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透明の向こう側  作者:
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 真由の誕生日は約束どおり旧友四人で『feuilles』で祝った。予約を入れるときに美樹が「生クリーム、チョコレートは使わないケーキを」と指定し、デコレーションのないシンプルな、ただし代わりにフルーツをたっぷり使用して飾られたチーズタルトで饗された。シェフが「毎度のことながら、ケーキで生クリームとチョコレートを封じられるのはきつい」と言いながらも自信ありげにそのタルトを自ら切り分けてくれた。初めて真由の誕生会をここでしたとき何も知らないシェフが自信たっぷりに用意してくれたのがチョコレートケーキで、それを真由がほとんど食べずに残してしまったのが「相当ショックだった」と毎年必ず言われる。

 誕生会の終盤、美樹が「そうだ、JAMANIAのライブのチケット、また真由にお願いしていいんかな?もうすぐ発売日やけど」と言いだした。「佳奈りんとまりっぺも神戸は行けるらしいから、神戸が四人、大阪が二人。私は仕事休んででも参戦する」と美樹は意気込むし「そりゃ真由でしょ」「またとんでもない席当てるんじゃないん?」と残り二人も意見の一致を見、真由が代表してチケットの予約をすることになった。予約と言っても今は朝から必死に電話にかじりつかなくとも、ネットで手軽に予約できる。JAMANIAは幸か不幸かネット予約が取れないほどの大物でも人気者でもなく、魅力にとりつかれて離れない熱心なファンに支えられているバンドだから、チケットが取れない心配はまずない。ただ良い席を期待されるのが真由には少し荷が重い。真由だってステージ近くでライブを楽しめれば嬉しいが、たとえ東京ドームのはるか遠い席で彼らが米粒にしか見えなくたって、きっと彼らの音楽は楽しいと内心思っていた。「せっかくファンクラブ入ってても先行予約とかはないからなあ」と美樹が残念そうにつぶやくと一斉に「でもツアー情報とかは先取りできるんだし、いいやん」「季報やけど写真付きでメンバーのインタビューとかあるしね」「あの人たちテレビとかで見れないもん、貴重やで」「会報おもしろいよね」と思いつく限りのメリットを挙げて口々に美樹を励ました。確かに、美樹がメルマガや会報からもたらしてくれる情報が彼女たちの持ちうるJAMANIA情報のすべてだった。

 ただ、真由だけは違っていた。ほかならぬJAMANIAのメンバー自身から、頼みもしない最新情報が送られてくる。五月の末ごろ、ツアーの日程が確定したときなどご丁寧にも全国の全日程と会場が一覧にまとめられたメールが届いた。たぶんほかの誰かにも同じメールを送っているのだろうが、それにしても有薗というのはずいぶん律儀でこまめな人だと感心した。勤務の希望は一か月前の二十日が締め切りだから二か月後の予定なら十分間に合うし、希望はほぼそのとおりシフトに反映される。神戸が金曜日、大阪が日曜日だったので真由はその週のシフト希望は両日に参加する前提で出すことにした。

 いつだったか「今、早くもセットリスト悩み中。着々と準備中」と有薗がメールを寄越したとき、迷わず真由は「セットリストが確定しても絶対内緒にしていてください。当日のお楽しみです」と返信した。チケットが無事に取れれば、ちゃんと有薗にそれを報告しようと思った。彼はきっと喜んでくれる。「そうや!清水さんとSONOさんFM八〇二に来てたんよ、ラジオ聴いた?」と美樹は彼らの出演したラジオのことを思い出し、佳奈と万里子にも彼らの、と言うよりも清水のトークの面白さを熱く語るのであった。その抜群の記憶力と精細な再現力に少々呆れる声で「あんたすごいエネルギーやな」と佳奈と万里子も感心した。


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