第1話 ~魔女がうまれた日~ 1/9
1年後―――
晴れ渡った青空に、乾いた花火が鳴った。今日は魔女生誕祭と呼ばれる、年に一度の大きな祭りだった。ルイールの街は貴族も平民も外から来た人間、商人、大勢で賑わっていた。
そんなルイールの貴族街、一角に一際大きな屋敷があった。
レグナムル家―――この街を治める貴族の名前である。この家に仕える茶髪の青年―――ジョージは自分の仕える主の部屋へ向かっていた。
彼の主とは、レグナムル家当主の妹ミリア。一年前、倒れている自分を拾い屋敷の使用人として雇われるきっかけとなった少女だ。この少女を起こすために、今日も部屋へ入り、窓のカーテンを開ける。
「お嬢ー朝ですよー。起きてくだせーよ」
シャッという音と共に朝日が差し込み、少女―――ミリアは眩しそうに目を擦り体を起こす。緩くウェーブのかかった長い薄桃色の髪が、僅かに広がり所々ピョンと跳ねている。
「安定の寝癖ヘアーっすねー。こりゃ男が放っておかねーな」
「お黙りなさい。朝から主の寝癖笑ってんじゃないわよ」
寝起きの不機嫌さも手伝い、ミリアはジョージを睨み付けて、椅子に座る。ジョージは笑ってそれをかわし、櫛でミリアの髪をといた。
「今日は魔女生誕祭ですぜお嬢様。街の皆も朝からテンション高いし、屋敷の皆さんも忙しそうっす」
「うー……あまり話しかけないで。頭が痛いですわ」
「また夜更かしっすか? こうなることは目に見えてるっつーのに、懲りねーなー」
からかうように笑うと、ドスッとミリアの肘打ちを脇腹に食らった。ミリアはこんな時結構本気で攻撃するため、ジョージは痛さに脇腹を押さえ、腰を折った。
「あれを読んでましたの、"ひかりの雨"。今日は劇団が来るでしょう? だから予習しておかないと」
「お嬢、あの本ほんと好きですね。何百回も読んでるなら、予習も何もないでしょうに」
苦笑して答えてから、整え終えた髪を数回撫で、はい完成、と櫛を片付け着替えを渡す。
「じゃ、部屋出てますんで支度したら声かけてください」
ミリアの返事を聞いて部屋のドアノブを握る。それから、思い出したようにジョージは振り向いた。
「今日の朝食、チーズオムレツですよ」
「ほんと? やった!」
ミリアの弾んだ声に満足してから、ジョージは今度こそ部屋を出た。
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