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~雨傘~   作者: 美鈴
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第3話 ~踏み出した一歩~ 3/7


 COA機関では、現在大部屋に10人程度が円卓を囲むように座り、朝の会議が行われていた。


「それじゃ1班、報告を頼む」


 指令長に促され、ユグは立ち上がった。


「先日のルイール警備の任務にて、幽鬼が現れました。自警団とレグナムル卿との協力で鬼子と戦い、その最中ミリア=レグナムルが魔女として目覚め、1班は魔女の追跡に任務を切り替えました。そして昨日、魔女の保護に成功。現在部下に監視させています」


「レグナムル卿の依頼を受け、独断で任務を切り替えたのか?」


「はい、我々の理念に基づいての行動だと判断しました」


「…そうか、わかった。彼女の様子は?」


「昨日よりはリラックスしています。ただ…」


 ユグは少しトーンを落として眉を下げる。


「我々に協力する事は難しいでしょう」


「…なんだと」


 イラッとした口調で立ち上がるのは魔導部門2班班長―――バーゴである。


「ワーグナー班長、我々2班はあなた方が勝手にルイール戦を投げ出した後を引き継ぎ、街の鎮静化に全力で勤めた。幽鬼が退却したのも半日前だ。

 我々があなた方の尻拭いを請け負ったと言うのに、あなた方は子供を捕まえただけ、ということか?」


「ただの子供ではない。魔女だ」


「魔女だかなんだか知らないが、大勢の街の人を見捨ててまで必要なことではなかろう。指令長、これは任務放棄です!」


 指令長に訴える立ち上がるバーゴを見て、ユグは呆れたように息を吐いた。

 …何が魔女だかなんだか知らないが、だ。それでも機関の人間か。指令長は座るように促す。


「ワーグナーの言う通り、魔女の保護が目的の一つであることは間違っていない」


 その言葉にバーゴはムッと表情を険しくなり、指令長はユグの方を見て続けた。


「だが、このままただ保護するだけの魔女がいるというのは困る。せめて科学部門で検査してもらうよう、説得してもらいたい。

 いくらレグナムル卿の依頼だとしても、どういう力を持つのか判らなければ俺達としても保護しきれない」


「…わかりました、再度伝えます」


 …昨日の様子で納得してくれるとは思えなかったが、言ってることもわかる。俺としても魔女の事を知る必要があるため、受けてもらいたいのだ。


"い、いや…"


 昨日のミリアの怯えた様子を思い出すが、何に怯えているのかユグには分からなかった。自分に対してだけではない、もっと別のものに対して怯えているように見えたから。

 その後の他の班の報告は、各地の鬼子やモンスター討伐の件であり、滞りなく会議が終わった。


「ユグさん、すみません。ちょっと……」


 自分の仕事に戻ろうと執務室に向かうのに立ち上がろうとした瞬間、同じく会議に出席していた科学部門の班長―――トレインが控えめに声をかけてきた。


「なんだ?」


「魔女は、本当に検査を受けてくれないんですか?」


「…………」


 各々本日の仕事を始めるために部屋から出ていく。そんな中二人だけが残る。ユグは扉を閉めた。


「そうだな、今のところ難しい。無理に進めるとレグナムル卿の怒りを買う可能性もある」


「…怒らせたら魔女を取られてしまいますね。それもわかりますが……」


「…そうだな、お前達の研究には彼女の協力が必要だ。だが、困ったことに当の本人が怯えている。頭の痛い話だ」


「一体何に怯えているのですか? ユグさんに…とか?」


「知らん」


 なんにしても、ここで考えて解決できる問題ではない。ユグは少し苛ついたように息をついて、今度こそ戻ろうと立ち上がった。


「…はぁ、またバーゴ班長につつかれますね。あの人ユグさん目の敵にしてますし」


「そんな事は全く問題ではない、勝手に騒いでるだけで無害だ」


「いや、無害ではないと思いますけど…色々ユグさんの悪評広めてますし」


「なら無害だろう」


「………………」


 トレインはぷっ、と吹き出した。相変わらずこの人は魔女研究以外どうでもいいのだろう。周りの面倒な人間関係には興味すらない。


「ユグさん、あなたやっぱり科学者ですよ」


 トレインは少し俯いて呟く。


「本当に戻る気はないんですか? 科学部門に…」


 その問いに、ユグは当たり前のように肯定した。


「あぁ、ない」



□■□



「……そうっすか。ありがとうございます」


 機関に戻ったミリアやリコリスと別れた後、街の裏路地にある暗い天幕の店にジョージは訪れていた。ここは昔からある情報屋で、幽鬼の事やルイールの街の情報がないか訪れていた。その筋の世界では結構有名な店だが、生憎ユグの言っていた事とほぼ同じだった。

 ルイールの街は今は落ち着いていて、幽鬼も引き上げたとのことだ。幽鬼は仮面を被った魔物を従えていて、探しものをしている、など。

 昔話の神を蘇らせようとしている、は初耳だったが現実味が無さすぎていまいちピンとこなかった。


「そういえば兄さん、確か数年前人探しでうち来たことあったよね。色素の薄い天パーで…二十代の男だっけ?」


「…よく覚えてますね」


「だてにこの世界にいないよ」


 ジョージ自身この店に来た覚えがあまりなかったが、きっと訪れていたのだろう。流石有名な情報屋なだけある。

 ……レグナムル家に来る少し前まで、俺は4年ほど、人探しの旅をしていた。あの頃はがむしゃらにあいつを探していた。手当たり次第情報屋を訪れていたし、見つからなければ次の町へ、次の町へと旅をしていた。

 絶対に諦めたくなくて、考えられることは全部やった。何がなんでも会いたくて、4年探して……結局諦めてしまった。

 見つけることができなくても、俺としては過去の思い出の一つということで終わったことだった。…なのに


「最近それらしい男を見たって情報が入ってきてね」


「!」


 ドキッとした。

 まさか、あいつが、生きてる……?


「兄さんの持ってるネタか金と交換だが、どうだい? よければもう少し調べてみようか」


「…いや、それは……もう…」


 言葉につまる。

 …ようやく諦めが着いた頃になって今さら……何で今さらあいつの手掛かりが見つかるんだ。もう、探すつもりも無かったし、終わったことなのに……


「…………もう、いいっすよ。…今さら……」


「えー、せっかくだし調べてもらえばいいじゃないかい」


「うわ!」


 一瞬迷ってから断ろうと顔を上げると、後ろからひょいっとリコリスが顔を出してきたのだった。


.

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