表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界戦記  作者: 日本武尊
第六章
77/79

第七十五話 作戦と新鋭艦と幻影




 月日は流れて二ヶ月が過ぎる。




「作戦の概要は以上だ」


 アリアが指揮棒を机に置くと、映写機から映し出されていた映像が途切れて薄暗くなっていた部屋に明かりが灯される。 


「大規模な上陸作戦か」


「まるでDデイだな」


 作戦を聞いていた弘樹とトーマスはそれぞれ口にする。


 今回アリアから同盟軍による大規模作戦についての説明があると打診があって、二人はゲルマニア公国へと向かい、説明を受けていた。

 ちなみにスミオネのアルネンだが、こちらは防衛に手一杯な為、不参加となっている。まぁ向こうは海軍力が圧倒的に低いので無理ないが。


 作戦内容はこの大陸のロヴィエア連邦国の国土にある、最も大きな海岸線。そこへゲルマニア公国とリベリアン合衆国、扶桑国の三ヶ国を主体とした同盟軍による大規模上陸作戦を行うものだ。


 作戦の内容や場所から、史実のノルマンディ上陸作戦を彷彿させるものだった。


 しかしかつてその上陸作戦を阻止しようとしたドイツの地で生まれた彼女がその国をモデルにした仮想国家を率いてノルマンディ上陸作戦を彷彿させる上陸作戦を行うとは、なんと皮肉なことか。



 作戦の流れを簡単に説明すると、その海岸線付近の海域に上陸部隊を連れた艦隊を集結させ、最初に戦艦による艦砲射撃を行って海岸線の防衛戦力を吹き飛ばす。次に航空戦力によってその奥の防衛戦力及び軍事施設を攻撃して排除する。

