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異世界戦記  作者: 日本武尊
第三章
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第三十九話 戦後処理の悩み




「おいおい冗談だろ!!どんだけ兵力をつぎ込めばいいんだよ!糞が!!」


 五式中戦車のキューポラマウントに設置されている三式重機関銃改を放ちながら女性車長が増援を見て悪態を付き、怒りに任せて五式中戦車の砲塔天板を右拳で叩き付ける。


 周りではグレートドラゴンが流した血や兵士と魔物の肉塊で大地は赤く染まっており、鼻が曲がりそうな生臭い臭いが辺り一面に漂っている。そんな中でトーチカや塹壕で残った帝国軍兵士との死闘が繰り広げられていた。


「死ねぇっ!!」


 帝国軍兵士が剣を振り下ろすが扶桑陸軍兵士は四式自動小銃を前に出して剣を受け止めるとそのまま蹴り飛ばし、銃床で殴りつけて銃口を向けて発砲する。


 別の場所では扶桑陸軍兵士を切りつけた帝国軍兵士に別の扶桑陸軍兵士が軍刀を勢いよく縦に振り下ろし、背中から切りつける。


 第二防衛線はそんな地獄絵図と化している。




「くそったれ!!何なんだよあの数は!」


 九〇式野砲に着く砲手は愚痴りながら狙いを定め合図を叫び、装填手が拉縄を思い切って引いて砲弾が放たれて砲身が後座し、戦車もどきの正面から貫通して内部で爆発して撃破する。


「文句言うな!そんなの誰だって同じ事考えてるよ!!」


 装填手が文句を返しながら野砲に次弾を装填させると、拉縄を持つ。


 直後に戦車もどきの大砲から放たれた砲弾が九〇式野砲の近くに着弾し、野砲と砲手、装填手が吹き飛ばされる。


「がっ!?」


 砲手は背中から地面に強く叩きつけられ激痛が身体中を走る。


「きゃぁっ!」


「ぐぉっ!?」


 更に装填手が砲手の上に落ちて来て更に違い方向から激痛が身体中を走る。


「ご、ごめん!」


 装填手がすぐに退くも、砲手は悶絶して地面に倒れていた。


「う、うぅ」


「だ、大丈夫?」


「これが大丈夫に見えるか?」


「……」


「……だが、このままじゃ、まずいな」


 砲手は全身に激痛が走る身体に鞭打って上半身を起こして前を見ると、戦車もどきの大群は砂煙を上げながら進軍を続けている。


「制空権はこちらの手中にあるけど、さっきの巨大龍で爆撃した後だから爆撃機が無いのが痛いわね」


 竜騎士は陸軍航空隊と海軍陸上航空隊によって一掃されたので制空権は扶桑側にあるが、グレートドラゴンへ爆撃を行ってまだ飛行場で補給中であるので爆撃ができなかった。


「……」



 が、その直後に戦車もどきの大群が突如として爆発し、風に吹き上げられた木の葉の様に舞い上がる。


「っ!?」


「な、何だ!?」


 誰もが驚く中、空気を切り裂く音と共に戦車もどきの大群は広範囲の爆発に襲われ、次々と破壊される。


「砲撃?」


「四十一糎榴弾砲や列車砲の砲撃、じゃないな」


 さっきの列車砲の砲撃と四十一糎榴弾砲の砲撃は爆発した数が多い。


「……艦砲射撃か?」


 砲手はとっさに海がある方向に視線を向ける。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 ヴァレル基地から南に32km先にある海域。



 そこには伊勢型航空戦艦と扶桑型航空戦艦が41センチ三連装主砲3基9門を轟音と共に砲撃を行い、次々と雷鳴の様な砲声を響かせながらとある砲弾を飛ばしていた。


「それにしても、結構効果がありますね、これ」


「あぁ。対地攻撃を主眼にしていると聞いているが、これほどとはな」


 伊勢の艦橋では観測機からの報告を聞き、艦長と副長はそれぞれを口にする。


「伊勢や扶桑に換装された16インチでこれほどの威力であれば――――」


「あの戦艦の砲撃ではとんでもないでしょうね」


「だろうな」


 艦長は苦笑いを浮かべながら砲撃を行っている伊勢や日向、扶桑、山城の後方に居る一際目立つ戦艦を見る。


 伊勢型と扶桑型が駆逐艦に見えてしまいそうな錯覚を覚えるほど巨大な船体を持ち、それが持つ巨大な4基の主砲より伸びる3門ずつ計12門の砲身が今正に砲撃を行おうと上げられていた。


 それこそが扶桑海軍が誇る超巨大戦艦である紀伊型戦艦、その二番艦である『尾張』である。


 尾張は紀伊と形状は似ているが、紀伊と違いとある試作兵器を搭載している関係上紀伊と比べると高角砲と機銃の搭載数が少ない上に棒状アンテナを持つ魔力電探を艦橋と煙突の間に立てて標準装備しているので、パッと見た感じ雰囲気が異なる。

