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異世界戦記  作者: 日本武尊
第一章
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第六話 外界での戦闘


 時間は暗くなり、薄暗い雲が周囲を覆う中、5つの影が猛スピードで駆け抜ける。


 影の1つに対して、残り4つがその一つを追う。


「くっ!」


 追われている者は両腕の中に少女を抱えて背中の黒い翼を羽ばたかせ、スピードを上げて追手を振り切ろうとしている。


 追っ手である、ドラゴンに跨る騎士達も見失わないとスピードを上げ、跨っているドラゴンの口から火球が吐かれるも、彼女は素早く避ける。


「っ!しつこい!」


 息が上がりながらも追っ手の攻撃をかわしていき、彼女は自身の両腕に抱えられている少女に目をやる。


「お嬢様。スピードをもっと上げます。もうしばらくの間我慢してください!」


 そう言うと、少女は肯定としてその者にしがみ付くと、更に背中の翼を羽ばたかせてスピードを上げる。


「くそっ!非人風情が!」


 追っ手の一人が悪態を付きながらも手にしているボウガンを構えて彼女に向けて矢を放つも、風の影響で右に逸れて外れる。


「おい!お前は上から回り込め!」


「分かった!」


 追っ手の一人が指示を出してもう一人が上昇し、残りが一斉に跨っているドラゴンから火球を吐かせる。


(くっ!こちらから攻撃が出来ない事を良い事に!)


 両腕が塞がって反撃が出来ず、ただ追っ手の攻撃をかわすしかなかった。


「……っ」


 しかし次第に息が切れ始め、動きが鈍り始める。


 ここまでノンストップで更にスピードを上げているので、いくら体力に自慢がある彼女と言えどスタミナの消耗が激しく、次第に追ってとの距離が縮まり始めている。


(だが、この先には、未踏の地がある。やつらとて、そこまで追ってはこないはず)


 彼女達からすれば、この先は大昔から誰も足を踏み入れた事の無い未踏の地。理由は定かではないが、気候の変動が激しく、魔物が多く生息、特に強力な魔物が多かったが為に踏み入れることが出来なかったと言われている。

 が、正確にどうであったかは、誰も知らないのが現状。


 追っ手の連中もそうだが、自ら突入する二人にとっても危険極まりなかった。

 だが追っ手から逃れるにはこれしかない。


 彼女は力の限り背中の翼を羽ばたかせてスピードを飛ばし、森の上を飛んでいく。


「っ!?」


 すると上から先ほど上昇した追っ手がドラゴンより火球を吐かせて来た。


「くっ!」


 とっさに火球をかわしたが、それと同時に後ろからの追っ手からのドラゴンから火球が吐かれ、その内に一発が彼女の翼に直撃する。


「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 火球の直撃で左側の翼が焼かれて彼女は悲痛な叫びを上げ、消えそうになった意識を何とか繋ぎ止めて抱えている少女を強く抱き締め、共に森の中へと落ちていく。





