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31.眠れない夜もあります

つくづく恋愛物書くのに向いてないなぁ、と思う今日この頃(^_^;)

両家の二度目の顔合わせの日がやってきた。公爵家に足を運んだ私達は屋敷の駄々っ広い食堂で食事をした。ダニエル=ヤーバンの一件は公爵一家の耳に入っているから一悶着あるだろう、と私達は身構えていた。両親や私の危惧をよそに結婚の日取りは拍子抜けするほど、あっさり決まった。

両親同士は向かい合って座り、社交や政治の話に夢中だ。

私の向かいにはティルナード様が座っており、斜め前にはサフィニア様が座っている。


「お姉さまは今日は泊まっていかれるのでしょう?」


口に運んだスープをうっかり噴き出しそうになった。そんな予定はなかったから、驚いたのだ。


「あら、いいわね。レイチェルちゃんとはゆっくり話したかったし、案内したい場所もあるのよ」


「きっと気に入ると思うわ」と公爵夫人が可愛らしい声で賛同した。


「あの、泊まる用意はしておりませんので、今日はおいとまを…」


「それなら心配なくてよ?客間は沢山ありますし、いつ嫁いで来られても大丈夫なように、お姉さまのお部屋もお洋服も、ご用意しておりますわ!」


おっふ。あまりの手回しの良さに父の顎が外れた。母の顔もひきつっている。


「そうね。是非お部屋は見てもらいたいわ。お式用のドレスの準備も進めているのよ。いくつか候補があって迷っていたの。レイチェルちゃんの意見が聞きたいわ。そうだわ。ヴィッツ伯爵夫妻も良かったらお泊まりになっていかれてはいかがかしら?」


私は頭が痛くなった。本人の知らぬ間に準備は既に色々進んでいるらしい。普通なら反対されるところだと思うが、反対されるどころか、どうも歓迎されているようで、戸惑いを感じざるを得なかった。

私はルーカスに助けを求めたが、「レイチェルの好きにしたらいい」と言っただけだった。兄の裏切りに私は彼を睨んだが、「いずれは嫁ぐんだから嫁ぎ先に慣れた方が良いだろう?」と正論を返され、私はそれ以上何も言えなかった。

両親もルーカスも翌日は仕事があるため、結局私一人が公爵家に滞在することになった。


サフィニア様に案内を受けた私は、その部屋に入った。駄々っ広い部屋はヴィッツ伯爵家の私の部屋が何個か入りそうである。可愛らしい白を貴重とした部屋には上品な家具が揃えられていた。部屋の真ん中に鎮座する天蓋付きのベッドに目が止まって、私は固まった。明らかにそれは一人で寝るようなサイズのものではない。枕が二つ並べてある。


「夫婦の寝室ですわ」


一つのベッドに二つの枕とはそういうことである。結婚するのだから、と何とか気持ちを納得はさせたものの、実感は湧かなかった。

内心、動揺しながらも部屋の隅にある扉が気になり、首を傾げた。どこかと間続きになっているようだ。ドアノブには鍵の類いはついていない。


「お兄様の私室に繋がってますのよ」


扉の向こうはティルナード様の部屋だと聞かされて、私は耳を疑った。

うん、ちょっと待とうか。落ち着くんだ、レイチェル。おかしくはないが、おかしい。大体、私が今夜さる令嬢のごとく、隣の部屋にいる彼に襲いかかったらどう責任を…。いや、結婚するから、そうなっても問題はないのか。それに私ごとき、ティルナード様ならひょいとかわしそうである。

私はふらふらとよろめいて、洋服箪笥に身体を預けた。

私の両親の部屋は間続きにはなっていない。夫婦の寝室というものは存在して、そこが母の居室になっているところは一緒だ。

聞かなかったことにして、洋服箪笥を開けば、中はびっしりドレスや小物、宝飾品類で溢れていた。寝巻きや下着なんかも揃えられている。

見なかったことにして、バタンと閉じようとしたが、気になったものがあって、私は視線を固定した。私が気になったのは寝間着だ。私が着ているものと違って前をボタンで留めるタイプの長袖である。襟ぐりの開いた、袖と裾にレースをあしらった可愛らしいそれは驚くほど生地が薄かった。今までの人生で縁がない代物だった。