 その後上陸部隊を海岸線に上陸させ、一気に海岸線付近を制圧して橋頭堡を築く。



「大まかな作戦は分かった。まぁこういう作戦があると思って戦力の増強は行ってきたが」


「あぁ。だが、連中とて何も警戒していない筈が無いだろう。全力で阻止しにくると思うが?」


 二人が言う通り、これだけの規模の作戦を行うとなると当然目立つ。故に向こうも総力を上げて阻止しにくるだろう。


「分かっている。事前に我が方のUボート群による哨戒ラインに居るであろう哨戒艦を一掃する。当然潜水艦もな」


「だが、それだとかえって警戒されるだろう?」


「あぁ。分かっている。だが、それでいい」


「と言うと?」


「向こうにこちらが大きく出ると、あえて警戒させておいて囮に引っ掛けやすくさせる」


「囮か」


「まぁ、警戒している分、引っ掛かりやすくなるが」


「やつは結構頭が切れる。それにブリタニアのあいつも気付くと思うが?」


「かもしれんな。だが、戦局を大きく変えるには、これしかないのも事実だ」


「……」


 現時点で戦局はこう着状態が続いており、悪戯に互いの戦力は削られつつあった。いや、削れ具合はどちらかと言うと連合軍側の方が多いのだが。


「囮の艦隊は本命とは別の場所に攻撃を行う様な動きを見させて向こうの視線を誘導させる。その後やつらの目が囮に向いている内に本命を送る」


「囮の艦隊が向かうのは連中の要塞がある場所だったな」


「その通りだ。そこも敵にとっては重要の拠点だ。そこを占領されることは、連中にとって痛手となる」


「囮の方が本命っぽいんだが」


「だが、向こうにとっては痛手だが、ハッキリ言って要塞を奪取したところで、こちらとしては利用価値は無い」


「……」


「それに、向こうも全力で来るのだから、ロヴィエア連邦国海軍の最大戦力と言われる戦艦部隊も来るだろう」


「戦艦部隊か」


「ソビエツキー・ソユーズ級を中核にしてそうだな」


「確かにそうだが、その戦艦部隊に最近噂になっている新鋭艦を導入したと言う情報が諜報員より齎された」


「新鋭艦か。以前から情報はあったが……」


「どんな艦なのか分かったのか?」


「あぁ。大体はな」


 アリアは渋い顔を浮かべると、壁際に大きめの封筒を持って立ってる兵士に目配りし、兵士はすぐにアリアに近付いて封筒を手渡す。


「新鋭艦は戦艦で、戦艦の名前は『スターリングラード級戦艦』。ソビエツキー・ソユーズ級を拡大発展させた戦艦のようだ」


「拡大発展型か(紀伊型のような戦艦か)」


 弘樹は自分所の紀伊型戦艦を思い出す。


「それで、この戦艦なのだが……非常に厄介だ」


「何だ? とんでもなくデカイって言うのか?」


「確かにデカイな。船体も、主砲の口径もな」


「ソユーズが40だったから、46か?」


「そうだ」


「46か。侮れんな」


 トーマスは腕を組んで静かに唸る。


 46cmの主砲を搭載しているとなると、当然防御力も高いはずだ。当然威力も口径相応だろう。


「だが、問題はその主砲だ」


「ん?」


「どういうことだ?」



「……スターリングラード級戦艦は、砲塔1基につき砲身が4本。つまり4連装だ」


「……は?」


「おいおいおいおい!?」


 アリアの口からとんでもないことが発せられて二人は驚く。


「その上、主砲は全てで4基。つまり4基16門搭載されている」


「マジか……」


「クレイジーだな」


「あぁ」


 二人に同意するようにアリアは頷く。


「しかし4連装とか、故障のイメージしかないな」


「あぁ。火力を優先したいのは分かるが、4連装とはな」


「設計図はさすがに手に入れることは出来なかったが、完成時の写真を二枚入手した」


 アリアは封筒から二枚の拡大した写真を取り出し、机の上に出す。どうやら横と斜めから写した写真のようだ。


「これは」


「またでかいな。やっぱり構造上300mオーバー、大きく見ても350以上だろうな」


「だろうな。しかし、よくこんな代物を」


 二人は驚いてそれぞれの感想を口にする。


「デザインはソビエツキー・ソユーズ級を踏襲しているのか。その分4連装砲が目立つな」


「うむ。それに主砲の形状だが……」


 弘樹はスターリングラード級戦艦の4連装を見る。


「これ、見た感じフランス式の4連装砲だな」


「フランス式?」


「あぁ。4連装砲を持った戦艦はイギリスのキングジョージ5世級と、フランスのリシュリュー級だけだ。どちら共似ているが、構造は違うんだ」


「ふむ?」


 トーマスは首を傾げる。


「イギリスは一括構造で作られている。だから故障が頻発したと言われている」


「それは有名な話だよな。まぁ英国だし?」


 イギリスで建造されたキングジョージ5世級戦艦は四連装砲を2基、連装砲を2基という変わった武装配置をしている戦艦だ。この戦艦は癖の強い戦艦で有名だが、特に癖が強いのは搭載している4連装砲だ。


 キングジョージ5世級戦艦の4連装砲は一括構造をした物であり、横幅を抑えた設計になっている。しかし砲門が増えれば増えるほど構造は複雑化し、故に故障が頻発した。その代わり幅を抑えることができるので、一長一短といった所だろう。


「あぁ。一方のフランスのは大雑把に言えば連装砲を横に繋げた構造をしている」


 一方フランスで建造されたリシュリュー級戦艦は4連装砲を前部に2基搭載しているこちらも変わった戦艦であるが、砲の威力はこちらの方が高い。


 リシュリュー級戦艦の4連装砲は大雑把に言えば連装砲を2基横に繋げたような構造をしており、四本ある砲身の中央の間が開いているのが特徴だ。イギリス製と違い、連装砲を横に繋げた構造をしているので、砲身関連の構造は見た目によらず単純であり、故障は少なかったそうである。


