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41.惚れた欲目といいますが

広間に戻ると、ティルナード様に「ダンスを踊りませんか?」と誘われて、私は戸惑った。お披露目の日から比べればダンスは少しは上達した。しかし、ダンスの名手と名高い彼と踊るのは躊躇われた。


「前にも言いましたが、ダンスは苦手なんです」


「大分上達したと聞きましたよ?」


「でも」


「俺と踊るのは嫌ですか?」


そういう聞き方は狡い。断れなくなる。

私は結局彼の手を取り、ダンスホールに進んだ。周囲の視線が痛い。なぜだかわからないが、矢鱈と注目されているのだ。

音楽に合わせて私達はステップを踏んだ。ティルナード様はリードが上手い。足を踏まれる心配もなく、安心して身を任せることができた。ただ、意識しているせいか、いつも以上に身体が近く感じられて、動悸が激しくなった。

そうこうしている内に一曲目が終わり、私はほっとした。

ホールから離れようと足を動かしかけたが、目の前の彼は私の手をがっちりと取ったまま、微笑んだ。


「二曲目も踊りましょう」


「っ…」


何を言われたか理解して、顔が火照った。彼が二曲以上ダンスを躍る意味を知らないはずがない。わかった上で誘っているのだと気づいて、頭が沸騰した。

私が混乱している内に二曲目が始まった。周りのご令嬢方から悲鳴が上がったのがわかった。私はどうしたものかと視線を彷徨わせながら、彼の肩にしがみついた。彼が耳元で囁いた。


「だって狡いでしょう?」


私は彼の言葉を頭の中で反芻して、思い出した。確かダニエル=ヤーバンとは二曲踊ったのだ。彼が言った「狡い」とはそういうことなのだろう。あれは私が悪かった。だけど、これは恥ずかしい。私達はペアで婚約指輪まで嵌めているのだ。


「意地悪」


私が目を逸らしながらぽつりと呟くと、ティルナード様がくすりと笑った気配がした。

キスをされた後で、いつも以上に意識している。ダンスを躍るために密着して、動悸は激しい。

ターンをすれば腰のリボンが揺れた。ティルナード様の顔を見上げれば、とても楽しそうだった。

うっかりティルナード様の顔に見とれている間に三曲目が始まった。私が彼に手を取られたまま、わたわたしていると、彼は肩を揺らして笑った。周りがざわついたのがわかる。


「…意地悪」


私は唇を噛み締めながら彼に抗議した。恥ずかしすぎて、顔を見せられないので彼の肩口に顔を埋めた。

三曲以上躍るのは余程熱愛中のカップルぐらいだ。普通は二曲でやめておくものだ。ダニエル=ヤーバンのように、やや世間ずれした人がやれば、知らなかったのだろうと周りも思っただろうが、ティルナード様は確信犯なのだ。


「すみません。嬉しくて、つい」


つい、では済まない。一緒に冷やかされる方の身になってほしい。大概は「ヴィッツ伯爵令嬢は嫉妬深い」ということになる。婚約指輪を嵌めたのも、ダンスを三曲踊ったのも全部ティルナード様の意思なのに私が強要したことになるんだろうな、と令嬢方の突き刺すような視線を肌に感じて私は思った。

三曲踊り終わって、私達はホールを離れた。壁際の椅子まで腰を引かれて、私は座るように勧められた。私が腰を下ろすと、彼は「何か飲み物を取ってくるから、ここで待っていて下さい」と言って、私の傍を離れた。

疲れた、とも、喉が渇いたとも言っていないのによくわかったな、と私は思った。傍を離れてくれて少しほっとした。最近の彼は以前にも増して、積極的だ。よく抱き締められるし、さっきはキスも…と思い出して、赤面した。あれはまずい。癖になりそうなぐらい甘く気持ち良かったし、もっと欲しいと思ったのだ。

