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異世界戦記  作者: 日本武尊
第三章
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第二十九話 戦後処理




 夜が明けたエール王国




 ほぼ真っ暗な真夜中だったので気にする事は無かったが、こうして明るい中で見ると戦闘の爪痕は多く、扶桑は帝国軍兵士の遺体や戦車もどきの残骸の処理や回収など、戦後処理に追われていた。


 今回の戦闘で扶桑側の被害は15人の戦死者を出して重軽傷者も30名を出した。一方の帝国側は300人以上の戦死者と200名以上の重軽傷者が出た。だが、最重要目標だったエール王国側の犠牲者は怪我人を含め一人も出していない。

 これが功を奏したのか、エール王国側のエルフ族たちは扶桑の人間を何の躊躇いも無く受け入れていた。




「今回の事については、いくら礼を言っても足りないぐらいだ。本当に、フソウには感謝する」


 そんな中で、城の方では帝国から解放したエール王国を統べる国王『エレムド・ミラ・ガランド』から俺は辻、品川の三人で扶桑の代表として礼を言われていた。

 グラミアムの玉座の間と違って豪華さのあるエール王国の玉座の間で、玉座に座る国王に俺と品川、辻は略帽を脱いで片膝を付いている。


「礼には及びません。今回はあなた方の第二王女が知らせてくれたお陰で、今回の事に気づけたのです。むしろこちらが礼を述べたい」


 まぁ、少なくとも帝国の大幅な戦力増強は回避できたが、技術の流出の阻止は避けられなかったのが痛かったな。

 これがどれだけ今後響くのかと思うと、少し不安だな。





「改めてだが、娘を助け、国を救ってくれた事に感謝する」


 その後俺は国王と個人で話す事となり、国王個人として礼を言われる。


「礼には及びません。今回はこちらとしても帝国へ魔法技術の流出を防ぎたかったもので」

「それに、魔法技術に多少ながら興味もありますし」


「話はアイラより聞いている。あいつも中々難しい事を言ってくれる」


 国王はため息を付いて右手を額に当てる。


「だが、娘の言っていたものは必ず用意しよう」


「分かりました。しかし、帝国がそこまでして欲する魔法技術があれば帝国を返り討ちに出来たのでは?」


「それは最もだろうが、それが出来ない訳がある」


「……」


「サイジョウ総理なら、その意味が分かるはずだ」


「なるほど」


 強力すぎるが故に使おうにも使えない、と言った所か。それに、使えば技術流出は必ず起こる。それが周りで広がって行けばどうなるか、結果は目に見えている


「この技術を他国に流すわけにも行かず、ずっと隠してきたのだが、愚かにも若いエルフが金欲しさに魔力炉の技術と共に魔法技術の存在を帝国に流したのだ」


「それで、帝国が魔法技術を得る為にこの国に攻めに入った、か」


 単純明快な理由だな。ちなみにそのエルフはその後どうなったかは、言わずともだが……



「それで、一体どのくらいの魔法技術が帝国に流れたのですか?」


「恐らく魔力炉の技術を含めれば、片手で数える程度の技術はやつらの手に渡ったと見ていいだろう」


 少なくと1つ以上6つ未満か。意外と多く流れてしまったな。


「しかも恐ろしい事に、やつら禁忌魔法の一つを持ち出している」


「禁忌魔法?」


「とても恐ろしい魔法と言い伝えられている。だが、あまりにも恐ろしいものらしく、先祖代々からどのようなものがあるかは掟によって伝えられていない」


「そうですか」


 禁忌魔法か。聞いただけでも危険な香りがプンプンだな。一つだけとは言えど、帝国がどんな方法で使ってくるのか、ますます不安になってきたな。


「しかし、禁忌魔法は古代エルフ族の文字で書かれている。我々でも解読は難しいのだ。帝国と言えど解読は容易ではないだろう」


「そうですか」


 少なくとも、すぐに使われると言う事は無いか。しかし容易ではないと言っても、解読自体は不可能ではないと言う事は、いずれ使われる可能性がある。


(これは、時間を掛けていられないな)


 やつらが禁忌魔法の解読を終えて使用してくる前に、情報が集まり準備が整い次第行動を起こすか。




 その後の話し合いで、扶桑国とエール王国との国交が結ばれる事となり、エール王国より魔法技術の提供と共に、第一王女がアドバイザー(と言う名の監視役)が扶桑に来る事となった。


