第五十二話 新たなる戦い
あれから4年の月日が流れる。
辺り一面草原が広がる場所。一件穏やかに見えるこの場所だが、激しい戦地となっている。
空気を切り裂く音と共に次々と榴弾が陣地と思われる広場に降り注ぎ、着弾すると同時に爆発を起こして地面を抉る。
『……』
その広場に設けられた塹壕に多くの兵士が潜み、砲撃を避けている。
「相変わらずの量だな、クソッタレ」
「こりゃまぐれ弾が出てもおかしくないな」
そう言って手にしている煙草を吸って煙を吐く。その直後に天井から砂が落ちて被っているヘルメットに降りかかる。
「くそっ。飯ぐらいゆっくり食わせてくれよな」
砂が入らないように皿の上を腕で覆っていた兵士が愚痴りながら残りを平らげる。
「日に日にやつらの攻撃が激しくなってくるな」
「上の連中は俺たちを見殺しにする気かよ」
「おい。口に気をつけろ。ssが居たら面倒な事になるぞ」
「それに、増援はちゃんと来る手筈になっている」
「で、その増援はいつ来るんだ?」
「もうそろそろのはずだ。最も空がこっちの手にあるのならな」
「……」
『ураааааааааааааааа!!!』
その間に地面を覆い尽くして揺れているかの様な錯覚を覚える雄叫びを上げて兵士達が前方で砂煙を上げながら走行する『T-34』と呼ばれる戦車を盾にして走って来る。
「来やがったな」
「あぁ」
兵士たちはそれぞれの銃火器を持って塹壕から出てきて対戦車砲や高射砲に着くと砲弾を取り出して装填する。
他に重機関銃に着きベルトリンクに繋げられた弾をセットして装填する。
「何時見ても多いこった」
「全くだ」
『MG42』と呼ばれる重機関銃を持ちベルトリンクを持つ兵士二人は一面を覆い尽くしている敵兵の数に呆れ半分の様に呟く。
「撃てぇっ!!」
そして互いの距離が縮まった所で指揮官の号令と共に『8.8cm Flak 18/36/37』と呼ばれる88mm高射砲、『7.5cm Pak 40』と呼ばれる75mm対戦車砲群が一斉に火を吹き、その内数発がT-34七輌の正面を貫通して撃破する。
やり返しと言わんばかりにT-34各車が主砲を放ってくるも走行中の行進間射撃とあって照準はぶれまくり、砲弾はあらぬ方向に飛んでいく。
続いて重機関銃群が一斉に火を吹き、曳光弾混じりで雨霰の如く弾丸が兵士達に襲い掛かって次々とその命を散らしていく。
装填手が75mm対戦車砲に砲弾を装填し、同時に指揮官が「撃てぇっ!!」と号令を発し、轟音と共に砲弾が放たれてその反動で銃座が後座して空薬莢が硝煙と共に排出される。
砲弾は若干右に逸れるもT-34の砲塔基部を貫通し、動きが止まる。
兵士の一人が『stg44』と呼ばれる小銃の引き金を引き連続して弾を放って敵兵を次々と撃ち抜いていくと、空になったマガジンを引き抜いて新しいマガジンを差し込んでコッキングハンドルを引き薬室に弾を装填し、再度射撃を開始する。
「相変わらず蟻の様にわんさかと湧き出てくるなぁっ!」
重機関銃に着いている兵士は悪態を付き、機関銃の側面の蓋を開けて中の焼け付いた銃身を排出して新しい銃身を差し込んで蓋を閉じ、射撃を再開する。
「っ!」
すると上空からエンジン音が響き渡り兵士の一人が見上げると、数十機の航空機が戦場に飛来してきた。
「味方の爆撃隊だ!」
兵士が叫んだ瞬間爆撃機らは一斉に降下し、サイレンの様な音を辺りに響き渡らせ搭載している爆弾を一斉に投下する。
爆弾はある意味異常なものとしてT-34群に殆ど命中して、多くのT-34を撃破し、外れても至近に着弾して爆風で履帯が破壊されて擱座する車輌が続出する。
「おいおいあの命中率。まさかと思うがあの爆撃機隊……空軍の――――」
「っ!」
しかしその直後に向かって来る兵士群の中から何人かが突然空へと舞い上がると背中から翼が広げられる。
「クソッ!やつらハーピーを紛れ込ませて居やがった!」
