第五十一話 終結
扶桑国の西条弘樹とバーラット帝国の新皇帝アトリウスの講和交渉を経て、事態は終息しつつあった。
アトリウスの命令で各地で戦闘を続けていた軍は戦闘行為を止めて、次々と扶桑へと降伏した。だが、中には命令に背いて戦闘を続ける部隊もあったが、どういう結末を辿ったかは言わずともだがな
しかし予想以上に降伏する者が多かったのは、帝国のやり方や理不尽な命令に不満を覚えて居た者が多かったらしい。
講和交渉から一ヵ月後、旗艦紀伊が率いる聨合艦隊はバーラット帝国の帝都グレンブルの港から可能な限りまで近付いた海域にやってくる。
この時聨合艦隊の多くの戦艦や航空母艦、重巡洋艦などを初めて見た帝国の民は、その姿に圧倒され自分達がどんな強大な国を相手にしていたのかを知る事になった。
その後戦艦紀伊の甲板上にて降伏調印式が行われ、アトリウスはそれぞれの書類にサインをしていき、全ての書類にサインを終えた後弘樹とアトリウスは固く握手を交わした。
そしてバーラット帝国は無条件降伏に伴い以下の条件が課せられる事となった。
一:帝国は軍を解体し、所有する武器兵器は全て扶桑国が接収し、以後国内外において武器兵器の研究開発と所持を禁止し、現時点ではありとあらゆる武力を持つことを一切禁ずる。
二:国の名称をバーラット帝国からバーラット共和国と改名し、領土も三分の一を他国に譲渡し、グラミアムを含む侵攻した国へ賠償金を支払う。
三:共和国は扶桑国と同盟を結び、土地の提供と一年ごとに税を収める事。
四:その代わり扶桑国は武力を持たない共和国の矛と盾となることを確約する。
五:種族差別を徹底的に排除し、共和国内外にて種族平等を目指す。
六:過激宗教派団体を野放しにせず、その全てを摘発する。
いくつかは達成するのに時間が掛かるだろうが、最終的には実現を予定している。
今のところ武力所持を禁止しているが、魔物の対処もあるので将来的には警備隊なる組織を立ち上げる予定だ。
他にも戦争中に残虐な行為や様々な犯罪行為をしてきた者達を扶桑側の法で裁き、A級戦犯となった者として処刑している。
こうして長きに渡る戦争は扶桑国と言う異界の国家によって終戦を迎えたのだった……
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降伏調印式から三日後……
「ようやく、戦争が終わったんですね」
「あぁ。まぁ俺達からすればそれほどって長さじゃないけど」
俺とリアスは市街地の中にある公園に訪れて、高台から景色を眺めていた。
戦争に勝ったとあってあちこちで戦勝を祝ったどんちゃん騒ぎが起きており、そのせいで警察沙汰になる所が続出する。
「長かったようで、短かったような、不思議な感じだ」
「そうですね。あんなに長く感じられたのに、終わりはあっという間でしたね」
「……」
俺は視線を前に向けて、目を細める。
「しかし、平和と言うのは、多くの尊い犠牲があって手にすることが出来るんだろうな」
「……」
「犠牲なくして勝利なし。当然の事なんだが……」
「……」
二人の視線の先には、巨大な大理石が多く設置されていた。
終戦後、俺は戦死者の名前を刻んだ慰霊碑を公園に設置した。設置理由は彼らの犠牲が決して無駄でなかった事を後の世に伝える為である。
慰霊碑に自分の家族や恋人の名前が刻まれていない事を祈りつつ名前を探す人が絶えず、名前が無かった事でホッとする者も居れば、名前があって泣き崩れる者もいる。
中には赤ん坊を抱えて泣き崩れる者もいた。
その傍で先に逝った戦友の弔う為に供え物を置く兵士達も多く居て、それぞれ敬礼を向けていた。
戦争で戦死した者、行方不明者は両軍合わせて200万人以上を超えており、その五分の一は扶桑軍兵士である。
ちなみに戦時中に捕らえた旧帝国軍の兵士は全員解放したが、その内五分の二は国へは帰らず扶桑軍に志願した。理由は国に帰っても家族はいない、変える場所は無い、国に恨みを持っている、等々と理由は様々だ。
「そして失われるものもあれば、新しく生まれるものもある、か」
俺は腕の中に抱えられている命に視線を向ける。
終戦の一週間前にリアスは双子の子供を出産した。
俺の腕の中に抱えられているのは長男で、リアスと同じ髪の色で頭には獣耳が生えている。リアスの腕の中に抱えられているのは後に生まれた長女で、俺と同じ髪の色で長男と同じく頭に獣耳が生えている。
こうして見ると獣人としての遺伝子が強いようだ。
俺とリアスは長男を響と名付け、長女を未来と名付けた。
「こうした平和が、ずっと続いて欲しいですね」
「そうだな。出来れば、続いて欲しいものだ」
俺はそう願いつつ、空を見上げる。
時系列は遡って、扶桑国がバ号作戦を開始する一ヶ月前。
「……」
スーツを着た男性は手にしている写真を真剣な面持ちで見つめていた。
写真には、雲に見え隠れして写っている富嶽が写されていた。
「この写真に写っている大型機は本当なのだな、大尉?」
「は、はい!自分と部下がこの目で見ましたので、間違いありません!」
目の前に立つ男性はそう答える。
「……」
「大統領……」
スーツを着た男性の隣に立つ、狐の耳を持つ獣人の女性は不安な様子を見せる。
「……」
男性は再度富嶽に視線を向ける。
(まさかな……いや、この状況で、あいつだけいないとは考えづらい、か)
(だが、あいつとも限らない)
様々な考えが頭の中で交差するも、すぐに答えが出るわけじゃない。
「ごくろうだったな。今日は帰ってゆっくりと休むといい」
「は、ハッ!失礼します!」
男性はビシッと敬礼をして部屋を後にする。
「しかし、こんな巨大な航空機が存在するなんて。一体どこが建造したのでしょうか」
「……」
「大統領?」
狐耳を持つ獣人の女性は返事を返さないほどに真剣な様子の男性に怪訝な表情を浮かべる。
(お前も、この世界に来ているのか……弘樹?)
男性はこの世界に来る前の親友であった友の名前を内心で呟いた。
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