「くそっ、森に落ちやがったか」


 追って四人組みはドラゴンを止めて空中で停止すると、森を見る。


「で、どうするんだ?」


「これ以上の追撃は無理だな。あの非人の速度にドラゴンがバテていやがる」


 ドラゴンに跨っている騎士はドラゴンが息を切らしているのを見る。


「真っ暗で何も見えない。なら、」地上部隊の出番だ。俺達は戻るぞ」


「あぁ」


 そうやり取りをしてから、四人は来た道を戻りながら、森の中を進攻している地上部隊へ追撃任務を継がせる。




 ――――――――――――――――――――――――――――




 その頃森の中では――――



「ここから更に26キロ先に村と思われる集落を発見か」


 天幕の中で先行して調査を行った側車部隊からの報告を俺は辻から聞く。


 あれから休まずに進み続け、荒野を越して森に入って軽く整地された通路を通る中で魔物との遭遇と戦闘こそ遭ったが、特に目立った被害は無くここまで来れた。


 辺りが暗くなって、現在は開けた場所に野営地を設置して半径1キロ圏内に警戒網を敷いて歩兵二人一組にして哨戒させている。


「集落を発見したとは言えど、接触は慎重に行わなければなりません」


「あぁ。そこが難しい所だが……まぁ旅の者と言えば何とかなるか」


「どう見ても怪しく見られると思われますが?」


 この世界の住人達がどうなのかは全く分からないが、少なくともファンタジー的な世界であるので、王国等の場所もあると思われる。

 そんな中で古いとは言えど自動車や旧日本陸軍の武装や服装はこの世界の住人から見れば見たことの無い物になる。怪しまれるのは十中八九予想される。

 

「村に入る際は少人数で、武装は拳銃のみ。自動車等の乗り物は遠くで茂みに隠して待機だ」


「それが妥当でしょうね。まぁ、それでもよそ者に対して警戒を抱くなと言うのも無理な話ですが」


「痛い所を付くなぁ」


 俺がそうつぶやいた時だった。




「総司令官!」


 と、天幕に少し慌てた様子の岩瀬中佐が入ってくる。


「どうした?」


「報告します!先ほど哨戒中の歩兵が第一警戒ラインに侵入者を確認しました!」


「なに?」


「魔物の間違いではないのか?」


「いいえ!魔物ではないとの事です!松明の明かりを頼りにこちらへ進行中とのことであります!!」


 村の方から来た……わけないよな



「……それで、侵入者の規模は?」


 事態を察した辻がすぐに問い返す。


「ハッ!最低でも武装した歩兵が60名以上は居るとのことです!」


「60以上か」


「しかし、武装しているとは言えどこんな時間に森を進む者達が居るとは考えづらいです」


 ただでさえ夜は魔物達の活動が活発になる時間帯。それも森の中は昼でも出没が多いとなれば、夜は倍以上になる。

 そんな危険地帯を武器を持った団体だとしてもわざわざ通るとは考えづらい。




「っ!?」


 すると突然銃声が何度も鳴り響く。


「なんだ!」


「誰が発砲した!」


「確認してまいります!」


 中佐は陸軍式敬礼をしてから天幕を出て、確認に向かう。


「……辻大将」


「何でしょうか?」


「万が一の事がある。全員に臨戦態勢を取るように伝えろ」


「ハッ!」


 辻はすぐさま天幕を出て臨戦態勢を取るように部隊へ伝達。




 二人がそれぞれの武器の点検をしていると中佐が戻ってくる。


「報告します!侵入者を監視していた歩兵二人が攻撃に遭ったそうです!」


「攻撃だと?」


「監視中に歩兵の一人が物音を立てた途端攻撃に遭ったとのことです!」


「被害は?」


「ハッ!撤退途中で二人の内一人が胸を撃たれ、重傷との事です!」


「……」


 報告を聞き、俺の中で感情が急激に冷えていく。


「いきなり撃ってくるとは。魔物と勘違いしたと言うのか?」


「それが、歩兵二人は攻撃を止めさせるために危険を承知の上で侵入勢力の前に出たそうですが、侵入者はそれでも攻撃をやめなかったとのことです」


「人間と分かっていて撃ったのか」


「……」


「監視していた歩兵の報告では、侵入者は何かを捜索していると思われます。この森に居る非人共や人間達は全て始末しろとかの会話を聞いたと言っています」


「始末」


「少なくとも、我々も侵入勢力の標的にされている、と見た方が宜しいでしょう」


「……」


 と、弘樹の表情は険しくなり、四式自動小銃を手にする。


「……連中の目的がどうであれ、このまま見逃すことはできんな」


「では……?」


 辻の問いに、俺は一旦間を置いて口を開く。


「現時点を持って侵入者を敵と認識。一人たりとも逃がすな」


「よろしいのですか?」


「可能なら彼らと接触を試みたかったが、それも叶わない状態だ。下手に出ればこちらがやられる」


 人間と分かった上で攻撃をやめなかったのだ。そうなれば話し合いなど到底出来る状態では無い。


「……」


「辻。すぐさま大隊から中隊100人を抜粋してくれ。岩瀬中佐。その中隊を引き連れて侵入者の迎撃に向かえ。一人足りと逃すな。だが、抵抗しない者は殺さず捕虜にしろ。情報を聞き出す」


