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異世界戦記  作者: 日本武尊
第五章
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第五十五話 接触


 あの後タクシーで移動して司令部のある基地前に到着した俺は代金を支払ってすぐに司令室に向かう。



「状況はどうなっている」


 司令室に入ると職員達が慌ただしく動き回っており、俺は品川と辻に聞く。


「ハッ。国籍不明艦隊は現在も警戒水域を進行中。後4時間で第二艦隊が接触します」


「飛び立った空軍のF-1も間もなく艦隊を捉えるはずです」


 品川と辻の二人の報告を聞き、俺は軽く頷く。


「それで、艦隊の構成は?戦艦が多く居るとここに来ながら聞いたが」


「ハッ。最新の情報では空母と思われる艦船が4隻、戦艦が7隻、その他巡洋艦と駆逐艦が数十隻とのことです」


「……戦争でもするつもりか?」


 まぁ実際にするには少ないだろうが、海戦をするには十分な数だ


「相手がそのつもりかどうかは分かりませんが、艦隊の動きに不審な点があります」


「なんだ?」


「先ほど追跡中のうずしお型潜水艦4隻の中の1隻からの報告ですが、艦隊周囲の駆逐艦が潜水艦隊に向かって来ていたようです」


 まぁ潜水艦の迎撃の為だろうな


「しかし、その直後に駆逐艦は転舵して艦隊に戻ったそうです」


「ん?迎撃に向かっていながらなぜ戻る必要が?」


「それは分かりません」


「……」


 相手の意図が分からんな


(侵略の為に来たんじゃないのか?)




「お、遅くなりました!」


 と、司令室の扉が開いて空軍長官の木下が入る。


「遅い!何をやっていたのだ!」


「も、申し訳ございません!渋滞に巻き込まれた上に車がエンストてしまって、ここまで走って参りました!」


 辻に怒鳴られ木下は敬礼をして姿勢を正す。


 額に汗を掻いて息を荒げている様子からそうなのだろう。


 と言うか木下はやたらと不幸な場面に遭っている気がする。


「まぁいい。だが、次は気をつけろ」


「は、はい!」


 ギロリを睨みつけられ木下はビクッと身体を振るわせる。



「総司令!F-1戦闘機が国籍不明艦隊の上空に到着!映像が来ます!」


 と、司令室の壁に埋め込まれたモニターに映像が映し出される。


「これは……」


「……」


 モニターの映像に俺たちは息を呑む。


 艦隊の規模は大きいと聞いていたが、聞くのと見るのとでは色々と違う。


 だが何より俺は戦艦群を見て驚きを隠せれなかった。


(アイオワ級、だと。それに中央の戦艦は……モンタナ級、なのか?)


 間違いがなければ戦艦のほとんどはアメリカ海軍が建造した最大の戦艦であり、戦後数十年活躍したアイオワ級戦艦と対大和型戦艦として計画のみで終わったアイオワ級戦艦を超える『モンタナ級戦艦』と思われる。


(だが、なぜアメリカの軍艦がこんなところに)


 この世界には存在しない軍艦。ましても建造すらされていない戦艦が居るのだ。


(一体、どういうことなんだ)



「総司令。軍艦のマストに国旗と思われる旗が」


 辻が映像を見て声を上げて俺はスクリーンに目を向ける。


「っ!?」


 俺はその国旗を見て絶句する。


 アメリカの国旗に酷似しているが、星の数は大きいのがたった一つだけになっており、青い部分も若干大きくなっている。


(リベリアン合衆国の……国旗だと)


 国旗を見た瞬間その国旗がどこの国のものかが脳裏に過ぎる。


 それはこの世界に来る前に俺がしていた『Anothr World War』内で扶桑国と同様そのゲーム内の仮想国家の一つ。扶桑国が大日本帝国をモデルにしているのに対してリベリアン合衆国はアメリカ合衆国をモデルにしている。

 そしてゲーム内に登場する仮想国家はモデルは共通だが国の名前はそれぞれのユーザーが決めるので同じ名前の仮想国家はない。


(な、何であの国がこの世界に?) 


 ふと俺の脳裏に、かつての戦友の顔が過ぎる。


(まさか、お前もこの世界に来ているのか……トーマス?)




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 扶桑を目指す艦隊は今も尚速度を緩めることなく海域を進んでいた。



「それで、上空に現れた航空機はどうなった?」


「ハッ。数十分ほど艦隊上空を滞空していましたが、しばらくして立ち去りました」


 男性の問いにクリスが報告内容を伝える。


 艦隊の方でも偵察に来ていたF-1の存在をレーダーで捉えていたが、しばらくして立ち去っている。


「恐らく艦隊の規模を調べる偵察の為でしょうね」


「だろうな」


「対空警戒はしておきますか?」


「あぁ。但し、警戒のみだ。迎撃機は飛ばすな」


「分かりました」


 クリスは頭を下げて艦長に指示を飛ばす。


(しかし、ジェット機か。扶桑の技術力はかなり進んでいるな)


 男性は腕を組んで静かに唸る。


(となると、弘樹は俺たちより先にこの世界に来ているのか?)




