第七十話 ゲルマニア公国、驚異の科学力
その後ゲルマニア公国、リベリアン合衆国、スミオネ共和国の同盟軍は新たに扶桑国を加え、今後の計画を練って話し合った。主に今後どういった動きを各国でするか、戦力配分をどうするかを。
話し合いの結果、扶桑国は更なる戦力の派遣を同盟軍内の話し合いで決定し、弘樹が本国へと帰った時にそれを話し合う事になった。もちろんリベリアンも陸海の戦力を更に送る事が決まった。
スミオネ共和国は扶桑国へ武器兵器の輸入を要請し、扶桑国側も旧式兵器であればという事で仮契約をした。
まぁ、最終的には本国に戻って決めなければならないのでどれも実現までに時間は掛かるが。
何はともあれ、同盟軍は新たな戦力を招き入れ、連合軍への反撃準備を整えるのであった。
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「どうだ? 我がゲルマニア公国が誇る戦車を見た感想は?」
自慢げにアリアは俺に感想を述べるように問う。
「まぁ、凄いとしか言いようがないな」
弘樹はアリアと歩きながら感想を述べる。
話し合いが終わった後、弘樹はアリアに連れられてゲルマニア公国の陸海空軍の施設の視察を行っていた。
二人は現在陸軍の基地を訪れており、二人の目の前にはかの有名なナチスドイツの戦車たちが多く並んでいた。
ゲルマニア公国陸軍の主力であるパンターG型と最新鋭の戦車としてティーガーⅠから更新が進められているティーガーⅡが並べられており、どの車輌も整備が行われていた。中には駆逐戦車や自走砲もちらほらと確認できる。
「パンターは見た目こそG型だが、主砲は56口径の88mm砲を搭載し、足回りは転輪をティーガーⅠの後期型やティーガーⅡのように鋼製の転輪にしてサスペンションはティーガーⅡとほぼ同じ規格にしている」
「整備性の向上の為か」
「そうだ。あれもその一環だ」
アリアが指差す方向には、パンターやティーガーⅡの車体後部のエンジンルームからエンジンがクレーンで吊らされて引き抜かれたり、収められたりしていた。
「エンジンをパワーパック化しているのか」
「あぁ。どちらのエンジンも史実よりパワーと燃費を、更に共通化して整備性を向上させている。だからいざとなればエンジンを使い回せる」
「使い回すって、それかなり不味い時になるだろ」
「まぁ末期のドイツ軍並みな状況でなければ想定されない状況だ。普段ではありえんよ」
「まぁそうだろうな」
弘樹はティーガーⅡの目の前に止まり、その姿に圧倒される。
(それにしても、目の前に立っただけでこの圧倒的な存在感。当時対峙した連合軍の兵士はさぞ恐ろしかったんだろうな)
内心呟きながらティーガーⅡを見つめる。半世紀以上前の戦車だと言うのに、その威圧感は現代戦車に劣らない。
現代戦車もそうだが、やはりこんな巨大な戦車が迫ってくると考えると、生きた心地がしないな。
「ティーガーⅡは設計自体を大きく改めている。簡単に言えば車体も砲塔も一回りほど大きくして主砲は88mmから105mm砲にしている」
史実のティーガーⅡは105mm砲を搭載する計画があり、実際に検証的な意味で設計されていた。まぁ砲弾の搭載に問題があったのでそのまま搭載するわけには行かなかったが。
「それは凄いが、設計を変更する必要はあったのか?」
「105mm砲を搭載する関係で大きくせざるをえなかったのだ」
「まぁそりゃそうだろうが、エンジンはどうなんだ? パンターと同じ物なら明らかに出力不足だろ」
実際パンターやティーガーⅠのエンジンとほぼ同じ物を搭載していたせいで重量に対して明らかな出力が不足しており、史実では戦闘で破壊された数より燃料切れ、もしくは故障によって放棄された車輌が多かったそうな。
「そこなら心配ない。むしろパンターの方が共有化しているのだ」
「つまり?」
弘樹は首を傾げる。
「パンターにはティーガーⅡの為に開発した大出力の新型のディーゼルエンジンを乗せている。お陰でパンターの機動力は現代戦車並みにあるぞ」
「ディーゼルエンジンを積んでいるのか?」
「あぁ。お陰で戦場での発火率は減少している」
「だが、ディーゼルとなると燃費が」
「当然高くなるだろうな。だが、設計を変更しているおかげで燃料の搭載量は増えているし、エンジン自体も燃焼効率を上げてパワーの伝導率を向上させることで燃費自体はティーガーⅠ並に抑えている」
「その時点で凄いんだが、ティーガーⅡの設計的に、運用は大丈夫なのか?」
ティーガーⅡは末期のドイツ軍の状況だから多少の欠点があっても性能で補う事が出来たようなものだ。しかし現状ではそうは行かないのでは?
