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異世界戦記  作者: 日本武尊
第三章
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第二十六話 作戦具申



 時系列は二日後まで下る




「う――――ん……」



 俺は執務机に倒れ伏せ、静かに唸る。冗談抜きで頭から湯気が立っているかもしれない。

 そしてその執務机には大量に積まれた書類の山があった。


「まだ終わっていませんよ、総司令」


 隣で同じく書類整理をしている辻は涼しい顔でさらりと口にする。


「お前……鬼畜だろ。もう何時間やっていると思っているんだ」


 俺は愚痴りながら起き上がって、背もたれにもたれかかって背伸びする。


 ホントこいつと来たら。品川だと休憩を挟むように言うって言うのに


 執務机に置いている湯呑を手にして温くなったお茶を一口飲んで気持ちを切り替えると、報告書を手にしてページを捲る。


「帝国軍が押してきた戦線はどんどん押し返しているようだな」


「えぇ。しかし敵も戦術の心得を得ているようで、ゲリラ戦法を用いて我が陸軍の補給部隊の襲撃が多発しているようです」


「やはりか。まぁ、分かっていた事だがな」


 敵も馬鹿じゃないと言う事だ。まぁ、こうなる事は想定していたし、十分の警戒は促している。まぁそれ以前に周囲警戒は厳にせよとと言っているが。


「だが、各戦場で不可解な報告があるな」


 報告書の中には、どうも不可解としか言いようの無い報告がちらほらとあった。


「空から突然岩や爆弾が落ちて、どこからともなく竜騎士が出現し、襲撃を受けた、か」


「前者は爆撃のようですが、後者はどういうことでしょうか?」


「うーん。雲に隠れていた……いや、そこまで高度を上げているわけではないしな」


 前者はどういうことなのかは分からない状態だ。何でも爆撃元が見えなかったらしいが


 後者は陸軍の航空隊が陸上部隊の支援の為に攻撃した所、突然上から攻撃を受けたと言う。

 パイロット達は周囲警戒は厳重にしていたとのことだが、それをも潜り抜けてきたのだ。


「だが、敵も対策を練ってきたか。なら、こちらも対策を練る必要があるか」


 報告書を閉じて執務机の隅に置くと、陸海軍の技術省の報告書を手にする。


「烈風と艦上攻撃機『流星』の量産は順調。完成させた機は小型空母でトラック泊地に輸送。その後機種変換を行うか」


「しかし、一部のパイロット達はそれを否定しているようです」


「そりゃ、使い慣れた愛機から新型で癖の違う機体に乗り換えるんだ。分からんでもない」


 特に海軍でも五本の指に入るエースパイロット達が強く反対しているようだ。

 とは言えど何時までも旧式の機体でいらせるわけにも行かない(まぁ零戦は十分優秀な機体だ。アップグレートを度々に行ってきたが、それでも限界は来る)


「まぁ、時間を掛けて説得させるか。彼らが零戦の後継機である烈風に乗り換えれば、正に無敵になる」


 烈風はこれまで陸海軍の航空機開発で得たノウハウを生かしたお陰で、史実以上で零戦以上の性能を得る事が出来た。

 装甲と頑丈さ、火力、パワー、機動性、全てにおいて零戦以上の性能を発揮している。


「陸軍は『四式戦闘機 疾風』と『五式戦闘機』の配備を進めているか」


 陸軍のこの二機種は純粋な戦闘機としての運用、もしくは爆撃戦闘機としての運用が考えられている。


「こっちはどうやら、何とかエンジンは完成したようだな」


「飛行実験はまだ未定ですが、少なくとも飛行可能状態までには、持ち込めたようです」


「そうか。まぁ、これからだな」


 俺の視線の先にあるページには、『橘花(きっか)』『火龍(かりゅう)』『景雲(けいうん)』『秋水(しゅすい)』『神龍(じんりゅう)』と名称が明記されたジェット戦闘機、もしくはロケット戦闘機の写真が貼り付けられていた。


 神龍は秋水の改良発展型として連合国軍によって伝えられているロケット戦闘機の方だが、日本側は特別攻撃機と異なる仕様となっている。扶桑ではそのロケット戦闘機の案を採用している。


「雲龍型航空母艦も1番艦『雲龍(うんりゅう)』2番艦『長鯨(ちょうげい)』3番艦『葛城(かつらぎ)』4番艦『笠置(かさぎ)』5番艦『阿蘇(あそ)』の建造完了。現在は乗員の育成中」

