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異世界戦記  作者: 日本武尊
第一章
9/79

第八話 出会い



 辻によって大隊全員に作戦が伝えられて、すぐさま準備と前哨要塞基地へと連絡を入れ、明日に備えて警備を交代しながら休憩を取る事にした。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……」


 その夜中、俺は天幕の中で明日に備えてベッドに横になっていた。


 時間は真夜中の2時を過ぎており、普通なら寝てもおかしくなかった。










 が……



(……眠れない……くそっ)


 緊張のあまりか、目が冴えるに冴えて全く眠気が無く、眠ろうにも眠れなかった。


 明日は先の戦闘よりも多くの人間との戦闘になり、同時に国同士の戦争に介入する事になる。 


 その戦闘に部下達を指揮官として送り出さなければならない。無論戦闘となれば彼らが無事で帰ってくる保証も無い。


 悩みの種は次々と出てきて睡眠を妨げている。


「……」


 俺は半身を起こして頭を軽く掻く。


(いずれこうなるとは思っていたが……こうも早く来るとはな)


「はぁ……」と深くため息を付く。


(争いにならず他の国と交流を深めるはずだったのに、国同士の戦争に巻き込まれるか)


 タイミングの悪い時に出てしまったなぁ……と少しながら外界に出た事を後悔するのだった。



 グゥ~



「……」


 と、腹の虫が軽く鳴る。


(……気晴らしに軽食でも取るか)


 内心呟いてベッドから足を降ろして靴を履き、背嚢の中に入れていた竹の皮で包んだおにぎり三つを取り出す。



「……?」


 竹の皮を剥がそうとした時に、物音が天幕の外からする。


(哨戒中の兵士か)


 別に気にする事でもないと思っておにぎりを手にする。



 しかし物音は更に不自然に続いて、金属の当たる音がする。


「……」


 さすがに怪しんだ俺は警戒しながら手にしたおにぎりを机に置き、ベッドの横に設置している台の上に置いているホルスターより十四年式拳銃を取り出してマガジンを入れ、静かに遊底を引っ張って弾丸一発を装填する。


 拳銃を右手に天幕を出ると、薄暗い中小柄の人影が野営地の中央で何かを探している。


(魔物……じゃないな)