銃火器を手にしているハーピーは背中の翼を羽ばたかせて一直線に陣地へ向かって来て兵士達はとっさにMP40やstg44、MG42を空に向けて放つ。
弾幕が張られて何人かのハーピーが撃ち落されるも、弾幕を突破したハーピーは手にしているサブマシンガンを陣地に向けて放ち、何人もの兵士を撃ち殺していく。
陣地を飛び越す途中で手榴弾を落としていき、陣地数箇所で爆発が起きて多くの兵士が巻き込まれる。
中には帽の先端に膨らんだ物体……『パンツァーファウスト』を構えるハーピーが陣地に向けて放ち、88mm高射砲と75mm対戦車砲を吹き飛ばす。
「くそっ!」
舞い上げられた砂を頭から被りながら兵士は小銃をハーピーに向けて放ち、弾はハーピーの背中の翼の片方を撃ち抜き、ハーピーはバランスを崩して地面に落下する。
「マズイ!戦車が来るぞ!」
混乱に乗じて戦車部隊は陣地に接近していた。
反撃しようにもT-34が一斉に砲撃して陣地の高射砲と対戦車砲を吹き飛ばす。
「くそっ!」
兵士の一人が木箱からパンツァーファウストを取り出して構え、T-34に向ける。
しかしその瞬間T-34は砲塔側面に砲弾が命中して貫通し、動きを止める。
「っ!」
兵士はとっさに右に視線を向けると、T-34とは違う戦車が次々と丘を越えて現れる。
「あれは、リベリアンの戦車隊だ!」
『おぉ!』と陣地に居る兵士達から声が上がる。
丘を越えて現れた戦車……『M4A3E8』に『M26パーシング』は一斉に砲撃を始めT-34を次々と撃破していく。
T-34は慌てた様子で砲塔を旋回させて砲撃しようとしたが、その瞬間空気を切り裂く音と共に何かが落下し、T-34を粉砕する。
兵士はとっさに上空を見上げると、自軍とは違う国籍マークを持つ戦闘機が飛び去っていく。
「リベリアンの戦闘爆撃隊か」
戦闘機の翼や胴体に搭載された爆弾やロケット弾が投下され、次々とT-34や敵兵に襲い掛かる。
続けてリベリアンと自軍の爆撃機による爆撃で戦車と敵兵を更に粉砕していき、更に双発爆撃機による絨毯爆撃で被害が拡大していく。
さすがに立て続けにやられて敵は不利と判断したのか、攻撃しながら後退していく。
「どうやら、一難は去ったようだな」
双眼鏡を覗きながら司令官は呟く。
「日に日に敵の攻撃も激しくなってきますね」
「あぁ。これだと更なる増援も必要になってくるな」
これからの事を考えて司令官はため息を付く。
「司令!大変です!」
慌てて塹壕から通信兵が出てくると、司令官に耳打ちする。
「なにっ!?敵の増援だと!?」
「真っ直ぐこちらに向かっているとのことです!」
「くそっ!一難去ってまた一難か!」
舌打ちをして陣地を振り返る。
予想外の攻撃に高射砲に対戦車砲の多くが破壊され、兵士も多くの人数が戦死している。
こんな状態では、先の未来など考えるまでも無い。
「どうしますか?」
「……現時点を持って陣地を破棄。後方の防衛陣地まで撤退する。リベリアンの戦車部隊にも伝えよ!」
「じ、陣地を破棄するのですか?」
「この状態では先の未来など目に見えている。全責任は俺が持つ。急げ!」
「……分かりました!」
すぐさま命令が伝達され、部隊は陣地を破棄してリベリアンの戦車部隊と共に撤退した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
某所
「……」
窓から太陽の光が差し込んで室内を照らす中、一人の女性が椅子に座り窓から外の景色を眺めている。
「総統閣下!」
と、勢いよく扉が開かれ男性が入ってくる。
「騒がしいな」
「も、申し訳ございません。ですが、緊急の報告が」
「……内容は?」
「ハッ!先ほど連絡があり、コンティオス平原の守備隊がロヴィエアの機甲部隊と交戦。リベリアンの戦車部隊と爆撃隊の援護があって撃退に成功。しかし更なる大部隊の接近があり、防衛線を下げたとのことです」
「……」