 そして同じくして扶桑国とエール王国の間に条約が結ばれ、互いの条件として扶桑は帝国の占拠を受け武力を奪われて防衛力を失ったエール王国の盾となり、エール王国は魔法技術及び物資、土地を扶桑へ提供を条件としている。

 扶桑は土地や物資を貰い受け、エール王国は盾を手に入れる。お互いに得するwin-winな関係と思えばいいか。それに、エール王国の位置は今後の帝国との戦いでも戦略上重要な拠点にもなるので、悪い話でもない。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 それから5日ぐらい俺達はエール王国に滞在し、多くのエルフとの交流を行った。その中には、ぜひとも扶桑に協力したいと言う者が多くいた。理由は、まぁ言わずともだがな。

 だが、中には扶桑にとっても今後の活動に必要なものもあったので、考えてみる事にした。




 その日の正午を過ぎた頃に、城の前では部隊の撤収が行われていた。


「よーし!いいぞ!」


 扶桑の歩兵が合図を送ると、捕虜を乗せた九四式六輪自動貨車4輌が走り出す。今回の戦闘で捕らえた捕虜の人数は70名のみと少ない。理由は義勇部隊が無駄に多くの帝国軍兵士を殺害したからだ。まぁ分からんでもないが、これは……

 その義勇部隊は捕虜を皆殺しにしてやると言っていたが、岩瀬大佐の一喝で全員を黙らせた。


 親兄弟や友人の敵を討ちたい、その気持ちは分かるが、扶桑の目的は帝国の殲滅ではない。今のところはあくまで侵略して来ている帝国を撃退することにある。



「……」


 その中で自分も荷物をまとめて撤収準備を終え、他の手伝いをしている。


(いざ立ち去るとなると、寂しいものでありますな)


 これまでの事を思い出しながら、荷物を積んだ箱をトラックに載せる。


 その間に義勇部隊の面々が乗り込んだ九四式六輪自動貨車の第一陣が城を発つ。



(それに……)


 ふと、ガランド殿の事が頭に過ぎる。


 この5日間、何かと彼女は自分のところにやって来ているような気がする。話を挙げるとキリが無いので割愛しますが。


 何となく、ここ最近の彼女の様子が最初と比べると違っているような気がする。


(まぁでも、彼女を守り通す事が出来たのでありますから、自分は任を全う出来て満足です)


 別に何かを期待しているわけではない。ただ単に兵士として任せられた任務を全う出来たと言う達成感を感じられたのだから。


(しかし……寂しくなりますな)