ティルナード様を目で追いかけると、やはりというか、何人かの令嬢に周りを囲まれていた。


「レイチェル」


名前を呼ばれて、疲れていた私は首だけをそちらに向けた。


「ダリア?」


ダリアが私の方に歩いてくるところだった。彼女は今日は深い緑色のドレスに身を包んでいた。胸の谷間が実にけしからんと思う。

私の考えを読み取ったのか、ダリアは苦笑いしながら、「レイチェルは相変わらずね」と言った。


「久しぶりね。本当はすぐに声をかけようと思っていたんだけど、あなたたちがお熱いものだから遠慮しちゃって」


「お熱くはない、と思うわ」


「そうかしら?バルコニーで熱烈なキスをした後、ダンスを三曲踊ったのでしょう?」


ダリアに言われて、私は目を見開き、口をぱくぱく動かした。ダンスのことを知っているのはわかる。しかし、キスをしたことをどうして知っているのだろうか。


「あら?気づいていなかったの?凄い勢いで噂になっているわよ」


「バルコニーには誰もいなかったと思うのだけど」


「ティルナード様は有名人でしょう?夜会では常に誰かに見られていると思った方が良いわよ。覗かれていたんじゃない?」


あれを覗かれていた、と言われて私は硬直した。顔を覆って「ふぉぉぉ」と悲鳴を上げたくなったが、ダリアにやめておきなさい、と肩を叩かれて断念した。


「これに懲りたら、夜会でいちゃつかないことね」


にやにやしながらダリアに言われて、私は慌てて否定した。


「いちゃついていないわ。大体、あれはティルナード様が」


「あら?愛されているのね。羨ましい限りだわ」


私は全身が紅く染まるのを感じた。全部ティルナード様のせいだ、と恨みがましく思いながら、私はふと思った。


「ティルナード様は見られていることに気づいていたのかしら?」


「レイチェルじゃあるまいし、流石に気づいていたんじゃない?」


彼は何かに気づいたように苦笑いしていた。あれはつまり、そういうことだったのだ。

しかし、私はそれよりも、ダリアの言葉に引っ掛かりを感じた。


「ちょっと待って。納得がいかない部分があるのだけど?」


「レイチェルは鈍いじゃない?お披露目の時だって、あんなに情熱的な目で見つめられていたのに、あなた、すっとぼけた顔をしてたでしょう?」


「…そんなことはないと思う」


「事実だから、認めなさい」


私は肩を落とした。当初は自分が本当に婚約者に望まれているなんて、思っていなかったのだから仕方ない。今だって、時々騙されているんじゃないかと思う時がある。


「それはともかく、あんな大物、どこで捕まえてきたの?お兄様繋がり?」


「捕まえてきたって…。人聞きが悪いわ。夜会デビューの時に言葉を少し交わしただけよ。その後、仮面舞踏会で私を助けてくれた人がいたでしょう?あれがティルナード様だったの」


「なるほど。夜会デビューの時に一目惚れされた、と」


「違うと思う。夜会デビューの時は爆笑されたもの」


縦ロールがほどけて大笑い。ムードも欠片もない出会いだった。仮面舞踏会の時だって蝋燭の壁に激突寸前のところを助けてもらったわけで、ロマンティックとは程遠く、正直どこを気に入ってもらったのか未だにわからない。だから、彼を好きになればなるほど不安になるのだ。


「でも、ティルナード様がレイチェルに夢中なのは確かだと思うわ。滅多に笑わないことで有名な彼がレイチェルの前では別人のように甘い微笑みを浮かべているし、キスだって口以外の場所ですら他の誰が迫ってもしてくれなかったという話よ。あなたには沢山しているようだけど」


「そうなの?潔癖なのかしら?でも、この間は足の甲に…」


言いかけて、「しまった」と口を押さえた頃にはもう遅かった。ダリアの目が期待でキラキラ輝いている。


「今のは私の勘違いで」


「足の甲に…の続きが気になるわ」


「だから、私の勘違いだと」


「そんなはずがないわよね?」


私は結局、洗いざらい白状した。火傷をして抱き抱えられたことからスープを被った部分を舐められたこと、更にはその後の婚約指輪の下りまで全て話終える頃には私は耳まで真っ赤になっていた。


