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閑話~公爵子息の朝事情~

作者は定期的に阿呆な話が書きたくなる病です(^_^;)ティルナード様の好感度が下がったらすみませんm(__)m

昨夜はなかなか寝付けなかった。原因は壁の薄さにあると思う。

レイチェルが泊まることになった時、反対はしなかった。客間で寝るのだろうと思っていたし、それなら何の問題も起きようがない。正式に嫁ぐことが決まったのだから早いうちから屋敷に慣れ親しんでもらうのも悪くはない、ぐらいに軽く考えていた。

母がまさか本気で新婚で使う予定の寝室にレイチェルを通してしまうとは思っていなかった。

部屋を間続きにした時も「夫婦の間に壁があるのは良くないわ」という理由で押しきられたのだが、後悔している。せめて、レイチェル側の寝室に鍵を取り付けるべきだった。

隣からレイチェルの悲鳴が聞こえた時は思わず扉を開けそうになった。どうもマッサージをされているようだとわかり、踏みとどまって正解だったと胸を撫で下ろした。

母のマッサージ現場を幼い頃に見たことがあるが、あれは裸に近い格好でされるのだ。そんな姿をわざとではなくても目撃しようものなら、暫く口をきいてもらえないかもしれない。

その後もレイチェルの声やら、侍女がレイチェルの身体をわざとらしく、大きな声で具体的に誉める声が聞こえるものだから、色々想像してしまって悶々として寝付けなかった。絶対に母の差し金だと思う。

何度か隣に丸聞こえだぞという意味を込めて咳払いをしそうになったが、全て筒抜けだったとわかれば、彼女は恥ずかしがって目を合わせてくれなくなりそうなので、これも我慢した。

薄い壁の向こうにいる彼女を思いながら寝付けないままベッドの上でごろごろ転がり回り、漸く眠りについたら、当然のごとく不埒な夢を見た。

夢なのに、はっきりした手触りに違和感を感じた。腕の中でもぞりと身じろぎする気配と手の動きに反応するように漏れた女の声に俺の頭の中で警報が鳴った。

甘美な夢の世界から強引に意識を引き戻す。最近はほとんどないが、昔は寝込みを襲われることも多かった。屋敷で襲われることはほとんどなかったので完全に油断していた。

しかし、と疑問がよぎる。寝込みを襲われることも多かったので、女性の気配には敏感なほうだ。それが今まで全く起きることもなく、ベッドの中まで侵入を許したのだから、よほど自分は疲れていたのだろうか。

疑問は隣で寝息を立てている女性の顔を見て、納得した。なぜだかわからないが、レイチェルの顔が至近距離にあった。

何だ、レイチェルだったのか、とうっかり二度寝しそうになり、待て待てと寝惚けた頭をたたき起こした。すぐそばにある彼女の寝顔に見とれかけたが、無理矢理視線を引き剥がした。状況確認のために部屋に視線を移せば、そこは俺の私室で間違いないようだ。つまり、俺がレイチェルの部屋に侵入して、彼女に襲いかかった可能性は低い。そのことに安堵するが、疑問は残った。彼女がなぜ隣で寝ているのかわからない。俺が無意識のうちに隣部屋から連れてきたのだろうか。夢遊病の気はなかったはずだが。

彼女に視線を移した後、自分が左手に掴んでいるものの正体に気づき、赤面した。俺の手はしっかり彼女の胸を掴んでいた。やたらと現実味のある感触は本人のものだと判明した。

無理矢理指を引き剥がそうとしたが、もしかしたら夢の延長なのかもしれない、そうならいいなと思った。そのくらい、この状況は現実味がなかった。どうせ夢なら、と俺の不埒な手は普段は決して触れることのできない彼女の胸の輪郭を確かめるように無意識に動いた。


「…んっ」


柔らかかった。

俺の手の動きに敏感に反応したレイチェルの口から吐息が漏れ、身体がぴくりと震え、頬に朱が差し呼吸が早くなった。さーっと血の気が引き、掴んでいた左手を慌ててぱっと離した。

この状況は非常にまずい。何がまずいかというと、ベッドから離れたくなくなっている身体と、誤解を受けそうな状況だ。

彼女が起きれば全て終わってしまう。誤解だと言ってもまず信じてもらえそうにない。

とりあえずベッドから出ようと思ったが、体が何かにホールドされている事実に気づいた。レイチェルの手が俺の胸元をぎゅっとつかみ、足が俺の身体を挟んでいる。抱き枕にされているようだ。

仕方なく手を下に滑らせ、拘束を解こうと彼女の足に触れる。滑らかな肌に直接触れて、寝間着の裾がめくれ上がっているのだと気づき、彼女の格好を想像して顔に熱が集まり、手がぴたりと止まった。