「了解」


「了解であります!」


 二人は陸軍式敬礼をしてから、すぐさま天幕の外に出て準備に取り掛かる。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「たくっ。空の連中は面倒な事を押し付けやがってよ」


「全くだぜ」

 

 その頃森の中をたいまつの火を頼りに真っ暗な森の中を65人近くの兵士達が進み、その中の数人が愚痴を溢しながら進んでいる。


 剣を持つ剣士が居れば、弓矢、ボウガンを持つ弓兵、マスケット銃を持つ銃兵、杖を持つ魔法使いなどの構成をしている。


「しかしさっきの人間達。仕留め損ねるとはな」


 先ほど歩兵へマスケット銃を向け弾を放った銃兵が呟く。


「俺達以外でこの森に居る人間は全員抹殺しろとの指揮官からの命令だが、一人は助かるまい。仮に助かっても血の臭いで魔物達に寄って集られて喰われるだろうな」


「そりゃそうだな」


 そう話しながら兵士達は森の奥へと進んでいく。



 その先で何が待っているかも知らずに




 ――――――――――――――――――――――――――――――――




「来たな……」


 その兵士達の針路先に待ち伏せている岩瀬中佐達は地面に伏せて草茂みに隠れ、小銃や軽機関銃を構えて侵入勢力を待ち構えていた。


 岩瀬中佐達から見ればたいまつの火で兵士達の居場所は丸分かりで、撃ってくださいと言っている様なものだった。


 その後方で倒れた大木の陰から『九九式狙撃銃』を構えている狙撃手が兵士たちに狙いを定めて射撃指示を待っている。


「配置完了。敵兵はこちらに気付かず接近中です」


『分かった。射撃は中佐のタイミングに任せる』


「了解であります」


 無線機に向かってはっきり聞こえるぐらいの小声で総司令と通信を交わし、無線機を通信兵に返す。


「総員、私の射撃を合図に一斉射撃だ。一人たりとも逃がすな。但し、抵抗しない者は捕虜にしろ」


『了解』


 中佐は両側の兵士にそう伝えると、伝言ゲームの様にして全員に指示を伝えると、九九式小銃を構える。



 そして距離が縮まってきた所で、中佐は先頭を歩く兵士の頭に照準を定め、引き金を引く。

 小銃としてはそこまで大きい発砲音を発さず、マズルフラッシュも小さい九九式小銃から弾丸が放たれ、兵士の頭を撃ち抜く。


 それを皮切りに他の歩兵の九九式短小銃と九九式軽機関銃が一斉に放たれ、後方の狙撃手の九九式狙撃銃からも弾丸が放たれ、その後ろを歩いていた兵士や杖を持つ魔法使い数人の頭や胸を撃ち抜く。


 敵兵達は突然の襲撃に先頭を歩いていた数人が弾幕の餌食となり、魔法使いの数人も魔法障壁を張る前に胸を撃ち抜かれて絶命する。


 混乱の中すぐさまマスケット銃や弓矢、ボウガンを弾丸が飛んでいた方へ放つも、矢や弾丸は地面に伏せている岩瀬中佐が居る上を通り過ぎる。


 岩瀬中佐は引き金を引いて弾丸を放ち、マスケット銃を持つ敵兵の心臓を撃ち抜き、ボルトハンドルを上げてから後ろに引っ張り空薬莢を排出し、元の位置へ戻して次弾を装填するとすぐに別の敵兵へ狙いを定めて引き金を引く。