 ゴブリンやコボルトの類ならば、単独行動はしないし、何よりここまでこそこそとしない。なら一瞬哨戒中の歩兵と思ったが、歩兵なら明かりを持っているはず。


「……」


 忍び足でゆっくりと進み、拳銃の安全装置に指を掛ける。


「そこのお前。何をしている」


「ひゃっ!?」


 声を掛けた瞬間その者は驚きの声を上げて一瞬跳ね上がる。


「……あ、ぅ」


 その者は怯えながら俺に身体の正面を向く。


「君は……」


 雲の切れ目から月の光が差し込み、その者の姿を照らし出す。

 小尾丸と一緒に居た、獣人の女の子であった。


 月の光に鈍く反射する白っぽい銀髪に、透き通るような蒼い瞳。しかし怯えてか頭に生えている耳は畳まれ、尻尾は下へと垂れてピタリと固まっている。


「……」


 俺は拳銃をベルトとズボンの間に差し込む。


「すまないな、驚かせてしまって」


「……」


「それより、気が付いてよかった」


「……」


「大丈夫だ。何もしない」


「……」


 しかしまだ怯えた様子で俺を見つめる。



「……俺の名前は西条弘樹。ここの最高責任者だ」


「……サイジョウ……ヒロキ?」


「君の名前は?」


「……わ、私は……」


 女の子は一瞬迷いを見せるも、口を開く。



「……リアス……エーレンベルクと、言います」


「リアスか。良い名前だな」


「っ……あ、ありがとう、ござい、ます……」


 一瞬顔を赤くし、おどおどとしながら頭を下げる。


「ところで、なぜこそこそとしていた?」


「そ、それは……」



 グ~



「っ!」


 理由を言おうとした瞬間リアスの腹の虫が鳴り、顔を赤くして俯く。


「あぁ、腹が減ったのか」


「……」


 コクリと縦に頷く。


「そうだな。口に合うかどうかは分からないが、待っててくれ」


 俺はすぐさま天幕へと戻って、置いてきたおにぎりを取ってくる。




 その後二人は近くの切り株に座り、おにぎりを手にする。


「……」


 初めて見るおにぎりをリアスは色んな角度からマジマジと観ている。


「やっぱり、初めて見るものは口に入れられないか?」


「あっ、いえ。そういうわけじゃないんです。ただ……ちょっとべたべたして」


 冷えているとは言えど、べたべたとするおにぎりの感触に彼女は戸惑いの表情を浮かべている。


「そうか。まぁ、そう思うのも最初の内さ」


 そう言って一口おにぎりを食べる。


「……」


 それを見たリアスは少し悩むも、勇気を出して一口齧る。



「……おいしい、です」


 と、彼女の顔の血色が良くなり、少し尻尾がユサユサと揺れる。


「そうか。口に合ってよかった」


「は、はい。初めての……食感ですが、嫌いじゃ、ありません」


 そう言って一口齧る。


「……でも、このしょっぱい味って……塩、ですか?」


「あぁ。塩を軽く塗している。おにぎり定番の味付けだ」


「そうなんですか」


 リアスは不思議そうにおにぎりを見つめる。


「そんなに塩が珍しいのか?」


「あっ、いえ。塩自体は珍しいんじゃないんです。でも、グラミアムじゃ塩には不純物が混じっている事が多いので……」


「なるほどねぇ」


 呟きながら残りのおにぎりを口に放り込む。


 リアスもそれに続いて、おにぎりを食べ進めた。



「あ、あの……」


「ん?」


 リアスがおにぎりを食べ終えたところで彼女が俺に問い掛ける。


「……サイジョウさんは、私達の事を、どう思っていますか?」


「どうって?」


「……だって、私達は獣人で……人間じゃ、ありませんから」


「……」


 彼女の様子からすると、バーラット帝国のみならず、少なくとも彼女達の様な存在はあまり好ましく思われていないようだ。

 まぁ帝国の影響が大きいと言えるかもしれないが。


「……別に君達の事を偏見な目で見るわけではない」


「……」


「まぁ、正直に言うと俺は君達の様な存在を、見た事が無いからな」


「え……?」


 俺の言葉にリアスは少し驚いたように声を漏らす。


「どうして、ですか?」


「あ~……それはだな……」


 思わず正直に言ってしまった事に後悔するも、もう後戻りは出来ないので話を進める事にする。


「……実を言うと、俺はこうして部下達以外の者と会った事が無いんだ」


「そう、なんですか?」


「あぁ。今まで、外の世界に出た事が無かったんだ」


「……」


「まぁ、今はまだ詳しく言えないんだがな」


「……」


「……尚更怖くなったか?」


「あっ、いえ。そういうわけじゃ、ないんです。ただ―――」


「ただ?」