 これらを見ると尾張はかなり実験的な要素が多い戦艦とも言えよう。



「観測機より報告!弾着確認!効果は大とのこと!」


『おぉ!』と昼戦艦橋内で声が上がる。


「使えますな、二式多弾は」


「あぁ。総司令が考案した物だ。使えて当然だ」


 尾張艦長の言葉を品川は腕を組み自信に満ちた声で言う。


 

 二式多弾とは、扶桑海軍が弘樹の考案した案を基に開発した戦艦専用の対地攻撃を主眼にした砲弾である。


 基本構造は1発の砲弾の中に小型爆弾を内蔵しており、41センチなら6つ、46センチなら7つ、51センチなら8つ内蔵している。

 小型爆弾に用いられている爆薬は従来の3倍以上の火力を有する特殊な物であり、コストは高いがその威力は一発一発が50番爆弾と80番爆弾の中間並みにある。


 しかしなぜそんな砲弾の開発が必要になったのか?



 事の始まりはこれまで地上への艦砲射撃で問題になっていたのが火力と範囲の二つであった。


 これまで地上への艦砲射撃には零式弾と三式弾を用いてきたが、零式弾では火力こそあるがその範囲が狭く、目標が広範囲に居ては効果が薄かった。

 三式弾では範囲こそ広いが火力が無いので破壊目標が大きい、もしくは強固であったら破壊力に不足していた。と言うのも三式弾は本来対空迎撃を目的にした砲弾なので破壊力が少ないのも仕方が無い。


 で、この事実に弘樹は『両方の特性を持った砲弾を作れないか?』と技術省に問い合わせた所から開発が始まったのだ。


 最初は色々と設計に難儀したが、三号爆弾や三式弾、滑走路を破壊する目的で開発されたクラスター式爆弾の構造からヒントを得て開発が大きく進んだのだ。しかしそれでも破壊力不足だったり爆弾の内部機構や信管設定、爆薬の選択、小型爆弾を囲う砲弾の強度問題等々、次々と問題点が浮上して開発はそう簡単には行かなかった。


 そして何とか完成した砲弾の試験の為に就役したばかりの尾張を旗艦に伊勢型航空戦艦と扶桑型航空戦艦、雲龍型航空母艦と共に出港した。


 試験を行う無人島付近の海域へ向かう途中で聨合艦隊が接近中の敵艦隊の迎撃の為出撃したとの報を受け、試験を中止して本国に戻る途中ヴァレル基地へ帝国軍が進撃しているとの報を受け、品川大将の独自の判断で艦隊をヴァレル基地により近い海域へ向かわせた。

 その後観測機から状況を聞き出し、味方に被害が被らないように新型の砲弾の試験をついでに艦砲射撃を開始した。



 そして41センチ砲とは比べ物にならない砲声と共に51センチ砲が火を吹き、51センチの新型砲弾が12発飛翔し、先ほどの艦砲射撃で混乱が生じた帝国軍へ空中で砲弾が破裂して内蔵されていた8つの小型爆弾が散らばって地面に着弾し、地上を走る戦車もどきと兵士、魔物が吹き飛んだ。


 その後砲撃を終えた伊勢型航空戦艦と扶桑型航空戦艦からカタパルトで発進できるように改装された彗星と流星の2機種が飛び立ち、雲龍型航空母艦『雲龍』と『葛城』より同じく彗星と爆装した流星、噴進弾を翼下に懸架した烈風が発艦し、混乱で進撃を止めている帝国軍へ向かう。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「総司令!分かりました!艦砲射撃を行っているのは戦艦尾張を旗艦とする第一試験艦隊です!」


「と言う事は、品川か」


 司令部では艦砲射撃の大本が判明し、俺はすぐに誰かが思い浮かぶ。


「しかし、新型砲弾の試験の為に出撃したはずではなかったのでしょうか?」


「恐らく向かう途中で聨合艦隊が動いた事を知って試験を中止にしたのだろう。まさか支援に来るとは思わなかったけど」


 スクリーンには航空戦艦伊勢と日向、扶桑、山城、空母雲龍と葛城から飛び立った流星、彗星、烈風の爆撃が開始され、帝国軍の残存戦力に追い討ちを掛ける。



「っ!総司令!本国より飛び立った爆撃隊が到着しました!」


「ようやく来たか」


 オペレーターより爆撃隊到着の報が入り、スクリーンに防衛線へ向かう爆撃隊の姿が映る。


「連山改。それも地上支援型と地上殲滅型とは、随分奮発したな」


「富嶽が居ないのなら、むしろ抑えた方でしょう」


「そりゃそうか」


 まぁ、抑えても凄い事に変わりは無いが。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「こりゃ凄い事になっていますね」