 その上、中央は装甲で隔たれているので、仮に片方が破壊されても、もう片方は撃ち続けられるし、誘爆の可能性を抑えている。まぁその分横幅を取るのが欠点だろう。


「このスターリングラード級戦艦も、見た感じフランス式の4連装砲を採用しているはずだ」 


「なるほど。威力だけならず、信頼性も求めている。抜かりないな」


「その上、この大きさだ。生半可な攻撃じゃダメージは与えられんな」


「航空攻撃、は無理か。単独で動いていない限りな」


「戦艦同士でも、ソユーズのような構造なら46cm砲にも耐えられる強固な装甲を持っているだろうな」


 ソビエツキー・ソユーズ級は強固な構造をしており、例え46cm砲でも距離次第では防げれるのだ。


「となると、弘樹の所のモンスターしか対等に戦えない、か」


「聞き捨てならんな」


 と、黙っていたアリアが口を開く。


「50cm砲を持つフォン・ヒンデンブルグが就役すれば、アカの独裁者の名前を取った戦艦と対等に戦える」


「でも完成しているのか?」


「……」


 トーマスに指摘されてアリアは視線を逸らす。


 最近ようやく46cm砲を搭載した『デアフリンガー級戦艦』の一番艦が竣工したばかりで、フォン・ヒンデンブルク級はまだ建造中である。

 まぁこれもリベリアンと扶桑の二ヶ国の技術援助があってこそ出来たことだが。


「まぁ、何だ。どの道この作戦はまだずっと先の話だな。それまで作戦を練りつつ、戦力の増強を行おう。俺の所も、やる事が多いからな」


 近日中に扶桑国は前回のテロル諸島を襲ったロヴィエア連邦軍の中間補給拠点に対して攻略を行う予定であり、そこで多くの陸海空の新兵器を投入する。

 その中には例の兵器が投入される。


「それもそうか。こっちも戦力の増強と調整を行う。上陸作戦となると、大分集めないといけないからな」


「こちらも戦力を調整をしておこう。それと、露払いもな」


「頼む。こちらもその露払いを手伝おう(まぁ、既に動いているんだけどな)」


 弘樹は内心呟く。



 その後は今後の方針を話し合い、会議は終了した。





 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 所変わって海中。




 ゆっくりと暗い海の中を進むいくつもの影があった。



 それは扶桑海軍の秘匿艦隊……『幻影艦隊』である。



 しかしその陣営は以前とは様変わりしていた。


 幻影艦隊の主力である伊400型潜水艦は近代化改装を受けて原型こそあるが、その大きさは以前よりも大きく、艦載機を搭載する格納庫を撤去した代わりに潜水艦用のVLSを六門搭載している。

