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30.嫉妬は醜いものです

本日2回目投稿です。話はぐだぐだではありますが、一応カタツムリな感じで進んでいきます。大分先まで進めたものの、タイトルに困って更新遅れぎみで、すみませんm(__)mねたぎれですね、はい(^_^;)もうタイトルつけるのやめるかな。

私は中庭の木陰にあるベンチに座り、読書をしていた。といっても、内容は全然頭に入ってこない。原因はわかりきっている。

自分がこんなに欲深く、嫉妬深いなんて思わなかった。

本を閉じ、深く溜め息をついた。

彼が浮気をしたわけではないのはわかっている。恋とは本当に欲張りになるものだな、と思う。彼が自分以外の誰かを見るのが嫌だ。自分だけを見て、抱き締めてほしい。他の誰かに触れないでほしい。そんなの無理だとわかっている。私は子供じみた自分の独占欲に戸惑った。


「レイチェル?」


遠慮がちに声をかけられて見上げれば、ティルナード様が立っていた。どんな顔をしていいかわからなくて、思わず顔を逸らしてしまった。本を腕に抱えて、その場を離れようとするが、後ろから「待って」と声をかけられて、私は立ち止まる。


「話がしたいんだ。あなたが嫌がるなら、何もしないと誓うから座ってください」


彼の言葉に素直に従って、私はベンチの端にすとん、と腰をおろした。彼はそんな私の様子を見て困ったように笑い、反対側の端に座った。


「誤解なんです。隣国の王女が留学に来てまして、今日は王弟殿下に一日中、その相手を頼まれていたんです。多分、匂いはその時に…」


ティルナード様は私が機嫌を損ねた原因がわかったようだった。私は恥ずかしくなって、かぁっと耳まで赤くなった。私は顔を見られたくなくて、背を向ける。


「信じてもらえないかもしれませんが、何もありませんでした。確かに、やたらとベタベタ触られたのは認めますが。気分を害してしまったのならすみません」


ベタベタ触られなければ匂いは移らないと思うし、実際彼の言う通りだと思う。でも、タイミングが悪過ぎるし、自分の鼻の良さを呪った。


「もう、いいです。ティルナード様は何も悪くないんです」


私は未だに彼の方を見れず、背中を向けて言った。


「そう思っているなら、レイチェルはどうしてこちらを向いてくれないんですか?」


当然の疑問だと思う。私達はベンチの端と端に不自然に間を空けて座り、私に到ってはティルナード様と反対の方に身体を向けている。

ティルナード様が身じろぎして、私の方に近づくのが気配でわかった。私は腰を浮かして逃げる態勢に入ったが、逃げる前に腕を掴まれ、そのままバランスを崩してティルナード様の膝に座るようにして、彼の腕の中に倒れこんだ。

倒れこんだ拍子に腕に抱えていた本がばさり、と緑の芝生に落ちる。


「嘘つき」


何もしないと約束したくせに、と後ろにいる彼を思わず詰ってしまった。


「今のは不可抗力だ。あなたが俺から逃げようとするから」


そのまま彼の腕が私のお腹に回り、ぐっと力がこめられる。


「離して」


「嫌です。離したら逃げるでしょう?あなたの嫌がることはしたくないが、俺から逃げるというなら話は別です。たとえ嫌がられても、もう逃がしてあげられそうにない。あなたが好きなんだ。だから、諦めて俺に捕まって下さい」


私の抗議はあっさり却下された。

とはいえ、膝の上で抱っこされているこの状態は本当の子供みたいで凄く恥ずかしい。

こんなところを誰かに見られでもしたら、たまったもんじゃない。婚約者だろうと、男性の膝の上に乗るなんてはしたない行為だ。

至近距離で彼の吐息が首筋に当たって身体はそわそわするし、耳に心地が良い声が矢鱈と近いので頭が痺れたようにボーッとして、考えがまとまらなくなる。後ろから抱き締められている状態は非常に落ち着かない。

お腹に回っている腕は嫌でも意識してしまう。


「逃げないので離してください。この体勢はなんというか、凄く嫌です。お願いだから膝から下ろして」


全身で不服だと訴えれば、漸く彼の腕の力が緩んだ。


「逃げないと約束してくれるなら」


「約束しますから」


私がそう言えば、不承不承ながらも彼は私をひょい、と軽々と持ち上げて膝から下ろして、隣に座らせた。そのまま片腕で腰をホールドされて、私は疑惑の目で彼を見上げた。


「信じてませんね?」


「あなたは俺から逃げてばかりですからね」


「何もしないと誓いましたよね?」


「あなたが嫌がるなら、とも言いましたよね?」


ふと彼の腕に恨みがましい目をやれば、ティルナード様の腕が微かに震えているのがわかって、首を傾げた。


「ティルナード様は何をそんなに怖がっているんですか?」


隣に座る彼を見上げて首を傾げれば、サファイアブルーの瞳が大きく揺れた。


「先程も言いましたが、俺たちの間に確かなものなんてないからです。あなたと俺は今は婚約しているが、それだって、あなたの気が変わらないとも限らないでしょう?俺はそれが怖い」


