第2話 ~カレーライスとCOA機関~ 2/6
ユミル様に行くようにと言われた街は農家の人達が集まった小さな街だった。見る限り家屋より畑の方が広いし、数も多い。
入り口の看板には"ようこそ! レイヌへ!"と手書きで書かれており、素朴で小さな田舎街といった印象だった。
「わぁ……広いですわね」
ミリアはテンション高くキョロキョロしたりフラフラしたりと忙しそうだ。ジョージははぐれないよう手をつかむ。
「お嬢、一人でどっかに行かないで下さいよ」
「おやーあんたたち旅の人かい? 珍しいねぇ」
頭巾を被って畑仕事をしているおばさんが声をかけてくる。
「わぁトマト! 畑のトマト初めて見ましたわ!」
「へー大きくていいトマトっすね」
「だろう? この街の作物は王都に出荷されるんだよ。品質はお墨付きさ」
おばさんは嬉しそうに笑う。
ーーー王都フラバースは世界大国の一つになるほどの大きな国であり、このレイヌもルイールと同じように王都の領地の一つのである。王都は通信機器やパソコンといった機械が普及されている技術大国だ。
俺も一時期滞在していたことがあるが、見たことのないものばかりで圧倒されっぱなしだった。
「王都に売りに行くってことっすか?」
「いんや、行商にくるお兄さんがいてね。その人に卸してるんだよ」
「その人から何か事件があったとか、聞いてないですかね?」
「事件? さぁ……聞いてないねぇ。まぁこの街に来たのも1週間前だけどさ」
「そうですか」
ルイールの街の状況がわかればと思ったが、まだ昨日の今日では事件の情報すら入ってきていないようだ。行商人も頻繁に来るわけではないようだし、この街での情報収集は難しいかもしれない。
これからどうしたものかと考えを巡らせていたその時ーーー
グウゥゥゥゥ
「……………………」
ミリアの腹から気の抜けた音が聞こえ、ミリアは顔を赤くしてお腹を押さえる
「……あまり……ご飯食べられなかったから………」
「……ぷふっ、くくく……」
「わ、笑ってんじゃありませんわよ!」
「すんません」
あまりの緊張感の無さにジョージは笑いを堪えていたが、ミリアにべしべしと叩かれる。そんな様子を見ていたおばさんはカラカラと笑う。
「おやおや、お腹空いてるのかい? じゃちょっと待ってておくれ」
「?」
「あたしの食堂においでよ。何か食べさせてやるからさ」
「ほんとう!? やった♪」
歓喜するミリアの横で、ジョージはある事に気付き苦い顔で聞いた。
「あのー……俺たちあんま金無いんすけど……」
「いいよいいよ、今回は。んじゃ、片付けるからちょいと待ってな」
めっちゃいいおばちゃんである。トマトの入ったかごを片付け始める様子を見ながらジョージはそう思った。
□■□
手早く支度を整えたおばちゃんに街の食堂へと案内される。
「そんじゃ、何か作ってくるからてきとうに座って待ってておくれ」
「………………」
人のいい笑顔で中へと入っていくおばちゃんを見送りながら、ジョージとミリアは入り口で固まっていた。
なんかモヒカン頭のチンピラ達に囲まれてしまっていたからだ。
「……なんすかあんたら? モヒカンの集い?」
「テメェらこそ何なんだあぁん? この街のもんじゃねぇな?」
「ここは俺たちレイヌ防衛団"零威抜"のアジトだぞコラ。他所もんが来ていい場所じゃねぇんだよ」
ガン飛ばして凄んでくるモヒカン頭に、ミリアは負けじと言い返す。
「な、何ですのよ。私たちはあの人に招待されて来たんですわよ!」
「招待だぁ? テメェらおばちゃんの人の良さに付けこんで悪さしようってんじゃねぇだろうな? チャラチャラした頭しやがってよぉ」
「モヒカン頭に言われたくねーんですけど」
「ダメだこいつら、信用ならねぇ。俺らの仲間になりたきゃまずモヒカンにしてきな。話はそれからだ」
「誰がするかそんな面白頭」
「というか仲間になりたいなんて一言も言ってませんわ」
二人で冷たいコメントをすると、目の前にいたモヒカン頭がジョージに掴みかかった。
「んだコルァァァァ!! ナメくさりやがってェェェ! 表出ろや!」
「やっちまおうぜテメェら!!」
と、その時後ろからおばちゃんがオタマでモヒカン頭を全員殴った。
「ギャァァァァあつぅぅぅ!!」
「な、何すんだよおばちゃん!!」
「この子達はあたしのお客さんだよ。くだらないこと言ってないで中に入れておやり」
オタマの熱さに転げ回るモヒカン達は、まだ何か言いたそうだったが、おばちゃんの案内でジョージとミリアはようやく中へと入ることが出来た。
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