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君はまた、僕に笑う  作者: 水野悠亀
『再会』
6/13

夜空への誓い

「うぅ…頭が痛い」



 今俺は中里の部屋で寝っ転がっている。中里と話しているうちに料理が冷めてしまったので、今電子レンジで温めてもらっている。改めて先程の事を思い返すと、何故誰にも話してこなかったのか考えてしまう。きっと誰に言っても無駄なんだと期待していなかったからだろう。 だけど、中里の前だと素直に言っていた。中里の優しさがとても心地よかったからだろう。



「できましたよー」



 そう言って中里が料理を運んできた。さあ、来てしまった…この時が。中里定食(期間限定)とは何か!?その謎が今!



 テーブルには白ご飯と4つの料理が置かれた。ハンバーグ、お味噌汁、ポテトサラダ、卵焼きだ。こんな和風と洋風が全面戦争してる料理初めて見たわ。



「どれもこれも自信作です。中里定食の良さは私の好きな物が出てくるということですかね」


「結局お前の好みかよ……」


「しかし、中里定食最大の良さは他にあります。そう!幸せポイントを得られるという点です!」


「普通の料理でも得られようと思えばできるだろ」



すると中里が少しムスッとしてジト目で睨んできた。



「なんでそんなに中里定食の事を否定するんですか?」


「いや、否定する気はない。まあ、手料理ってだけで価値はあると思うがな」


「本当ですか?嬉しいかったりしますか?」


「多少はな」



 中里がもしも犬なら尻尾をブンブン振っているだろう。それほどにワクワクして聞いてきた。これ以上不機嫌になられても困るので話を終わらせる。見た目も普通に美味しそうだ。



「あれ、自分の分はどうしたんだ?」



 中里は自分の分と思しき白ご飯とお味噌汁だけ運んできた。



「元々1人で食べると思っていたので食材が足りなかったんですよ。だから少しだけ分けてもらえればいいです」


「そっか、なんかごめんな。お前のご飯をとったみたいで」


「いえ、私がしたかった事なので気にしないでください。それに私はそれほど食べませんから」



 申し訳ないとは思うがそういうことなら食べさせてもらおう。それに見た目も悪くなく美味しそうだ。何故か視線を感じたので料理から目を上げて中里を見るとやけにニヤニヤしていた。



「感想が欲しいです」


「や、やめろ。その言葉は俺に効く」


もう食レポなんて一生しない。


「では、いただきます」



 まずはハンバーグから食べよう。お箸で小さく切って分けると、肉汁と共に肉に混じった玉ねぎが顔を覗かせる。ハンバーグは玉ねぎが少し多めが好きなので嬉しい。ハンバーグのおかげでご飯が思っていたよりもすすむ。


「美味しい」


 自分で作った料理より美味しくて少し悔しい気持ちがあるが、それ以上に自分にこれだけ美味しい料理を作ってくれたということが嬉しい。



「気に入ってもらって良かったです」



 少しだけ笑っているように見える。顔は相変わらずだが、雰囲気的なものは見えるようになってきた。



「中里も食べるだろ?ほら」



 そう言ってハンバーグのお皿を中里の方へ向けると、両手を開らけて何かを催促してくる。



「お箸」


「え?嘘だろお前…」


「な、なぜそんなに嫌がるんですか?流石に傷つきます」


  少しシュンっとして可愛い。

いや、別に悲しそうにしているのがもっと見たいとか、虐めたいとかそういう訳ではない…決して…多分…おそらくは……


「いや、嫌じゃなくて…困るっていうか……」


「仕方ありません、フォークで食べます」


「フォークあるのかよ!?」


 ハンバーグをお箸で食べるのも別におかしくはないが、フォークがあるなら使いたかった。中里は自分で作ったハンバーグを食べて手を頬に当て、幸せオーラを出していた。


「普段からよく料理は作るのか?」


「そうですね。料理だけは昔から得意なので」


「自転車は乗れないのにな」


「じ、自転車は関係ないですよ!」

 

 誇ったように少しドヤ顔気味にいってきたので、ついつい弄りたくなって言葉が出てしまった。


「じゃあ次はポテトサラダを」


 1口食べると程よい味加減で少し驚いた。自分が1番好きなマヨネーズ加減で、くど過ぎない。ワンポイントでスライスしたきゅうりが入っていて食感を変えてくれるのが良い。


「お前って本当に料理上手なんだな」


「い、いきなりなんですか。そんなこと言っても白ご飯以外はお代わりありませんからね」


少し照れているようだ。誤魔化すようにフォークでポテトサラダを突っついている。



「白ご飯は用意してくれてるのね」


「男の方なのでたくさん食べるのかなって思いまして。余計なお世話でしたか?」



  いきなり他人の家で食べることになったのにあまり厚かましいことは出来ないが、本人がこういうなら甘えようかな。なんか中里に甘えっぱなしでヒモ男みたいだ。けどこうやって誰かと一緒にご飯を食べるのはやっぱりいいな……。

 次はお味噌汁を飲んだ。素朴な味で落ち着く。お豆腐とワカメを一緒に食べる。雨で冷えた空気から逃してくれるように温かく優しい味わいだ。



「お味噌汁を飲むと暖まりますね〜」



豆腐にフォークを突き刺している中里を見て少し吹き出しそうになった。



「じゃあ最後に卵焼きを」



そう言って1切れ食べる。



「甘い…」


「やっぱり甘すぎましたか?」



 今までの料理がどれも完璧と言っていいような味加減で美味しかったから卵焼きにも少し期待したら、凄く甘い。子供は好んで食べるような甘さだが、少々甘過ぎる。



「不味いってことでは決して無い。ただの人の好みの問題だ。俺はあんまり甘いのは好きじゃないんだ」


「そうでしたか。少し甘すぎるとは思っていたんです。次は気をつけます」



中里はまた俺に料理を作ってくれる気があるのだろうか。毎日作ってくれる的な……いやいや!ないない!そのまま食事は雑談をしながら終わった。食器の洗い物まで中里に任せるのが嫌になって一緒に喋りながら食器を洗った。こんな些細な事だけど幸せポイントが得られたと思う。


