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異世界戦記  作者: 日本武尊
第五章
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第六十二話





 所は変わり、テロル諸島の一つであるミルヒ島……





「……」


 荒れた地表が広がる荒野に偽装シートで巧妙に偽装された穴の中に潜む74式戦車の車内で西大佐は腕を組んで目を瞑り、ジッとその時を待っていた。




「大佐。偵察部隊から報告。敵戦車部隊を捕捉したと」


「そうか。ようやく来たか」


 無線手が周囲を警戒していた歩兵からの報告を西大佐に伝えると、西大佐は瞑っている目を開ける。


「各車に連絡。仕事の時間だ」


「了解」


 無線手は同じく潜んでいる各戦車に連絡を入れる。


 少しして穴に潜んでいる74式戦車各車はエンジンを始動させ、油圧サスペンションで車体を上げて偽装シートを持ち上げ、前に少し前進して主砲の砲口を出す。


「それで、相手は何輌だ」


「ハッ。中戦車級が20輌と、規模から見て恐らく重戦車級はある戦車が10輌の計30輌との事です」


「ふむ。重戦車か。となると砲は80から90、もしくはそれ以上か」


「もし100以上ですと撃破されなくても直撃時の衝撃で被害を被ります。ですが下手すれば74式でも」


「そうだな。ならば重戦車を優先して撃破だ。各車に連絡!1号車から5号車は重戦車を優先して撃破!他は中戦車をやれ!」


『了解!』


 連絡が行き渡ると各車輌はそれぞれの目標に狙いを定める。



「撃てっ!!」


「発射っ!!」


 そして敵戦車部隊が74式戦車の前に出てくると、西大佐の号令と共に74式戦車の55口径110mmライフル砲が轟音と衝撃と共に砲弾を放ち、重戦車ことIS-2の足回りに命中して内部で爆発を起こして弾薬の爆発と共に砲塔が吹き飛ぶ。

 それを合図に各車が砲撃を始めて、IS-2やT-34-85等のそれぞれの目標に命中させて撃破する。


 突然の攻撃を受けたロヴィエア軍の戦車隊は思わず停車してしまう車輌やその停車した車輌の後ろから追突する車輌が続出するもすぐに発砲炎を確認してそこに向けて砲塔を旋回させ、撃ち返して来る。

 しかし砲塔以外地面の下にある74式戦車の被弾面積が少ないとあって、砲弾は命中せず74式戦車の後方に着弾する。


「装填よし!」


「撃てっ!」


 装填手の装填完了の合図と共に砲手が引金を引き、55口径110mmライフル砲が轟音と共に砲弾を放ち、IS-2の砲塔ターレットリングに命中して貫徹し、内部で爆発を起こして乗員を殺傷する。


 その間にも他の74式戦車も次々と砲撃し、T-34とIS-2を撃破していく。



「な、なんだ!?」


 突然の砲撃に次々と周りの味方の戦車が撃破され、IS-2に乗る中隊長は戸惑う。


「と、トーチカからの砲撃です!味方戦車が次々とやられています!」


「くっ!今まで息を潜めていたのか!おのれぇ!」


 74式戦車の砲撃をトーチカからの砲撃と中隊長は勘違いし、車体ごと旋回させるように指示を出してIS-2の主砲を放たせる。


 放たれた砲弾は74式戦車の潜む偽装穴の周囲に着弾して砂煙を上げるも74式戦車自体には命中していない。

 お返しと言わんばかりに74式戦車各車が砲撃し、更にT-34-85とIS-2に命中させて撃破する。


 そんな中IS-2は轟音と共に砲弾を放ち、74式戦車が潜む偽装穴付近に着弾すると爆風で穴を覆い隠しているシートが吹き飛び、74式戦車の姿が露になる。


「っ!トーチカじゃない!?戦車が潜んでいたのか!」


 中隊長は驚きを露にするが、その直後74式戦車が放った砲弾がIS-2の車体正面の操縦手の見るバイザーに直撃してそのまま貫通し、内部で爆発を起こして車内の乗員を殺傷する。