頭をぶんぶん振って、何とか足の拘束をほどいたが、今度は彼女の手が俺の寝間着を強く掴んでいる事実に気づいた。

丁寧に指を一本ずつ引き剥がしている間に起きてしまうかもしれない。上は諦めて脱いで、何とかベッドから下りた。

意図せずして半裸になってしまったので、適当な上衣に袖を通し、ボタンを留めた。目覚めた時に半裸の男がそばに立っていればそれこそ何かあったと誤解を招きかねない。

そのまま、ベッドの上の彼女に視線を戻せば予想通りあられもない格好で寝ていた。胸元のボタンは三つ外れて大きく開いているし、捲れた裾からは白い膝小僧と太股が覗いている。開いた胸元からは丸い膨らみが覗き、薄い生地を持ち上げていて、先程までの感触が思い出されて俺の心を掻き乱した。髪を下ろして、あどけない顔で寝息を立てている彼女ははっきり言って悶絶するくらい可愛い。

無防備な彼女を頭の先から爪先まで鑑賞して、ごくりと唾を飲み込んだ。意識のない女性に不躾な視線を向けたり、何かをするのは紳士的ではない。

邪念と激しく葛藤した末に視線を逸らしながら、そっと彼女の胸元のボタンを留め、寝間着の裾を直した。そのまま、身体の下に手を差し入れ、ぐっと力を入れてベッドから抱きあげる。寝間着自体がかなり薄いため、彼女の方はなるべく見ないようにする。

誰だ、彼女にこんなものを着せた奴は。風邪でも引いたらどうするんだ。

起きない。よし、このまま隣の部屋に戻して、なかったことにしよう。

そろーっと起こさないようにゆっくり彼女を部屋に運び、中央に鎮座するベッドの上に下ろした。

掛布をかけて、そばを離れようとしたところで、彼女は自分で胸元のボタンを外した。再び留めようと手を伸ばしたところで、彼女が「うん…?」と声を漏らし、もぞりと身じろぎした。

起きるな、起きるな、起きるな、と俺は心の中で祈った。祈りが通じたのか、レイチェルは反対側に寝返りを打って、再び寝息をたて始めた。俺はほっと胸を撫で下ろし、掛布をかけ直して部屋の外に出た。

外の空気を吸って落ち着こうと廊下に続く扉から出たところで、無表情な侍女と鉢合わせ、思わず声を上げそうになる。


「なぜ、ティルナード様がレイチェル様の部屋から…?」


言いかけて、マリアははっとしたように口を押さえた。それから心得たと言わんがばかりに、冷たい目で俺を見た。待て、何を理解した。


「寝ている婚約者に無体なことをするなんて、最低ですわ」


「待て、誤解だ。何も…」


なかった、と否定しようとして、完全に否定できない事実に気づいた。いつ頃からかはわからないが、夜間、同じベッドで添い寝して、少し彼女の身体に触った。身体に触ったのは寝惚けていたのもあり、事故だった。

ただ、彼女の部屋ではなく、俺の部屋でだ。何でそういうことになったのかはわからない。


「レイチェルは確かに、昨夜、この部屋で休んだはずだな?」


「ええ。お部屋を出る前にはベッドの上に腰かけていらっしゃいましたが、それが何か?」


「なぜ、俺の部屋で寝ていたんだろう?」


「ティルナード様の部屋で一緒にお休みになられていたんですか?レイチェル様にはそのような度胸はないように思いますが…」


マリアが不思議そうな顔で言った。

俺も同意する。抱き締めただけで恥ずかしがる彼女が積極的に俺のベッドに入ってくるなんてあり得ない。

俺達の性格的に隣にしても問題ないと感じたから、父も母の悪ふざけを止めなかったんだろう。母だって俺達を冷やかしてからかいたいだけで、本当に何かが起きるのを期待していないのは理解している。両親はこの婚約を喜んでいる。


「ティルナード様がお連れしたのではありませんか?」


やはり、そういう結論になるか。しかし、自分には間続きの扉を通った記憶が全くない。無意識で彼女を運んだとしても、少しは記憶に残っていそうなものだ。


「それが記憶にないんだ」


「では、やはりレイチェル様が?」


「寝る前に彼女に何かおかしな様子はなかったか?」


レイチェルにも夢遊病の気はないはずだ。あったとしたら、ルーカスは言ってきているだろう。問題ない、と判断したから泊まるのに反対しなかったのだ。普段とは違う何かがあったのだろうと思う。


「後でそれとなく、レイチェル様に聞いてみますわ。それはともかく、先程はお顔が赤いようにお見受けしましたが、何もなかったのですよね?」


「抱き締めて寝て、寝惚けて少しだけ触った。あとは運ぶのに…」


抱き合った状態で俺達は寝ていた。ただ、それ以上のことは何もしていない。


「レイチェルには言わないでくれ」


避けられるのも、軽蔑されるのも嫌だ。


「何もなさっていないのですね。でしたら、言いませんわ」


マリアはそう言うと、レイチェルを起こしに向かった。朝食の仕度が整ったらしい。

俺も自室に入り、ベッドに腰を下ろした。朝から冷や汗を掻いたので、少し寝直そうかとベッドに横たわった。鼻先を掠めた見知った花の匂いで、がばっと起き上がった。レイチェルの匂いが微かに残っているようだ。今朝の生殺しの記憶が思い起こされ、寝れるはずがなかった。

二度寝は諦めて、身支度を整えることにした。着替えを手伝いに来た執事が既に着替えを終えた俺を見て驚いたのは数分後のことだ。

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