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異世界戦記  作者: 日本武尊
第二章
23/79

第二十二話 偶の休日





 冬を迎えて寒さが大地を凍りつかせているこの時。




 そろそろ同盟締結についてある程度話しておきたいとステラが持ちかけてきたので、俺はスケジュールを合わせて王都グラムへ一式陸攻で飛んだ。


 到着後、ステラの私室にて食事を取りながら同盟について話し合いをした。


 同盟を組んだ後グラミアムは扶桑に対して全面協力の下土地を提供し、戦闘はグラミアム軍と協力して扶桑が帝国軍と戦闘を行うと言う形にした。

 そして時間が経てば、厳重な管理の下扶桑の旧式化した武器兵器をグラミアムへ無償で譲渡する武器貸与(レンドリース)を実施する予定だ。



 扶桑にとってはこれまでより動きやすくなり、グラミアムにとっては領土を侵略している帝国を押し戻す事ができる。




 が、そんな中で、ステラはツァーリボンバー並の爆弾発言を言い出した。




 その爆弾発言的な事と言うのは・・・・・・俺とリアスの結婚話だ。盛大に噴出しそうになったが、何とか耐えた。


 何でも国同士の繋がりをより強く見せたいと言うのがこの結婚の目的だが、グラミアム側は頼み込んでいる側とも言えるので、いわばリアスは貢物。

 見方によっては政略結婚のようなものだ。


 気に入らないな。この世界じゃこういうのは当たり前だとしてもだ。


 と言うか彼女が花嫁役を請け負ったのが結構驚きだったな。俺は意外に思っていたんだが、むしろステラから見れば俺の反応が意外だったそうな。


 何でかって?今まで好意的な視線や態度があったのに気づかなかった、よくあるラノベ主人公並の俺の鈍感さにだよ。


 突然の事で整理が付かなかったが、気持ちを切り替えてステラとの話し合い、同盟締結はそれぞれ話し合って決める事にしたが、結婚話を受けるつもりはない。


 彼女の想いもあるが、だからと言って安易に受けてしまえば後々面倒なことになる。


 政略結婚もそうだが、今のご時世国のトップが複数の妻を持つ一夫多妻は珍しいことではない。

 この件を受けてしまえば他の国からも同じような話を持ち掛けられる可能性が高い。


 扶桑としては様々な問題を引き起こしかねないのだ。


 その後彼女と会って、色々と話をしたところその中でリアスがどれだけ俺に対して本気なのかを知って、ますます悩むことになってしまった。


 俺自身彼女のことをどう想っているのかというと……正直なところよく分からない。


 別に彼女のことは嫌いではないが、かと言って彼女のことが好きなのかというと、そう言い切れるとも言えない。


 いつになるかは分からないが、彼女に対する返事を返すつもりだ。



 そして同盟は扶桑の陸海軍大臣、海軍軍令部総長、陸軍参謀総長含め、全員賛成一致となり、グラミアム側も同じく全員賛成一致となって、その後場を設けて正式な同盟が締結された。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 同盟締結から2週間が過ぎた……



「や、やっと終わったぁぁぁぁぁ」


 俺は最後の書類を書き終えて執務机に倒れ伏せて声を漏らす。


「おつかれさまです、総司令。ちょうど昼食の時間ですので、食事を持ってきました」 


 品川は扶桑海軍伝統のカレーライスと水の入ったコップを載せたトレーを執務机に置き、一歩下がる。


「おっ、カレーか。そういや今日は金曜日か」


 カレーの食欲をそそるスパイシーな香りを嗅ぎながら今日が金曜日である事を思い出す。


 旧日本海軍から海上自衛隊では曜日感覚が狂わないように金曜日はカレーと決まっており、扶桑でも海軍の方では金曜日をカレーにしている。しかし毎週カレーでも飽きないように調理員は毎週異なる具材で作っている。