『ウイングよりブリッジ!前方距離9万!接近する艦隊を発見!』


 男性が悩んでいると、ウイングの監視員より報告が入り、ブリッジに緊張が走る。


「来たか」


 男性は立ち上がり、窓の前に近付き艦長より借りた双眼鏡を覗く。


 水平線の向こうに、黒点が一つ見える。

 が、よく見るとその黒点の左右にもかなり小さな黒点も見える。


(この距離であんなに大きな黒点。となるとあれが噂に聞く扶桑のモンスター級か)


 内心でそう呟きながら後ろを振り向く。


「艦長。各艦に通達。相手が撃って来ても応戦は厳禁だ」


 ブリッジに居る面々は男性の指示に息を呑む。


 一応事前にこの指示は伝えられているので反対する者は居ないが、いざその場面になると不安は隠せない。

 何せいつ向こうが撃ってくるか分からない状況で何も出来ず、攻撃を受けても反撃できないのだから、無理も無い


「では、ここは任せるぞ」


 男性が席から立ち上がり、ブリッジを後にする。


「……」


 クリスはしばらく悩んだ末に、男性を追うようにブリッジを後にする。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――




 柱島から出撃した第二艦隊は国籍不明艦隊を捉え、接近していた。



 中央に戦艦尾張、他に戦艦陸奥と1隻の計3隻、更なる近代化改装が施された装甲空母信濃に大鳳、大峰の3隻、その他巡洋艦と駆逐艦10隻で構成されている。


 陸奥の隣を航行しているのは戦艦長門に酷似しているが、全く別物の戦艦である。


 先の大戦で大破した長門は何とか修復できないか検討されたが、艦内部に張り巡らされた配線が熱によって全滅し、装甲全体も同じく熱によって使い物にならなくなっている上に艦内部の全体が脆くなっているとあって、修復と言うよりもはや新造に近い修理を行わなければならないので一層の事新造艦を作ったほうが手っ取り早いと言う事になり、1番艦長門は解体されて長門型戦艦の3番艦として新造艦が建造された。

 外見こそ一部を除き戦艦長門と瓜二つだが、船体の大きさは長門より一回りほど大きく新設計の50口径41サンチ連装砲を4基8門を搭載し、中身は同型艦の陸奥とは比べ物にならない程に最新鋭の電子機器や機構が詰め込まれているので、書類上は同型艦と言うより準同型艦となっている。


「艦長。間も無く国籍不明艦隊を捉えるはずです」


「そうか」


 尾張の艦橋では副長の報告に艦長が軽く頷く。


「航空隊の発進準備は?」


「すでに信濃、大鳳、大峰の航空隊は発進準備を整えています。後は命令のみです」


「うむ」


 艦長は手にしている司令部より送られた命令書に視線を向ける。


『国籍不明艦隊と接触しても、向こうが手を出すまで攻撃を厳禁とする』


「向こうが手を出すまで攻撃を厳禁か」


「まぁ向こうもこちらから手を出さなければ攻撃してこないでしょうが、これでは先手を打たれるのは確実ですね」


「……」



「戦闘指揮所より報告!電探に感あり!距離10万!艦隊を捉えました!」


「来たか」


 艦橋の直下にある戦闘指揮所からの報告が入り、昼戦艦橋内に緊張が走る。


「全艦!臨戦体勢を取れ!」


「ハッ!全艦臨戦体勢を取れ!」


 艦長の命令を復唱して副長が艦全体に伝えると鐘が鳴り響く。



「っ?艦長!戦闘指揮所より更に報告!こちらに接近する物体を探知!」


「何?数は?」


「それが、一つだそうです」


「一つ、だと?」


 艦長は思わず声を漏らす。


「どういうことでしょうか?」


「……」


 艦長はすぐに無線機を手にして問い掛ける。


「戦闘指揮所。本当に一機なのだな?」


『ハッ!大きさは航空機と同じぐらいです!』


「航空機か」


 艦長はボソッと呟き、副長と共に戦闘指揮所へと移動する。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「いくらなんでも、普通こんな方法思い付きませんよ」


「かもな」


 扶桑海軍の第二艦隊に接近しているのは、戦艦モンタナより飛び立った水上機『OS2U キングフィッシャー』であり、コクピットの後部機銃席に座るクリスが男性に問い掛けると短く返す。