「あぁ。一体何があったんだ?」


 機体左側面に改造した九二式十糎加農砲2門と『五式四十粍高射機関砲』2門が設置された地上支援型の連山改の操縦席では機長と副機長がグレートドラゴンが絶命して地面に横倒しになり、辺り一面赤く染まった地上の惨状を目の当たりにして少し引いていた。


「まぁいい。俺たちはやる事をやるだけだ」


「ですね」


 機長は無線機を手にしてスイッチを入れる。


「まずは地上殲滅型の爆撃だ。森を含めて爆撃しろ」


 通信を送ると、5機の地上殲滅型の連山改が高度を下げながら先に進み、爆撃体勢を取る。


 地上殲滅型の連山改は爆弾倉のハッチを開けると、そこにはずらりと噴進砲が並んでおり、三号爆弾の構造を基にした噴進弾が発射を今か今かと待っている。


 そして爆撃コースに入り、連山改の機体下部に並んだ噴進砲から一斉に噴進弾が煙を吐き出しながら放たれ、地面に着弾して破裂して炎を上げて地上の戦車もどきや兵士、魔物に襲い掛かる。


 そのまま連山改の爆撃は森へと続き、爆発と共に上がる炎で森はどんどん焼かれてそこから悲痛な叫びが上がる。


 これ以上増援を送られるのは面倒であると弘樹が転送魔法の反応が発生して敵戦力が湧いている森への爆撃を指示し、地上殲滅型の連山改に行わせた。自然破壊をしているようで気分の良いものではないが、戦場で一々自然の事を考えてはキリが無いだろう。



 その後地上殲滅型の連山改による爆撃が終了すると、地上支援型の連山改が戦場の上空を旋回し始め、機体の左側面に設置された九二式十糎加農砲2門と五式四十粍高射機関砲2門が地上に向けられ、一斉に火を吹く。

 一定のリズムで五式四十粍高射機関砲が、同じく九二式十糎加農砲が放たれ、地上に榴弾を降らして次々と戦車もどきと兵士、魔物を吹き飛ばして殺傷する。


 更に追い討ちを掛けるようにして尾張、伊勢、日向、扶桑、山城からの艦砲射撃に雲龍と葛城の烈風、流星、彗星の爆撃も加わり、先ほど爆撃した森を含めて戦場は多くのクレーターが出来た焦土と化した。



 そして一時間が過ぎた頃には帝国軍にもはや軍隊とは呼べない人数しか残っておらず、残った兵士達は全員降伏してようやく戦闘が終了した。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「俺が言うのもなんだが……これはヒドイ」


 色んな意味で惨状と化している戦場がスクリーンに映し出され、俺は思わず呟く。


「ここまでになるまで攻撃をやめなかったのです。自業自得です」シレッ


 他人事の様に言うなよ。いくら敵でも、これはなぁ……



「しかし、これで帝国は深刻なダメージを負ったはずです」


「あぁ。これならしばらく満足に動く事は出来ないだろう」


「そう願いたいものですが……」


「……」


 まぁ、これで帝国が止まるとは思えんがな


(しかし、後処理の事を考えると頭が痛くなるな)


 で、一番の問題なのは――――


「あの死骸はどうするかだよな」


 俺は肉塊と化して辺り一面を血の海にしているグレートドラゴンを見てため息を付く。


 これを片付けるとなると……


「……気が滅入るよな、これ」


 俺がやるわけじゃないが、それでもこれはなぁ


「今まで集めた捕虜を動員すれば、何とかなるでしょう」


「捕虜を動員、か」


 確かテロル諸島に作った収監所には捕らえたり投降した帝国軍の捕虜を集めて、10万人以上はいたはず。まぁこれから更に増えるだろうがな


「ブラックなやり方だが、仕方ない。処理は陸軍と捕虜にやらせる。後の事は辻に任せる」


「ハッ!」


「次にボロボロになった防衛線の再構築を行う。仮にまた襲撃があっても対応できるようにな」


「では、我が基地に駐留している第6機甲連隊と第8戦車大隊を送りましょう。彼らもしばらく出撃がなくうずうずとしている頃でしょうし」


「よし。ならそうしてくれ」


 俺は深くため息を付いて背もたれにもたれかかる。


「さて、後は―――」


「今後についてですね」


「あぁ。色々と計画を練り直さないといけないし、戦没した赤城と加賀の分補充する戦力を再編成しないといけないし」


 かと言っても一部はどうしても編成を崩すわけにはいかないし、建造中の空母を編入させるにも乗員と搭乗員の育成が間に合わない。


「考えるだけでも頭が痛くなりそうだ」


 再度深いため息を付いた。





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