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異世界戦記  作者: 日本武尊
第三章
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第三十三話 




 帝国軍による扶桑本土爆撃を阻止してから一ヶ月の月日が流れた。




 とある基地に一機の『零式輸送機』が飛行場へと着陸する。



「……」


 俺は機体から下ろされたタラップを伝って降りると、続いて辻とガランド博士(なぜ彼女がいるかというと、見学の為である)が降りてくる。

 前には扶桑陸軍の将校と兵士が陸軍式敬礼をしていた。


「お待ちしておりました!西条総司令!」


 真ん中に立っている男性が口を開き、俺と辻も答礼する。



 今回俺達はグラミアムに向かい、ステラとアーバレスト将軍ら軍の者達と今後についての話し合いを行い、近々扶桑の旧式武装の無償提供(レンドリース)を行うことを伝えると同時に無償提供後のルールと仕様を説明をした。

 そして会議を終えて零式輸送機で要塞基地の次に規模が大きい『ヴァレル基地』に向かい、視察とある確認のために降り立った。



「相変わらずここは賑やかだな」


「えぇ。日々帝国との戦闘に備え、訓練を欠かしていません」


 基地内を車で移動中、俺は演習場で訓練に励む兵士達の姿を見る。


 その他にも貨物を牽引するD52型やD51型、9600型等の蒸気機関車がヴァレル基地に補給物資を運び入れたり、飛行場では陸軍航空隊と海軍陸上航空隊の戦闘機や重戦闘機が哨戒のために飛び立ったり、格納庫では各戦闘機が整備がされている。

 そしてその飛行場は現在拡張工事を行っており、将来的には本土より飛び立つ爆撃機の補給基地として機能する予定である。


 そして他の基地と違い、敷地内に有する兵器工場では次々と武器や兵器が完成しては運び出されている。


「……」


 ふと、基地内のとある場所に巨大な物体が布を被せられて鎮座しているのを確認する。


(あぁ。そういえばこの基地にあれを試験配備、と言う名ばかりの厄介払いをしたんだっけ)


 俺が陸海軍に共同で作らせた例のあれだが、色々と問題があって製造に困難を極めたが、何とか完成はしている。


 全部で3門が試験的に製造され、その後の試験も上々の結果を残している。


 ……が、巨大な代物とあって運用がかなり難しく、コストパフォーマンスが劣悪とあり、結局サイズダウンしたやつを限定生産して運用する予定だ。まぁ、実質上不採用に近い状態なんだが……

 そして試験の後は要塞基地に半ば死蔵状態だった3門は解体しようと言う案もあったが、捨てるには勿体無い代物であるので、パーツごとに分解した後にこのヴァレル基地に運び込まれ、専用設備の建造と共に組み立てられて、この基地に配備されている。


 まぁ、配備した上に専用設備を建造しているが、配備以来一度も使われていない。


(まぁ、今後の戦闘では活躍の場があるかもな)


 内心呟いて、車は基地司令部に着く。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――




(ふむ。準備は着々と進んでいるな)


 基地司令部の司令官よりヴァレル基地に配備されている戦力の現在状況を聞き、来たるべき戦いに向けて準備が進んでいるのを再確認した。


 扶桑はあくまでグラミアムに侵攻して来る帝国軍を押し返して防衛し、帝国と講和に持ち込むつもりだったが、戦況は扶桑とグラミアムに大きく傾いているにも関わらず帝国軍の侵攻は止まらず、むしろどんどん勢いを増して侵攻を続けようとしている。とても講和に持ち込めれる状態ではない。

 これ以上待っても犠牲者がただ増え続けるばかり。だからこの戦いを早期に終わらせる為、準備が整い次第に陸海軍の主力によるバーラット帝国本土への総攻撃を行う


(聨合艦隊の戦力も整いつつあるし、潜入した調査員によって帝国本土の各地にある軍事基地や兵器工場の場所も浮き彫りになっている)


 まぁ簡単に言えば、帝国は丸裸も同然だと言う事だ。まぁだからと言って帝都に直接爆撃をするつもりはない。


 確かに帝都への爆撃は帝国への心理的打撃は高いだろうが、逆効果になりかねないのだ。だから、あえて遠回しに攻めて追い詰めていく。


(魔法技術を応用した技術を用いた新兵器も試験は良好。魔力電探も完成して随時各地や艦艇に配備している)