 そして艦首にある魚雷発射管も八門から六門に減らされたが、携行魚雷数を増やしている。


 その他にも伊400型潜水艦以上に大きな潜水艦が四隻航行している。


『海王型原子力潜水艦』。扶桑国が建造した初の原子炉を搭載した戦略原子力潜水艦である。


 最新鋭の技術を惜しみなく投入された最新鋭の潜水艦で、艦首に魚雷発射管を六門持ち、VLSを船体に八門持つ潜水艦であり、小型化された原子炉を搭載している。


 旗艦の海王の他に、『海龍』『海山』『海鳳』が幻影艦隊に集中的に配備されている。


 幻影艦隊の目的はロヴィエア連邦海軍の艦隊が駐留する中間補給拠点に対しての攻撃であった。


 湾口施設もそうだが、駐留している艦隊にも攻撃を仕掛けて、損傷、もしくは撃沈が目的である。



「……」


 旗艦海王の指令所で、小原は腕を組んでその時を待っていた。



「長官。間も無く目標海域です」


「うむ」


 艦長から報告を聞き、小原は組んでいた腕を解く。


「各艦に通達。誘導弾、発射用意!」


「VLS開放! 諸元入力!」


 艦長の指示ですぐさま各艦に指示が伝達される。


 海王の船体にあるVLSのセルが開放されてミサイルの弾頭が出現する。


 他の艦もVLSのセルが開放され、ミサイルの発射体制を取る。


『対地誘導弾、発射準備完了!』


 指令所にVLSの発射準備完了の報告が入る。 


()いっ!!」


 小原の指示と共に海王の船体中央にあるVLSから八発の艦対地ミサイルが次々と発射される。近くにいる他の潜水艦もVLSから艦対地ミサイルを発射する。


 放たれたミサイルは次々と海面へと飛び出ると暗闇の中で二つ目のロケットブースターに点火して勢いよく加速して飛翔する。




 そしていくつものミサイルは轟音とロケットブースターから噴射される炎の光と共に湾内の港に停泊している軍艦や軍港施設へと次々と着弾し、眩い光と共に爆発を起こす。


 直撃を受けたクレーンは倒壊し、積み上げられたコンテナは爆風で吹き飛ばされ、輸送船から積み出された弾薬に引火して爆発を起こした。

 停泊している軍艦や輸送船はミサイルの直撃を受けて船体は大きく破壊されながら揺れ、破壊された箇所から海水が流れ込んで傾斜していく。


 突然の襲撃にロヴィエア軍は混乱し、すぐさま停泊させている艦艇を湾内から出そうと行動を起こす。


 しばらくして幻影艦隊の第二波攻撃が来て、損傷して炎を上げている軍艦や輸送船にミサイルが直撃し、今度こそ破壊されて湾内に着底する。


 爆撃でもなく、砲撃でもない。その上どこから攻撃が来ているのかすら分からず、ロヴィエア軍は混乱の極みに達しようとしていた。


 その後攻撃が来なかったとあって火事が起きている場所で消火作業が行われると同時に、運よく湾内に残っている艦隊は出港して脱出を図っていた。



 しかし、それが幻影艦隊の狙いだ。



「敵艦隊は湾内から出てきたか」


 潜望鏡から艦隊が慌てた様子で湾内から出ているのを確認した小原は潜望鏡から離れる。


「各艦に打電。誘導魚雷発射用意!」


「85式誘導魚雷、発射用意!!」


 艦長は魚雷室に指示を出すと、すぐに他の艦に指示を送る。


  

『こちら魚雷室。魚雷発射管一番から六番に調整した85式誘導魚雷の装填完了!』


 少しして魚雷室から発射準備完了の報告が入る。


「左回頭40度。一番から六番、()いっ!!」


 小原の号令と共に各潜水艦は左へと艦首を向け、直後に海王の艦首にある六門の発射管から85式誘導魚雷が一斉に放たれる。

 他の艦も次々と艦首魚雷発射管から85式誘導魚雷を放つ。


 敵艦隊とは明後日の方向へと魚雷は海中を突き進むが、しばらく進むと右へと弧を描くように進んでいき、やがて敵艦隊を射線上に捉える。


 そして魚雷は外側を航行している駆逐艦や巡洋艦の船体に直撃し、巨大な水柱を上げる。その内数本は駆逐艦や巡洋艦の合間を抜けて輸送船へと魚雷が直撃して水柱を上げ、船体を消失させた。


『命中を確認! 殆どの艦が傾斜しています!』


 僚艦からの報告が入り、潜望鏡を覗いている小原は頷く。


『敵駆逐艦が艦隊を離れていきます!』


「掛かりましたな」


「あぁ」


 小原の視界には潜水艦を仕留めようと運よく無事だった駆逐艦が幻影艦隊がいる方向とは明後日の方向へと向かっていた。


 魚雷をあえて湾曲させるように発射させたのは、敵に魚雷発射方向を誤認させる為だ。そしてその方向に潜水艦のエンジン音を発する模擬魚雷を放っているので、そこに潜水艦が居ると誤認させる為でもある。


 まぁ、この策が使えるのはあくまでも今だけだが。


 そして策は見事に嵌り、駆逐艦は明後日の方向にて爆雷を投下している。


「目的は達した。帰還する」


「はっ! 180度回頭!」


 艦長は指示を出して海王はゆっくりと船体を旋回させて艦首を後ろに向け、海域を離脱する。周りの僚艦もその後を付いて行き、やがて幻影艦隊は海域から姿を消した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