「そこは心配ない。サスペンション等の足回り関連の強化はそうだが、こいつの装甲は史実とは全く異なる構造と素材で出来ている。お陰で重量は史実の3分の2しかない」
「マジで?」
「本気と書いてマジだ」
「……」
「我がゲルマニアの技術力は扶桑国を除けば一歩追随を許していない」
「……」
うーん。なぜか知らんがどこぞの少佐の台詞が脳裏を過ぎる。
まぁ実際にゲームでもそのチートっぷりはあるけどさぁ。ちなみに資源に関しては他国と比べるとかなりビンボーな上に人員も少ないとあって思うように開発は進まないのが難点だったな。
「そのおかげでティーガーⅡの攻守走の性能は軽く第1世代の主力戦車並はあるぞ」
「まじかよ」
第二次世界大戦時のレベルでこの技術力……。これだからゲルマニアは今後が恐ろしいんだ。
「まぁ、これだけの高性能だ。当然性能相応のコストが掛かってな。大量生産と言うわけにはいかないんだ」
「まぁそうだろうな」
アリアは苦笑いを浮かべてティーガーⅡやパンターを見る。
「だから、装備の更新が進んでいるとは言っても、型の古い戦車は未だに一級戦力として現役なのだ」
「なるほどねぇ」
弘樹は整備を受けている戦車達の中に、ちらほらと見えるティーガーⅠやⅣ号戦車、Ⅲ号突撃砲等の戦車を見て納得する。
「まぁ、当然そのままではイワン共の戦車に対抗するには力不足だ。ここで多少なりの強化はしている。まぁ大半は装甲と火力、それに伴って足回りの強化だな」
「まぁ所詮付け焼刃程度のやり方だがな」と付け加える。
すると上空から甲高い音が響き二人は空を見上げると、9機の航空機が編隊を組んで飛行していた。
「Me262か」
「あぁ。ゲルマニア初のジェット戦闘機だ」
「まぁ史実でも大戦中に開発されていたけど、あれも史実どおりじゃないんだろ」
「ご名答。全体的に設計を見直して純粋な戦闘機として性能を向上させた」
「どのくらい上がったんだ?」
「そうだな。朝鮮戦争辺りのジェット戦闘機並はあるだろうな」
「結構上がったな」
「あぁ。まぁそれでも航続距離は短い。迎撃機として運用するのがやっとだ。今後は燃費や燃焼効率が開発課題だな」
「なるほどね。だが、Me262のジェットエンジンの寿命って短くなかったか?」
「史実ではな。だが、その点も解決している」
「もう解決しているのか?」
「あぁ。それについては、後で話そう」
「……」
ホント、この国の科学力は恐ろしいよ。
陸軍の基地を後にした二人は次に海軍の有する港に訪れ、そこにある造船所を見て回っていた。
「新型戦艦か」
「あぁ。どれもビスマルク級を強化発展させた物だ」
弘樹とアリアの二人は進水した船体に艤装が施されている戦艦数隻を高所から見下ろしながら会話を交わしていた。
「戦艦はそれぞれ『フリードリヒ・デア・グロッセ級』と『デアフリンガー級』『フォン・ヒンデンブルグ級』だ。それぞれ40cm、46cm、50cmの砲を備える予定だ」
「そいつはまた豪快な」
呆れたように言っている弘樹であったが、内心興奮していた。
なにせどれも設計こそされたが建造に至らなかったナチスドイツのH級戦艦達を基にした新型戦艦なのだ。戦艦好きな彼にとってはまさにハイになる光景なのだ。まぁさすがに立場と言うのがあるので内心に留めているが。
「砲自体はまぁそっちの大砲技術もあって作れなくは無いだろうが、よくこれだけの規模の船体を建造できる技術があったな」