「現場指揮官の勝手な判断です。どうしますか?」
「……」
女性はギィと椅子を回転させて男性の方を向く。
「防衛線の再構築を進めろと伝えろ。それと付近の第7機甲大隊を送り、戦力の増強を図れ」
「よ、よろしいのですか?」
「彼の判断は正しい。もしそのまま防衛に徹していたのなら、むしろ処罰ものだ」
「……」
「彼らの支援はしっかりとするように」
「ハッ!」
「それとリベリアンに更なる支援の要請を――――」
「それなのですが……」
「ん?」
男性に遮られて女性は眉を顰める。
「既に要請はしていますが、本格的な支援はまだ待ってもらいたいとの返答が」
「was?どういう事だ」
女性は怪訝な表情を浮かべる。
「理由を聞いたところ、何やら重要な事をする為に大統領自ら赴かれる為、だそうです」
「あいつが自ら、か」
女性はとある男性の顔を思い出す。
「しかし、何をするつもりだ」
「表面的にですが、この戦争の為に我がゲルマニア公国とリベリアン合衆国の同盟軍にもう一勢力を加えるとの事です」
「もう一勢力と言っても、連合軍に対抗できる戦力があるとは思えないのだが?」
「それが、あるようです」
「……」
「ただ、確信は無い、と言って詳細は語りませんでした」
「……それで、その国の名前は分かったのか?」
「いいえ」
「……」
「ですが、かつての戦友が率いていた国、とだけ言っていました」
「かつての戦友……」
それを聞き、女性はどこの国かが脳裏に過ぎる。
「そうか……。そういうことか」
「……?」
「分かった。それまで我々だけで迎え撃とう。各戦地への補給を怠るな」
「ja!」
男性は右手を上に上げる敬礼をして部屋を出る。
「……」
女性は窓の方に向いて椅子から立ち上がると、窓の前に立ち街並を眺める。
(そうか。あいつも、この世界に)
女性は内心で呟いて口角を少し上げる。
(いや、この世界には私を含むトップランカー達が揃っているのだ。彼だけがいないはずがない)
何よりその人物の実力はあれをやっている誰もが知っているほどのものだ。そんな彼だけがこの世界にいないとは考えづらい。
(もしお前が本当にこの世界に来ているのなら、会いたいな――――――――
―――――――弘樹)
女性は懐かしそうに内心で呟いた。
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所は変わって某所
「しかし、本当に行くのですか?」
「あぁ。俺が行かないと今回の目的を果たせないだろ?」
港に多くの軍艦が停泊しているその中の一隻の軍艦の艦橋ウイングに、心配する狐耳の獣人族の女性をよそに男性はそう返す。
「それに、久しぶりにあいつに会えるんだ。それが楽しみで仕方が無い」
「まだあなたが言う人物の国かどうかも分からないのですよ?あの写真に写っていた六発機と国籍マークだけでは、判断材料が少なすぎます」
「……確かに、あの六発機が扶桑国の物だって言う確信はまだ無い。だが、国籍マークにあの六発機だ。可能性は十分高い」
「……」
「それに、仮に違っても交渉次第ではその国の戦力をこの戦争に使う事が出来る」
「逆に敵を増やす事にもなりかねませんがね」
「それは、まぁな」
男性は苦笑いを浮かべる。
「そもそも、交渉に向かうのにこの戦力は過剰では?」
獣人族の女性はこれから出発する艦隊に視線を向ける。
「万が一に備えてだ。これから未知の海に向かうのだから、当然だろ?」
「だからと言って、就役したばかりのモンタナ級戦艦1隻にアイオワ級戦艦6隻、ヨークタウン級航空母艦とレキシントン級航空母艦を2隻ずつ計4隻。その他に軽重巡洋艦10隻と駆逐艦20隻。戦争にしに行くのですかってぐらいの戦力ですよ?」
「……」
彼女の言う通り、過剰と言えば過剰な戦力ではあるが……
まぁそれは兎に角として、男性は獣人族の女性を説得させて艦隊を出港させた。
かつての友と会う為に……




