閑話~公爵子息と伯爵子息のありし日の思い出~
三回目の投稿です!タイトルが思い浮かびません。そして、ぐだるストーリー。ぐだぐだすみません!
読みにくくてすみません。スマホ更新ですが、未だに機能やら色々よくわかってません。
商談の後でルーカスの執務室に寄り、俺は彼に例の手紙を見せた。
ルーカスは予測していたように眼鏡をずり上げて、眉間を揉んで深い溜め息をついた。どうも心当たりがあるらしい。
「誰なんだ?」
「お前も知っている奴だよ」
「記憶にない」
「まあな。俺も最近、再会してびっくりしたからな。まるで別人だ。昔は丸っこくて気弱で大人しくて、体型をからかわれてはすぐに泣くような情けない奴だったからな。ほら?レイチェルに慰められて、よく女の子に混じって一緒に遊んでいただろう?」
ルーカスの言う人物像を検索して合致する人物を一人だけ思い出した。
「……彼か」
ぽっちゃりと小太りの、七三分けの丸眼鏡の色白い肌の少年を思い出した。
ルーカスの友人からは「白豚」、「がり勉丸眼鏡」とからかわれていた。からかわれる度にいつもめそめそと泣き、レイチェルに手を取られて慰められていたのを思い出した。
ノーマークだったのは彼女が彼を異性として見ていないようだったからだ。それこそ、女の子の輪に混ざっても違和感なく溶け込んでいたぐらいだ。
「忘れていても無理はない。俺も忘れていたぐらいだ。存在感が薄かったし、特別仲が良かったわけでもないからな」
「レイチェルとは?」
「お前が来なくなってからレイチェルは屋敷の奥に引きこもるようになった。お前が婚約したことを知って暫くは塞ぎこんで誰とも会いたがらなかったし、付き合いはぷつりと切れているはずだ。少なくとも妹の口から奴の名前を聞いたことはない。だから、お前と一緒ぐらいは顔を合わせてないことになるな」
じろりと睨むように言われて俺はたじろいだ。ルーカスは俺の最初の婚約をまだ根に持っているらしい。
あれは結果的に俺がレイチェルを一方的に弄んで捨てた形になり、彼女を深く傷つけたのだ。口約束とはいえ、あの時も婚約を前提にしていた。
「八年か」
「ああ。お前は実際には我慢できずに何度かうちに覗きに来たり、トーマスを抱き込んで庭に不法侵入していたから本当の意味で八年ぶりの再会とは言いがたいが?」
ちくちく棘のある言い方に、俺はぐっと言葉を詰まらせた。
「もう二度とあんなことはしない」
「当たり前だ。既にレイチェルはお前に大分傷物にされているんだから責任はしっかりとってもらう。……本当なら婚前に一緒に暮らすのはアウトなんだ。キスするのもな。本人の希望と書類上の結婚がなかったら連れ帰っているところだ」
ルーカスが苦悩するように言った。彼は昔から重度のシスコンだった。
「……幸せにするし、後悔はさせない」
「ああ。そうしてくれ。あいつが自分で選んだんだ。後悔だけは絶対にさせるなよ?」
ルーカスは忌々しそうに俺を見た。
「それで、バーグ伯爵子息の件だけど…」
「ああ。お前の予想通り届いているよ。レイチェル宛に恋文とうちの親父殿宛に求婚の書簡が。うちの親父殿はどうしたものかと胃を押さえているところだ」
「婚約者のいる相手に申し込むのは」
「マナー違反だ。が、奴はお前とレイチェルの関係を本当に誤解しているから厄介なんだ。昔も鈍かったからな。レイチェルが本気でお前を嫌っていて、お前に虐げられていると思っていたらしい。実際にはお互い好きあっているのに素直になれなくて、勝手にすれ違って拗れていっただけで、他の奴から見たら明らかで馬鹿らしい限りだったんだが?」
「……言えよ?」
「恋愛事に他人が口を出しても意味がない。大体、あの時レイチェルは本当はお前が大好きだよって教えてやってもお前は信じなかっただろう?そして、それはレイチェルにも言える」
ルーカスは呆れたように息をついた。俺は考え込んで頷いた。多分、他人の口から聞かされても本人の口から聞かない限りは信じなかったに違いなかった。