 歩兵の二人が立ち上がって九七式手榴弾の安全ピンを抜いて敵兵へと投擲するも、その直後に歩兵の動きを見つけた敵兵がボウガンをとっさに向けて矢を放ち、放たれた矢が一人の歩兵の左肩に突き刺さり、後ろに倒れる。

 しかし弧を描いて投げられた手榴弾は密集していた敵兵の真ん中に落ち、その瞬間雷管が作動して爆発を起こす。


 爆風と破片を受けた敵兵は吹き飛ばされ、呻き声を上げる。

 よろけた体勢を立て直そうとした敵兵はすかさず狙撃手によって頭を撃ち抜かれて絶命する。


 手榴弾の爆発を受けていない敵兵は反撃を試みるも、岩瀬中佐達の猛攻の前に次々と絶命していき、残り少なくなった敵兵は恐れをなして来た道へと逃げていく。


「逃がすな!抵抗しない者以外は全員射殺しろ!」


 中佐の号令で地面に這っていた歩兵達は一斉に立ち上がり、追撃を始めると同時に九九式短小銃や九九式軽機関銃を放つ。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



「……」


 俺は森に響き渡る銃声を聞きながら、四式自動小銃を片手に周囲を警戒する。


 侵入勢力を警戒するのもそうだが、発砲音で魔物達が近付いてくる可能性もあるので、警戒は厳にしている。


 同じように辻大将も100式機関短銃を片手に周囲を見渡して警戒している。


「総司令官!」


 そんな中、通信兵の一人が俺の元へ走って来る。


「報告します!岩瀬中佐率いる迎撃部隊は侵入勢力を一人たりとも逃がさず排除し、三名の捕虜を捕らえました!」


「そうか。捕らえた捕虜はこちらに連行するように。あと負傷兵が居ればすぐに野営地に連れて来させて手当てをさせるように伝えろ」


「ハッ!」


 陸軍式敬礼をして、すぐさま無線機の元へと駆ける。


「辻大将」


「ハッ。なんでしょうか?」


「捕虜の尋問を頼む。可能な限り情報を聞き出せ」


「お任せを」


「……あと、有力な情報を吐かせる為とは言えど、やりすぎるなよ」


「分かっています。可能な限り加減はします」


 そうは言うものも、どうなるかねぇ

 捕虜にトラウマの一つや二つぐらい植え付けられそうな気がするのは気のせいだろうか


 そんな場違いな心配を考えるのだった。




 そうして負傷兵と共に捕虜が野営地へと連れて来られると、すぐに衛生兵によって治療が行われ、辻と岩瀬の二人が捕虜を天幕へと連れ込んで尋問を始める。

 ちなみに扶桑軍では暴力による尋問は厳禁にしているが、別に威圧感を与えるなとは言っていない。


 負傷した歩兵は四人ほどだが、大したものでは無いと言う。

 ちなみに胸を撃たれた歩兵は幸いにも弾は内蔵を傷つけるまでには至らなかったので、命に別状は無かった。


「初めての対人戦闘……。この世界の者達との初めての接触は、最悪な形となってしまったな」 


 この世界の住人との初めての接触と同時に扶桑陸軍にとっては初めての実戦による対人戦闘となってしまった。

 これがどこまで響くか、様々な不安要素が過ぎる。




「総司令官!」


 と、通信兵が再度天幕の中へと入ってくると、耳打ちで報告する。


「なに?侵入者の進行方向とは逆の方向で、落下物だと?」


「はい。その落下物は二人の女子とのことです」


(落下物が二人の女子って……いや、こんなファンタジーな世界なんだから、何が起きても不思議じゃない。って思う自分がなんかなぁ)


 妙にずれだした感覚になぜかショックを受けながらも、内心のみに留めて表情には出さなかった。


「現在様子を見ているとのことですが、どうしますか?」


「……」


 俺は少し悩むも、すぐに判断を下す。


「すぐに女子二人を野営地に連れて来い。怪我をしている場合すぐに衛生兵に治療をさせろ」


「ハッ!」


 通信兵はすぐさま天幕を出て無線機の元へ向かう。





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