「リベリアンとの技術交流があって、その中に造船技術もあったから、お陰で建造ができたのだ」
「そいつはまた。まぁ当然相応の技術と交換してだろ」
「あぁ」
アリアは手すりに腰掛けながら口を開く。
「まだいくつかはこちらで研究中の技術だが、それをリベリアンの技術者達と共に研究し、完成させる予定だ」
「なるほど」
「まぁ、その造船技術のお陰で、ちゃんとした空母の建造が出来たのだがな」
アリアは顔を右の方に向けると、建造中の戦艦が居る港とは別のドックで建造中の航空母艦が数隻いた。
「既にグラーフ・ツェッペリン級航空母艦が数隻就役して機動部隊を編成している。あと少し経てばグラーフ・ツェッペリン級を発展させた『エーリッヒ・レーヴェンハルト級航空母艦』も竣工する」
「ふむ。結構海軍も充実してきているんだな」
「と言っても、リベリアンや扶桑国の海軍と比べると、数は少ないがな」
「まぁそうだが、比べる相手があんまりじゃないか?」
ロヴィエア連邦の海軍の規模の詳細は分からんが、少なくともトップ3に入っている二カ国を比べる対象にするべきじゃないと思うんだが。
「だが、いいのか?」
「何がだ?」
アリアは弘樹の方を見て怪訝な表情を浮かべる。
「いくら同盟を組んだとは言えど、他国の長にここまで軍事機密を見せても? それもついさっき組んだばかりのな」
「それが知ったばかりのやつなら、見せるはずがないだろ。だが、お前であれば、信頼に足りる。別に構わんよ」
「信頼、ねぇ」
そこまで信頼してもらえているのは悪い気はしないのだが、ここまで信頼してくれるのも何か違和感があるような気がする。
「それでだ。一つ頼みを聞いてくれるか」
「頼み?」
「あぁ。ぜひとも扶桑国から輸入したい物がある」
「……」
「そう警戒するな。別にそちらの現在の兵器技術を欲しているわけじゃない。いずれこちらでも開発できるものだからな。それに今それらを持ってもこちらの技術が追いついていないから手を持て余すだけだ」
アリアは一瞬見せた弘樹の警戒色を見て相手が警戒している事とは違うと伝えた。
「我々が輸入したいのはそちらの艦上爆撃機彗星と艦上攻撃機流星、それと酸素魚雷だ」
「彗星と流星、それに酸素魚雷か」
「あぁ。前者2機は航空母艦の艦載機と空軍の爆撃機の後継機として、酸素魚雷はUボートによる通商破壊に使用したい」
「なるほど。だが、艦載機ならリベリアンから輸入するのもありなんじゃないのか?」
「まぁそうだが、扶桑国の航空機は優秀だからな。かと言ってリベリアンの航空機も優秀だ」
「だから選定するのか」
「あぁ。それで海軍の航空母艦の艦載機と空軍の爆撃機の後継機として採用したいと思ってる」
「ふむ」
「もちろん、相応の取引材料は用意する」
「それこそさっきリベリアンと共同研究しているってやつか?」
「それもそうだが、扶桑国だけに教えようと思っている技術もある」
「俺のところだけに、か」
妙な待遇に弘樹は首を傾げる。
「それで、何がある?」
「そうだな。まず人造石油の研究資料や生成方法。HL合金やフレアメタルと言った超合金の製造法。更にはステルス塗装の研究資料とかだな」
「ちょっと待て」
今さらっととんでもないのが混じってたぞ。
「何か色々と凄そうな物が混じっているんだが、まぁとりあえず順に説明してくれるか」
「あぁまず人造石油だが、こいつはその名の通り特殊な方法で人為的に精製する石油の事だ」