「レイチェル、あなた、本当に贅沢だわ」


そのシチュエーションだけでご飯三杯はいける、と豪語されて私は身を縮こませた。


「そんなに直接的に口説かれるなんて、羨まし過ぎるわ。ティルナード様もレイチェルが鈍すぎるばかりに手段を選んでなんていられないんでしょうけど、何というか、凄く愛されているのね」


「ダリアは私に喧嘩を売っているの?」


「普通はそこまで言わせる前に気づくものよ」


私は言葉を詰まらせた。耳が痛い。


「レイチェル」


話題の人に声をかけられて、私はびくりと肩を震わせた。ダリアがにやにや笑っていて、どうにもこうにも居心地が悪かった。


「遅くなってしまってすみません。少し捕まってしまって」


そう言いながら、ティルナード様は申し訳なさそうにグラスを差し出してきた。私は彼とグラスを交互に見て、「ありがとうございます」と小さく礼を言っておずおずと受け取った。ダリアの顔に「あのティルナード様を顎で使えるなんて、あなたぐらいよ」と書いてある。


「そちらは確か、シュタイナー子爵令嬢ですね。お披露目の時はありがとうございました。レイチェルがいつも仲良くして貰っているようで」


彼はダリアに向かって、にっこり笑った。これにはダリアも目を丸くした。


「いえ、そんな。覚えていて下さったなんて光栄ですわ」


「レイチェルの大事な友人は俺にとっても大事な友人ですよ。これからもレイチェルと仲良くしてやって下さいね」


「勿論ですわ!」


ダリアが目を輝かせながら、食いぎみに言うのを見て、私は頭が痛くなった。ダリアは他人の恋話が大好きなのだ。


「シュタイナー子爵令嬢、少しの間、レイチェルをお願いできますか?俺も友人に呼ばれていまして」


彼の視線の先にはお披露目の時に紹介を受けたティルナード様の友人数名が立っていた。


「わかりましたわ」


「ありがとうございます。レイチェル、一人であまり人気のないところには行かないようにして下さいね。できれば目の届く所にいてもらえると、安心なんだけど」


ティルナード様が手で私の髪を梳きながら、釘を刺すように言った。


「…子供ではないので、大丈夫です」


私が言外に不服だと訴えると、彼は苦笑いした。私はふと、前科があることを思い出した。


「レイチェルのことは私がしっかり見張っていますからティルナード様は安心して行ってきてください」


おい、こら。私を置いて勝手に通じ合わないでいただきたい。私はそこまで危なっかしくはない。十六歳にもなって、婚約者に一人で置いていくのを心配されるなんて、恥ずかしいにも程がある。そういえば、グウェンダルも私を一人にするとろくなことがないと言っていたような気がするが、失礼だ。

後ろ髪を引かれるように私の傍を離れるティルナード様を見て、ダリアはほう、とため息をついた。


「あなた、本当に贅沢だわ」


「過保護な兄が増えただけだと思う。女性として見られていないのよ」


「でも、兄妹はキスしないわよね?」


「うぅ」


思い出して、離れたところにいるティルナード様を見つめれば、目があってにこりと微笑まれて、私は動悸が激しくなった。頬に自然と熱が集まる。


「本当にお熱いことね。まさか、あのひねくれ者のレイチェルがこんなに可愛くなるなんて思わなかったわ」


ダリアが私達のそんな様子を見て、半眼を閉じて言った。


「そういうダリアはどうなの?」


「どうって?」


「良いお相手は見つかったの?」


「それなりに。今日は来ていないけど、仮面舞踏会の時に私が一緒に踊っていた人は覚えている?」


私は思い出した。仮面をつけていても、スタイルの良いダリアは私と違ってモテモテだった。そんな彼女は良い雰囲気になった一人の男性とダンスを踊っていた。


「あの時の?」


「ええ。と言っても婚約まではしていないの。色々問題があってね。男爵家のご子息なんだけど、うちの両親は家格が釣り合わないって反対で。レイチェル?」


私が羨ましそうな目で見ていたのがわかったのだろう。ダリアが訝しむようにこちらを見た。


「ごめんなさい。理想の相手だったものだから、つい」


「そうだったわね。レイチェルの理想は平凡なそこそこの家柄のお相手と一緒になることだものね」


ダリアはちらりとティルナード様を見た。まさに私の理想の相手とは正反対な彼の周りには人が集まっていた。先程まで人が寄り付かなかったのはどうも、私が魔除けの置物のように彼の傍にへばりついていたからだろう。しかし。


