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異世界戦記  作者: 日本武尊
第六章
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第七十一話





 その後二人は海軍基地を後にしてゲルマニア公国の街中に入った。




「後で連絡を入れるから、迎えに来てくれ」


「分かりました」


 アリアが運転手にそう告げて扉を閉めて弘樹の元へと歩む。


「にしても、こんな人気のある場所で話をするのか?」


 弘樹は周囲を見回すと、そこはゲルマニア公国の首都であるベルリンの中で一番大きな広場であり、そこでは人間もそうだが、様々な種族の親子連れが居た。


「ここは私のお気に入りの場所でな。よく来るんだ」


「そんな場所で軍事機密の内容を話すのか」


 機密性ガバガバな気がするんだが。


「気にしたら負けだ」


「いやなんでやねん」


 弘樹は思わずツッコミを入れる。


「まぁ、周囲は親衛隊や憲兵が警備している。不審な人物が居ればすぐに拘束する」


「そうなのか。だが、国のトップがここに来ると周りが落ち着かないと思うんだが?」


「だからお互い変装して来たのだろう?」


 アリアは両腕を軽く横に広げて自分の格好を見せる。


 髪型こそ変わっていないが、頭には赤と黒のチェック柄のキャスケットを被り黒いフレームの眼鏡を掛けている。服装は白いシャツに赤と黒の縞々のネクタイを締めてその上に黒いロングコートを着て首に赤と黒のチェック柄のマフラーを巻いており、キャスケットと同じ赤と黒にチェック柄のプリーツスカートを穿き、黒タイツに茶色で膝上まであるブーツを履いている。

 今の季節なら相応の格好だろう。


 見た感じ国のトップと言うより地球での今時の若い女の子の様な感じだ。まぁパッと見はこんな女の子が国のトップとは考えられんわな。


 一方の弘樹は黒いスーツを着ていた。さすがに他国の軍隊の軍服を着ているとなると目立ってしまうので、彼女が着替えを用意した。


「付いて来い」


 アリアはコートのポケットに両手を突っ込んで歩き出し、弘樹が後に付いて行く。



「やぁいらっしゃい」


 広場で開いているホットドッグの出店の前に二人が来ると、店主のおじさんがアリアに気付く。


「いつもの二ついいかしら?」


「あぁいいよ。ちょっと待って居てくれ」


 おじさんはすぐにホットドッグを作り始める。


「常連かい」


「ここのホットドッグは中々美味いのよ。だからよく来るのよ」


「嬢ちゃんはいつも来てくれるからね」


 と、おじさんは笑みを浮かべる。


(見た所アリアが総統だって言うのに気付いてないっぽいな。目の前に居る彼女がこの国の総統だと知ったら卒倒するんじゃないか?)


 下手なドッキリよりタチが悪いな。


 ってか彼女の顔を知らないはずはないんだけどなぁ。それでも気付かないとは。まぁいつものイメージとはかけ離れた格好だから案外気付かれないものかもしれない。


(こうして見るとどこにでも居るような女の子だよな)


 チラッとアリアを見ながら弘樹は内心呟く。


(そういやアリアって今いくつなんだ?)


 些細な疑問が浮かんだが、今は気にするような事じゃないか。それに、女性にそういう事を聞くのは野暮ってやつだ。




 二人はホットドッグと近くの出店で販売されてコーヒーが入った紙コップを手にして広場に設置されているベンチに腰掛けた。


「それで、話の続きだが」


「あぁ。フレアメタルか」


 アリアはホットドッグを一口齧り、よく噛んで飲み込んでから口を開く。


「フレアメタルは分かりやすく言えば耐熱性に優れた合金だ」


「耐熱性にか」


「あぁ。こっちはHL合金と比べればコストは低い方だから、割と大量生産しやすい。我々の方ではジェットエンジンに使用する金属として使っている」


「なるほど。だからエンジンの寿命が延びているのか」


「そういうことだ。その上HL合金ほどではないが、結構な強度がある」


「そのフレアメタルだが、どれだけ耐熱性に優れているんだ?」


「あぁ。高熱を発する特別な装置を使い、鋼鉄製の南京錠とフレアメタルで作った南京錠を使った耐熱試験を行った。結果鋼鉄製の南京錠は真っ赤にドロドロに溶けて原形を留めず、フレアメタル製の南京錠は真っ赤に赤熱化していたが、全く形を崩していなかった」


「……」


 鋼鉄って確か1000から1500前後で溶けるんだっけ? それでも溶けずに原型を留めているって……。


「その後同じフレアメタル製の南京錠を2つ用意して同じ装置で熱し、真っ赤になった2つの片方はゆっくりと冷却し、もう片方は冷や水を掛けて急激に冷却してみた」


「結果は?」


「どちらも異常なし。普通通り鍵として使える。まぁ強いて言うなら少し表面に煤が付いて黒くなっているぐらいか」


「それは凄いな。ちなみにその装置は何度の熱を発するんだ?」


「2500°以上の熱を発する。だが、フレアメタルは理論上それ以上の熱にも耐えられる」


「ふむ……」


 弘樹はその言葉を聞いて一考する。


 このフレアメタル。戦艦大和を改造して試験を行っている開発中のアレ(・・)に使えそうだな。アレ(・・)は発生する膨大な熱によってどんな金属も溶かしてしまって連続使用が出来ずにいて、開発が頓挫していた。だが、それさえ解決できれば実用化はそう遠くは無い。