「ふむ」
人造石油は第二次世界大戦時のドイツで研究された物で、ガソリンや軽油似の燃料を精製してそれなりの量を自給していた。日本もドイツからこの技術を学んで北海道や朝鮮半島に人造石油のプラントがあったものも、戦局に貢献するほどの量を精製できなかった。
「これはリベリアンと共同で研究している。まぁ今はそれほど高いオクタン値があるわけじゃない。今は訓練用の車輌の燃料として使っているのが現状だ。だが、今後の研究次第では高いオクタン値を出せるかもしれない」
「それに扶桑国の技術者達が加われば、早期に実用化の目処が立つのか?」
「そういう事だ」
「ふむ。悪い話ではないな」
扶桑国の燃料事情を考えると燃料不足に陥る事は無いが、地下資源は無限にあるわけではない。今後起こらないとも限らないので自給できる手段は持っている方が良いか。
「まぁとりあえずそれは本国で部下達と相談してからだな。で、HL合金って言うのは?」
「HL合金。Hart Leicht、すなわち硬く軽いと言う意味だ」
「硬く軽いか」
「あぁ。この合金は数種類の金属と特殊な加工法を施す事で出来る特殊合金だ。厚さ2cmの装甲でも、推定数値80mm前後の装甲板に匹敵する硬度を誇る」
「たった2cmで80mmぐらいの硬さがあるのか」
「しかも重量は従来の鋼鉄と比べると重さは3分の2前後しかない」
「まじで?」
「だから名前にしてあるのだ」
「そういう事か」
「一応2cmのHL合金と同じ厚さの鉄板を地面に垂直で固定して強度試験を行っている。だいたい700mからパンターA型の70口径の75mm砲に硬心徹甲弾による砲撃を行った」
「結果は?」
「鉄板の方は簡単に貫徹。だが、HL合金の板は貫徹せず弾かれた」
「まじかよ」
たった2cmの厚さでここまでの強度とは。
「HL合金が貫徹できたのは、90m弱の距離でだ」
「ほぼ至近距離だな」
「それだけHL合金が固いという事だ。その結果を聞いた時私は耳を疑ったよ」
「俺も今も俄かに信じ難いよ」
「だが、この合金には欠点があってな」
まぁ完全無欠名物は無い。当然そういった欠点もあるよな。
「この合金は、どういうわけか2cm以上の厚さにすると極端に脆くなる厄介な性質を持っていてな。ミリ程度の誤差ならいいが、これが1cmでも厚くなるとどういうわけか極端に脆くなる」
「変な性質を持っているんだな」
「あぁ全くだ。しかもかなり硬いから曲げるといった加工もしづらい。まぁ溶接は何とか出来るんだがな」
「ふむ」
「ちなみにこの合金はティーガーⅡの装甲に使っている」
「だから重量が軽かったのか」
「あぁ。と言っても、2cmのままで使ってもさすがに重量と強度が足りない。だから同じ2cmの厚さの合金を2枚重ね、その上下をそれぞれの厚さの鉄板で重ねている」
「一種の複合装甲染みた構造だな」
「そのおかげで更なる強度と軽量化を実現できたのだ」
「なるほど。けど、かなりコストが高いんだろ」
「あぁ。決して安くないが、兵器に使って製造すると考えれば高くは無いだろう」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」
「……」
「次にフレアメタルの事だが、ここで話すと長くなるな。良い店を知っている。そこで軽く食べながらでも話そう」
アリアが立ち上がって制帽を被り直してそこから歩き出し、弘樹もその後に付いて行く。