「レイチェルは贅沢よ。あんな素敵な彼に思われているのに羨ましがるなんて」


「ダリアは未来の公爵夫人が私に務まると思う?」


今でもティルナード様の隣に並んで公爵夫人になっている姿だけは想像がつかない。


「…大丈夫よ。あなたが苦手なのは社交だけじゃない」


「その社交が致命的だと思うのだけど?」


「それでも、大分可愛くなったと評判よ」


「嘘よ」


「相変わらず後ろ向きね。前の貴方は本当にひどかったわよ。時代遅れの、野暮ったい古めかしいドレスにひきつった顔。時々不気味な笑みを浮かべる姿から密かにヴィッツ伯爵家の魔女と呼ばれていたわ」


「はっきり言うわね」


ちょっとだけ傷ついた。ほんのちょっとだけだ。


「わざとやっているんだと思っていたわ。だって、レイチェルは似合うものを身に付ければ普通に可愛いもの。男性を避けているんだと思っていたわ」


「確かに男の人は怖いし、苦手だわ」


よくわからない。何より、自分とは違いすぎて怖いと思う。お見合い相手に触られた時は気持ち悪くて、怖かった。

ダニエル=ヤーバンみたいな大柄な男性も苦手だ。力加減がわかっていなかったのかもしれない。手をとられた時骨が軋んだ。

幼い頃に、兄の友人に幻想を粉々に打ち砕かれたのもある。彼のお陰で自分は「可愛くない」んだと気づけたのだから、感謝しなければならない。だが、私には彼の名前と顔が思い出せないのだ。


「ティルナード様はどうなの?」


「意地悪だけどとても優しいし、怖くはないわ」


彼も長身で大柄な方だ。でも不思議と怖くはないし、触られても不快感はなかった。

俯きながら私が言うと、ダリアにぎゅっと抱き締められた。


「あなた、本当に可愛くなったわね」


「なんだか嬉しくない。大体、皆、私を抱き締めすぎだと…」


「あら?皆とは誰のことかしら?それはあなたの婚約者も含めて?」


私は再び自分の失言に気づいて、あたふたした。

結局、私はティルナード様に抱き締められる機会が多くて戸惑っていることまで白状させられた。ダリアの嬉しそうな顔とは対照的に私は精神的な何かがすり減ってしまった。

更に指輪を見たダリアは目を輝かせた。流行に疎い私は気付かなかったが、何でも私のしている指輪は有名な職人によるものらしい。台座に嵌まっているダイアモンドも一級品だと言われて、ごくりと生唾を飲んだ。


「それにしても意外だわ。ティルナード様はもっと大人な女性が好みだと思っていたもの」


「子供っぽくて悪かったわね。自分でもわかっているわ。周りにもさんざん不釣り合いだと言われたもの」


私は拗ねたように言った。


「まあね。当初はあなたが無理矢理、婚約を迫ったんじゃないかと真しやかに言われていたわね」


「今でも鬼い様が脅迫したのではないかと思っているの」


兄に何か弱味を握られていて、断れなかった可能性は高い。


「それはないわよ。今日見る限り、どちらかというと、ティルナード様があなたにベタぼれみたいだし?キスだってティルナード様から強引に迫ったと聞いたわ」


「その話は恥ずかしいからやめて。お願いだから」


私は耳を塞いだ。思い出しただけで、身体が熱くなる。暫く忘れられそうにないし、夢まで見そうだった。


「手離す気はないからあなたも手を離さないでって言われたんでしょう?」


「まるで見てきたように言わないで」


覗いていた奴よ、出てこい。プライバシーの侵害だ。


「見てきてはないけど、すっかり噂になっているもの。お揃いの婚約指輪を嵌めて仲睦まじげに登場、バルコニーでキスしたすぐ後にぴったり寄り添いあってダンスでしょう?あまりの熱さに身悶えしそうだったわ。逆に令嬢方はすっかり意気消沈よ。ティルナード様を密かに狙っていたご令嬢は多かったから。レイチェルがライバルなら余裕だって思っていたようね」