 これならきっと大きな進展を齎してくれるかもしれない。


「ちなみにこれはリベリアンには教えていないものだ」


 アリアはそういいながらコーヒーの入った紙コップを口にして一口飲む。


「そうなのか。まぁ、理由は聞かなくていいが」


 そう言って弘樹はホットドッグを一口齧る。


「それで最後にステルス塗装だが、これは呼んで字の如くだ」


「ふむ。だが、いくら何でも時代がすっ飛んでいないか?」


「私もそう思っている。まぁ、これを見つけたのは偶然の産物だったがな」


「偶然なのか?」


「あぁ。我が国の領土内にある鉱脈から見つかったとある鉱石が全ての始まりだ」


 ホットドッグの残りを口に放り込み、よく噛んでから飲み込む。


「その鉱石……あぁ名前は鉱山の名前を取って『エルグラ鉱石』と言って、その鉱石は極めて特殊な性質を持っていてな。どうやら電波の類を吸収する性質を持っている」


「電波を?」


「あぁ。それはレーダーから発する電波もだ。研究した所この鉱石は微粒子レベルでも同じ粒子が集まっていれば同じ効果を発揮する事が分かった」


「……」


「その後微粒子までに細かくした鉱石を特殊な塗料に混ぜて鉄板にムラ無く塗装して実験を行った。ただの鉄板ではレーダーから発せられた電波に反射してレーダーに捉える事が出来たが、その鉱石入りの塗料で塗装した鉄板はレーダーに捉える事が出来なかった」


「ふむ」


「その後何度も試験を行ったが、結果は塗装した鉄板はレーダーには映らないと言うのが分かった」


「それはまた」


 弘樹はアリアの口から告げられた試験結果に驚きを隠せなかった。


「ステルス塗料の効果が分かった後、航空機にステルス塗装を施して同じ効果が得られるか試験を行ったのだが……」


 するとアリアの表情が険しくなる。


「何かあったのか?」


「……さすがに凹凸が激しいと、ステルス塗装を施しても完全にレーダーの目を誤魔化せなかった」


「そりゃそうだろうな」


 現代のステルス機がなぜ凹凸が少ない形状をしているのは、レーダーの反射を極力抑える為だからな。


「一応使用した機種はFW190とMe262だ」


「レシプロ機とジェット機か」


「まぁ、前者はほとんど効果は得られず、後者はレーダーに映ったり映らなかったり、効果はバラバラ」


「ふむ」


「実験結果から、凹凸の少ない機体でなければ十分な効果は出ないと言う結論に至った」


「そうか」


 弘樹はこの技術にも一考する。


 扶桑国ではステルス戦闘機や爆撃機の開発自体は行われていたが、この塗装があれば恐らくかなり大きな進展を見せる可能性があった。


「これも、リベリアンには伝えていないやつだ」


「これもかよ」


 何か、やけに俺のところに拘るな。


「にしても、取引材料としては破格じゃないか? こっちの品が霞むレベルなんだが」


 こっちは航空機2機種と魚雷だけなのに、向こうは一国の軍事機密を4つもこちらにくれるのだ。割に合わないと思うんだが。


「構わんよ。扶桑国にはもっと力を付けてもらわなければならない。この戦いを終わらせる為にもな」


「戦いを終わらせる、か」


 アリアの言葉に弘樹は表情を暗くする。


 戦いを終わらせる。その点だけを見れば、扶桑国には出来なくはないのだから。


 何せ扶桑国には戦略兵器をいくつも保有している。それを使えば戦局を180°変えるのも容易い。しかも先の大戦で初めて使用された特爆よりも、強力なやつが現在扶桑国にはあるし、更なる戦術兵器の開発も進んで実用化までは目と鼻の先だ。


(それを使えば、戦いは終わるんだろうが……)


 まぁ、現在の扶桑国の兵器や同盟軍の戦力があれば、それを使う必要は無いんだが。


(あくまでもそれは抑止力として持っていなければならない。使うわけにはいかない)


 使えばどんな事になるかなど、火を見るより明らかだ。


「まぁ、扶桑国に渡せるやつはこんなものだな」


「凄い代物だっていうのは分かった。だが、さすがに国のトップでも独断で決められるものじゃない。本国で話し合ってどうするかを決める。が、代物が代物だからな。すぐに話は通るだろう」


 それに輸出する物も旧式の兵器だから、軍の方も躊躇う理由は無いだろう。


「それは何よりだ」


 アリアはニヤリとするとベンチから立ち上がって包み紙と紙コップをゴミ箱にそれぞれ分けて捨てる。


「それで、これからどうする?」


「どうするも、リベリアンに戻るのは明日の昼だからな。適当に時間を潰すさ」


「そうか。ならば、今夜私の家で飲むか? 久しぶりに二人っきりで話がしたいからな」


「今夜か。まぁ、別にいいけど、仕事はいいのか?」


「もう今日の分は終わらせている。追加の分があっても部下がやってくれる」


「そ、そうなのか」


 弘樹は思わず苦笑いを浮かべる。


「まぁ夜まで時間はある。それまでホテルに先ほどの機密資料を送っておこう。それは国を出るまで我々が管理するが、扶桑国に戻るのならリベリアンに流出させない条件でそちらに譲渡させる」


「あぁ、分かった」


 それからは迎えが来るまで二人は雑談を交わしたりして時間を潰した。




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