「敵重戦車撃破!」


「さすがだ吉田!」


 西大佐が砲手を褒めた直後、左2輌目の74式戦車が砲塔正面の砲身根元下部にIS-2の放った徹甲弾の直撃を受け、貫徹した砲弾が内部で爆発を起こして砲塔が吹き飛ぶ。

 更に隣の74式戦車にT-34-85の放った砲弾が砲身に直撃し、それと同時に74式戦車が砲撃したが為に砲身が破裂する。


「っ!5号車と6号車がやられました!」


「ぬぅ!」


 西大佐は無意識に拳を握り締めると、他の74式戦車が敵討ちと言わんばかりにIS-2に向けて一斉に砲撃し、複数の砲弾が砲塔や車体に命中してIS-2は文字通り粉砕される。



「っ!大佐!敵戦車が撤退します!」


 中隊長車が撃破され、一方的に砲撃されてか敵戦車部隊は元来た道へと後退していく。


「1輌も逃がすものか!全車前進!!」


 西大佐の指示と共に偽装穴よりシートを押し退けて74式戦車が這い出て来て敵戦車部隊の追撃に入る。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 所は変わってハヴァ島……




「えぇい!まだ海軍との連絡が付かないのか!?」


 ハヴァ島に上陸した部隊の指揮所では指揮官が机に拳を叩きつけて怒鳴る。


「それが、戦艦部隊と機動部隊は敵艦隊が接近しているとあって、一部を残して島々から離れた海域に居るそうです」


「何だと!?では我々は上空と海上からの援護なしで進撃しろと言うのか!?」


「げ、現状ではそうなります」


「くっ!自分の身の方がそんなに大事か!海軍の腰抜け共が!!」


 指揮官は机を殴りつける。


「……」


 指揮官は深呼吸をして苛立ちを何とか抑え、戦況を問い掛ける。


「それで、戦線はどうなっている?」


「は、ハッ。予想以上に敵の攻撃が激しく、多くの兵士が負傷して戦車も多くが損傷しております」

「それに敵は地下に防衛線を構築しているとあって、砲撃に爆撃の効果がイマイチです」


「……」


「今は敵の航空戦力は確認されていませんが、出てこないとは思えません」

「恐らくこの状況に乗じて敵の航空戦力が現れる可能性があります」


「それと、各地からファシストのタイガー重戦車に酷似した戦車が確認されています。それ以外はファシストや資本主義者の戦車とは異なるそうですが」


「それでもT-34やIS-2並かそれ以上なのだろう?」


「は、はい。信じ難いですが、その通りです」


「……」


 指揮官は腕を組んで静かに唸る。


「どうしますか?」


「……」




 ――――♪




「ん?」


 すると砲撃音や爆発音に似合わない音楽が指揮所にいる指揮官と将校達の耳に届く。


「何だ、音楽は?」


「わ、分かりません」


「そもそも、戦場で音楽なんて」


 突然戦場に似合わない音楽に将校達は戸惑いテントの外に出る。



「なっ!?」


 そして彼らが目にしたのは、見たことの無い空を飛ぶ機体がこちらに向かって来ており、更に音楽の発信源がその機体群であった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



「おー。ウヨウヨ居やがるぜ!」


 上空を編隊を組んで飛ぶ陸上自衛隊の『UH-1J』に似た扶桑陸軍の輸送攻撃ヘリコプター『隼』が陸上自衛隊の『AH-64D アパッチ・ロングボウ』に似た多目的攻撃ヘリ『大鷲』と『AH-1 コブラ』に似た対地攻撃ヘリ『小鷹』の護衛を従え指令所へと向かっていた。


「しかし、あれを大音量で流す意味あるんですか?」


 側面のドアを開けて搭載されている三式重機関銃改のコッキングハンドルを引きながら兵士は指揮官機の隼に取り付けられたスピーカーよりヘリのエンジン音に負けないぐらい大音量で流れる『ワルキューレの騎行』に戸惑いを見せる。


「隊長が言ってたぜ!!アレ流したら敵がビビリまくるんだとよ!!」


「本当かよそれ!!」


「あぁ!!未だに活動している旧帝国軍の残党共もこれ聞いて恐怖していたんだとよ!!」


「マジか!?」



『各機!攻撃態勢を取れ!』


 指揮官機から指示が下り、銃座や89式小銃を構える兵士達は気を引き締める。


『イェーガー各機は地上にある物を喰らい尽くせ!』


『了解!!』


 指示を受けた大鷲と小鷹各機は隼の前に出て指揮所へと突撃する。


 指揮所では兵士達が小銃やサブマシンガン、機関銃を使って大鷲と小鷹の迎撃を試みるも弾は掠りもしない。


 距離が詰まってきた所で大鷲各機は機体側面のロケットポッドから次々とロケット弾と機首の30mm機関砲を放ち、指揮所の近くに停車していた戦車を破壊し、流れ弾が近くにいた兵士を次々と粉砕していく。