 先週は野菜カレーだったが、今週は陸海軍でも人気が高いカツカレーのようだ。



「先日の帝国が開発し、扶桑陸軍が鹵獲した戦車もどきの調査報告書です」


 大体カレーを食べ終えた頃に、品川が脇に抱えている報告書を執務机に置く。


「あぁ。先の戦闘で西中佐の率いる第三機甲中隊が鹵獲したやつか」


 水を一口飲んでコップを机に置いて報告書を手にし、ページを捲って内容を確認する。


「……これって、砲が撃てる以外で役に立つのか?厚紙程度の厚さでしかも粗悪な鉄板を繋ぎ合わせた装甲しかなく、しかも馬力もお世辞にもあるとは言えない上にツルッツルのタイヤ四輪だから走破性が無い」


 厚紙程度しかない装甲じゃ普通に小銃でも装甲を撃ち抜けそうだな。


「扶桑側から見てはそうなるでしょう。しかし、骨董品のマスケット銃程度や、弓矢しかないグラミアム軍では、装甲を持ち、走行できる大砲。これだけで十分脅威となるでしょう」


「そうか。しかし、動力は魔力を燃料にした仮称『魔力炉』か」


 さすがファンタジーな世界だ。こんなものまであるんだ。


「グラミアムより呼び寄せた魔導技師と陸海軍技術省の調査によれば、この魔力炉は注いだ魔力の量によってパワーが異なるようで、最初の魔力供給を行えば理論上無補給で半永久的に活動が可能とのことです」


「つまり、こいつは原子炉の様な半永久機関と言うのか?」


「事実上は」


「……」


 しかし、報告書の魔力炉に関する欄には、あまり安定性が良くないと記述されている。


「攻撃魔法に対して反発作用があるようで、それで爆発を引き起こす可能性があるようです」


「つまり、魔力に対する引火点が低いのか」


「それ以外で破壊した場合は特に何も起きないとのことです」


「そうか。まぁ、こちらには関係の無い話だな」


 扶桑には魔法で攻撃するような方法が無いので、問題は無い。

 

「それと、この戦車もどきや魔力炉は急造品と思われ、耐久性がほぼ皆無に等しいそうです」


「耐久性が?」


「はい。鹵獲した分だけでも、魔力炉の器は使用に耐えられるような状態では無かったそうです。

 恐らく可能な限り我々の戦車を真似して、すぐに前線に出せるように急いで作ったせいでしょうね」


「……兵器としてはどうしようもない欠陥品じゃないか。これじゃ魔力炉の性能を完全に発揮できないな」


 せっかく理論上活動限界が無いと言われている魔力炉だ。なのに耐久性が無いのでは意味が無い。

 と言うより、馬力がないんじゃ扶桑ではあんまり利用価値があるとは思えんな。まぁ、現状だとそうなんだが、これからこいつが進化しないとも限らない。そこからなら、別に技術が使えん事は無いか。



「ですが、この魔力炉について疑問が」


「ん?」


「この魔力炉の技術はかなり複雑で、帝国でもそう簡単に開発できるような代物ではないと、グラミアムの魔導技師が仰っていました」


「長期に渡って開発していた、じゃないのか?」


「一から作るとなると十年を持ってしても作るのは不可能と言っています」


「……」


「魔導技師の憶測では、とある国に伝わる魔法技術を用いた可能性があると」


「魔法技術?」


「詳しくは分かりませんが、どこかの国で古くから伝えられているものだと噂されています」


「そうか」


 今は特に気にするほど重要でもないな。

 まぁ、今は置いておいて――――



「それで、品川。この後予定はあるか?」


「いえ、今のところ5日以上は無いですね」


「そうか。そうなると5日間は暇になるが、その後はまた書類整理(地獄)か」


 考えるだけで頭が痛くなりそうだ。



「ちょうど良い頃ですし、休暇を取ってはいかがでしょうか?」


「休暇?」


 思いついたかのように品川は俺に提案を具申する。


「はい。ここ最近総司令は徹夜続きですから、今後の調子を考えてこの際休んではいかがですか?」


 彼女の言う通り今日まで徹夜が続いているな


「いや、前線で兵が戦っていると言うのに、しかも今は忙しい時だ。そんな中でトップの俺が休んでは示しがつかないだろ」


「いえ、ここぞと言う時に総司令が倒れてしまえば、兵たちの士気の低下に繋がりかねません。たまにはゆったりとした休息も必要ですし、何より誰も文句は言いませんよ」


「いや、しかし……」


 しかし結局彼女に押し切られて、俺はその何の予定も無い5日間で休暇を取る事にした。


 と言っても特にやりたい事もないし、軍港で軍艦を眺めるのも良かったが、主力の殆どはトラック泊地に居るし、建造を一旦止めていた新鋭軍艦の建造は再開しているが、さすがにまだ完成した船は無い。