「この書簡に書いてあるのは昔、奴から見た真実には違いないんだろうな。確かに、鈍い奴が見たら、レイチェルは嫌々お前の相手をさせられて、お前に付き合わされて虐げられているように見える。実際はお前が果敢にアプローチしては勝手にレイチェルにフラれまくって傷ついていたんだが?」
「……ちゃんと同意は得たし、嫌々ではないはずだ」
少なくとも彼女はそば近くで笑い、毎日一緒に休み、キスをしてくれる。愛を囁けば照れながらも気持ちを返してくれる。手を繋げば遠慮がちに指を絡めてくれる。これが両思いでないなら、俺は思わせ振りなレイチェルに憤り、涙を流しただろう。
「だから、お前達の今をレイモンドは知らない。八年会ってないんだ。あいつの中では今でもお前はレイチェルを苛める嫌な奴で、あいつはお前の手からレイチェルを助けるために強くなったんだろう」
ルーカスは面倒くさそうにはあ、と溜め息をついた。
「何でお前達はいつもややこしいことになるんだ」
「好きでややこしくしている訳じゃない。昔からずっとそばで手を繋ぎたかっただけなんだ」
叶えるのに八年かかったのは俺の失態だ。フィリアとの婚約がなければとうにレイチェルとは正式に夫婦だったかもしれないし、八年間婚約者として一番近くで彼女と思い出を共有できたかもしれない。全て仮定の話で今更どうしようもないことだが、時々は思うのだ。八年前両思いだった事実を知ってからは特に。
「それで、どうするんだ?レイモンドは思い込みが激しい上にしつこいぞ。違うと言っても信じないだろうな。わかっているとは思うが、俺はこれ以上サンドイッチはごめんだからな?」
昔のことを正確に引き合いに出す友人に俺は笑った。
「手紙はレイチェルに渡す。婚約の申し込みは断ってくれないか?」
「断るに決まっている。レイチェルは非公式には既に人妻だからな。既婚者が他の奴と結婚するのは不可能だ。レイモンドは本気だったんだろうが、遅すぎたんだ。もっと早くに迎えに来るべきだったな。そうすればレイチェルは深く考えずにあっさり頷いたろうに」
「もっと早く迎えに来てたら俺が困ったんだけど?大体、納得がいかない。俺との婚約は散々躊躇ったじゃないか」
「そりゃあ、躊躇うさ。忘れているようでも身体はしっかり覚えているからな。次に捕まったら夢中になって逃げられなくなるとわかっている相手なら躊躇うさ」
「…ますます納得がいかない」
「レイチェルは怖がりだからな。レイモンドやカイル相手ならお互い我を忘れてのめり込むことはない」
「意味がわからない」
「あいつを傷つけられるのはお前だけということだ。次にお前が目の前から消えたら、今度こそあいつは壊れるだろう。だから、二度と手離すな。あそこまで傷が癒えるまでに八年かかったんだ。最近まであいつは自分の恋愛には全く興味がなかったし上手く笑えなかった。意味がわかるな?」
「ああ」
最近でこそ大分表情が柔らかくなったが、確かに婚約当初はレイチェルは上手く笑えなかったのだ。昔ほど無邪気に笑わなかった。
「お前が八年前に妹にかけた呪いだ。かけたお前が解くのが筋だろう。またお前が妹を傷つけるようなことがあれば、俺はお前を一生許さない。そのぐらいお前はレイチェルにとってどうでもよくない相手だと覚えておけ」
レイチェルの面影がある顔で言われて、俺はごくりと唾を呑んだ。
「…本当はお前にはやりたくはないんだ。レイチェルがお前に一目惚れしなければ絶対にやらなかった。今でも、お前に会わせるんじゃなかったと思っている。お前のせいでレイチェルはまともな恋愛ができなくなったんだ」
「酷い言いようだな」
「見合いが連敗したのもティルのせいだぞ?あいつ、無自覚でお前と比べてたからな?お前みたいな奴、そういるはずがないじゃないか。だから、妹の結婚相手の条件が厳しくなったんだ。爵位以外お前が満たしたのは当たり前だ。あれはお前が基準だったんだから」
開いた口が塞がらなかった。
「両親には言わなかったけど、あいつはずっとお前を忘れてなくて無意識で探していたんだよ。だから、他の奴では無理だったんだ」
うおおヽ(´Д`;)ノ指摘あった部分の誤字は直ったはず。