「何を固まっているのですか?」


私は寝間着をサフィニア様に見せたが、サフィニア様は首を傾げただけだった。


「私も似たようなものを着ているのだけど、そんなにおかしくて?こんなものでしょう?」


「お母様も似たようなものを着ているわ」とサフィニア様は何でもないことのように言った。

サフィニア様の寝間着姿を想像して鼻血を噴きそうになったのは言うまでもない。スタイルの良い美少女である彼女はさぞ似合うことだろう。

私の基準がずれているだけで世の中のお嬢様方はこんな格好で寝ているのね、と目が飛び出そうにになった。同年代の家に泊まる機会もほとんどなく、リエラの寝間着姿くらいしか見たことはない。リエラは違ったような気がするが、彼女はスタイルがいいから何を着ても様になったのだ。私も自分の格好に疑問を感じなかった。

しかし、この装備で一晩過ごすのかと思うと、ひどく心もとなく感じた。誰かに会うわけではないのだ、と自分に言い聞かせる。間続きになっているとはいっても、扉を通ってティルナード様が訪ねて来ることも、その逆もまずないだろう。


「お姉さまはどんな格好で寝ていらっしゃるの?」


私は視線をさっと逸らした。色気の欠片もない寝間着を着ていることは確かだ。しかし、寝間着に色気の部分など必要はないと思う。大事なのは機能性と保温効果だ。


「薄い生地でびっくりしてしまって」


私がははっと誤魔化せば、掛物は高級羽毛が使用されていて、保温効果はばっちりである、と言われて納得した。


「世のお嬢様方はこれが普通なんですか?」


「これでも地味な方だと思いますわ。心配なさらなくても、お兄様は寝間着や下着は選んでいませんわよ?私と母で選びましたの」


意匠に凝ったそれはサフィニア様が好きそうな、可愛らしいものだ。

この寝間着姿は少なくとも今夜は彼の目に触れることはないのだ、と無理矢理言い聞かせた。結婚すれば、そんな日が来るのかもしれないが、今は考えないことにする。


「明日も色々お見せしたいところがあるのよ。今日はゆっくりなさってね」


そう言うと、サフィニア様は部屋を出ていった。私は小さな胸を撫で下ろした。

一人になってから寝間着に袖を通すべきか私は悩んだ。そういえば、湯殿はどこだろう。

葛藤していると、ノック音が聞こえて私はびくり、と肩を震わせる。入室を許可すれば、マリアを筆頭に美人メイド軍団が室内に入ってきた。


「レイチェル様、湯殿の準備が整いましたので、お世話させていただきますわ」


私はあれよあれよ、という間に湯殿に案内されて、服を剥ぎ取られて素っ裸にされた。

伯爵家では一人で入浴する。貧相な身体を彼女達の前に晒すことになり、思わず悲鳴を上げそうになる。


「ひ…一人で入れます!」


「奥さまよりレイチェル様のお世話を言いつけられておりますので、それはなりませんわ」


マリアの目が「諦めて下さい」と物語っていた。

湯殿で全身を隈無くピカピカに磨きあげられた後、漸く服を着れると思ったら、今度はベッドに身体を横たえられた。

そのまま、香油を使って全身をマッサージをされて、口からあえぎ声が漏れる。

気持ちが良い、が、何なんだ、この羞恥プレイは。時々、美人メイドに「レイチェル様の肌はとても白くて極め細やかですわ」と誉められて、居たたまれない気分になった。

インドア派の私は基本、室内で過ごすことが多いので、日焼けしていないのはそのせいだと思う。

やっと解放されたと思ったら、やたらとすーすーする例の寝間着にいつの間にか着せかえられていた。我にかえった頃にはメイド達は既に退室していて、着てきた服も片付けられていた。他に代わりになりそうなものはなく、着ないで寝るという選択肢は完全になくなった。鏡の前で自分の姿を確認する勇気はない。

しん、と静まり返った部屋の中央に鎮座する一人寝には大きすぎるベッドの上に座り、落ち着かない気分でもぞもぞと膝小僧を擦りあわせる。

マッサージで肉体的な疲れはとれたが、別の意味で疲れた。

やたらと広い室内に一人きりで、目が冴えて寝付けそうになかった。ベッドから飛び降りて、私はふかふかのスリッパを履いた。

何か飲もうとテーブルの上にあったグラスとジュースの瓶に手を伸ばし、喉を潤した。飲み込んだ瞬間、それがアルコールだったと気づき、後悔した。家族は知っているが、私はお酒に弱いのだ。そのまま、私の意識は飲み込まれ、前後不覚に陥った。

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