 同じくして小鷹各機も機首の20mm機関砲と機体側面のロケットポッドを放ち、歩兵と対空砲を潰していく。



 そして隼各機が指揮所へと突入し、三式重機関銃改や兵士の持つ89式小銃による銃撃を始める。


 ロヴィエア軍側の兵士達は果敢に反撃を試みるも隼の三式重機関銃改や兵士の持つ89式小銃の銃撃により一人、また一人と命を刈り取られていく。


「一方的だなこりゃ!!」


「あぁ全くだ!!本当に戦場は地獄だぜ!!」


 89式小銃のマガジンを交換しながら兵士が叫び、三式重機関銃改を放ちながら兵士が同じくそう叫ぶ。




「くそっ!一体何だアレは!?」


「分かりません!」


 大鷲と小鷹の攻撃を受けて混乱する指揮所ではヘルメットを被った指揮官が塹壕に隠れつつ愚痴るように叫ぶ。

 隣では副官がppsh-41を小鷹に向けて放つも、弾は小鷹に数発掠るのみで撃墜には至らない。


「兎に角!ここは危険です!すぐに撤退を!」


「撤退だと!?我がロヴィエア陸軍が敵に背を向けるというのか!」


「このままでは全滅を待つだけです!!早く撤退を!!」


 副官が叫んだ瞬間、隼の三式重機関銃改の放った弾丸が地面に当たって兆弾し、そのまま副官の頭に命中してざくろのように粉々に粉砕される。


「っ!?」


 指揮官は絶句して数歩後ろに下がる。


「こ、こんな、こんな事……」



 その直後1機の小鷹が塹壕の前で空中に静止すると機首の20mm機関砲を放ち、塹壕に居た兵士達と共に指揮官も文字通り粉々に粉砕されてこの世を去る。



 だが、上陸部隊の悪夢は、これからであった。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――




 時系列は下り、テロル諸島より離れた海域。



「大分手酷くやられたな」


「えぇ」


 サザンクロスの艦橋で提督と艦長は薄く黒煙を上げて傷付いた艦艇群を見て言葉を漏らす。


 あれからロヴィエア海軍の戦艦部隊と砲撃戦を繰り広げて、サザンクロス級3隻は副砲や対空銃座、設備等がいくつか損壊する損傷を受け、ベルキューズ級は幸い沈没する艦は出なかったが、中破、大破した艦がちらほらといる。


「サザンクロスにトリオンファン、デヴァスタシオンは軽い損傷とは言えませんが他と比べれば浅いですね」


「何せこの中では一番最新鋭だからな。火力も防御も今までの物とは桁が違う」


「そうですね。ですが、ベルキューズ級は」


「分かっている」


 提督は特に損傷の酷いベルキューズ級戦艦を見つめる。


 特に損傷の激しかったアルミードとレーヌは傾斜が生じており、他のベルキューズ級に曳航されている。


「やはり、サザンクロス級の更なる建造と新鋭艦の建造が必要だな」


「それまではベルキューズ級には頑張ってもらわなければなりませんね」


「そうだな」



「ですが、敵旗艦を潰せたのは大きいですね」


「うむ。これである程度指揮系統に乱れが起こればよいのだがな」


「そうですね。まぁどちらにしても」


「あぁ。我々の役目はここまでだ。後はフソウに任せるとしよう」


 提督は敵艦隊が居た方角を一瞥し、前へと向き直る。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――





 時系列は更に下る。




 辺り一面暗くなり、満月の光が薄っすらと暗闇を照らしている海上を、多くの軍艦が陣形を組んで目的の海域を目指している。



 先頭を航行するのは原子力航空母艦赤城に加賀を主体とする第一航空戦隊に原子力航空母艦蒼龍に飛龍を主体とする第二航空戦隊で、その後方を戦艦紀伊を旗艦に戦艦尾張、とある事情でこの場には居ない大和を除く大和型戦艦に岩木型巡洋戦艦、新金剛型戦艦で構成された戦艦部隊、更にその後方をリベリアン合衆国の艦隊が続く。