 艦艇に配備していると言うが、実際の所聨合艦隊の主力艦艇にはまだ搭載がされておらず、本国で待機している軍艦を中心に配備が進んでおり、最近就役したあの戦艦の姉妹艦に搭載されている。




「ん?」


 んでもって、ある程度話し合いが終わって出発までの時間が空いたので、俺はこの基地にある射撃場に暇つぶしにやって来たのだが、先客がいるのか銃声が聞こえる。



「……」


 射撃場に入ると、そこには今となっては旧式の小銃となった九九式小銃を構える岩瀬大佐が狙いを定めて引き金を引き、銃声と共に放たれた銃弾は吊り下げられた既に的の中央が射抜かれた箇所を通り抜ける。

 横向きのボルトハンドルを持って縦にして後ろに引き、空薬莢を排出して元の位置に戻すと同時に次弾が装填される。この動作だけでも素早くかつ全く微塵も無駄な動きが無い。


 そして引き金を引いて銃弾を放ち、穴の開いた的の中央を通り過ぎる。


(凄いな)


 射撃の腕は知っていたが、これほど凄いとは



「さすがだな、大佐」


「さ、西条総司令!?」


 俺が拍手しながら射撃場に入ると、空薬莢を排出していた岩瀬大佐は驚いたように声を上げると、九九式小銃を置いてすぐに陸軍式敬礼をする。


「ところで、なぜ大佐はこの基地に?」


「ハッ!我が部隊は補給の為、この基地に寄った所であります!」


「そうか」


「そ、それで、総司令はなぜこの基地に?」


「あぁ。グラミアムで今後の動きについて話し合いをして、ついでと言った形で基地の視察のために来ているんだ。で、出発まで時間があるから暇つぶしにな」


「そ、そうですか」


「しかし―――」


 俺は台の上に置かれている九九式小銃に視線を向ける。金属パーツの至る所で塗装が剥げたり傷が入ったり、木製パーツが凸凹だったり傷だらけとかなり使い込んでいるのが分かる。