「……何となく、私と似ている、って」


「似ている?」


 どこか引っ掛かる言葉に首を傾げる。


「……私、お父様やその関係者、お城の人たち以外の、人と話した事があまり無いん、です」


「友達と一緒に話したりはしないのか?」


「……その、お友達とは……あんまり、話せなくて」


「……」


「だから、こうして初めて会った人に、話す事だって、出来ないはず、でした」


「そうか」


「……でも、不思議と、あなたと話していると、楽しい、です」


 と、さっきまで暗かったリアスの表情に微笑みが浮かぶ。


「……」



「まぁ、少し話が逸れたが……姿が何にせよ、みんな生きているじゃないか。言っているやつは言わせておけばいい。生きる権利は誰にだってある」


「……」


「俺はそう思っている」


「……サイジョウさん」


 リアスは名字を呟き、視線を地面に下ろす。



「さてと、もう寝るとするか」


 俺は立ち上がって天幕に戻ろうと歩き出す。


「ま、待ってください」


 と、彼女が呼び止めて、俺は立ち止まった彼女に向き直る。


「……おにぎり……ありがとう、ございました」


「別にいいさ。また食べたくなったら、いつでも言ってくれ」


「は、はい」




「お嬢様!!」


 と、向かい側の天幕より大きな声を上げて小尾丸が出てくる。


「っ!お嬢様!!」


 小尾丸はリアスの姿を見つけるなりすぐさま駆け寄ると身体を調べて怪我が無いのを確認する。

 が、激しく動いたせいか、怪我が疼いて彼女の表情が歪む。


「ご、ご無事でなりよりでした!!」


「お、小尾丸さん」



 その大声に哨戒中だった歩兵が驚き、とっさに野営地へ慌てて戻ってくる。


「総司令官!何かありましたか!?」


 九九式小銃を持って岩瀬中佐が弘樹の元へ駆け寄る。


「いや、何でも無い。驚かせてすまないな。気にせず哨戒に戻ってくれ」


「ハッ!!」


 岩瀬中佐と率いている歩兵達は陸軍式敬礼をしてすぐに哨戒ラインへ戻っていく。



「す、すまない。迷惑を掛けてしまって」


 小尾丸は先ほどの大声に恥じて俺に深々と頭を下げる。

 しかし身体の痛みからか身体が小刻みに震えている。


「いや、あんな状況なら慌てても仕方無いさ」


「そう言ってもらえれば、助かる」


「……」


「ところで、こんな夜中にサイジョウ殿は何を?」


「ちょっと小腹が空いてな。軽食におにぎりを食べようとした所、彼女が野営地をうろついていたんだ」


「おにぎりか。道理でお嬢様から懐かしい匂いがしたわけだ」


「……」


 恥ずかしくなってかリアスは顔が赤く染まって俯く。


「知っているのか?」


「あぁ。大和ノ国に米があったからな。よく食べていたよ」


「そうか。なら、一つ食べるか?」


 と、最後の一つになったおにぎりを小尾丸に差し出す。


「いいのか?」


「あぁ。俺は一つだけで十分だ」


「そうか。では、ありがたく」


 小尾丸は深々と頭を下げ、おにぎりを手にして一口食べる。


「うまい。生まれ故郷を思い出す味だ」


 思い出す故郷の味に自然と笑みが浮かび、あっという間に食べ終える。


「ところで、小尾丸」


「なんだ?」


「さっきからその子をお嬢様って呼んでいるが……彼女は一体?」


「……」


 と、小尾丸の表情に迷いの色が浮かぶ。


「いや、言えない理由があれば、別に言わなくていい」


「そうではない。……この際話した方が良いかもしれないな」


 後半ボソッと呟くと、彼女は間を置いてから口を開く。


「お嬢様は我がグラミアム王国軍の大将軍であられる『アーバレスト・エーレンベルク』。その愛娘だ」


「……」


 親衛隊隊長である程度推測していたが、まさか一国の軍の将軍の娘か。こりゃ大物を助けたもんだな


「そうだったのか。だが、なぜ小尾丸はその大将軍の娘と一緒に?」


「……それはさすがにサイジョウ殿でも、話せない」


「そうか。まぁ、別に聞きたいわけではないからな。むしろ聞いて殺されたりなんかしたらたまったもんじゃないからな」


「そうれもそうだな」


 そう言って彼女は苦笑いを浮かべる。


「では、改めて明日はよろしく頼む」


「あぁ。出来る限りの協力はしよう」


 そう言って弘樹は天幕へと向かい、中へ入る。


「……」


 小尾丸が天幕へ戻る中、リアスは弘樹の入った天幕を見つめている。


「お嬢様?」


 と、小尾丸に声を掛けられてリアスはしばらくして小尾丸と共に天幕へと戻っていく。





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