 そしてこの軍港には必要最小限防衛が出来るぐらいの軍艦しかいないので、物足りなさがある。


 なら工廠で建造中である例の戦艦を見るのも悪くないが……ようやく船体が完成して進水したばかりとあって、艤装はまだ目立つほど施されていない。それはさすがに見ても「うーん」としか言えない。


 陸軍の戦車を乗り回したり、射撃場で射撃をするのも良かったが、何か日常と変わってないような。

 と言うか戦車を乗り回している時点で日常的じゃないんだが。



 しばらく考えて、明日は旅行気分でグラミアムの領土の村や町の間を繋ぐように敷いた鉄道に乗って全線を渡ってみる事にした。

 それと同時に、一つある事もしよう。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「本当に護衛を付けなくていいのですか?」


「あぁ。大丈夫だ」


 要塞基地行きの貨物車輌と客車の混合列車の出発準備が行われている中、品川は少し不安な色を表情に浮かべている。

 ちなみに辻の姿が無いのは、王都グラムにある陸軍の駐屯地へ視察に向かっている為である。


 品川は俺の身の安全を考えて護衛を付けたいと言ってきたが、俺は丁重に断った。

 せっかくの休日なのだ。護衛が周りに居ると落ち着かないだろうし。


「じゃぁ、行って来るぞ。留守を頼む」


「はい。お気をつけて」


 品川に見送られながら俺は客車に乗り込み、5分後に機関車が汽笛を鳴らし、列車が出発する。

 

