肩を叩く。
「そいつ、名前は?」
「え?」
「色素薄い天パーとかじゃ手掛かりが少な過ぎ、全然探せやしないよ」
「探してくれるんすか?」
「もし任務とかで見つけたら、教えてやるよ」
リコリスの目に嘘は無さそうだった。何故か首を突っ込んできた人の良い彼女を悪いようにも思わない。ジョージは顎に手を当てて少し考えたあと、久々にその名前を口にした。
「"クロバナ"です。裏の世界にいたから偽名かもしれませんが…それ以外の名前はわかんないっす」
「了解、クロバナだね」
リコリスは腰に手を当てて、悪戯っぽく笑った。
「安くはないよ?」
「え!?」
「冗談冗談!」
…そう願うばかりである
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「…………………」
「……………そんなに見て何の用だ」
「いえ、何も」
魔導部門執務室では、書類を読むユグと、ユグを穴が開くほど睨み付けているミリアがいた。
リコリスに魔女の神話本を数冊借りた後、ちょうど会議からユグが戻ってきたため、リコリスはユグに監視役を押し付けてどこか行ってしまい二人きりになってしまった。
そしてミリアは本を読むよりもユグをかなり警戒し睨み付けていた。知らない人が来たら吠えまくる小型犬のようである。
…昨日のように勝手に連れていこうとしたら逃げないと…ジョージもいないですし、自分の身は自分で守らないと!
すると、ユグは立ち上がって、こちらに歩いてきた。
「!」
ミリアは飛び上がるように立ち上がり、戦闘体制をとった。何故か3分で帰る某ヒーローのポーズで。
「何をしてるんだ君は、宇宙のヒーローか何かか?」
「い、言っておきますけど! あなたの思い通りにはさせませんわよ! 世界平和のために!」
「何故俺が世界征服企んでいることになってるんだ」
ユグは呆れたように何かを投げた。それは緩やかな軌道を描いてミリアの手の中に収まる。
チョコレートだった。一口サイズの
「…え? な、なんで?」
何故かくれたチョコレートを眺めつつ、戸惑ったように聞き返すと、ユグは無表情で応えた。
「ストレス解消に役立つ。食べると良い」
「いやストレスで言ってるわけではありませんわよ」
「そうなのか? なら返せ貴重な糖分」
ユグが手を出してきたため、ミリアは無視してチョコレートを食べた。ほろ苦い甘さで普通に美味しかった。
「…変なやつだな」
「あなたにだけは絶っっ対に言われたくありませんわ」
「反抗期も大概にしろ、君の家ではないんでな」
「誰が反抗期ですのよ!! もーほんとうるさいですわこの糖分眼鏡!」
「褒めても二個目はやらんぞ」
「褒めてませんわよ! もういいからあっち行ってくださる? 私本を読んでましたの!」
ミリアは疲れたのかふんっ、と鼻を鳴らしていつの間にかソファに投げ出してしまったままの本を手に取り、続きを読み始めた。反抗期の娘のようである。
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