「長官。間も無くテロル諸島を艦載機の活動範囲内に捉えます」


「うむ」


 戦艦紀伊の昼戦艦橋に立つ大石長官は参謀の報告を聞き、命令を下す。


「第一、第二航空戦隊に打電!攻撃隊を発艦させろ!」


「ハッ!」


 参謀はすぐ通信兵に第一、第二航空戦隊に攻撃隊発艦命令を伝えるように指示を出す。


「我が戦艦部隊はグラミアム海軍が交戦した敵戦艦部隊の殲滅に向かう。リベリアン艦隊は機動部隊と共にテロル諸島周辺を占める敵艦隊の殲滅を援護するように伝えよ」


「ハッ!」




 そこからの扶桑海軍の行動は早かった。




 各空母から警報が鳴り響き、艦載機が次々と甲板へ上げられる。


 赤城、加賀の甲板には主力ジェット戦闘機閃雷に空軍の攻撃機雷龍の艦載機仕様であるジェット攻撃機水龍が優先的に上げられ、この後に近代化改修された烈風や彗星、流星等のレシプロ機も出撃する。

 閃雷と水龍にはそれぞれ空対艦ミサイルを搭載し、彗星に流星は従来通りの爆弾や魚雷を搭載して出撃する。


 閃雷と水龍はそれぞれの空母から蒸気カタパルトを用いて急加速して飛び立つ。


 その間に蒼龍と飛龍から閃雷と水龍とは異なる航空機が甲板に上げられる。


 明らかに前二つの機体よりも巨大で翼には2機の大型ジェットエンジンを積んでおり、その形状は陸上攻撃機『銀河』に酷似している。


 扶桑海軍が開発した双発ジェット攻撃機『天雷』と呼ばれ、大型の空対艦ミサイルや大型ロケット推進魚雷を搭載する事を目的に開発されており、攻撃力は他のジェット機と比べると破格なものだ。

 但し大型ゆえに大型の原子力航空母艦である赤城型、加賀型、蒼龍型でも搭載出来る数は少なく、発艦する際には補助ロケットブースターを用いて安全に飛べるぐらいと、艦載機としては発艦に関してかなり危ない要素を持ち合わせている。


 一見すれば天雷は艦載機向きではないが、それは後々とある事で解決する。



 それは兎に角として、天雷は蒼龍と飛龍から補助ロケットブースターを使いつつ蒸気カタパルトで甲板から飛び立ち、閃雷と水龍の編隊に加わる。


 そしてジェット機が全て飛び立つと最後に烈風と流星、彗星もカタパルトを用いて甲板から飛び立つ。



「最初辺り飛び立ったの全部ジェット機かよ」


 モンタナの艦橋からトーマスは双眼鏡で各空母から飛び立つ閃雷に水龍を見て思わず声を漏らす。


(しかもジェット双発機の艦載機まで。まだこっちはゲルマニアのMe262からようやくマシな物が出来たってレベルなのに)


 げんなりとした様子で内心呟く。


「それにしても、いくらカタパルトを用いていると言っても、よくこんな夜間で簡単に発艦出来るな」


「それほど練度が高いと言う事でしょう」


 隣に立つモンタナの艦長はトーマスの言葉に答えるように声を漏らす。


「まぁ、我々のボーイ達も練度は高いですよ。それがレディ・レックスにシスター・サラ、オールド・ヨーキィ、ビックEの所属ならね」


「……」


 後方では空母レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズからF6Fヘルキャット、SB2Cヘルダイバー、TBFアベンジャーが次々と飛び立ち、扶桑の烈風と彗星、流星の編隊と合流してテロル諸島を目指す。


「さてと、空母はこのまま扶桑海軍の空母群と共に行動。我が戦艦部隊はこれよりテロル諸島周辺を占める敵艦隊の殲滅に入る」


「ハッ!」


 トーマスの指示で空母4隻は戦艦部隊から離脱して扶桑海軍側の空母群と合流し、戦艦モンタナを筆頭にアイオワ級6隻はテロル諸島を目指す。





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