第2話 ~カレーライスとCOA機関~ 4/6
「っ!」
村から出た数十メートル先の森の中でミリアは追い付かれてしまい、背後を振り返ったその時ーーーモンスターの頭部にジョージが投げた剣が突き刺さった。
「ジョージ!」
「はぁ、はぁ……追い付いた」
ジョージは軽く息切れしつつ、傘を差し出した。ミリアは受け取り、真剣な表情で回復しかかっているモンスターへと向ける。
「モンスターを村の外へ誘き出すことが出来ましたわね。作戦通りですわ」
「嘘付けーー! そんな作戦知らねーですよ!!」
「手強そうな相手ですわね……ジョージ、あなたが怪我をするなんて」
「誰のせいで怪我したと思ってんすか! 傘しか食らってないんすけど!」
ガァァァァッ!
「!」
「きゃっ!?」
モンスターの咆哮が聞こえた瞬間、ジョージはミリアを突き飛ばし、自分も逆へ飛ぶ。すると二人の間をすり抜けて、モンスターは大木に突進した。
「やるしかないか……」
ジョージは右腰から短銃を取り出し、モンスターの目を狙って発砲する。見事命中し、怯んだ隙にジョージはモンスターの体をかけ登り頭部にもう一つの剣を突き立てた。
「っと!」
モンスターが頭を激しく振り回し、落とされないよう剣にしがみつく。
「お嬢!」
「え、ええ!」
暴れるモンスターが背を向けた瞬間、ミリアは足元目掛けて傘を叩きつける。しかしーーー
「消えない!? うわっ!」
「ジョージ!」
ジョージはモンスターの背から振り落とされ、木に体を打ち付ける。
……まずい、あのモンスターはすぐ回復する。だからお嬢の傘でしか倒せないというのに………ダメージが少ないのだろうか。だとしたら二人では難しい。
「どうすれば……」
心配そうに駆け寄ってきたミリアを背の後ろに誘導させ、考えを巡らせていた、その時ーーー
「"邪なる者に落とす、怒りの雷……ヴォルト"」
木々の奥から流れるような詠唱が聞こえ、首を向けた瞬間、モンスターの頭に青い雷が落ちた。
「どうすればいい? 戦えばいいだろう。そいつが消滅しないのはダメージが少ないだけだ」
無愛想な口調で現れたのは、暗い森に溶け込むような緑のロングコートを纏い、眼鏡をかけた長身の男だった。
「あなたは……?」
ミリアの問いを無視し、眼鏡の男はモンスターに向かって歩いていく。モンスターは男に気付いて雄叫びを上げるが、男は何でもないように近づき、徐々に右手が赤く光り出す。
「足りないなら、倒れるまで撃つだけだ」
モンスターが飛び掛かろうとした瞬間男は右手を振り、人の頭ほどもある火球を4、5発飛ばしてモンスターの頭に命中させた。
モンスターはその威力に頭を仰け反らせ、気絶したようで仰向けに倒れる。
「あと、消滅させるなら仮面を直接壊す方が効果的だ。さっさと壊せ」
「え、えぇ」
ミリアは男の言葉に戸惑いながらも素直に頷き、モンスターの仮面に傘を叩きつけた。すると仮面が砕け散り、光と共に消滅していった。
眼鏡の男は軽くコートの埃を払う。若く見えるが、妙な落ち着きぶりや雰囲気から年は結構上な気がする。二十代後半…ってところだろうか。
「助けてくれて、ありがとうございます」
「あなたは……魔導士っすか?」
「見ればわかるだろ、魔法を見たことないのか」
軽く小バカにしたような言い方にイラッとしたが、とりあえず言及せず聞き流した。すると男は、ミリアに視線を向ける。
「君がミリア=レグナムルだな」
「…そうですけど、何?」
「俺達は君を保護しに来た。一緒に来てもらおうか」
一方的にミリアの腕を引こうと手を伸ばしたその時ーーージョージが男の腕を掴み阻止した。
「…何だ」
「知らない人には付いていくなってユミル様に言われてるんで。突然現れて何一方的な事言ってんすか」
「時間があまりないんだ、離せ。騒ぎになると困る」
「…………………」
するとジョージは腕を離し、ミリアを背に庇う。
「保護だか何だか知らないが、名乗りもしない怪しいやつの言うことは真に受けないことにしてるんだ。助けてくれたことは感謝しますが、お引き取り願えますか」
ジョージの背中からミリアも威嚇するように男を睨み付けている。その様子に男はため息を吐き、眼鏡をかけ直す。
「時間がないと言ってるだろうが。…仕方ない」
その時ーーー銃声が聞こえ、ジョージの首に何か撃たれた。
「!?」
体から力が抜けて、膝を付く。……油断した、もう一人いたのか!!
「ジョージ!」
幸い出血はないが、急激な眠気に襲われジョージは倒れこむ。
恐らく麻酔弾だ。ミリアは慌ててジョージの体を揺すって呼び掛ける。
「子供相手に手荒な事はしたくないんだがな」
「!」
男の言葉にミリアは咄嗟に傘を構える。が、既に目の前におり視界を男の手の平で遮られる。
「あ……」
ミリアは魔法にかけられて眠りに付いた。男は倒れないようその体を支える。
深い眠りに付き、力が抜けた事で重くなったミリアを抱え直したその時ーーー
「やめ……ろ……」
後ろを見ると、ジョージが剣を支えに立ち上がり睨み付けていた。麻酔が効いているため立っているのもやっとで、足が震えている。
「…そんなに必死になるな」
男はミリアを地面に降ろし腰から長い針のような剣のような金属性の武器を抜いた。
ジョージが剣を構えた瞬間、首に針の冷たさを感じた。
「何も、悪い事しようと言うわけじゃないのだから」
「…ぐっ!」
ジョージが剣を振るより先に針から電流が流れ、首から感電した。ジョージは剣を取り落とし、今度こそ気を失った。
「あれ撃たれて立ち上がるやつ初めて見たよ、あたし」
木の上から感心したような女の声。ついでにライフルを背に戻した音も。
「感心している場合じゃない、早急に離れるぞ、リコリス」
「はいはい、今降りるからちょいと待ってユグ」
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