「これじゃ撃ち落される可能性が高いですよ」


「かといって艦隊ごと接近すれば向こうが撃って来ないとも限らない。それが常に潜水艦につけられているのなら尚更だ」


「……」


「そういうお前も、無理に付いて来なくても良かったんだぞ」


「……大統領を……いえ、トーマを死なせたくありません」


 哀愁の漂う声でクリスはそう口にする。


「クリス……」





「水上機、だと」


 望遠カメラで捉えた映像が戦闘指揮所の壁に埋め込まれた液晶画面に映し出され、そこに1機の水上機の姿が映されて艦長は思わず声を漏らす。


「たった1機で。一体何を?」


「……」


 モニターを眺めていると、水上機は機体を左右に振り始める。


「バンクですね」


「敵意は無い、と言う事か」


「どうします?」


「……」


 艦長はどうするか悩んで静かに唸る。


「このままでは艦隊と接触します、艦長」


「……」



「全艦に伝え。水上機に対する攻撃は一切禁ずる」


「か、艦長!?」


「他艦にもそう伝えよ」


「で、ですが!」


「何かあった場合の責任は俺が取る」


「……」




「……トーマ」


「あぁ」


 しばらくして二人の乗るキングフィッシャーは艦隊の上空へと辿り着き、全体を眺めていく。


「やはり、あれが扶桑海軍のモンスター級か」


 二人の視線の先には、戦艦尾張がその圧倒的な存在感を醸し出している。


「何て大きさなの。現時点ではリベリアン最大の軍艦のモンタナ級を遥かに凌駕している。それに主砲の口径、明らかに16インチを、下手をすれば18インチを超えています」


「戦艦もそうだが、空母もこちらより上を行っているな」


 男性の視線の先には信濃と大鳳、大峰の姿があった。


「(もう戦後の空母だよなあれ……)しかし、ジェット艦上機を既に実戦配備しているとはな」


「……」


(ホント、あの時講和をして同盟を組んでよかったと思うよ)


 かつて一戦を交えていたとあって苦笑いを浮かべつつ操縦桿を傾けて尾張へと向かう。


 尾張の上空に着くと操縦席の右側にあるレバーを後ろに引き、翼に装着されている細長い筒状の物体……通信筒が外されて尾張の甲板へと落ちていく。



「な、何だ!?」


「爆弾か!?」


 尾張の甲板では落ちてくる通信筒を見て甲板要員が爆弾と勘違いして慌てふためいてとっさに床に伏せる。


 通信筒は尾張の甲板に落ちると一回跳ね上がってそのまま甲板に落ちる。


「?」


 しかしいつまで経って通信筒には何も起きず、一人が恐る恐るそれに近付く。


「これは、通信筒か?」



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……」


 その後通信筒に爆発物が有無の確認をしてから戦闘指揮所に運ばれ、通信筒の中に入っている電文を艦長が読んでいる。


「何と書かれていますか?」


「『貴艦への乗艦を許可を願いたい。リベリアン合衆国大統領トーマス・アルフレッド』だそうだ」


「リベリアン合衆国?聞き覚えがありませんね」


「うむ」


 艦長は静かに唸りながら文章を読み返す。


「どうしますか?」


「……」




「光信号で乗艦を許可すると伝えろ」


 艦長は悩んだ末にそう判断した。


「よろしいのですか?」


「攻撃される危険があると承知の上で来たのだ。それほど大事な事があるのだろう」


「……分かりました」


 副長はすぐに昼戦艦橋へ指示を伝える。




「『ジョ・ウ・カ・ン・ヲ・キョ・カ・ス・ル。ホ・ン・カ・ン・ノ・フ・キ・ン・ニ・チャ・ク・ス・イ・セ・ヨ』か」


 尾張の元防空指揮所ことウイングよりサーチライトの光信号による指示が男性ことトーマスに伝わる。


「クリス。これから着水する。少し揺れるぞ」


「はい」


 トーマスは操縦桿を傾けて高度を下げ、海面に近付いていく。


 慎重に機体を操作しながらフロートを海面に着水させ、その際に機体が揺れるもバランスはそのまま保たれ海面を滑っていく。


「しかし、近くだと本当に大きいな」


「……」


 尾張の大きさを改めて体感しながら船体の付近まで近付くとエンジンを止めて風防を開ける。



 それからして尾張の艦尾で止まるとジブクレーンによって機体が引き揚げられ甲板に上げられる。


「……」


 二人が機体から降りて甲板に立つと、甲板には小銃を構えた陸戦隊が待ち構えていた。


(まぁ、警戒して当然か)


 トーマスはそう内心で呟きながら抵抗の意思がない事を示す為に両腕を上げるとクリスも続けて両腕を上げる。


 陸戦隊は二人の身体検査を行い、銃器や危険物が無いのを確認した後に後方に待つ艦長に報告し、艦長は二人の元にやってくる。


「扶桑海軍戦艦尾張艦長の松下遼大佐だ」


 尾張艦長の松下大佐は二人に向けて海軍式敬礼をする。

 

「先ほどの通信筒にもありましたでしょうが、私はリベリアン合衆国大統領、すなわち国の長であるトーマス・アルフレッドと申します。こちらは秘書官のクリスです」


 そう言うとトーマスは頭を下げ、クリスも頭を下げる。


「まさか、そんな大統領自らが来るとは思いもしませんでしたね」


「それほど重要な事ですから」 


「そうですか。では、率直に聞きましょう」


 松下艦長は間を置いて口を開く。


「アルフレッド大統領。あなたは……リベリアン合衆国が我々から攻撃を受ける危険性を顧みずに我が扶桑国にやってきた目的とは」


「……」



「俺たち、いや、我々の目的は……扶桑国と、西条弘樹総理との対話を求めたい」


 トーマスは松下艦長の顔を見ながらそう伝えた。







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