「利根型航空重巡洋艦2隻、阿賀野型軽巡洋艦4隻、秋月型防空駆逐艦13隻も建造完了。これで主戦力は揃ったな」


 まぁ色々とあって、建造した第二次大戦時の軍艦たちはこのまま扶桑海軍の主力として引き続き使用される。


「……で、新鋭艦の建造計画?」


 海軍技術省からの要望書に『超甲型巡洋艦建造計画』とあった。


 史実では、有力な指揮施設を持ち、戦艦に匹敵する火力を有する艦の建造計画として、本艦の建造計画が上げられている。最も言えば、アメリカの『アラスカ級大型巡洋艦』に対抗する為の目的もあった。

 が、実際には必要性があまり無く、計画のみで終わった大型巡洋艦。外観は大和型に酷似していると言われており、量産できるぐらいに小型化した大和型と言われている。


 戦力は揃い出しているというのに、大型巡洋艦が加わると色々と不便だよな。この船で対抗する為のアラスカ級も実際あんまり活躍できなかったらしいし。


 と言っても、色々と使えそうなので、棄却するのも勿体無い。まぁ、保留だな。


 俺は要望書に保留と彫られた判子を押して、保留と書かれたケースに入れる。



「最後に、こいつか」


 最後に魔物の巣窟を一掃して得た土地の開拓をしている、今まで捕らえた捕虜を労働力とした調査部隊からの報告書だ。最近は新たに鉱脈を見つけたようで、報告書もその調査についてだと思う。


「……正体不明の鉱石の発見、か」


「?」


 俺の言葉に辻も反応する。


「今まで発見したものとは異なる物か」


「まぁ、新規に開拓した土地ならば新たな発見はあるのでは?」


「そうだが、こいつは妙に今までのやつとは違うようだな」


 報告書にはその鉱石の写真も一緒に挟まれていた。


 くすんだ銀白色をしたもので、特に目立つ鉱石ではない。


(何だろうな。この、妙な胸騒ぎは)


 だけど、この鉱石を見た瞬間、何やら嫌な予感が過ぎった。それも、とてつもなく――――


(今は技術省の所に送られて精密な検査をしているか)


 その結果が吉と出るか、それとも凶と出るか



 すると執務机に置いている黒電話が鳴り、俺は報告書を置いて報告書を置いて受話器を取る。


「俺だ」


『総司令。お忙しい所申し訳ございませんが、岩瀬恵子大佐が総司令との面会を求めています』


「岩瀬大佐が?」


『なんでも、作戦具申があるそうです』


「作戦具申?」


 こんな時に、一体なんだ?