「とっても美味しかったよ。今日は本当にありがとう」


「いえ、元々私が恩返ししたくてやったことですので。そもそも恩返しがこんなので良かったのでしょうか?」


「第一に俺は恩返しされるような覚えは無い。だからお前が満足してくれたならそれでいい」


 雨は既に止んでいて中里が見送ると言って俺達は部屋から出てマンションの出口まで来ていた。今は目の前の中里が少し不安そうな雰囲気を出していた。



「私ではなく、中村さんは良かったのかなって…気になったんです…」



 これはしっかりと答えてやらないと引きずりそうだな……少し恥ずかしいが素直に答えてやるか。



「なんていうか。お、俺はこれが良かったけどな…」


「本当ですか?それなら良かったです…」



 そう言って俺は恥ずかしくて中里から目を逸らしてしまう。目のやりどころに困って上を見上げると星が綺麗に輝いている。雨が上がった事で雲がなくなって澄み切っているからだろう。すると中里は俺の隣に並んできた。



「綺麗ですね…」


「あぁ…そうだな」



 こんなにも夜空をしっかりと見るのは何時ぶりだろうか?故郷にいた頃は田舎の夜空を満喫することは何回かあった。今は雨で冷えた風が涼しい。



「私は本当に中村さんに感謝しているんです。中村さんのお蔭で最近は幸せに感じることが多くて……」



そう言った中里の頬は赤く染まっていた。それを見ていると自分の中で込み上げてくるものを感じた。



「協力するって言っただろ?お前が幸せになれるように……」



なんか告白見たいで恥ずかしい。中里は俺の顔を驚いた様に見た後、ため息を吐いた。



「中村さん…中村さんは自身で思ってる程酷い人じゃありません。私が保証します。なんて言ったって中村さんに助けてもらっている張本人なんですから。でも、まあ確かに胸の事を馬鹿にしたり、私の事を変な人を見るような目で見てきたり、私でエッチな妄想とかしてますけどね」


「待て待て待て!最後のは違う!ないない!」


「それって他の事は認めてるのと同じですよ」



 思わず変態発言されたことに焦って口を滑らせてしまった。中里でエッチな妄想なんて俺はして……た……



「完璧な人なんていませんよ。誰しも欠点があるから支え合って生きてるんです。中村さんは少し気にしすぎです」



 そう言って中里は人差し指で俺の頬を突っついてきた。とても細くてひんやりした女性の指だ。しかし中里は俺が文句を言う前にやめて、下を向いた。



「私は弱いんです。私は支えて貰わないと生きていけないんです」



 中里は静かに自分の本心を俺に伝えてきた。その声は小さくその意味を主張するように夜空へとすぐに消えていく。





「だから…中村さんの優しさに甘えさせてください」





  中里は笑っていた。


今まで見たことも無いような綺麗で、可愛らしい笑顔だった。 いつもの様な冴え切った無表情ではなく年齢より若い女の子の笑顔だった。普段は見せてくれない彼女の本物の笑顔だ。

 薄々自分の気持ちにも気づいていたが、 反則だそれは…嫌でも向き合わなくてはならない。気持ちが溢れ出しそうになる。今すぐにでもその小さい身体を抱き締めてしまいたいとさえ思う。



「本当に…俺なんかでいいのか?」



 こんな可愛らしい女の子が本当に自分なんかでいいのかと不安になった。俺なんかの中途半端な優しさで彼女を支えられるのか?



「中村さんだから……甘えたいんです。中村さんじゃなきゃお願いしません」



 照れたように頬が真っ赤に染まっていた。中里の手を取って握った。手はとても細く、冷たかった。彼女はとても驚いた様で俺の顔と手を何度も行き来したが、また笑ってそれを許容してしっかりと俺に握り返してくれた。俺はこの笑顔を自分だけの物にしたくなった。誰にも見せない彼女の笑顔を俺だけは知っている。


 俺の優しさなんかでも……変えれる物があった。なら俺の優しさにも意味があったんだ。澄み切った夜空を見上げ、俺は誓う。


 父さん…俺、優しい男になる…いや、なってみせる。


 中里の方へ向く。彼女の笑顔を脳裏に刻み込む。俺の優しさの意味は彼女が持っていてくれる。レッテルとかそんなものは関係ない。俺は彼女が求める事をしてあげたい。自分の出来る限りの優しさを彼女の為に……。




 俺は【優しい男】になって

 彼女を世界一【幸せ】にしてみせる。



 1人の青年が少女の【無表情】を【笑顔】に変えた。

 1人の少女が 青年の【呪い】を【誓い】に変えた。



 もう一度手を強く握る。すると彼女はそれに答える様に握り返して俺の方を向いてくれる。それにどちらともなく笑ってしまう。 こんな些細な事でいい、楽しく生きていく事なんて彼女といれば簡単な事だと思えてしまう。

 2人は手を繋ぎ並んで夜空を眺める。 無数の星が煌めく夜、祝福するように一筋の光が空を流れていた。


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