「セミオートの四式が主力となっているのに、未だにボルトアクションの九九式小銃を使っているのか?」


 それに現在陸軍の方では新型の自動小銃が開発されているって聞いているし。


「えぇ。この九九式は、私の入隊当初よりずっと、様々な戦場を共に切り抜けてきたんです。それに、この九九式に助けられた事だってあるんです」


 九九式を持つと、懐かしそうに見つめる。


「そうか」


 まぁ、分からんでも無いな。深い愛着があるのなら、そう簡単に手放せないよな。


「少しそれで撃ってみてもいいか?」


「えぇ。構いません」


 俺は岩瀬大佐より九九式小銃を受け取る。


 複雑な構造を持つ四式と比べるとやはりシンプルな構造のボルトアクションは軽いな。と言っても四式とは違う重みがある。


 クリップに5発纏められた実包を手にして薬室に押し込み、クリップを取り払ってボルトを固定位置に移動させる。


「……」


 九九式小銃を構え、新しいものに換えられた的が現れ、引き金を引く。放たれた弾は的の真ん中より少し右を撃ち抜く。


 ボルトハンドルを持って固定位置から外し、後ろに引っ張って空薬莢を排出して元の位置に戻して次弾を装填する。


 この一連の動作を5回繰り返し、最後の一発を撃って空薬莢を排出する。


「うーん。微妙だな」


 撃ち抜いた的が俺の前に降りてくると、穴は真ん中の周辺に5つあった。やっぱり腕は落ちているか。


「このくらいでしたら、そこそこ腕の良い方ですよ?」


「……常に訓練をして戦場に居る兵士と常に執務机に向かい合っている俺とじゃ比べようが無いだろ」


「そ、それもそうですね」


 岩瀬大佐は苦笑いを浮かべる。


「あっ、そうだ。倉吉准尉は元気にしているか?」


「え?は、はい。倉吉准尉でしたら元気ですが、どうしてですか?」


「あぁ、最近准尉には色々とあっただろ?同じ部隊の者から色々といじられてそうだからな」


「は、はぁ」


 何か心当たりがあるのか、苦笑いを浮かべる。



 彼女から話を聞いたところ、倉吉准尉はあの時の事で結構いじられているようだ。まぁあんな事があれば、そうなるよな……


 そして第二王女から手紙が半月に一度のペースで送って来ては返事を返す、そういった感じの付き合いになっているようだ。

 それで同じ部隊に居る男性兵士からは「爆発しろ」と陰で言われているとか何とか。


 本当に大変だな。まぁ、俺もそうなんだけど。



 そんな中で岩瀬大佐が俺の左手の薬指にはめられている指輪に気付いて、遅れながらも結婚式の事を聞いてきた。

 彼女は部隊と共に作戦行動中だったので出席は出来なかったが、結婚式が行われていたのは聞いていたようだ。


 しかし岩瀬大佐も女なのか、こういう話は気になる方なのか?


 

 その後しばらく岩瀬大佐と雑談をして、思いのほか時間が潰す事ができた。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 場所は変わりとある海域。



「あ~暇な上にあっちぃな~」


 海面に照らされる太陽の光が船体を薄っすらと映し出しているぐらいの深度に潜航している『伊58潜水艦』の艦内。結構ムシムシしている艦橋内では女性艦長が団扇を扇いでいた。


「そう言わんでくださいよ、艦長。我々の索敵次第では戦局に大きく関わるんですから」


 隣に立つ副長が艦長に言葉を掛ける。


「そうは言うがな。ここ最近トラック周辺の海域に近付く不審船は無いじゃないか。まぁ平和なのはいいけど、こうも暇だと参るよ」


「それはそうですが」


「それに、帝国もこれまでの戦いで多くの船を沈められているだろ。もう出せる船が無いんじゃ、潜水艦乗りに出番と言えば哨戒のみだ」


 テロル諸島の攻略の為、聨合艦隊の主力が囮として向かったジブラル海での戦闘で帝国側は多くの船を沈められている。それに加えてテロル諸島でも多くの船を沈め、補給の為にルート短縮の為の運河とは別のルートを航行していた補給艦隊も幻影艦隊所属の攻撃潜水艦隊によって例外なく沈めている。

 そうなると、帝国にはもうほとんど船は残ってないはず。と言うのが普通の考えだろう。




「……?」


 すると聴音機を耳に当てていたソナー手がとある音を聞いて反応し、感度を上げる。


「艦長」


「どうした?」


「10時方向の海面に波切り音を探知。しかしスクリュー音は無し」


「船、か?」


「グラミアムのでしょうか?」


「いや、グラミアムも多くの船を帝国に沈められてほとんど残ってないと聞いている。何よりこの辺りに来る理由がないだろ」


「……」


「まぁいい。潜望鏡深度まで浮上。潜望鏡上げ!」


「潜望鏡上げ!」


 伊58は潜望鏡が海面に突き出る深度までゆっくりと浮上し、潜望鏡が海面に出てくる。


「さて、何が来るか」


 艦長は制帽を回して前後逆にし、潜望鏡を覗く。


 海面は至って穏やかで、空は灰色の雲が多く太陽は辛うじて顔を出している程度だ。


「天気はあんまり良くないか……」


 そんな景色を見ながら10時の方向へと潜望鏡を向ける。


「っ!」


 そして潜望鏡が捉えた光景に艦長は目を見開く。


「な、何だあの数は!?」


「艦長?」


「副長!見てみろ!」


 艦長に言われて副長も潜望鏡を覗く。


「っ!?」


 そして副長も艦長同様に目を見開く。



 二人が目にしたのは、海上を覆い尽くさんばかりに広がる艦艇群の姿だった。


「な、何て数だ!?」


「あぁ。私もあんな数の船は見た事が無い」


「それにあの国旗は……バーラット帝国の!?」


 その艦隊の艦艇にはどれもバーラット帝国の国旗が掲げられている。


「ですが、一体どこからあんな数を……」


「疑問は後にしろ!潜望鏡下ろせ!潜航と同時に送信ブイを上げろ!トラックに敵の大規模艦隊の発見を打電だ!!」


 すぐさま潜望鏡は下ろされて、それに代わる様にして艦橋上部より野球ボールサイズの物体が有線に繋がれて切り離されると、海面へ浮上後細長いアンテナを伸ばす。

 それと同時にモールス信号で敵艦隊発見の報をトラック泊地へと送った。





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