 それから50分近く掛かって要塞基地に到着。その後は列車を降り、城塞都市ハーベント行きの列車に乗り換えて向かった。




 要塞基地から1時間半近くでハーベントの駅に着く。


「今日は冷え込んでいるな」


 吐く息が真っ白になるほどの寒さを感じながら俺は駅の前の時計塔の前である人物を待っている。


 季節は冬とあってかなり寒く、手袋をしてスーツの上からコートを着込み、ソフトハット型の帽子を被って可能な限り顔を見せないようにする。

 そして列車の旅の途中で景色を撮るために、首からはカメラを提げている。


「……」


 俺は左袖を引いて左手首に巻いている腕時計の時間を確認し、両手をコートのポケットに入れる。



「ヒロキさん!」


 と、俺の名前を呼びながらリアスがやって来る。


「お、お待たせしました」


 急いで走ってきたのか、リアスは少し呼吸の間隔が短いが、すぐに呼吸が整う。


 目立った装飾が施されていないシンプルな白いドレス風な洋服を着ており、その上に半透明の白いカーディガンを羽織って、耳が出るようにしている白いベレー帽を被っている。


「いや、俺もちょうど着いた頃だ」


「そ、そうですか」


 リアスは安堵の表情を浮かべる。


 なぜ彼女が来たかと言うと、俺が前日に彼女を誘ったのだ。

 一人で列車の旅をするのも良かったが、この機会を使ってお互いの事をより知っておこうと俺は考えてリアスを誘ったのだ。


「……本当に一人で来たのか?」


 俺は周囲を見渡すも、リアスを見張っているような人影は見られないし、小尾丸の姿も無い。


「は、はい。ヒロキさんと二人っきりのお出かけですから、小尾丸さんやお父様に頼んで一人で来ました」


「そうなのか。それにしてもよく将軍や小尾丸が承諾してくれたな」


 将軍ならまだしも、彼女の護衛の小尾丸となれば簡単に承諾しないだろう。


「え、えぇ。お父様はヒロキさんと一緒ならと言って許してくれて、小尾丸さんはどうしても同行させて欲しいと一点張りで、大変でした」


 そりゃそうだろうな。


「でも、ヒロキさんと二人っきりでって強くお願いして、ようやく承諾してくれました」


「そうか。それじゃぁ、かなり責任重大だな」


「そうですね」


 冗談交じりで言って、彼女も微笑を浮かべる。



 俺とリアスは駅の切符売り場で全ての駅を行ける片道分の切符を銅貨14枚と鋼貨12枚で二人分購入してホームに入り、列車を待つ。


 今更なんだが、この世界の言葉や文字はどういうわけか俺のみならず扶桑の人間全員読み書き出来るんだよな。まぁお陰で苦労する事は無いんだが、不思議だ。


 ホームには扶桑の人間も居れば、グラミアムの住人達の他商人と思われる人たちもちらほらと居る。



 しばらくして除煙板(デフレクター)を外している『C56型蒸気機関車』に牽引された客車3輌と貨物3輌の混合列車がホームに入って来て、ゆっくりと停車する。

 貨物車輌は殆ど商人たちが自身の荷物を運ばせる為に、決して安くは無いがレンタル料金を払って貨物を利用している。


「……」


「列車に乗るのは初めてか?」


「あ、はい」


 蒸気機関車を見て表情に不安の色を浮かべるリアスに俺は声を掛ける。


「大丈夫だ。扶桑の列車は安全と保障するが、もし何かあっても、俺が守るから」


「ヒロキさん」


 俺は手を差し出し、リアスはその手を握り一緒に3番目の客車に乗り込み、適当な席に座って窓から外を眺めるように視線をやる。



 少しして駅の出発ベルが鳴り、C56型の汽笛が鳴り響いて混合列車はゆっくりと駅から出発する。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「……本当に、この辺りは平和になりましたね」


「あぁ」


 窓から眺める景色を見ながらリアスは呟き、俺は短く返した。

 爪痕こそ多く残っているが、ついこの間までこの辺りも戦場だったとは思えないほどの平穏さがあった。


「これも、フソウの、ヒロキさんのお陰なんですね」


「俺はただ軍に指示を出しているだけだ。この平和を手に入れたのは戦ってくれた兵士達のお陰だよ」


「でも、フソウの方々のお陰に変わりはありません」


「そうかもな」


 一旦視線を外に向けて、俺は問い掛けた。



「なぁ、リアス」


「なんでしょうか?」


「その、なんだ。あの時に聞いていて改めてって言うのもなんだが……本当に、俺で良かったのか?」


「……はい」


 リアスは真剣な表情で縦に頷く。


「私がヒロキさんを想う気持ちに、変わりはありません」


「……」


「ヒロキさんと出会えたから、今の私があるんだと思います」


「今の私、か」


 俺はボソッと漏らす。


(リアスは俺と出会ってから本当に変わったってステラや小尾丸、将軍が言っていたな)


 それまではかなり内気な性格で、身内ですら会話が苦手なぐらいだったらしい。だが、俺と出会い、王都グラムに戻ってからは身内どころか喋る事すら出来なかった高官や大臣達と若干ちぐはぐだが会話をし始めたとのことだ。

 これだけでも彼女がどれだけ変化しているかが分かる。



「……やっぱり、迷惑だったですか?」


「いや、そうじゃないんだ。例の件も考えてはいる。でも――――」


「でも?」


「……不安なんだ。色々と」


「ヒロキさん」


 リアスは彼が不安に思うところを察する。


「心配するにはまだ早いんだが、あの時の様になるんじゃないかって思うとな……不安で、いっぱいだ」


「……」


 リアスは無言のまま席を立ち、弘樹の隣に座る。


「リアス?」


「……ヒロキさんは、ヒロキさんらしくすればいいと思います」


「俺らしく?」


「はい。周囲の視線の事を考えて無理をするより、ヒロキさんが出来る範囲でも、私は構いません」


 リアスは俺の手に自分の手を置く。


「私は、こうしてあなたと一緒に居られる。それだけでも、十分に幸せです」


「……リアス」


 俺らしく、か。


(色々と恐れては何も出来ない。……色々と深く考えていた、俺が馬鹿だったな)


 思わず深く考えていた自分が恥ずかしく思った。


「そう、だな。あまりこういうのは深く考えない方がいいみたいだな」 


「はい」


「ありがとう。お陰でスッキリしたよ」


「どういたしまして」


 リアスは笑みを浮かべ、俺はドキッとして視線を背ける。


「……?」


 そんな様子の俺にリアスは首を傾げる。










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