ティルナード様の中のレイチェル=ヴィッツ伯爵令嬢は酷く信用がないらしい。

私ぐらいの女性なんて、探せばいくらでも見つかりそうなもので、彼がここまで私に執着する理由がわからなかった。


「あなたは全くわかっていない。あなたみたいな人は探せばいるかもしれないが、俺はレイチェル、あなたがいいんだ。レイチェルみたいな人、では意味がない」


ティルナード様は繰り返すように、苦しそうに言った。無意識の内かはわからないが、腰に回された腕の力が強くなった。


「私はティルナード様が好きですよ?」


するりと口をついて出た言葉にティルナード様は泣き出しそうな顔になり、私をきつく抱き締めた。

苦しい。色々なものが飛び出そうになる。


「ティル…ナード様。苦しいです」


くぐもった声で漸く伝えれば、彼は力を入れすぎていたことに気づいたのだろう。腕の拘束を緩めた。


「ずっと不安だったんです」


私を抱き締めたまま、ティルナード様はぽつりと呟いた。

いつまでも解放してくれそうな気配は感じられず、私は痺れを切らして、彼に懇願した。


「あの、ティルナード様?離してください」


「嫌だ」


即答された。いつの間にか香水の香りは消えていた。こんなにくっついていれば、代わりに私の匂いが移りそうだな、と笑いそうになって、私は急に恥ずかしくなった。


「離して」


「どうして離さないといけないんです?」


サファイアブルーの熱のこもった瞳に見つめられれば、返す言葉が見つからない。

いつもは大人びたティルナード様が今日はとても子供っぽくて可愛いのもいけないと思う。彼が望むなら、もう少しこのままで良いかなとも思うのだ。移り香さえなければ腕の中は居心地がよく、いつまでもいても良いという気持ちにさえなる。

しかし、この状態で長らくいれば、その内マリアかルーカスに見つかってしまう。それは私が恥ずかしい。


「いちゃつくなら場所を選べと言ったよな?」


ルーカスの呆れたような声が頭上から降ってきた。兄のこの台詞を聞くのは本日二度目のことである。

抱き締められている私からは兄の顔が見えない。ただ、呆れられているのは声音でわかる。そして、ティルナード様は変わらず私を離そうとはしない。


「ティルも懲りないな。いい加減、レイチェルが困ってるから離れろ」


ルーカスはべりっとティルナード様から私を引き剥がし、その背に私を庇った。いつの間にか、マリアも中庭にいた。一体いつから見られていたのか、聞きたくても聞けなかった。


「レイチェルが可愛いのはわかるが、もう少し自重しろ。お前と違ってレイチェルは慣れていないんだ」


「誤解されるようなことを言うな。俺もレイチェルが初めてだし、自重はしている」


「ほーう?どの口で自重していると?まー、確かに昨今は色々進んだ婚約関係も見受けられるようだが、レイチェルも嫌がっているだろう?」


「本気で嫌がっているなら、すぐ離したよ。レイチェルが可愛いのが悪い」


嫌がっていない事実を指摘され、「可愛い」とまで言われ、私は恥ずかしさのあまり悲鳴をあげそうになった。その場から立ち去ろうと、もそもそと足を動かせば、ぐいっと手を伸ばしてティルナード様が無情にも私を捕まえた。再び、彼の腕の中にすっぽりと収まる格好になる。その長い手足は反則だと思う。


「逃げないと約束しましたよね?」


爽やかな笑顔で言われて、私はそんな約束をしたことを早くも後悔した。

身内にラブシーンを見られるなんて、身悶えして死にそうである。穴があれば掘って掘って掘り進めて、そのまま埋まりたい。


「さすがはティルナード様。僭越ながら、私、口から砂糖をはきそうですわ」


「俺は無性に殴ってやりたい気分だね」


ルーカスはポキポキと指を鳴らしながら、獰猛な笑みを浮かべた。鬼い様なら本気でやりかねないから笑えない。


「好きな女性を本気で口説いて何が悪い」


ティルナード様の開き直り発言に兄は毒気を抜かれた顔をして、ため息をついた。私は口説かれていた事実を再認識して、小さくなった。


「妹を弄ぶなら絶対に許さない」


「弄ばないし、責任はとるつもりだから安心しろ。むしろ、弄ばれてるのは俺の方だと思うんだけど?」


ある意味レイチェルは悪女だと思う、とため息混じりにティルナード様に言われたが、心外である。


「責任をとるのは当たり前だ、馬鹿。それとレイチェルにお前を弄んでいる自覚はないから我慢しろ。お前から逃げるのは刷り込みみたいなものだ。諦めろ」


私を蚊帳の外にして、兄達は楽しそうに言い合いを始めた。どうでも良いが、離して欲しい。恋愛経験値の低い私は本気で男性に口説かれた経験も、抱き締められた経験も皆無だ。刺激が強すぎる出来事の連続で気持ちがついていっていない。

ティルナード様の腕の中は居心地は良いのだが、落ち着かない気持ちにもなるのだ。

私の心を読んだのだろうか。マリアはティルナード様の気が逸れている隙に腕の中から私を救出してくれた。


「不毛なので、ほっときましょうね」


マリアはそう言うと、私の背中を押した。


「いいのかしら?」


後ろ髪を引かれるように二人を見れば、言い合いはまだ続いていた。


「いつものことですわ。レイチェル様、ティルナード様は強引なところがありますから嫌なことははっきり嫌だと申し上げた方がよろしいですよ?ティルナード様に強引にいかがわしいことをされそうになったら、馬鹿息子を殴っても大丈夫だと旦那様から言伝てですので、遠慮はなさらないで下さいね」


公爵子息の扱いが雑すぎるし、どう反応したら良いのかわからない。そもそも、いかがわしいことの定義がどこまでを含むのか。そして、彼を殴るなんておそれ多いとも思う。

大体、私の薄っぺらな身体では過ちが起こるとは考え難い。

私が「大袈裟だ」と笑うと、マリアに残念なものを見るような視線を向けられた。

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