第2話 ~カレーライスとCOA機関~ 6/6
「ルイールの街が…屋敷が私のせいで大変な事になったのに、私だけ安全な場所にいるだなんて! お姉様やキョウが無事かもわからないのに、よく知らない場所になんていられませんわ!」
「なら街に戻るのか? 幽鬼の手の者がまだいるかもしれない街に? 君程度の力では見つかって殺されるのがオチだ」
ユグの図星を突かれた言葉に、ミリアは押し黙る。
「街が無事かどうかもわからねーんですか?」
「詳しくはなんとも、ただあたしらが最後に見たときには騎士団の連中がパニックを押さえようとしていたね」
「そこまで大きな情報が届いていないところを見ると、心配はいらないだろう。それより…」
ユグはミリアの横に立ち、見下ろす。
「君は科学部門に行ってもらう」
「え?」
「検査を受けろ、魔女の特性を調べさせてもらうぞ」
戸惑うミリアの腕を引っ張り、立たせる。どこか冷たく表情の無いユグの顔が怖くなりミリアは拒否する。
「い、いや…」
「拒否は聞かない。悪いがただでここに居させることは出来ないんだ。慈善事業ではないからな」
部屋から無理やり連れ出そうと引っ張ったその時―――ジョージがその腕を強く掴んだ。
「やめろ。何をする気か知らないが、そっちがその気なら俺たちはここを出ていく」
「外に出て幽鬼に始末される道を選ぶのか?」
「ここで何かしようっていうならな。それに…」
ジョージは僅かに目を細めた。
「お嬢が居なくなって困るのはそっちだろ」
「……どういう意味だ?」
「魔女の保護が義務だって、さっき言っていただろ。逃げられたんじゃ果たせない。違うか?」
確か、先程リコリスはそう言っていた。
ジョージの言葉に、ユグは無表情だったがリコリスは僅かに目を大きく開いた。
「それに、あんた俺達がレイヌの街を離れたときに、タイミングよく現れた。まるで居場所を知っていたみたいに」
しかも、木の上にスナイパーを準備するほどの用意周到さだ。ジョージは自身の推測に確信があった。
「俺達があの街にいることを知っているのはユミル様だけだ。あんた達ユミル様に依頼されて保護したんでしょう? …レグナムル家を敵に回したいのか」
最後の一言だけトーンを落として睨み付けた。するとリコリスがため息をついた。
「…はぁ、だから言ったじゃないかい。無理やり連れていこうとするからさ」
「…敵対は困るな。仕方ない」
ユグはミリアの腕を大人しく離し、ミリアはすかさずジョージの後ろに隠れた。
「いいだろう。自由にしろ。ただし、一人での行動は認めない。お前が付いていたとしてもだ。外に出るときは俺達が一緒についていく」
「ごめんよ、これがあたしらの精一杯の譲歩だ。どうか聞いてくれないかい?」
「……仕方ない、か。いいっすかお嬢?」
「え、えぇ…わかりましたわ」
ジョージは振り返って同意を得る。ミリアはユグを睨んでいた。敵意というか、どちらかというと苦手意識を持ってしまったらしい。
「ま、この街広いし何も知らずに歩くのは止めた方がいいよ。明日案内してやるからさ」
「…そういえば、俺達は今どこにいるんすか?」
「お前そんなことも知らずに話してたのか」
小バカにしたような呆れたような視線を投げかけて、ユグは窓際に来るように首を振った。
ミリアとジョージは促されて窓に近寄り、その光景に息を飲んだ。
「な、なにここ……」
「ここは……」
ビルが数多く立ち並び、様々な人が大勢行き交っている様子が見える。人や物がごちゃごちゃと動いており、その隙間から僅かに夕陽が差している。ジョージはこの街に見覚えがあった。
「王都フラバース。世界屈指の技術大国だ」
「すごいだろう?案内楽しみにしてな」
大きな街並みに圧倒されたままのミリアを、リコリスは楽しそうに覗き込んだのだった。
□■□
夜―――魔導部門執務室では、ユグが机で書類を読んでいた。いつも難しい顔している彼の顔が、もっと険しい。
「お、やっぱりまだいたね。お疲れさん」
リコリスが片手を上げつつ入ってくる。
「二人とも、晩御飯食べたらすぐ部屋に戻っちまったよ。疲れてたんだろうね」
「そうか、お疲れ。お前ももう上がるといい」
リコリスは小さなチョコレートを投げて寄越す。
ちなみに部屋というのはCOA機関の空いていた客室のことである。彼女達にはしばらくその部屋で過ごしてもらう事になる。
ユグは書類の続きを読み始める。しかし、リコリスは立ち去るのではなく、ソファに腰掛けた。
「あんた、焦りすぎだよ」
「何の話だ」
「昼間、てきとうな理由つけてミリア様連れていこうとしたろ」
リコリスが咎めるように言うとユグは書類を置いて顔をあげた。
「のんびりしている場合なのか? あとどれ程時間があるか、わからないというのに」
「それはわかるけどさ……」
「大体、何を拒むことがある。本人のためでもあるだろう」
「…あのねぇ」
リコリスは軽く頭を押さえ、あきれたように言う。
「大人になったばかりの、しかも箱入りのお嬢様が、見ず知らずの無愛想男に連れてかれそうになったら、怖がるに決まってるじゃないか。ジョージだってそりゃ怒るよ」
「そんな事情知るか。彼女自身の状況に何も関係ない」
「誰もがそう論理的に行動出来る訳じゃないんだよ」
「………………」
ユグは僅かに返す言葉に困る。リコリスの言っている意味もわかるから。
「だとしても、このままただのお嬢様でいられては困る。俺達の目的の為にもな」
「…まぁ、そうだね」
リコリスは複雑そうな顔で肯定した。
「とにかく、勝手に彼女泣かせたりするんじゃないよ。本当にレグナムル家に怒られるから」
「心配するな、約束は守る」
「なら、いいけど」
その言葉に安心し、リコリスはようやく笑った。
「ようやく見つけた手がかりだ。逃がすものか」
ユグは机に積まれた本の数冊を睨み付けて呟いた。
本の背表紙のタイトルは"魔女の旅の真実"、"神殺しの呪いの発祥と起源"など。様々な歴史書が積まれていた。
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まさか一年近くかかるとは…オリジナルって難しいですね;;
~ざっくりとキャラ紹介~
ジョージ=ルータス
身長177センチ。細マッチョ。髪は茶髪のちょいツンツン頭。若干タレ目の濃い紫色の瞳。黒いロングパーカー着用、帽子部分に白と茶色を混ぜたファー。黒のグローブに左手首にチェーン二本。右腰にチェーンアクセサリー。
武器:双剣、短銃
攻撃★★★★★________魔力★★☆☆☆
防御★★★★☆________魔法防御★☆☆☆☆
素早さ★★★★★______精神★★★★★
ミリア=レグナムル
身長157センチ、薄桃色の髪を緩くウェーブをかけて腰まで下ろしている。つり目で色は青。服はワンピース、黒基調に白、ピンクが入った魔女っぽいゴスロリ風衣装。
武器:傘
攻撃★★★☆☆________魔力★★☆☆☆
防御★★☆☆☆________魔法防御★★★☆☆
素早さ★★★★★______精神★★★★☆
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