第3話 ~踏み出した一歩~ 2/7
ジョージとミリアがCOA機関にたどり着いた翌日、宣言通りリコリスはジョージとミリアを連れて街の案内に繰り出した。
王都フラバースは東西南北にオフィス街、住宅街、商業区、貴族街というように分かれており、構図は単純だが一つ一つがかなり大きく、しかも車なども走っている世界一大きい都市だ。今いる商業区も様々な店がずらっと並び、人がたくさん出入りしている。
隣にいるミリアは驚いたように口半開きで辺りを見回している。
「お洋服のお店がこんなに……それにこんなに大きい本屋まで」
「へーミリアって本とか好きなんだ」
「ええ、特にひかりの雨とか、魔女のお話が」
「あ、そのシリーズ機関の資料室に揃ってるよ。ウチ魔女の研究やってるから」
「本当!? 後で読みたいですわ!」
ミリアとリコリスはわりと仲良くなっていた。ミリアはどちらかというと人見知りするほうなのだが、リコリスはそうでもないようで、色々話しかけている。その結果、ミリアもリコリスに慣れたようだ。
ミリアに新しく街の外の友人が出来たことを、ジョージは嬉しく思っていた。普通にいい人で良かった。どこぞの眼鏡とは大違いだ。
そんな事を思いながら歩いていると、武器屋の前を通りかかりジョージは思わず足を止める。商業区の中でもここらは雑貨屋や服屋ばかりだ。その中で一軒だけの武器屋は目立つ。
「ん? 気になる店でもあったのかい?」
先を歩いていたリコリスがジョージに気付き、振り返る。ミリアはジョージの方へ戻り、店を見上げる。
「武器屋? …へぇ、色々置いてありますわね」
「はい、流石王都は……ん?」
ジョージは一本の剣を手に取った。見たところ自分の使うダガーナイフと似ているが、柄の部分に何か機械のような物が取り付けてあり、少し重い。
「いらっしゃい、その剣が気になるのか?」
少し強面の店主が外に出て来て声をかけてくれたため、ジョージは聞いてみた。
「これダガーナイフですか? 変わった形ですけど」
「あぁ、これはここにスイッチがあってな」
店主は、ジョージが持ったままのダガーナイフの柄の辺りにある金属のスイッチを押す。すると剣は一瞬で変形した。
「おおお! 銃!?」
ジョージの手の中で剣が銃に変わり、本人だけではなく隣で見ていたミリアも驚いている。変形のスイッチをもう一度押すと、剣に戻った。
…実は、ジョージにはダガーナイフと短銃の持ち替えに悩みがあった。いちいち持ち替えるのが手間なのだ。とっさに銃に替える時はダガーナイフを腰にしまうか、片手で二本持つか、どちらにしてもとっさの判断が必要になる戦闘時には不向きであった。
だが、この剣ならば扱いを練習すれば長年の悩みが解決する。
しかも剣が変形して銃になるとか、めっちゃかっこいい。超欲しい。
「面白い剣なんだが、扱いが難しい上に剣が重くなるってんで買い手がなかなか付かなくてな。兄ちゃん使ってみるかい? サービスするぜ」
「買います!」
「即決だな! よし12000ドルだ」
「えええたっか! サービスは!?」
「サービスしてこの値段だぜ?」
ジョージは自分の手持ちを確認してみるが、ほとんど入ってなかった。
…そういえば今月の給料日は昨日だ。しかしルイールに戻れない今、給料を受け取ることは出来ない。しかもよく考えればミリアの誕生日にも武器を買ってしまっていた。
「すいません、二本買うんで500ドルにまけてくれねーですか」
「帰れ兄ちゃん」
無慈悲な店主の言葉に、ジョージは肩を落として分かりやすく落胆する。その後ろからリコリスがひょっこり顔を出した。
「ん? なんだい、金欠かい?」
「……はい」
「あたしが少し貸してあげようか?」
「え! マジっすか!?」
後ろからの神の声にジョージはぱっと顔を上げ、喜びかけたその時ーーー
「ん? ……げっ、リコリス!?」
何故か武器屋の店主がリコリスの顔を見た瞬間、苦い顔で後退りした。
「やぁ、久しぶりじゃないか店主。繁盛してるかい?」
「あ、あぁまぁ…いつも通りだが……」
「……ところで」
汗をかいて逃げたそうに一歩づつ後ろに下がる店主に、ジョージもミリアも訳が分からないでいると、リコリスの顔付きが変わった。
「2週間前、飲み屋で貸した分の15000ドルがまだ返されてないんだけど、いつ返すんだい?」
「待て待て待てふざけんな、借りたの5000ドルだったろうが! 何で3倍に増えてんだ!」
「利子に迷惑料で色付けて15000ドルさ。大体、貸したとき利子付きだって話したじゃないか」
「酔っぱらってて覚えてねぇよ! お前がガンガン酒飲ませたから!」
「自分だって楽しそうに飲んでいたじゃないか。お財布事情を考えないで酒飲んだ自分を恨むことだね」
何を言っても譲る気がないリコリスに押されている店主は、徐々に後ろに下がる。
「…とにかく、今は手持ちねぇから来週まで待ってくれ!」
「じゃ来週20000ドル返済よろしく」
「てめぇぇぇぇ! この欲深悪徳ヤミ金女ァァァァァ!」
店主は発狂しながら後ろに引っ込み、自前の財布から紙幣数枚掴みヤケクソ気味でリコリスに押し付けた。リコリスはパラパラと紙幣を数える。
「15000ドル? 残り5000ドルは?」
「今返したんだから15000ドルでいいだろうが!」
「だって来週返すって言ったじゃないか」
「お前ほんといい加減にしろよ…………い、いや頼むからそれで勘弁してくれ、もうほんと許してください」
思わず心の声を漏らしてしまった後、かなり悔しそうに頭下げる店主に、リコリスは流石に息を付いた。
「仕方ないねぇ、じゃ今度揚げ軟骨奢ってよ」
「わ、わかった」
多分その飲み約束でまた金貸すつもりであろう。今までのやり取りを見て引いていたジョージは何も言わずに微妙な顔をしていた。怒濤のような展開にミリアもげんなりしており、リコリスは臨時収入に機嫌良く戻ってくる。
後ろでは「あぁぁ今月の小遣いがぁぁ……絶対怒られる…」と店主が泣いていた。
「ふふん♪ あ、そうだ。ジョージも貸して欲しいんだっけ? 利子10日で4割だけど、いくら借…」
「その話は全力で無かったことにして下さい」
あまりの怖さにリコリスが言い終わる前にジョージは即座に断った。ついでに普通にいい人と思ったことも全力で無かったことにした。
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