「分かった。執務室まで通せ」


『分かりました』


 それを聞いて受話器を本体に置く。


「作戦具申とは。やつには任せている作戦があるというのに」


「まぁ聞くだけ聞いてみよう。だが、内容次第では考えなければならないがな」


「……」




 少しして執務室の扉がノックされる。


「入れ」


 俺が入出を許可すると扉が開き、岩瀬大佐が姿を現し、姿勢を正したまま入室する。


「陸軍第二師団第五歩兵大隊隊長岩瀬恵子大佐であります!!」


 岩瀬大佐はビシッと陸軍式敬礼を決める。


 以前の緊張した様子は最近無くなって来たな。まぁ立場を考えれば変わらざるを得ないだろうが、まぁ結構結構


 しかし弘樹は知らないだろうが、当の本人はまた扶桑の最高指揮官と自分の昇進を推薦した辻大将を前にして、緊張のあまり胃痛に似た痛みに襲われていた。


「うむ。早速だが、作戦具申があると聴いたが、内容を聞かせてもらえないか」


「ハッ!」


 大佐は一昨日に聞いたことを俺に伝える。





「帝国軍に占拠されたエルフ族で構成されたエール王国の奪還か」


 岩瀬大佐から内容を聞き、俺は顎に手を当てる。


「依頼したのは、そのエール王国の第二王女で、自分の部隊の者を通して私に伝えました」


「ふむ」


「帝国の目的はエルフ族が代々から伝えられる高度な魔法技術を得る事だそうです」

「そして国の奪還の暁には、その魔法技術の提供と、エルフ族の国との国交を結ぶそうです」


「……」


「どちらとも必要なものでしょうか?」


 辻は視線を俺に向ける。


「まぁ、決して無駄と言うわけではないだろう。だが、その話、本当なのだろうな?」


「ハッ!確かな情報であります!」


「……」


「戦車もどきの魔力炉の技術の出所は分かった」

「が、岩瀬大佐。仮にも王国奪還の依頼を受けたはいいが、敵の戦力は分かっているのだろうな?」


「い、いえ。そこまでは」


「まぁ、話によれば逃げるだけで精一杯って感じだからな。無理も無いだろう」


「……」


「さて、どうしたものか」


 俺は顎に手を当てて、静かに唸る。


「お言葉ですが、私としてはあまり受けるべきではないかと」


「理由は?」


「損得勘定では、扶桑への損害は大きいものになるでしょう。ただでさえ作戦行動中の部隊が多いので、そこから戦力を割く余裕はありません」

「なので、受けるべきではありません」


「ふむ。まぁ、確かに辻の言い分も一理あるな」


「総司令」


「……」




「・・・・だが、この依頼。そう簡単に見過ごせるものではない」


「……!」


「では?」


「あぁ。不完全とは言えど、戦車もどきの魔力炉であれだ。それ以外にもあんな魔法技術を帝国に渡せば、結果は目に見えている。なら、やる事はひとつだ」


 それに、エルフ族の知識は今後帝国との戦いで役に立つかもしれない。


「しかし、今動かせる部隊は――――」


「いや、まだあるじゃないか。もっとも、動かす事が無い方が良かったのだがな」


「……義勇部隊、ですか」


「あぁ」


 義勇部隊とは、以前俺達が保護した村人の中から軍に志願した獣人、妖魔族などで構成された特殊部隊だ。


「本当なら戦場に出したくなかったが、仕方が無い。それに、予想より戦意旺盛だから、そろそろガス抜きしないと暴動を起こしかねないからな」


 中々出動が無い為か、最近何かと荒ぶってるんだよな。

 その矛先がこちらに向かないとも限らない。



「それに、今回の戦闘は人質がいる。なら、あの部隊の十八番だ」


 今まで出撃の機会は無かったが、今回のような状況では、彼らの力が大いに発揮される。


「確かに。しかし、彼らは今回が初陣ですよ?そんな大役をいきなり担うのは荷が重いのでは?」


「だからこそ、今日まで猛訓練を詰んで来たのだろ」


「……」



「岩瀬大佐。攻略部隊はこちらで編成して、付近の基地へ送り届ける。不足した数は大佐の部隊から数人ほど抜粋し、義勇部隊と共に指揮は任せたぞ」


「ハッ!」


「あと、そのエルフの第二王女と今回の話を聞いたという兵士を連れて行け」


「倉吉曹長を、ですか?」


「倉吉?あぁ、あの時の」


 俺は名前を聞いて、あの時の歩兵を思い出した。そういえば最近兄が更迭されたばかりだったな。


 そういや俺と関わった兵士って何かと目立つような気がする


「でだ、倉吉曹長には第二王女の護衛を任せる。顔見知りの方がやりやすいだろうし」


「説得役として、ですか?」


「そうだ。人質の信頼を得る為には、怪我一つも許されないからな」


 ただでさえ帝国の人間に国を占拠されているのだ。十中八九人間に対して不信感を募らせているはず。なら、説得役として、信頼を得る為には、彼女を無傷で送り届けなければならない。


「魔力炉の技術がやつらの手に渡っているのなら、恐らく帝国は他の魔法技術を得ている可能性が高い。これ以上技術流出を防ぐ為にも、作戦は明日の夜に決行する」

「辻。すぐに攻略部隊の編成を」


「ハッ!」


「岩瀬大佐。義勇部隊を引き連れて町にすぐ戻り、倉吉曹長に作戦の事を伝えろ」


「了解しました!!」




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「ほ、本当でありますか!?」


 それからしばらくして義勇部隊を引き連れた岩瀬大佐は倉吉曹長に作戦が承認された事を伝えると、驚きの声を上げる。


「あぁ。作戦の詳細は明日の昼1300時に伝える。それと、次の作戦には貴様も付いて来て貰うぞ」


「じ、自分がでありますか?」


「あぁ。貴様には第二王女の護衛と言う重要な役目がある」


「か、彼女の、でありますか?」


「少なくとも、顔見知りの方が良いだろうと言う、総司令のご配慮だ」


「は、はぁ」


「あと、彼女から可能な限りその時の状況を聞いておいてくれ。内容次第で作戦の成否がかかる」


「りょ、了解であります!」


 倉吉曹長は敬礼をすると、すぐさまその場を後にして、彼女との落ち合い場所へと向かう。






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