表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~雨傘~   作者: 美鈴
13/63

第2話 ~カレーライスとCOA機関~ 3/6

 

 カウンター席で並んで座り、ミリアとジョージは並んでカレーライスを食べる。モヒカン軍団もてきとうな席でカレーライスにがっついていた。


「悪かったねぇ、あの子達も悪気がある訳じゃないんだ。許してやってよ」


「まぁ、何かされた訳じゃないですから」


 すると、ジョージから1席空けて右隣にいたモヒカンがジロリと睨む。


「テメェらおばちゃんに怪しい事しやがったら即リンチにしてやっからな。俺が常にテメェらを見張ってっから覚悟しろよコルァ」


「いいから黙って食いな」


 頭に手刀を叩き込まれて、モヒカンはしぶしぶカレーライスを食べ始める。


「随分慕われてんですね」


「ははは、ただご飯が食べたいだけなのさ」


 ジョージはカレーライスを口に運びながら、忙しそうに手を動かすおばちゃんに聞いた。


「どいつもこいつも腹を空かせて倒れそうになってた奴らだったからさ。仕方ないからご飯食わせたらなつかれちまってね」


 おばちゃんは茶目っ気たっぷりにウインクして、洗い物をしに奥へと引っ込んだ。

 するとカレーライスを食べ終わった右隣のモヒカンがこちらを見ずに口を開いた。


「俺たちは、周りからすりゃクソみたいな連中の集まりだ。家から勘当された奴、つまんねぇことで服役して社会にいられなくなった奴、元ヤクザ……全員、どこにも居場所がなくて腹を空かせて一人で生きてた。

 おばちゃんは、そんな俺たちにうまい飯を食わせてくれたんだ。……俺たちにとっちゃ恩人なんだよ」


「……恩人、か」


「あんたにとってもそうだろ? 大方そのお嬢ちゃんを誘拐したはいいが身代金要求出来ず、追われてるところでおばちゃんに拾われたとかだろ?」


「全然違うっす」


「じゃあれだ、どこぞの貴族の家に盗みに入ったはいいが見つかって、お嬢ちゃん人質に連れて逃亡中の盗賊」


「なんで頑なに俺犯罪者?」


「だってチャラそうだし」


「モヒカン頭に言われたくねーっすよ! 大体、俺は別に……」


 ジョージはその先の言葉を続けることができなかった。僅かに視線を落とす。


「?」


「……まぁ、あんたらと似てない、こともねーですけど……」


「……わかりましたわ」


 よほど空腹だったのか、黙ってもくもくと食べていたミリアがスプーンを置く。いつの間におかわりしたのか、皿が2枚程積まれていた。


「一宿一飯の恩に報いるため街を護る……素敵な心意気ですわ! ジョージ、私たちも恩返ししましょう! まずはモヒカンになりなさい」


「嫌だっつってんでしょ。モヒカンになる意味ねぇし!」


 その時ーーー外から悲鳴が聞こえ、入り口のドアからモヒカン頭の一人が飛び込んできた。


「おい大変だ! 変なモンスターが畑荒らしてる!」


「何!? やべぇおばちゃん! ちょっと行ってくるわ!」


「はいはい、無理すんじゃないよー」


 バタバタ出ていくモヒカン達と一緒に、ジョージとミリアも外に出る。


「あのモンスター……! 屋敷にいたのと同じ!」


 驚くミリアの視線の先にいたのは、仮面のモンスターだった。トラやライオンを混ぜたような猛獣の大型モンスターだ。

 果敢にもモヒカン達がバットやスコップを振り回して追い払おうと立ち向かっている。

 ミリアも傘を握り締め、走り出そうとしたその時ーーー


「待ったお嬢! 危険すぎる!」


「どうして!? 放しなさい! あのままじゃおばちゃんの畑が!」


「わかってます! でも正面は危険です! ……俺に考えがあります」


「…考え?」


 ミリアは訝しそうにジョージの話を聞いたのだった。



 □■□



 モヒカン男達は奮闘したものの全員吹き飛ばされたり叩きつけられたりで、まともに立っているものは誰もいなかった。


「く、くそっ…」


 モンスターはのしのしとモヒカン達を素通りし、畑の中に入ろうと歩き出した。

 ーーーしかし、目の前にジョージが双剣を持って立ちはだかる。


「…………」


 ジョージは不敵に笑うと、モンスターへ飛び込んでいった。剣で連擊を繰り出し、モンスターも雄叫びを上げて応戦する。


 ガァァァァッ!!


「っと」


 ジョージはモンスターの前足を受け流し、斬りつける。大分一人で旅をしていた頃の感覚が戻ってきていた。

 前足が回復してきているのを横目に、モンスター越しにミリアの姿を確認する。

 …先程、ジョージが立てた作戦は単純なものだ。


 "俺があのモンスターと正面で戦います。お嬢は気付かれないように背後にまわってください"


 "ジョージ、あなたが危険じゃありませんの? 大丈夫?"


 "俺なら大丈夫っす。なんとかします"


 "…わかりましたわ。くれぐれも怪我をしないように、ね"


 仮面のモンスターはどんなに攻撃しても、すぐ回復する。だが、お嬢の傘なら当てれば消滅。

 なら不意打ちで倒す方がお嬢が怪我をする確率も少ないし問題も解決だ。


 モンスターはジョージとの戦いに夢中で、ミリアに全く気づいていない。前足二本でのし掛かり、ジョージは剣をクロスさせて受け止める。ーーー今なら!


「お嬢ー! 今っす!!」


「たぁぁぁぁ!」


 ミリアは気合いを入れて、傘を振りかぶりモンスターへと駆け出す。

 その時ーーーミリアの足が落ちていたスコップにかかった。


「…え?」


 そしてそのままズザーと顔から地面にダイブした。思いっきりすっ転んだ。しかも反動で傘が手から離れてしまいーーー


「…は? ちょ、ごふっ!?」


 傘はモンスターを素通りし、ジョージの顔面に直撃した。本日初の怪我である。


「…………………」


「…………………」


「…グオォォォ!」


 モンスターはミリアの方へ振り返り、雄叫びを上げて向かっていった。


「何してんすかお嬢ォォォォォ!」


「キャァァァァ! ジョージー! 逃げますわよー!」


 ジョージはすぐさま傘を拾い、村の出口の方へ逃げるミリアとモンスターを追いかける。


 .

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