「やめて。本当に恥ずかしいから」


そこまで詳しく筒抜けになっている事実など知りたくはなかった。


「式の日取りまで決まっているんだからいい加減観念しなさい。一家全員に歓迎されているなんて凄いじゃない。公爵夫人なんて既にあなたのこと、娘だって公言しているらしいし?公爵夫人の見る目は難しいのよ。何人かの令嬢は果敢にアタックしたけど取り入ることができなかったらしいわ」


そんなこと知らなかった。

特に反対はされなかったし、公爵夫人にはお茶会の日に食い気味に「いつ嫁いでくるのか」、「孫の顔が見たい」と言われた記憶しかない。


「サフィニア様にはお姉様と呼ばれているみたいだし、ティルナード様も」


「ティルナード様がどうしたの?」


「いえね。あなたの良さについてさる令嬢が意地悪でティルナード様に質問したらね、頬を染めた彼に涙目になるぐらい長時間語られたらしいわ。彼の通称に嫁バカが増えた瞬間だった」


「待って。まだ結婚していないから嫁バカはおかしいわ」


長時間にわたって何を語られたのかも気になるところだが、私はまだ彼とは正式な夫婦ではない。氷の貴公子様兼嫁バカなんて対極だ。


「でも、するんでしょう?半年後だと聞いたわ」


「どうして、そんなに詳しいの?」


「どうしても何もこの夜会でヴァレンティノ公爵一家が公言しているもの。半年後にティルナード様とあなたの挙式が決まったって。主だったところには招待状も送っているそうよ」


「うう」


「着々と包囲網が完成しつつあるわね。おめでとう。ティルナード様は婚約者を溺愛しているという噂でもちきりよ。蕩けるような笑顔を浮かべたり、珍しく」


ダリアの言うとおりだとは思う。


「ドレスで思い出したのだけど、最近はコルセットをしないものが流行っているの?」


ダリアの目が点になった。

最近、私がドレスを着る時ほとんどの場合コルセットをしないのだ。マリアに聞くと、「レイチェル様には必要ありません」と言われるだけだった。そんなわけで今もコルセットをつけていない。


「そんな話は聞いたことがないわ。私は今もつけているのだけど、まさか、あなた、つけていないの?」


私は頷いた。一応は下着はつけているが、コルセットはつけていない。確かに腰だけを絞ったところで、私には強調すべき他の出っ張りがない。よって、意味がないといえば意味がないのだが、素朴な疑問でもあった。


「…つけずにそんなに細いなんて詐欺だわ」


「出るべき部分も出ていないもの。侍女に必要ないと言われたのだけど、しても意味がないということよね?」


「それは公爵家の侍女?」


「そうだけど?」


「だったら、単にティルナード様がコルセットがお好きでないだけではないの?あなた、よく抱き締められるようだし」


「意味がわからないわ」


「コルセットは硬いから、抱き心地が気に入らないのだと思うわ。どうせ抱き締めるなら柔らかい方がいいもの。つけなくてもレイチェルの腰は十分細いし」


私は目を瞬かせた。


「鈍いわね。ティルナード様があなたといちゃつく前提で硬いコルセットが邪魔だから侍女に外すように指示したのよ。侍女も主筋の命令には逆らえないもの。のろけ話でお腹一杯だわ。ごちそうさま」


ダリアに言われたことを理解して、私は赤くなって俯いた。話を変えるために振った話題でとんだ墓穴を掘ってしまったことに気づいて、暫くの間、顔を上げられなかった。ダリアはそんな私の様子を見て、くすくす笑った。

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