 いざ別れるとなると寂しさが込み上げて来るものですなぁ。



 そうして全体の撤収準備が整う。




「おーい!倉吉!」


 と、自分より階級が高い上官が自分を呼びに来た。


「は、はっ!なんでありますか!」


 とっさに上官に向き直って姿勢を正し、敬礼をする。


「お前にお客さんだ」


「じ、自分にでありますか?」


「あぁ」


 上官の視線の先には、見覚えのある顔が待っていた。


「ガランド殿?」


 そこにはこちらを待っているガランド殿の姿があった。


「お別れの挨拶か?この5日の間に何かあったのかこいつぅ」


「い、いえ、そういうのは……」


 上官はからかうように肘で自分を突いて来る。


「まぁ兎に角だ。撤収まで時間が無いから話なら手短にな」


「は、ハッ!」


 上官に敬礼をして、すぐにガランド殿の元に向かう。



「一体、どうしたのでありますか?」


「……」 


「お見送りでありますか?」


「ま、まぁ、それもあるけど……」


「……?」


「……」


 ガランド殿は少し間を空けてから、口を開く。


「……その、ありがとうね」


「え……?」


 意外な言葉に思わず声をもらす。


「何よ、その意外そうな顔して」


「い、いや、何でも無いでありますよ?」


「……まぁいいや」


 少し疑いの目を向けられたけど、彼女は咳払いして口を開く。


「タロウが居なかったら、お父様や国を帝国の手から取り戻せれなかったから」


「それは、別に良いでありますよ。むしろ決断なさってくれた総司令にお礼を言ってください」


「でも、私の話を聞いてくれたのは、タロウよ。あなたに会えなかったら、今頃みんなは……」


「ガランド殿」


「……」


「ま、まぁでも、こうして全員、とは言えないですが、無事だったんでありますから。良かったであります」


「そう、よね」


「……?」


 どこか落ち着きの無いガランド殿に、どこか疑問を感じる。それに、さっき自分の名前を呼んだ様な……



「あの、ガランド殿?」


「……アイラよ」


「え?」


「そう呼びなさい。ガランド殿とか、他人の様に呼ばなくて」


「い、いや、それは……」


「それに、敬語なんて要らないわ。普通に、話しなさいよ」


「そう言われてましても……」


 いくらなんでも、王女相手にそれは……


「い・い・わ・ね」


「アッハイ」


 威圧感に負けて、思わず了承してしまった。


「……あ、アイラ殿」


「あんた一々言わないと分からないの?殿も要らないわ。呼び捨てで言いなさいよ」


「……は、はい」


 ここは彼女に逆らわない方が良さそうだ……



「それより、もう行ってしまうの?」


 と、さっきまでの雰囲気はどこへやら。少し焦っているような感じになる。


「あ、あぁ。この後に、本来の作戦に戻る事になっている。遅れた分を早く取り戻さないといけないから」


「……そっか」


 と、彼女に悲しい雰囲気が漂う。


「……」


「……ねぇ、タロウ」


「な、何だ?」


「私達、また会えるわよね?」


「それは……」


「……会えないの?」


「……」


 今にも泣き出しそうな彼女の表情に、戸惑う。


 決して会えなくはないが、現状では年に一度でも行けるかどうか分からない。いや、下手をすれば二度と……


(いや、こんな時に悲しい事を言うべきではない!)


 なので、多少嘘でも言っておくべきか……



「……いつか休暇が取れる事ができれば、きっと会いに行けると思う」


「本当?」


「でも、確約は出来ない。戦争が続く限りは」


「……そう。でも、会えるには、会えるのよね」


「あぁ」


「……約束よ」


「約束する」


「……」


 と、なぜかアイラは落ち着きが無いようにもじもじとする。なんだ?


「……本当、よね?」


 上目遣いで言ってきたので、一瞬ドキッとする。


「本当だってば」


「……口だけじゃ、信用できないな」


「そんな。本当なのに……」


「……なら、その証拠を、見せてくれる?」


「証拠って、そんなこ――――」


 



 しかし彼が言い終える前に、アイラはスッと近付き、彼の唇と自分の唇を重ねる。


「っ!?」


『っ!?!?!?!?!?』


 倉吉は突然の彼女の驚愕な行動に目を見開いて固まる。


 そしてさっきまで二人の様子をニヤニヤと見ていた扶桑の兵士達は、アイラの倉吉への突然の口付けに全員が落雷の如く衝撃を受ける。




 少しして彼女は彼から離れる。


「あ、あ、あ、アイラ……?」


 自分は一体何が起きたのか全く分からず、頭の中が真っ白になって言葉が見つからなかった。


 な、な、な、な、な、何を・・・・・


「……私にここまでさせたんだから、会いに来なかったら、許さないわよ」


 顔を真っ赤にして、彼女はそういう。


「は、はい」


「……」


 アイラはそのまま自分の元を離れていくも、城に入る前に自分の方を向いて微笑みを浮かべ、中へと入っていく。




「……」


 突然の彼女の行動に頭の中が真っ白になったが、次第に思考が動き出して、ハッとする。




「ヒュー。やるねぇ」ニヤニヤ


「いやぁ……若いっていいもんだなぁ」ニヤニヤ


「まだまだ青いな」フンッ


「爆発しろ」q



「年下に先を越されるとか」ギリッ


「まぁ、うん。なんとかなるよ」ポンッ


「いいもん見せてもらったよ」ニヤニヤ


「うちにも春が来たもんだねぇ」HAHAHA!




『ニヤニヤ……』


 後ろではさっきの衝撃的光景に男女の兵士がそれぞれの反応を示していた。


(そうだったぁぁぁぁぁぁ!!)


 自分とアイラがいた場所は撤収場所の目の前。つまりさっきの光景が全員に見られてしまった。 

 不意に思い出して顔が真っ赤に染まる。


(アイラぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!何で場所を選ばなかったんだぁぁぁぁぁ!!)


 穴があったら入りたいとはまさにこの事だな……

 


「ぐおっ!?」


 と、後ろから突然後頭部を殴られて、前のめりに倒れる。


「いつまで惚けている、ノロケ者が」


 後ろには右手に拳を作った岩瀬大佐がいた。


「撤収だ!急げ!!」


『了解!!』プルプル


 岩瀬大佐の号令と共に兵士達は動き出すも、誰もが笑いを堪えてプルプルと震えていた。


「さっさと立て!曹長!!」


「は、はひぃ!!」


 自分も恥ずかしながらも立ち上がり、行動に移した。






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